第127話 南国奴隷とその使い道
アンジュちゃんが東D地区の宿、
スイートルームまで褐色奴隷の皆さんを迎えに行って連れ戻り、
そしてやってきたのが東A地区の商業ギルド出張所である。
(初めて来たけど、やっぱり豪華だなあ)
さすがA地区の建物、冒険者ギルドに引けを取らない、
あちらと同じように屋上がS地区と繋がっているのでS級パーティーも来るのだろう。
教会に行こうとしていたクラリスさんも結局、一緒に来てくれた。
「ようこそこれはこれはデレス様、シュッコの商業ギルドマスター、タムタムと申します」
「は、はい」
「お話は伺っております、どうぞこちらへ」
商談室みたいな所の奥にお婆さん魔法使い、いや賢者か、がいた。
(うん、あの杖は賢者だ)
「ではまずこちらの奴隷の方から」
「デレス、手を伸ばせ」
「あっ、はい」
僕が手を伸ばすとその先にヘレンさんの首が、いや首輪が。
賢者のお婆さんが水晶を手に念じると僕の手と首輪がキラキラな魔法の光で繋がって消えた。
「あ、これひょっとして」
「これでデレスも首輪に向かって『絞まれ』と念じれば絞まる、
方向さえあっていればある程度まで遠くても大丈夫だ、さらに遠くへ逃げた場合は相手を思い浮かべ……」
「次の方はこちらのお嬢様で」
「みゃあ」
(なるほど、こうやって登録するのか、知らなかった)
こうしてまずはさっき朝の会議に居た奴隷全員を済ませ。
次はカニカマ国だったっけ? の褐色奴隷の皆さんだ。
「まずは私からだ」
自ら出てきたおっかさん、そういや誘惑してきたひとり以外、名前覚えてないな、
いや正確には聞いてないというか、オークションで全員紹介されたのに頭に入ってない。
(落札する気なんかなかったから当然か)
「そういえばニィナさんは登録しなくていいんですか」
「したぞ、昨日、落札後の地下で」
「じゃあ、わかってて」
そのあとの『置いてきたんですか』は、あえて口にしない。
「私は落札していないからな」
「じゃあアンジュちゃん……いや、人のせいにしちゃいけないね」
「???」
多分、その時点で彼女らを忘れ物いや忘れ者にして、
商業ギルドの使いに僕をマリウさんの所から呼びに行くよう計画したんだろう。
(あ、カミーラさん、わざわざしゃがんで胸元の中を……)
あいかわらず夜伽だとかチラチラさせたりとか、
僕がミリシタン大陸の頃ならもう夜、思い出して大変なひとりフェスティバルだったと思う、
でも今やニィナさんクラリスさんアンジュちゃんに生贄になってる方だから、うん、まあ。
(まだ昨夜の精神的ダメージも残ってるし)
こうして次々と登録し最後はお姫様ふたりだ、
まずは姉の方、名前くらいは聞いておこう。
「改めましてデレスです」
「カルマソル国、ナタイラと申す者です」
「姫! このような者に直接……ぐううっ」
おっかさんが余計な事を言おうとしてクラリスさんの念で首輪を絞められる!
っていうかクラリスさんも登録済ませてたのか、おそらく昨日のうちに。
「バラカ、おだまりなさい」
「ぐっ……はぁ、はぁ」
さすが聖女様、ニィナさん程は苦しめないか。
「ぐわあああっ!!」
と思ったらゆるめて絞めた!
怖い怖い、回数で責めるタイプか、
そういえば夜のベッドでもいやなんでもないです、はい。
(おっかさん、バラカっていうんだ)
最後の最後、妹さんの方、可愛らしい少女だが僕より背が高くないかこれ。
「……ライリアと申します、痛くしないで下さい」
「わかりました、やさしくします」
「姫! 姫の純潔は……ぐうあああ!!」
今度は別の僧侶女性が口を挟もうとして絞められる!
やったのはニィナさんか、ほんっとこの敗戦国連中、
負けてもなお姫様を大切にし過ぎているな、正直、立場がわかっていない。
「……これで全員、終わりましたね」
ギルマスのタムタムさんが告げたあと、
僕は書類にまとめてサインさせられる、
奴隷をちゃんと扱いますよっていう誓約書らしい。
(これ、確か昨日、ニィナさんが手続きで書いてた書類に一枚あった気がする)
こうして無事に登録した僕、確認しようと、
悪戯返しにチラチラ見せてきたカミーラさんの首を手をかざして少し絞めると、
急な事に素で焦ってじたばたして涙目になった、ちょっとびっくりさせた、ごめん。
「……私はもっと露出した方が良いですかぁ?」
「い、いや、そういうのじゃないから、ごめんって」
「デレス、奴隷に謝るな」
「あ、はい」
とはいえペロちゃんには何もしてなくても謝りたい気分でいっぱいだ。
「それでデレス、こいつらどう使うんだ」
「ええっと、落札したアンジュちゃん」
「あい」
学校のおかげか最近、受け応えがちゃんとするようになってきたな。
「アンジュちゃんは何に使いたい?」
「遊ぶよー、でも遊びで首しめちゃいけないんだよー」
「いや、ちょっと試しただけだから」
「ボク、遊びで絞めちゃ駄目だからって首絞める登録してもらえなかったんだ……」
「そうだね、それはまだちょっと危険だからね」
首絞める登録って言い方!
「んーニィナさん、彼女たちの利用価値は」
「少なくとも白金貨二百枚だ、その分取り返して働いてもらうか、転売だな」
「そんな! 姫は……ぐあっ」
うん、ちゃんと絞まる、今やったのは僕だ。
「バラカさん、いま奴隷に発言は許してませんよ?」
「……はぁはぁ、はいぃ」
今までちょっと舐められてたからね、多分。
「彼女たちの使い方は僕も考えますが、まずはヘレンさんのお仲間みたいに、
とりあえず別働隊でダンジョンに潜って稼いできてもらいましょうか」
「そうだな、しかし九人いるという事は二組に分かれて活動しているのか?」
(あれ、サルサマル国だかのみんな黙り込んだ、あ、これは)
「意見したい方は挙手をお願いしまーす」
僕の声におっかさんことバラカさん、いやもうおっかさんでいいや、
とチラチラお姉さんことカミーラさんが黙って手をあげた、ほぼ同時だ。
「ではカミーラさん、どうぞ」
「はい、個人的にネクニュカマーのダンジョンへ国の兵として入った事もありますし、
姫を護るため魔物を倒す事も多かったですが、ここに居る皆、冒険者はやった事がありません」
「あ、そっか、国の、お城の人達だもんね」
「はい、我々全て、姫を御護りするためだけの存在ですので」
「そうですか、じゃあ冒険者登録すらまだと」
ニィナさんも最初あった時そんな感じだったな、
過去の実績というか元の地位から勇者Eクラスからのスタートだった気がする。
「じゃあまず冒険者として頑張って貰いましょうか」
「その、我々は構いませんが姫は」
「姫さんって戦った事ないの?」
「はい、自衛手段はある程度は学習させていますが基本は私たちが護るので」
「そっか、でもなあ」
特別扱いはしたくない、
姫ふたりだけ留守番とかなるとその護衛も欲しいとか言いそうだし。
(ニィナさんクラリスさんが何も言わないのは僕に決めろって事なんだろうだ)
「デレスくん、面白いよ」
「え、アンジュちゃん、何か?」
「このふたり、ナタイラ、ライリアの、職業、だよ」
「鑑定したんだ、それで、ふたりは何なの?」
「ふたりとも、踊り子、だよ」
(踊り子って!!)
利用の新たな選択肢が増えた瞬間であった。