第126話 住居の事情と奴隷の事情
朝、僕はなぜかまるっきり知らないベッドで目が覚めた。
(あれ? ここは……)
見回すとアンジュちゃんが裸でうろついていた。
「おはよう、だよ」
「あ、おはよう、アンジュちゃんの部屋?」
「そうだよ、マリウさんに、ちゃんと言ってきたよ」
あーこれはさっさと僕は回収してくれたのか、
でもなんで裸でうろうろ、と思ったら僕も裸で……ひっ!
(全身に痕が、これって……?)
「これアンジュちゃん?」
「……ちがうよ、ボクじゃない」
(じゃあマリウさんか、眠っている間に酷い悪戯だ、明日には消えてそうだけれど)
服も下着もちゃんと回収してきてくれたのか、偉い。
「一緒に朝のお風呂に入りたくて、待ってたんだ」
「じゃ、じゃあ入ろう、でもその裸のままじゃ駄目だよ」
「……なんで?」
「ほら、通路で見られたら、人も増えたし」
「奴隷……だよ?」
いやそうだけれども!
「瞬間移動にしても人がいたらぶつかるし」
「……じゃ、着るね」
と言ってセクシーパンサーローブだけを羽織った。
「いや、下着も持って!」
お風呂ですっきりしたのは良いが、
アンジュちゃんが僕の身体を一生懸命洗ってくれたものの、
力が入りすぎて痛かった、僕がマリウさんにつけられた痕を落としたかったらしく、
丁寧にヒールまでかけてくれて……
「えっ、ヒール?!」
と聞いたら前のレベルアップで習得したそうだ、
幻術師が基礎魔法とはいえヒールまで使えるとなると無敵に近い。
(あーでもイビルウィザードはワイバーンにヒールをバンバンかけてたなあ)
という事はアンジュちゃん案外、魔物の血が?!
などという事を考えているうちに、居間にこの館に居るメンバーが全員集まった、
もちろん奴隷含むだ、猫獣人のペロちゃんはまだまだ眠そう。
「では打ち合わせをしようか」
「すみませんニィナさん」
「なんだその全身変な痕を付けた我が婚約者よ」
「微妙に変な言い方はやめて下さい、ええっとソルカメなんとかの人たちは」
「元カルマソル国の奴隷か、今はいらんな」
後で様子を見に行こう。
「今後の事だが、アンジュの学校卒業まであと二か月半以上ある」
「そうですわね、あと二か月後の次のオークションに幻術師の杖を出したいですわ」
あー今回出さない事を条件にアンジュちゃんのを交換で取り戻したんだった、
今となっては記念品レベルだけれど。
「まあそもそもこれだけ儲けて二か月後まあ出品するかという話もあるがそれは流動的として、
二か月以上在住する以上、ちゃんとした家をここで借りようと思うのだがどうか」
「私は宿でも良いですが奴隷がどのくらい残るかによると思います」
うん、奴隷は所有物とはいえ泊まるとなると宿賃は普通に人数分かかる。
「アンジュはどうだ」
「……ボクはデレスくんと一緒の意見でいい、よ」
「ではドワーフ被害者の会代表は」
「え、僕のこと?! ええっと、値段によるのかなと、ここずっと二か月以上借りるのさすがにきついですよね」
「オークション期間以外は割安でそれ程でもないと聞いたが」
そうなんだ、宿だと料理と掃除の手間が省けるんだよなあ、
とはいえ二、三か月なら屋敷を借りてのびのび自由に、もいいかも。
「料理や掃除類を奴隷の方々がしてくれるならまあ、屋敷でもいいかも」
「奴隷がどれだけ減るかという事か、そのあたりは整理する必要があるな」
まずはヘレンさんの方を見る、
ここは僕が話かけてみよう。
「ええっとヘレンさんはずっと奴隷ですね」
「はい、私は最後で良いのでリューイ達を解放してあげて下さい」
「ヘレン……」
「いいのよリューイ、そのかわり約束して、お金を貯めて必ず私を買い戻してくれるって」
「すまない、ヘレン、本当にすまない」
あー勝手に決められても困るけど、これだけ愛し合ってるならなあ。
「どうするデレス」
「うん、じゃあこうしましょう、ここの魔王ビーストシュータを倒すのにヘレンさんが貢献できたら、
分け前という訳じゃないですが、ヘレンさんの元、お仲間の三人を奴隷から解放しましょう」
「本当ですかご主人様、デレス様!」
「そのかわりヘレンさんは犯罪奴隷みたいなものですから、買い戻しは高くなります、
値段はまあ商業ギルドに査定してもらうとして、それで良いですかリューイさん?」
「……構いません、買い戻すときは言い値で買います」
うん、愛って素晴らしい。
「ではそれでいくとして次はペロだが」
「……ペロちゃん、もうひとりっきりなんだって」
「アンジュちゃん! 聞いたの?!」
やばい、僕の声ちょっと裏返っちゃった。
「もう親も兄弟も住んでたところも、ないんだって」
「……みゃあ」
「ふむ、色々なケースが想像できるが獣人では、
地方によっては珍しい事ではないな、残念だが」
戦争に巻き込まれたとか奴隷目当ての獣人狩りとか、
あと普通に魔物が溢れだしてっていうのもあるのか。
「そうなるとデレスの言っていた責任を持っての解放はどうなる」
「とりあえず成人、いや成猫? 大人になるまでは面倒見ましょう、直接かどうかは置いといて」
「それで大人になったら解放すると」
「逆に今の状況で解放したらまた誰かに奴隷にされちゃうかも知れませんし」
「ニィナ様、ではこうするのはいかがでしょうか、
アンジュちゃんの従者として学校に一緒に行かせるというのは」
おお、クラリスさんから素晴らしい案が!
でも従者かあ、アンジュちゃんの通って行る教室って、
午前はアレで午後は専門分野だもんなあ、あ、午前はあえてそのレベル(失礼)でいいのかも?
「ペロ、学校へは通ってみたいか?」
「……わからにゃい」
「学校という場所がか、うーむ」
っていまそこそこちゃんと喋ったよね?!
「えっと、あの学校って誰でもなんでもできるだけ要望に応えるんじゃありませんでしたっけ、
アンジュちゃんの卒業に合せると二か月半ちょっとですが、奴隷解放後の事も考えたら、
本人が行きたくないって明確に訴えるまでは、最低限の教育でいいので行かせてあげたいです」
「そうか、デレスがそう言うならそうしよう、決定だ」
即決はやっ!
「最後はバウワーか」
と移行しようとしたらアンジュちゃんがペロちゃんに
「……お礼、だよ」
「あ、ありがとう、にゃあ」
おおおおおアンジュちゃんがペロちゃんを教育してるううう!!!
「うむ、ではバウワー、お主はどうしたい」
「……ワシも相当訳ありでのお、無理にと言えば長話になるが……」
「今はいい、結論から申せ」
「終の棲家を探しておるんじゃ、色々な意味、あらゆる意味で、の」
「そうか、では積極的に奴隷解放されたいという気持ちは」
……黙り込んでしまった。
「わかった、今回は何かの縁だ、有能テイマーではあるし、悪い用にはしない」
「ありがたいことですのう」
大きく頭を下げた。
「よし、ではここまでの事を踏まえ、とりあえずは今日の、三日目オークションを見るだけ見よう」
「それでまた良い物件があって買ったら流れが決まりますものね」
「だな、白金貨は豊富にある、入札はデレスとクラリスに任せるから頼んだ」
つまりアンジュちゃんは余計な事するなと、わかってるのかな本人。
「あ、今日からアンジュちゃんって学校再開だっけ」
「ううん、オークションの日は、オークション休み、だよ」
「そんなのあるんだ」
じゃあ一緒に見るか、便利だし。
「よし、では話はこれで終わりだ、では朝食を食べてオークション会場へ行こう」
「私は女神教に教会に寄ってから行きますわ、アンジュちゃんお願いね」
「……うん(コクリ)」
「じゃあ僕はニィナさんと……って待って! また忘れる所だったーー!!」
Dエリアに詰めてる亡国奴隷の皆さんをーーー!!!