第114話 落札者の正体と高値の理由
「それでえわあああああ!!
白金貨二百三十枚でええええええええ!!
らく、らく、らく、らく、らく……
さつ、さつ、さつ、さつ、さつ……
けっっっっっっ……てえええええええええええええいっ!!!」
最後にして最大の大歓声が巻き起こるコロシアム、
僕の出品したエリクサーの材料『カイラクオジサンの枕』についた値段だ。
「うーん、ここまで来ると一周回って何も感じなくなってきた」
いやこっちの大陸のオークションだからこんな値段なんだろうけど、
ミリシタン大陸で一緒に組んでこれを入手した娼婦兼魔法使いのグミィさんは、
みっつも持ってたから今頃はセレブにでもなってるんじゃないかなって想像する。
(正直、経験を積んだ今ならグミィさんにお誘い受けたら普通に抱けそうだ)
酸いも甘いも色々抱いちゃったからね、苦いのも。
「……それでは本日のオークションは全て終了致しました、
明日、二日目はティムモンスターと奴隷の販売となっております、
なお落札された方は預けた分より自動に……」
最後は普通のテンションで普通に告知する勇者受付嬢(48)、
あれだけさんざんハイテンションでとばし最後血管切れそうなったのに、
さらっと元に戻るというか普通にしゃべれるあたり、プロフェッショナルを感じる。
「ではデレス、クラリスとアンジュを迎えに行こうか」
「あ、ここまでは戻ってこないんですか、ってそうですよね、ヘレンさんも行きましょう」
「はい、その、明日は、必ず、よろしくお願い致します」
丁寧に頭を下げられてしまった。
地下へ行くと商品受け取りの人でごった返していた、
アンジュちゃんはなぜか人だかりの大人気だが、
クラリスさんがうまい具合に対処してくれている、
逃げようと思えばいくらでも逃げられるし僕らにも気が付いているみたいだから、
ひとしきりさばき終わったらどっちかから合流する事になるだろう。
(あ、死神の鎌とカイラクオジサンの枕を丁寧に受け取ってる人がいる)
そう、僕に白金貨を三百三十枚ももたらしてくれた大富豪だ、
商業ギルドの人がその立派なおじいさんに僕らの方を手で丁寧にさしながら、
何やら説明すると、お伴が購入品をアイテム袋に入れている間にやってきた。
「これはこれは、このたびは素晴らしい商品を購入させていただき、ありがとうございます」
あー僕らの出品ってばらしたのか、個人情報保護の観念どこいった。
「いや、たまたま物事がうまく行ってな」
ニィナさんも良い感じで対処してくれそうだ。
「オークションはよほどの出品でもない限り来ないのですがな、
エリクサーの主材料が出ると聞いては、いてもたってもいられなくなりまして」
「ほう、難病の知り合いでも?」
「いえいえ備えですよ、我が女王は何事にも備えが肝心と申しておりまして」
えっ、女王?
「ところでエリクサーもうひとつの主材料、レア魔石に心当たりはありましょうか?」
ぎくり
「すまない、このあたりは冒険者の秘匿事項だ、
まったくない訳ではないが今は手に入りそうにない、とだけ言っておく」
「そうですか、残念です」
うん、実はあのあと、イビルウィザードの家族を見に行ったらすでにもぬけの殻だった、
残していた幻術師の杖もなかった、索敵の効かない高レベルな魔物だからどこへ行ったかはわからない、
あれがもしレア魔石を体内に持っているとしたら……惜しかったような、逃げていて欲しいような。
「明日以降も何か買われるのか」
「ええ、予定にはなかったのですが、何やら滅ぼされそうになった一族が出品されているとか」
「……そうか、我々の目的はケルピーなのだが」
あ、これ駆け引きしてるのか、
幻術師の杖みたいに調整ができるならした方が良い。
「申し遅れました、わたくし、ムームー帝国財務担当大臣、タケピと申します」
「Bクラス冒険者パーティー、『ニィナスターライツ』のリーダー、ニィナだ」
「これはこれは立派な、我が国に寄られた際は是非、我が女王からもお礼をさせていただきたいですな」
あー腰の低い貴族だと思ったら帝国の大臣さんだったのか、
じゃあ死神の鎌は女王様への献上品かな?
「大金で落札してもらえて感謝するが、死神の鎌に関しては高すぎやしないか」
「あれはあれで駆け引きですよ、私が入札すると競っても無駄ですよというアピールです」
「それで過度に高い値段を」
「これも最後の、カイラクオジサンの枕を確実に手に入れるためでして、
それぞれの値段ではなく合計の金額で考えれば損はありませんよ、
もちろん死神の鎌も立派なものですので国宝とさせていただきましょう」
なるほど謎は解けた、
相手にしても敵わない奴と思わせて競る意欲を失わせるためか、
きっと予算が決まっていてその中で買うための最大の作戦なのだろう。
「そちらの幻術師様も動きといいオーラといい只者ではありませんな」
えっ?! と見るとアンジュちゃんクラリスさんが来てた。
「うちのマスターは最大戦力だ、浮遊癖があるが魔力が有り余っているから仕方がない」
「ほっほー、是非ともわたくしどもの女王に会わせてみたく存じますな」
「明日のオークション、狙いはあの戦争で負けた姫様だけか?」
「今回の予算の余りで買えるようであれば、無理はしませんよ、無理は」
「そうか、我々は目玉のケルピーがどうしても欲しくてな、ライバルにならないのであればそれで良い」
とりあえずムームー帝国はケルピーに興味なしか、良かった。
……一応、ヘレンさんのお仲間にも手は出さないでって言っておこうかな?
「では他の奴隷に興味は」
「ありませんね、三日目の不動産はいくつか」
「そちらは我々が興味ない、今の所はな、どのようなものが出ているか詳しくも知らないが」
「今のところの目玉はダンジョンが丸ごと売られていまして、そちらを我が国も検討を」
「それは凄いな、どの国のだ? ダンジョンに個人の権利を許している国となると……」
と立ち話が終わると大人的、社交的挨拶で去って行った。
「待たせたな、相手が相手だから丁寧になってしまった、では行こうか」
(さあ、この後は一息入れて、軽くサキュバス退治だ!)