第113話 オークション初日後半とアンジュちゃんショー
昼食は地下でビュッフェ、食べ放題が用意されていた、
高額落札が見込まれる出品者の特権で美味しいのは良いのだが、
音楽がなくて寂しい、と言ったらアンジュちゃんが効果音魔法をかけてくれている。
(いやこれ効果音じゃなくて普通の音楽だ)
街中を歩いているような曲が延々と流れる、
そういえば四種類習得しているのに三種類しか聞いてなかったな、と思い出す、
小気味よい軽快な音楽が、特に僕に好評だ。
「ん~おいしい~」
悪女勇者コロメはスイーツ系ばかりもりもり食べてる、
彼女も高額出品していたのか、奴隷の子にも何か食べさせてあげたらいいのに、無料なんだし。
(段々とあの少女を助けたくなってきた)
余計な事をするべきではないし、
下手するとそう思わせる事すら緻密に計算された罠かもしれない、
それでもなんとかしてあげたい、と本気で思いはじめていた。
「デレス、ファイアーキャンサーがあるぞ」
「あっ、本当だ! 蟹系モンスターの高級料理ですよね」
(あの子に剥かせてみたああああい!!)
「あ、ヘレンさん、遠慮なく食べて」
「……ありがとうございます、ご主人様」
アンジュちゃんは我流ながらもちゃんとナイフとフォークを使っている、
手掴みしなくなったのはクラリスさんの教育もあるけど、
学校でもある程度は教わってきているのかもしれない、うん、行儀が良い。
「オークションだけあって、この肉も出品されてもおかしくない美味さだな、うむ」
と言ってニィナさんはあの体型保持のため、もりもりもりもーり食べている、
ほのぼのな音楽が台無しだぁ……
(あ、僕は相変わらずサラダばっかりです、はい)
……食事が終わりコロシアムの席へ戻る、
上は普通のお弁当やパンを食べてる人が多かったみたいだ、
オークションに限らず催しがあると売られる名物弁当があるみたい。
「皆様、おーーーーまたせいたしました!」
後半もハイテンション勇者受付嬢が司会だ、あれももはや名物なのかも。
「では最初は軽く、かるーーーく、特注品のアイテムバックからです!
これはとある侯爵家が冒険者となった娘のためにオーダーメイドで造らせた……」
まだ戻ってくる人を待ってか説明が長くなる、
ちなみにアンジュちゃんはクラリスさんとセットで居ない、
理由は見ていればかわる、女神教関連が出品されれば買わなければ。
「では金貨十枚から、オークションーーーーー……開始ッッ!!」
「二十枚!」「五十枚!」「九十九枚ぃーー!」
(あれ?あのバッグの持ち主って、もしかして……??)
オークションは進みいよいよ武器防具の装備品のようだ。
「ここからはデモンストレーションも行いまぁす!
つ・ま・り、実技です! とはいえ私のプライベートレッスンはありませんのでご了承くださいませ」
言っている事が、わけがわからないよ。
(アンジュちゃんの鑑定じゃ四十八歳らしいなあのおばさん)
「まずは軽くA級レア、なんと魔法使いの魔法速度が倍速になる、
その名も『迅速の杖』です、これで無詠唱でない方は無詠唱なみに、
すでに無詠唱の方はさらに! さーらに! 魔法がはやーーーーい!!」
あれ? ヘレンさんが震えている?
「あ、あれは、あれは間違いなく、リューイのだわ」
「確か奴隷の、ヘレンさんの恋人の」
「お願いします、買い戻してあげて下さい、お願いします!」
なんで僕が、とも言えなくもないが、
その奴隷を買う以上、持たせた方が良いよね、多分。
「では金貨五十枚から!」
『白金貨一枚!』
札を上げた僕、
結局、一枚半で落札できた。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「あとはまだ出てくるのかな?」
「いえ、オークションで売れそうなのは、これだけです」
あとは明日、本人が出品されるだけか。
まだまだ司会の声は響く。
「今のを買い損ねた方、次はもっと良い杖ですよ!
まずは僧侶と賢者が使える杖、素材は骨ですが四段階加工がされております、
魔力倍、魔法消費二分の一、魔力回復も付いております『ホーリーハイロッド』ですっ!」
うん、僕が出品したやつだ、アンデッドダンスドラゴンの骨をドワーフのマリウさんに加工してもらった。
「さらに! さーらに! セットという訳ではございませんが、
魔法使いと賢者と幻術師が使える杖、こちらも骨で四段階加工、
魔力倍、魔法消費二分の一、魔法防御も付いております『ダークシャドウロッド』でぇっす!」
こっちもだ、二本ずつ作ってもらったけど、
例の購入予定の奴隷がウチの別働隊と働いてくれるなら持たせたいので一本ずつ残した。
「それではまずは白い杖の方から、ええい行っちゃえ白金貨一枚より、スタートゥ!」
……結果、二本で白金貨十七枚になった、うん、なんか凄く競り合っちゃったからね。
「続きましても魔法系の後衛様にとっておきのアイテムです、
まずはこちら、素早さが格段に上がり魔法防御も物理防御も魔法自然回復つきました、
S級装備『セクシーパンサーローブ』です!ご覧くださいこの色艶を!」
場内がおおーー、と良い反応になる、
ルアンコの青髭オネエサマ出品というか素材は僕らが売ったやつ、
そして見本としてアンジュちゃんクラリスさんが出てきた、
いつも着ているのを歩いて見せている。
(これくらいは協力しないとね)
「見えにくい上段の方にもさあ、どうぞ!」
その声にアンジュちゃんが飛んで二階席三階席を旋回する!
あ、女の子たちから『アンジュちゃーん!』て声援が!
マスターで通していたつもりだが情報はどこからでも漏れるか。
「注意を申し上げますと、浮遊機能はついておりません、
これはこの幻術師様の魔法であって、それを補助しているだけです、
とはいえ着る方の重量軽減がありますので、このローブのおかげではありますよー!」
うん、インパクトはばっちりだ。
「勇者僧侶幻術師アサシンといったレア職業の方は、御覧のように効果が通常より倍増いたしておりまぁっす!」
クラリスさんの着こなしもなかなかだな、
いつもは中の聖女服を目立つように前を空けているけれど。
「それではぁー、白金貨三枚からっ!」
「十枚!」「二十枚!」「三十枚!」「三十五枚!」
(うわー、これ絶対、アンジュちゃんのせいだ……)
「はい白金貨五十五枚で落・札・キ・マ・リ!」
えげつないなあ、オネエサマ大喜びだ。
「後衛の魔法系の皆さん、落札できなかった皆さんに朗報です、
防御がだめなら攻撃を買えば良い、これは今、私が考え付いた名言なのですが……」
名言なのか?!
アンジュちゃんが舞台中央でアイテム袋からアレを取り出す。
「ついにSS級武器が登場致します、その名も『死神の鎌』デスッ!!」
うおおおおお、と歓声がさらに上がる! 圧が凄い。
「それでは威力を早速見ていただきましょう!!」
結局、一品だけしか出せなくなったな、アンジュちゃん以外にも使うだろうから。
「さあ、こちらの檻からイビルアイが放たれます、客席は結界で安全ですのでご安心を、では、どうぞ!」
ケージから浮く目玉モンスターが放出されそれをアンジュちゃんが鎌でかっこよく斬る!斬る!
続いて遠くのをふりかぶって闇の刃発動で切る!切る!うん、かっこいい、なかなかの死神っぷりだ。
「魔力さえある程度あれば、魔法使い、僧侶、賢者、幻術師ならこのように使えます!
さあこのとんでもない後衛用武器、まずはぁ、白金貨、十枚からあっ……スタートゥッ……アンッ」
「五十枚!」「六十枚!」「ひゃくまーーーい!!」
おおおおおおおおおおおおおおお!!!
「おおっと今回初の白金貨百枚が出ましたあ!!」
おいおいいいのかいいのか!
おかしいぞいくらなんでも出し過ぎだぞ、
でもコレクション商品としてはわからないでもない、かな?
「よろしいですか? よろしいですね? ではこの後は出そうにないので、
ちなみに考え中の方は札を裏向けにして上げてください、いませんね?いませんねー?」
あー出すかも考えさせてって人は札の数字のない方を見せてあげれば少々待ってもらえます。
「ではあああああああああ落札決定ーーーーーーーいっ!!」
(やたああああああああああああ!!!)
あきらかに高過ぎだけど、誰だろ落札したの?
見てみるとうん、これは大公爵レベルの金持ちだ、
下手すると小国の主かもしれない、コレクションかお抱え魔法使いに渡すのかも。
「これもやはりアンジュちゃん効果ですね」
「だな」
ニィナさんも深く頷いている、
続いて出てきたアイテムは僕らには関係ないが興味深い物ばかりだった、
そしていよいよ、い、よ、い、よ、最終出品の時間やってきたのだった。
(また白金貨百枚行くかなぁ? ワクワク)