第102話 奴隷の使い捨てと奴隷にもチャンスを
床に座らされている三人のうち、
魔法使いの男が死んだ目でヘレンを見て一瞬で逸らした。
「リューイ!」
それに構わず抱きつくと、
両隣の僧侶と弓使いもばつが悪そうだ。
「……ヘレンか」
「何があったの!」
「俺たちも、俺たちだって、俺たちもみんな、
あのコロメって女勇者に騙されていたんだ」
でしょうねえ。
「あぁ、私のリューイ、いいわ、必ず助けてあげる」
「そうは言ってもヘレン、お前だって」
「任せてちょうだい、私、強くなったの」
奴隷商の男が近づいてきたのを逃げるような形になって戻ってきた。
「……ご主人様、私めに、チャンスをください」
「どうしたんですか」
「もし、もし私のサキュバスで魔王を倒せたら、彼を、いえ彼らを奴隷から救ってください」
ずいぶんと調子の良い話だ。
「えっと、なんでそんな事を」
「こうなったのは私にも責任があるかもしれないからです」
「そ、そうなんだ」
いや先にヘレンさんが騙されたんじゃ?!
「私がしっかりとリューイの心を繋ぎ止めていれば」
「あっ、そういうこと」
「お願いします、私を買い取っていただいた三倍稼ぐので、まずは最初にリューイだけでも」
いやいやいやそもそもこっちは殺されかけた被害者だし!
「とりあえずニィナさんに相談してみましょう」
「ありがとうございます……リューイ、必ず助け出すから」
「済まない、本当に申し訳ない、全て、本当にあの女勇者が悪いんだ、だから」
戻って会話しはじめた所でまた奴隷商がやってきた、
とりあえず僕が対応すれば怒られないかなと行く前にクラリスさんが先に話しかけた。
「奴隷商様、この三人のオークション開始価格は」
「若くて有望だからね、まとめて白金貨一枚からだな」
「そんなに! わかりました、戻って相談しますわ」
一応、資料の紙を貰う、全員個人でCランクだ、
魔法使いリューイはレベル31、僧侶ハオは28、弓使いウィングは25か。
(レベルでいけばヘレンさん圧倒的だったんだな)
クラリスさんがヘレンさんを剥がすように回収する、
僕は一応、他も見回して知った顔がないか探すが……うん、大丈夫そうだ。
「あああぁぁ、リューイ、私、リューイのためならこの身を売っても……」
「いやもう売られてますよね?」
「お願いします、自分を買い戻すので、そのお金でリューイだけでも」
そんなこときいてあげる必要はないのだけれども、
純粋に戦力目的で使える奴隷だったら考えなくもない、
とはいえ目下の目標はケルピーの救出だ、でもそれは僕の都合だしな。
「デレス様」
「クラリスさんは反対みたいだね」
「当然です、そもそも奴隷がいくら頑張ってもお金を渡す義務はありませんから」
確かに、いくら主人のためにその力を発揮しても、
お金を稼ぐのに貢献したとしても、それで奴隷解放するかはこっちの気分次第と言って良い、
解放の基準があるとしたらそれはこっちが決める事で、ヘレンさんは提案するのもおこがましいはずだ。
(ニィナさん怒るかな)
ちらっと見たら奴隷の目玉とか前に聞いたお姫様姉妹の居るパーティーに目が行く、
眼鏡の長身剣士がちらっとこちらを見ては胸元を少し開いて見せる、
ああやって挑発して人の良さそうな相手に買ってもらおうという作戦か? そんな餌にこの僕が……
「デレス様、なぜそちらへ、出口はこちらですよ」
「あっ、はいはいはい、つい、ふらふらと」
高身長女に引き寄せられるのはニィナさんによる呪いのせいだ!
いつまでも元パーティーメンバーの方を見るヘレンさんと一緒に
クラリスさんに引かれて廊下へ出ると、丁度ニィナさんがやってきた所だ。
「話はついた、アンジュの杖と交換するかわりに、今回のオークションでは幻術師の杖はこっちは出さない」
「それで納得してもらえたのですか?」
「ああ、相手はコレクターではなく転売目的でな、効果が同じでも後から作られたアンジュの杖より価値が高かったらしい」
そういえば昔の職人集団が作ったんだっけ。
「でもそれじゃあケルピー資金が」
「それがだな、二か月後のオークションにあらためてこっちも幻術師の杖を出すのだが、
希望すれば開始落札価格を貸してもらえる、もちろん利子はつくがな」
「なるほど、じゃあ今から申し込んでおけば」
「ああ、すでにそうした、白金貨二枚だそうだが、どうする?」
「利子の割合にもよりますが、借りましょう」
ヘレンさんがなぜか後ろからつっついてくる、奴隷のくせに!
「あ、そうだ、ニィナさん、一応聞いておきたい話が」
「なんだ? どうした?」
「はい、ヘレンさんのお仲間が奴隷に落とされていました、使い捨てられたようです、
それをヘレンさんが買って奴隷から解放してあげて欲しいと」
うん、あらためて言っても色々とひどい話だ。
「こちらにメリットは?」
「なんでもヘレンさんの力で魔王を倒すからと」
「……ヘレン、本気か?」
「はい、お願いします、奴隷にも一度、チャンスを」
「却下だ、以上」
ですよねーって感じである。
「ううぅぅ……」
「ヘレンさん泣かないで」
「それで女勇者はどうなったんだ?」
「あ! 詳しくは聞いていませんがやはりその女勇者に騙されたみたいですよ」
「なるほど、酷い話だが一応、その女を探すのは続けるか?」
ニィナさんに聞かれてハッとする、
そもそもなんでその女勇者を捕まえなきゃいけないんだっけ?
「ええっと見つけたらどうしますか」
「本性を暴き出して、これ以上被害者が出ないようにする」
「あ、なるほど」
思い出した、ニィナさんって騎士団上がりだから結構、正義の人だった。
「それにデレスがたぶらかされる危険性があるからな」
「ニィナ様、聞いて下さい先ほど、デレス様が奴隷の長身女性を見て……」
「な、なに言うのー!!」
このあと一応、奴隷展示をニィナさんも見て回ったが、
長身眼鏡剣士を見てなぜか鼻で笑っていた、
そして勝ち誇ったような態度でしゃがんで僕に腕組みしてきた。
(身長差で恥ずかしいのに、展示奴隷相手に何やってるのこの淫乱バーサーカーは……)