爽やかでのんびりとした休日の朝
わたしが初めて応用魔法を唱えてから数日が経過した。ここしばらく講義の時間は一年生で出し物の話し合い、講義が終わった後は魔法の練習と毎日忙しい日々を送っていた。
そして今日は待ちに待った週末、スピネルやレオナ達と一緒に町へと出かける日だ。
「う~ん! 今日もいい天気ですね!!」
楽しみ過ぎて朝早く目が覚めてしまったわたしは、大きく伸びをして窓から外を見る。雲一つない青空が広がっており、爽やかな気持ちになる。今日は絶好のお出かけ日和だ。
「お早いお目覚めですね。クリスティア様」
わくわくした気持ちが表情に出ていたのか、わたしを見たローゼが楽しそうな顔で話しかけてくる。
「おはようございます! ローゼ!」
「はい、おはようございます。もし良ければ目が覚めるよう、お茶をお淹れしましょうか?」
「良いのですか!?」
「はい、もちろん。たまには私にも淹れさせてくださいませ」
そう言ってローゼは悪戯っぽく笑う。
最近は自分でセレスタお姉様の分もお茶を淹れるようにしていたので、ローゼの淹れるお茶を飲むのは久しぶりだ。たまにはそんな日があってもいいだろう。わたしは笑顔をローゼに向ける。
「それではお言葉に甘えますね! 美味しいお茶を期待しています!」
「はい、ご期待に応えて見せます」
ローゼはニコリと微笑みを浮かべると、お茶を淹れるため部屋の奥へと下がっていく。久しぶりにローゼの淹れるお茶が飲めると思うと、お出かけのこともあり段々と気分が良くなってきた。
「ふんふんふーん」
わたしはご機嫌に鼻歌を歌いながら自分用の勉強机に近づいていく。
「よし! 出かける前にもう一度、皆にまとめてもらった報告書を見ておきましょう!」
自分の机に座り、紙の束を手に取ると早速確認を始める。毎日報告をしてもらっているので報告書は結構な量になっている。
中心となって調べてくれているバニラやウィル、二人の手伝いをしている一年生の頑張りが大量の報告書から伝わって来て、わたしも王女として大魔法祭を成功させたい気持ちが高まってくる。
「わたしも頑張らないといけませんね……!」
皆と一緒に大魔法祭を楽しむためと思えば、報告書の確認など苦にもならない。
気合を入れてしばらくの間報告書とにらめっこしていると、茶器の乗ったワゴンを押してローゼが部屋へと戻ってきた。
「クリスティア様。お茶の準備ができました」
「ありがとうございます、ローゼ!」
わたしが報告書を片付けていると、ローゼが運んできたお茶の良い香りがふわりと漂ってくる。どうやらローゼはわたし達がいつも朝に飲んでいる目覚まし用のハーブティーを淹れてくれたようだ。
「それでは早速お淹れしますね。クリスティア様、こちらへどうぞ」
ローゼはそう言うとお茶会用のテーブルへと移動し、恭しい態度で椅子を引いてくれる。それを確認したわたしは、出来るだけ優雅な所作を心掛けて勉強机から立ち上がる。
「ありがとう、ローゼ」
セレスタお姉様を参考に所作を意識しながらわたしが席につくと、ローゼは柔らかい微笑みを浮かべる。
普段は自由に過ごすように言われているが、学園にいる間に王女としての立ち居振る舞いを学ぶ必要があるわたしは、こうしてたまにローゼと所作の勉強をしているのだ。
そのままローゼはお茶を淹れ終えると、わたしに一礼をして後ろへと下がる。
それを確認したわたしは出来るだけ美しく見えるようにお茶の入ったカップを手に取り、ゆっくりと口をつける。その瞬間お茶の香りが鼻を抜け、体全体が温かくなっていく。
「とても美味しいです。ローゼ」
美味しいお茶を飲んで自然と口元が緩んだわたしは、振り返りローゼにお礼の言葉を告げる。
「お喜び頂けて光栄です、クリスティア様」
ローゼも嬉しそうに微笑みを浮かべているので、所作に問題はなかったようだ。
それからしばらくローゼに所作やお茶の美味しい淹れ方を教えてもらっていると、セレスタお姉様とむーちゃんが目を覚ます。
「……ごきげんよう、クリス」
「おはようございます、セレスタお姉様!」
「おはよー! クリス! セレスタ! ローゼ!」
元気良く飛び起きて床をトコトコ走り回っているむーちゃんと違い、セレスタお姉様は頭を押さえて辛そうにしている。
わたしは床を走り回るむーちゃんを両手で持ち上げてから、そんなセレスタお姉様をテーブルへと誘う。
「お姉様、目覚めのお茶はいかがですか?」
「ええ、ありがたくいただきますわ……」
「ボクも! ボクも!」
「むーちゃんはダメです!」
「え~!? なんで!?」
むーちゃんはカップから上手くお茶を飲めないので、今日は遠慮してもらう。代わりにお茶菓子として出してもらったクッキーを小皿に乗せると、嬉しそうに食べ始めたのでそれで許してもらおう。
セレスタお姉様の分もローゼにお茶を淹れてもらうと、テーブルに着席したセレスタお姉様がぼーっとした様子でカップを手に取る。
しかしそんなセレスタお姉様も、ローゼの淹れたお茶を一口飲むと、安心したように頬を緩めホッと息を吐く。
「美味しいですわ……ありがとう、クリス、ローゼ」
いつも飲んでいるお茶なのでセレスタお姉様の口にも合ったようだ。しばらくのんびりとお茶を飲んでいるとセレスタお姉様が口を開く。
「そういえば……クリスは今日、お友達と一緒に町へ行くんですわよね?」
「はい! スピネル達と行ってきます!」
「そう……」
わたしが笑顔で返事をすると、セレスタお姉様も嬉しそうに頬を緩ませる。
「アレキサンダーお兄様の魔道具があるので危険は少ないと思いますが、スピネル様やむーちゃんから離れないようにしてくださいませ」
「ボクがちゃんとクリスを守るから任せて、セレスタ!」
「ええ! 頼りにしていますよ、むーちゃん!」
セレスタお姉様の言葉を聞いて、わたしの膝の上で丸くなっているむーちゃんからも心強い返事が返ってきた。
それでもセレスタお姉様は心配なようで、なおもわたしに注意してくる。
「それと迷子にならないよう気を付けてくださいませ」
「心配しなくても大丈夫ですよ! お姉様!」
わたしが自信満々に胸を張って答えるとセレスタお姉様は苦笑しながらお茶を一口飲み進める。エデルシュタインで町に行った時とは違い今回はむーちゃんもいるのだ。また迷子になったとしてもきっと大丈夫だろう。
そんな風にのんびりと朝の時間を過ごしていると、スピネル達との集合時間が近づいてきた。
わたしは制服に着替えてお出かけの支度を済ませると、セレスタお姉様に声をかける。
「それではお姉様! 行ってきます!」
「ええ、気を付けて行ってらっしゃい!」
セレスタお姉様の見送りの言葉を受けてわたし達は部屋を出る。階段を下りホールを抜けて、わたしとむーちゃんは集合場所の食堂へと到着した。
「皆はもう来ているでしょうか……?」
「ちょっと待ってて!!」
わたしが皆を探そうとすると、むーちゃんがふわりと少し高めに浮きあがる。きょろきょろと食堂を見渡したむーちゃんは、ゆっくりと降りてきて元気良く報告してくれた。
「あっちにスピネルがいたよ!」
むーちゃんが前足を向けている場所を見ると、確かにスピネルが席についているのが見えた。
「ありがとうございます、むーちゃん!」
「わーい! もっと褒めて!!」
わたしは探し出してくれたむーちゃんにお礼を言うと、むーちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でまわす。むーちゃんも頭を撫でてもらえて嬉しそうに足をパタパタと動かしている。
「それでは朝食を受け取りに行きましょうか!」
「うん! ボクはカリカリが食べたいな!!」
むーちゃんと話しながら軽めの朝食を受け取ると、わたし達はスピネルの座っているテーブルへと向かう。
少し歩くとスピネルはこちらに気が付いたようで軽く手を振ってくる。
「おう。おはよう、クリス」
「おはようございます、スピネル! 今日は楽しみ過ぎて朝早くから目が覚めてしまいました!」
軽く朝の挨拶を交わしてから席について、わたしとむーちゃんは食事を始めた。スピネルは既に食事を終えていたようで、本を読みながらのんびりと飲み物を飲んでいる。
「今日は何を読んでいるのですか?」
「研究室で借りてきた本だ。クリスに負けないよう俺も頑張らないとな」
「スピネルは努力家ですね! わたしももっと頑張ります!!」
先日応用魔法を覚えたわたし達だったが、その後の練習を通してある程度使いこなせるようになってきた。会長からもそろそろ高等魔法に挑戦しようかと言われているところだ。
そのため、最近スピネルは日課の訓練に加えて本で勉強している姿をよく見かける。わたしも夜は勉強をしているが、スピネルに負けないようもっと頑張らなくてはならないだろう。
スピネルの頑張る姿を見て気合を入れたわたしがむーちゃんと食事をしていると、レオナもやってくる。
「ごきげんよう、クリスティア殿下! むーちゃんは今日も可愛いですわね!!」
「おはようございます、レオナ! バニラにウィルもおはようございます!」
レオナは元気良くわたしに挨拶をすると、むーちゃんの食事している姿を見てニコニコと微笑みを浮かべる。その後ろにはバニラとウィルの姿も見える。
「一緒にお出かけできる日を楽しみにしていました、クリスティア殿下」
「今日はよろしくな!」
「はい! 二人ともよろしくお願いしますね!」
三人が席に座ったことで賑やかさを増したテーブルでワイワイと話しながら朝食をとる。話題は今日のお出かけについてだ。
「町に行くのは初めてなので、色々教えてくださいね!」
「もちろんですわ、殿下! 今日は殿下を退屈させないよう三人で色々準備してきましたの! そうですわね!?」
「ああ!」
「ええ」
レオナがウィルとバニラに同意を求めると、彼らも楽しそうに頷く。もしかしたら三人揃って食堂に到着したのは、三人で打ち合わせをしてから来たからなのかもしれない。
「本当ですか!? 嬉しいです!!」
わたしのために三人がわざわざ準備してくれていた心遣いがとても嬉しい。一体どこに連れて行ってもらえるのだろうか。
わたしが期待を持って三人を見回すと、レオナは悪戯っぽく笑いながらお預けをするように指を振る。
「た・だ・し! どこに行くかはまだ内緒ですわ!」
「え!? どうしてですか……?」
内緒と言われたわたしがしょんぼりと肩を下げると、レオナはこちらに向かって微笑みを向けてくる。
「そちらの方が殿下も楽しめると思いましたの! 最初から分かっていては面白くないでしょう?」
「確かに……そうですね!」
きっと三人でわたしが喜ぶように考えてくれたのだろう。その気持ちを無碍にするわけにはいかない。どこに行くのかは気になるが、ここは聞かずにぐっと我慢しよう。
わたしは三人に向けて笑顔で感謝の気持ちを伝える。
「三人ともありがとうございます!!」
それを聞いた三人も嬉しそうに笑顔を浮かべる。皆で一緒に色々なところを見て回れるのが楽しみだ。
「そろそろ出発の時間じゃないか?」
皆でわいわいと話し合っていたらいつの間にか出発の時間になっていたようだ。こちらの話に耳を傾けながら本を読んでいたスピネルの言葉に皆が頷く。
「それでは皆。出発しましょう!!」
「おお!!」
わたしが声をかけると皆も元気良く立ち上がる。楽しそうに笑う皆を引き連れて、わたし達は寮の外へと歩き出した。




