出し物の相談
「たくさん話したのでお腹も減りましたね……今日の昼食は何でしょうか?」
「朝見た時はボタニガルテンの新鮮な野菜を使ったサンドイッチがおすすめでしたわ!」
「それは美味しそうですね! 早く食べたいです!!」
寮に戻る道すがらレオナと今日の昼食について話をしていると、わたしのお腹が鳴りそうになる。
わたしが慌ててお腹を押さえると、スピネルが不思議そうな顔をしてわたしのお腹を見つめてくる。
「クリスはいつもお腹を空かせている気がするが、なんでだろうな?」
スピネルの言う通り最近はお腹がすぐに減ってしまうので困っている。しかし、それをスピネルに指摘されたくはなかった。
わたしは視線からお腹を隠すように体を抱きかかえて、スピネルを睨みつける。
「恥ずかしいのであまり見ないでください!!」
「ああ、すまない。クリス」
申し訳なさそうに軽く頭を下げたスピネルをじっとりと見ていると、隣を歩いていたレオナが考えるように視線を落とす。
「……もしかしたらクリスティア殿下の授かった固有魔法が影響しているのではなくて?」
「そうなのですか?」
「ええ、わたくしも固有魔法の影響で色々できるようになりましたもの。殿下程の魔力ならなおさら影響が強いと思いますわ!」
思い返せば魔法を授かる前はこんなにお腹が減ることはなかった。自由に動けるようになったおかげでその分お腹が減るようになったものだと思っていたが、レオナの口ぶりからすると固有魔法の影響を受けている可能性もあるようだ。
確かに固有魔法を授かってからは『精神活性』の影響で魔力の流れが目で見えるようになった。生命力を維持するために多くの栄養を必要としているのならば、『生命活性』の影響なのかもしれない。
そう思うとお腹がすぐに減るのも悪いことではないのだろう。固有魔法の影響について興味を持ったわたしはレオナに質問してみることにした。
「レオナはどのような影響があったのですか?」
「わたくしは授かった固有魔法『魔獣使役』の影響で、使い魔の考えていることが少しだけわかるようになりましたわ!」
「ええ!? 凄いじゃないですか!?」
今でこそ会話ができるのでむーちゃんの考えていることも分かるが、話せるようになるまではわたしもむーちゃんの考えていることは正確には分からなかった。それを思えばレオナが使い魔と意志の疎通ができるようになったのはとても凄いことだと思う。
わたしが驚いた顔をレオナに向けると、彼女は嬉しそうに笑顔を浮かべながらも少し寂しそうな表情になる。
「初めて使い魔と意志の疎通ができた時はとても嬉しかったですわ! とは言っても殿下とむーちゃんのようにおしゃべりは出来ませんの……」
「それでも凄いですよ!!」
わたしの場合は使い魔の契約を通して大量の魔力をむーちゃんに流した結果、むーちゃんの言葉が理解できるようになった。もしかしたらレオナも同じことをすれば使い魔と話せるようになるかもしれない。
レオナほど魔獣を好きな者からすれば、自分の使い魔と話せるのはとても羨ましいことだろう。そう思ったわたしは親切心でむーちゃんと話せるようになった時のことをレオナに教えてあげることにした。
「わたしはむーちゃんにたくさん魔力を流したら、言葉が理解できるようになりましたよ!」
「まあ、本当ですの!?」
わたしの言葉を聞いたレオナは、花が咲いたような満面の笑みを浮かべる。
「それならわたくしも使い魔とお話しできるようになりますかしら?」
「はい! きっと出来ますよ!」
わたしの言葉を聞いたレオナは目を輝かせてこちらを見つめてきたが、それを聞いていたスピネルは呆れたような顔をわたし達に向ける。
「レオナ、クリスは魔力が大量にあるから出来たことだ。レオナが真似してもきっと難しいと思うぞ」
レオナに注意した次はわたしの番だ。スピネルはレオナに向けていた顔をこちらに向ける。
「クリスも適当なことを言うな。そんなことをレオナに言ったら、倒れるまで魔力を流すぞ?」
「そこまで考えていませんでした!! レオナ! 先ほどの話は冗談です! 真に受けないでください!!」
スピネルに注意されて事の深刻さを理解したわたしは、慌ててレオナに声をかける。しかし、レオナは既にうっとりとした様子でどこか遠くを見つめている。
「ああ、ロートやブラウとおしゃべりできるようになる日が楽しみですわ……!」
「もう聞いていませんね……」
「クリスもレオナと話す時は話題に気を付けるようにしてくれ……」
スピネルはそう言いながら溜息を吐いて寮の方を指し示す。
「とりあえずいつまでも話してないで寮に戻ろう。間に合わなくてパンとスープだけになるのはご免だからな」
「それもそうですね! ほら、レオナも行きますよ!」
「うふふ……待っていてくださいませ……!」
使い魔と話すことを考え始めて夢見心地でうっとりしているレオナをわたしとスピネルで引っ張りながら、わたし達は何とか寮に到着する。
ホールを抜けて食堂へと向かうと、昼食の時間なこともあって辺りはとても混雑していた。
「あ! 皆がもう席に座っていますよ!」
食堂に入って軽く辺りを見回すと、食堂の一角に他の一年生達がまとまって食事の準備をしているのが見えた。
「そうですわね! わたくし達も早く参りましょう!」
「それなら俺は殿下達に報告してくるよ」
正気に戻ったレオナと一緒に昼食を受け取り、一年生の集まっているテーブルに歩き出そうとすると、スピネルがわたし達から少し離れる。
どうやらわたしの代わりにスピネルがきょうだいへ報告に行ってくれるようだ。
「良いのですか? わたしが行った方が良いのではないでしょうか?」
「クリスはあまり他の学生と交流できてないだろう? 良い機会だから皆と一緒に食事を楽しんでくれ」
「分かりました! ありがとうございます、スピネル!」
スピネルなりにわたしが他の一年生と交流を持てるように配慮してくれたのだろう。わたしが礼を言うと気にするなといった風にスピネルは去っていく。
こちらを気遣ってくれたスピネルの優しさを嬉しく思いながら、わたしはレオナと一緒に一年生が座っているテーブルへと向かう。
「それではわたし達でしっかり皆の話をまとめましょう! レオナ!」
「もちろんですわ! クリスティア殿下!」
テーブルに到着すると、わたし達が来たことに気が付いた学生達がこちらに注目する。
「皆、お待たせしました! 出し物について、続きを話しましょう!」
先ほど中断されてしまった話し合いの続きになるので、皆はすぐに意見を出し始める。
「どうしましょう、クリスティア殿下?」
「そうですね……」
レオナと一緒に皆の意見を聞いたところ、女子学生はお菓子を提供するお店、男子学生は遊べる出し物や劇などをやってみたいという声が多いことが分かった。先ほどの教室での話し合いで出た意見が皆の考えに影響を与えているようだ。
「皆、意見ありがとうございました! もう少し考えてみますが、お菓子を売るか遊べる出し物のどちらかが良さそうですね!」
そう言うと、話を聞いていた他の学生も納得したように頷いてくれる。出し物の候補を絞り込んだわたしが満足していると、お兄様達へ報告しに行ってくれたスピネルがわたし達の元にやってきた。
「遅くなって済まない。クリス、話し合いはどうなったんだ?」
「スピネル! ある程度意見がまとまりましたよ!」
わたしが軽く話し合いの結果を説明すると、スピネルは少し考えるようにしてあごに手を当てる。
「それなら今度の休みの日に実際町に遊びに行ってみないか? そうすれば出し物の想像もしやすくなるだろう?」
スピネルが言うには町には劇を見られる劇場やお菓子を売っている店、レオナが話していたカフェという店もあるようで、確かに出し物の参考になりそうだ。
「それはいい考えですね、スピネル! とても楽しそうです!」
「ああ、クリスは町に出たこともなかったからな。いい機会だろう」
わたしが笑顔でそう答えると、スピネルも一緒になって楽しそうに笑う。学園に来てからも色々あったせいで、結局わたしはまだ一度も学園の外の町に行ったことがない。
スピネルからお土産を貰ったり話を聞いたりはしていたが、今まではわたしを守るものが何もなかったからだ。
しかし、今は違う。わたしは右手に嵌めている腕輪に視線を落としてから、意気揚々と皆の顔を見回す。
「わたし達と町に行きたい者はいますか!?」
わたしがそう聞くと、それに答えるようにしてレオナとバニラが手を挙げてくれた。
「わたくしは一緒に行きたいですわ! 可愛い魔獣のぬいぐるみが売っているお店やお洒落なカフェをクリスティア殿下に紹介して差し上げます!」
「それなら私は美味しいお菓子のあるお店を案内いたします」
「良いのですか!? 二人ともありがとうございます! 楽しみにしていますね!」
これで町歩きの参加者はわたしとスピネル、レオナとバニラの四人となった。男子学生がスピネル一人になってしまうので、もしかしたらスピネルは居心地が悪いかもしれない。
「クリスティア殿下! 俺も一緒に連れて行ってくれないか?」
そう思っていると、また別の方向から一人の手が挙がるのが見えた。スピネルと仲のいいウィルだ。こちらとしても断る理由はないのでウィルの提案を笑顔で受け入れる。
「ええ、もちろんです! よろしくお願いしますね、ウィル!」
「スピネルも男一人じゃ大変だろう?」
悪戯っぽい笑みを浮かべてウィルがスピネルに顔を向けると、スピネルも笑顔を浮かべてそれに答える。
「助かるよ、ウィル。ありがとう」
「おう! 任せてくれ!」
これで町に行くのはウィルを加えた五人になった。他の学生にも一応聞いてみるが、これ以上数は増えそうにない。
わたしは一緒に町に行くことになった面々をぐるりと見回してから声を出す。
「それでは決まりですね! 次の休みは五人で一緒に町で出し物の視察をしましょう!」
そんなことを話していると昼食の時間は終わり、午後の講義の時間になる。わたし達一年生に午後の講義はないのだが、研究会の活動をする学生は多いので一旦解散することになった。
「とりあえず話し合うことはこんなところでしょうか?」
「ああ。できれば大魔法祭で出すお菓子や遊べる出し物について考えておけるといいな」
わたしがスピネルとやるべきことの相談をしていると、横で話を聞いていたバニラが声をかけてきた。
「それなら私がお菓子の案を出しておきましょうか?」
「良いのですか? バニラ。負担になってしまうのではありませんか?」
「良いですよ。何といっても私はお菓子研究会ですからね!」
胸を張ってそう口にしたバニラの目からは、お菓子作りに対する情熱が伝わってくる。ここはあまりお菓子を作ったことがないわたしよりもバニラの意見を聞いた方が良いかもしれない。
そうと決まれば話は早い。わたしはバニラの情熱的な目をしっかりと見据えて返答する。
「分かりました! それではお菓子の案を出すのはバニラにお願いしますね!」
「はい、任せてください!」
バニラの力強い返事を聞いてわたしが頷くと、少し離れたところからこちらの様子を伺っていた学生達がバニラへと声を掛ける。
「バニラ様、私達にも手伝わせてください!」
「良いですよ、一緒にやりましょうね」
お菓子作りに興味があった学生がバニラの周りに集まってくるのを見て、わたしはほっと胸を撫で下ろす。これならお菓子に関してはバニラに任せておけば問題なさそうだ。
「それなら俺は遊べる出し物について調べてみてもいいか?」
「ウィルも良いのですか?」
「ああ、楽しそうだからな! 上級生にもどんな出し物があったのか聞いてみるつもりだ!」
「助かります、ウィル! ありがとうございます!」
これで遊べる出し物についてもウィルが調べてくれる。候補に挙がっていた二つの出し物についてはひとまず彼らに任せておいて良さそうだ。
「それでは皆で大魔法祭に向けて頑張りましょう!」
「はい!」
わたしの号令を聞いた皆は楽しい大魔法祭を作り上げるため、それぞれの目標に向けて動き出した。




