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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第三章 大魔法祭を楽しく過ごしたい!
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一年生の出し物

「皆は何かやりたい出し物はありますか?」


 わたしが皆を見回しながらそう言うと、一人の女子学生が手を挙げる。


「わたくしはカフェが良いと思いますわ!」


 そう言って元気良く挙手したのはレオナだ。彼女はキャッツアイ侯爵家の令嬢で、わたしがいない時は代わりに女子学生のまとめ役をしてくれている。


 最近は寮でアレキサンダーお兄様の作った『人形の魔道具』で遊ぶことが流行っており、レオナは一緒に遊ぶことが多いお友達である。


 レオナの提案を聞いたわたしだったが、カフェというものが良く分からず首を傾げてしまう。


「それはどのようなものなのでしょうか? レオナ」


 わたしが質問すると、レオナが胸を張ってカフェについて教えてくれる。


「カフェというのはお菓子や軽食、お茶を提供してくれるお店のことですわ! お店によって雰囲気が違うので、それぞれの違いを見るのも楽しいんですの!」


 レオナがとても楽しそうに話すので、まだカフェを見たことがないわたしも段々と楽しい気持ちになってきた。


「そんなお店があるんですね……!」


 わたしがまだ見たことのないカフェに心を躍らせていると、レオナはさらに自信満々といった様子で続きを口にする。


「ええ! でもわたくしが提案するのはただのカフェではありません……魔獣カフェですわ!」

「魔獣カフェ……?」


 言葉の響きからするとたくさんの魔獣で溢れかえったカフェが思い浮かぶが、いくら何でもそんな物騒なカフェがあるわけがない。


「えーっと……」


 答えに困ったわたしがスピネルの方を見ると、スピネルも同じように眉を寄せて困った顔をしている。


「あー、レオナ? その魔獣カフェというのは一体何なんだ? 流石に魔獣が歩き回るような出し物を許可するわけにはいかないんだが……」

「危なくなんかありませんわ! 魔獣カフェというのは可愛い魔獣を愛でながらお菓子やお茶を楽しめる癒しの空間ですの! 例えば……むーちゃんみたいな!!」


 そう言うとレオナは勢い良くむーちゃんの方へ首を向ける。


「ボク……?」


 じっとレオナに見つめられたむーちゃんはきょとんとした顔で首を傾げる。


「まあ! なんて可愛らしいんでしょう! その首を傾げる仕草! 雲のようにもふもふとした毛並み! くりっとしたお目目! 全てが可愛らしいですわ!!!」


 レオナは目をらんらんと輝かせ、息も少し荒くなってきた。


「はあ……はあ……」


 彼女は可愛い魔獣が大好きなようで、むーちゃんがわたしの護衛をしていない時にお菓子を食べさせていたり、一緒に遊んでいる姿を見かけたこともある。しかし、時折今のように興奮してしまうのが悪い癖だ。


 それを見て収拾がつかなくなりそうだと判断したスピネルは慌ててレオナとむーちゃんの間に入る。


「レオナの意見はもう分かった! カフェがやりたいことは十分伝わったから今は抑えてくれ!」

「ただのカフェじゃありませんわ! 魔獣カフェですわ! わたくしはむーちゃんをもっと可愛がりたいんですの!」

「あとで触らせてあげますから今は落ち着いてください、レオナ!」


 わたし達が興奮したレオナを落ち着かせていると、騒ぎを聞きつけたローレンツ先生が不思議そうな顔で様子を見に来る。


「どうかしましたか? 何やら騒がしいようですが……」

「いえ、なんでもないです! ご心配おかけしました!」


 わたしとしてもレオナがむーちゃんに興奮したことをわざわざローレンツ先生に説明したくはないので、手を振りながら適当に誤魔化す。


 ローレンツ先生は不思議そうな表情を浮かべながらもそれ以上は気にしないことにしたのか、納得したような顔に変わる。


「そうですか……? 何か聞きたいことがあったら遠慮なく聞いてくださいね!」

「はい、ありがとうございます!」


 ローレンツ先生の言葉を聞いたわたしは、少し考えてからローレンツ先生にも質問してみることにした。


「あの、ローレンツ先生。それなら少し助言をいただきたいです!」

「はい、何でしょうか?」

「いま皆でどんな出し物をするか話し合っているところなのですが、去年の一年生はどのようなことをしていたのでしょうか?」


 あとできょうだいに聞いてみるつもりではあるが、今はこの場で意見を交わすための材料が少しでも欲しい。


 そんなわたしの気持ちが伝わったのか、ローレンツ先生はニコニコと笑顔で質問に答えてくれる。


「去年の一年生はお茶を提供していましたね。基本的にはあまり魔法を使わない出し物にすることが多いですよ」


 去年の一年生と言えばエメラルお兄様達のことだ。確かにエメラルお兄様ならば植物に詳しいのでお茶を提供していてもおかしくない。


 その他にも自分達で作った小物を売ったり、まだ学園に通えない年齢の子供向けに劇をしたり、子供達でも遊べるような出し物を作った学生もいたらしい。


 例年の出し物をいくつかローレンツ先生から教えてもらったわたしは、両手を握りしめてローレンツ先生にお礼を伝える。


「そうですか……ありがとうございます! とても参考になりました!」

「それは良かったです! 他にも分からないことがあったら聞いてくださいね!」


 わたしが礼を告げるとローレンツ先生は他の一年生の様子を見るため、わたし達の前から去っていった。


 それを見送ったわたしは少し落ち着いたらしいレオナとそれを食い止めていたスピネルの方へ向き直る。


「ということらしいです!」

「それならレオナの言っていたカフェも案外悪くないかもな」

「そうですわ! やはりここは魔獣カフェにするしかありませんわね! お店の名前はもふもふ天国にしましょう!!」


 カフェと聞いたレオナがまた興奮しはじめたので、わたしはそれを何とかするためむーちゃんに話しかける。


「むーちゃん。あちらでレオナと遊んできてください」

「いいの!?」

「ええ、レオナが満足したら戻ってきていいですよ!」

「わあい! レオナ遊ぼう!」


 むーちゃんもわたしの傍で浮かんでいるだけでは退屈していたのか、わたしが許可を出すとすぐさまレオナの元へと飛んで行った。


「なんですの!? むーちゃんがわたくしのところへ来ましたわ! ああ、これがもふもふ天国ですのね……」

「もっと撫でてー!!」


 これでとりあえず話し合いの場を元に戻すことができそうだ。恍惚とした表情を浮かべてむーちゃんを撫でているレオナのことは一旦おき、他の皆にも意見を求める。


「他に何かやりたい出し物はありませんか?」

「私の意見でも大丈夫でしょうか?」


 落ち着いた話し方で手を挙げたのはバニラだ。バニラもレオナと同じように最近仲良くなった女子学生で、一緒に『人形の魔道具』で何度も遊んだこともあるわたしのお友達だ。


「もちろんです! バニラは何をやりたいんですか?」

「はい。私はお菓子を作るのが得意なので、自分で作ったお菓子を売ってみたいです」

「それは素敵ですね!」


 わたしも一緒に遊んだ時にバニラの作ったお菓子を食べたのだが、とても美味しかった。あのお菓子を売ることになったら、きっと大魔法祭を見に来てくれた人も喜んでくれるだろう。


 わたしは以前食べたお菓子の味を思い出しながら笑顔でバニラに答える。


「バニラのお菓子は美味しいので、皆もきっと喜んでくれますよ!」

「ありがとうございます、クリスティア殿下!」


 わたしの言葉を受けたバニラも嬉しそうに笑顔を浮かべる。


 皆でお店を出すとなればお菓子の作り方を考える必要はありそうだが、バニラの意見を取り入れるのは悪くなさそうだ。


 先ほどレオナが言っていたカフェの形でお菓子を提供するのも良いかもしれない。


「スピネルはどう思いますか?」

「案としては良いんじゃないか? すぐに決めることはないから他の意見も聞いてみよう」

「それもそうですね! 他にやりたいことがある人はいますか!?」


 わたしが意見を募ると、皆も楽しそうにあれがやりたい、これもいいと意見を出してくれた。話し合いがわいわいと盛り上がる中、魔法を使うよりも運動することが得意そうな男子学生が手を挙げる。


「俺からも意見を言ってもいいか?」

「ええ! 構いませんよ、ウィル!」


 はつらつとした様子のウィルはわたしよりもスピネルと仲が良い男子学生で、たまに二人で訓練しているところを見かけたりもする。


 そんなわけでわたしとはあまり交流がないウィルではあるが、どのような意見を出してくれるのだろうか。とても楽しみである。


「なんでも言ってください!」


 わたしが先を促すとウィルが一度気合を入れてから出し物の提案を始める。


「俺はローレンツ先生の話を聞いて、教室全体を使った出し物も楽しそうだと思ったんだ」

「遊戯を並べたり、小さな劇をやったりということですか?」

「ああ、そんな感じだ! 小さい子にも楽しんでもらえる出し物がいいな!」


 わたしの想像した内容がウィルの想像とあまり離れていなかったようで良かった。ウィルはどうやら、大魔法祭を見に来た子供達が遊べる場所を作りたいといった様子だ。


 しかし、町にあまり出たことがないわたしは劇や遊戯には詳しくない。なので、そう言ったものに詳しそうなスピネルに声をかける。


「スピネルはどう思いますか?」

「準備は大変になるが良いと思うぞ」


 スピネルはそう言って言葉を区切ったあと、ウィルに対して助言を送る。


「遊戯と言っても色々な種類があるからな……まずはどういう出し物にしたいかをしっかり決めていこう」

「そうなんだよ! やりたいことが多くて悩んでるんだよな~」

「まだ時間はあるからもう少し話し合ってからでもいいんじゃないか?」

「それもそうだな! もう少し考えてみるぜ!」


 ウィルの意見の他にも色々な意見が出てきたが、実際に出来る出し物は一つだけだ。皆の意見を聞いていると、何を選んでも楽しそうに思えてくる。


「どうしましょうか、スピネル……」

「今日決めないといけないわけじゃないんだろ? もう少し考えてみよう」


 わたしとスピネルで皆の意見を聞きながら、大魔法祭の出し物をどうするか考えているうちに遠くから鐘の音が聞こえ、ローレンツ先生の良く通る声が教室に響き渡った。


「はーい! 皆、講義の時間は終了です! まだ話し合いたい人はお昼を食べてから寮で話し合ってくださいね!」


 講義の終了を伝えられた学生達は一気に肩の力が抜けたようで、教室全体の空気がゆったりとしたものに変わる。


 思っていたよりも時間の経過が早かったので、わたしは驚いてスピネルの顔を見つめる。


「え!? もうそんな時間ですか!?」

「あっという間だったな……」


 ある程度意見を聞くことはできたが、講義の時間が終了してしまったので話し合いの続きは場所を変えることにしよう。わたしは皆に号令をかける。


「皆も午後の予定があると思うので、昼食をとりながらもう少し話し合いましょう!」

「はい!」


 皆がそれぞれ寮に戻るのを見届けてから寮に戻ろうとわたしも歩き出したが、むーちゃんがついてきていないことに気が付く。


 きょろきょろと辺りを見回すが、むーちゃんの姿が見当たらない。


「あれ? スピネル、むーちゃんを知りませんか?」

「さっきまでレオナと一緒にいただろう? レオナはどこだ?」


 そう言えばレオナの姿も見えない。もしかしたらレオナがむーちゃんを連れて行ってしまったのだろうか。


 慌てたわたしが軽く教室を見回すと、むーちゃんを抱きかかえて机に突っ伏しているレオナの姿を発見した。


 勝手にむーちゃんが連れていかれなかったことに安心しながら、わたしはレオナに声をかける。


「レオナ! もう寮へ戻りますよ! それとむーちゃんを返してください!」

「もふもふですわ~……」

「ダメだ、話が通じそうにない……」


 レオナの様子を見たスピネルは溜息を吐いて額に手を当てる。レオナは先ほど見た時よりも恍惚とした表情を浮かべ、むーちゃんのもこもことした毛皮に顔を埋め始めた。


「どうしましょうか、スピネル……」

「どうするってこんな状態のレオナを置いていくわけにはいかないだろう……」

「そうですね……レオナ! レオナ! 正気に戻ってください!」


 わたしはむーちゃんを抱きしめているレオナの肩を軽く揺する。すると、レオナははっとした顔で正面にいるわたしの顔を見つめてきた。


「あら、クリスティア殿下。どうかされましたの?」

「どうかしたではありません! もうお昼なので寮に戻りますよ!」

「まあ! もうそんな時間だったんですの!? むーちゃんがもふもふ過ぎて時間の流れを感じませんでしたわ……! お見苦しいところをお見せしましたわ」


 凛とした顔でそう言ったレオナがむーちゃんを解放すると、むーちゃんは一目散に空を飛んでこちらに戻ってくる。


「クリス~! 楽しかった!」

「それは良かったですね! むーちゃん!」


 わたしが飛んできたむーちゃんを受け止めて頭を撫でていると、姿勢を正したレオナが立ち上がり、わたし達の前で深々と頭を下げる。


「ご迷惑おかけしましたわ。クリスティア殿下、スピネル様」

「いえ、いいのですよ。レオナ! 頭をあげてください!」


 わたし達が恐縮してしまうほどレオナが丁寧に謝罪してきたので、わたしは慌ててレオナに頭をあげてもらう。しかし、わたしの様子を見たスピネルは難しそうな顔でこちらを見ている。


「クリス……しっかりと言わないとレオナのためにならないだろう」

「でもスピネル、レオナも反省しているようですし……」


 レオナも反省しているようなので、わたしとしては次から気を付けてもらえればそれでいいのだが、スピネルはまだ不安があるようだ。


 体を縮こませてしまったわたしに代わり、スピネルが溜息を吐きながらレオナに注意をする。


「レオナ、次からは人前でむーちゃんを可愛がろうとするのはやめてくれ。可愛がってもいいから俺達の話をちゃんと聞いてくれ。分かったか?」

「はい! 肝に銘じますわ!」


 元気良く返事をしながらもたまに視線がむーちゃんの方へ向いているのを見たスピネルはさらに深く溜息を吐きながら、レオナをじっと見つめる。


「本当に頼むぞ……」

「心配し過ぎですよ、スピネル! さあ寮へ戻りましょう!」


 スピネルの小さな呟きを残して、レオナを連れたわたし達は寮へ向かって歩き出した。

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