大魔法祭に向けて
高等魔法研究会で花火を出し物にすることが決まった翌日。わたしとスピネルは朝食の場でそのことをきょうだいに報告した。
「それじゃあクリス達は高等魔法を大魔法祭までに覚えるの!?」
「はい! わたし達ならきっとできます!」
わたしが胸を張ってそう言うと、心配そうにエメラルお兄様がこちらを見つめてくる。
「でも高等魔法って難しいんでしょ? 僕はまだ習ってないから詳しいことは知らないけど……」
「わたくしも最近講義で応用魔法を習い始めたところですけど、構築式が難しくて全然理解できませんわ」
「俺達も高等魔法は使えないから助言は出来そうにないな!」
「私を含めるな、ヘリオドール。私は応用魔法までなら使えるからな」
皆がわいわいと話し始めたのを見て、仕方なさそうな顔でアレキサンダーお兄様が声をかける。
「皆、少し落ち着くんだ。クリスが困っているだろう?」
アレキサンダーお兄様の言葉を聞いた皆はピタリと口を閉ざす。それを確認したアレキサンダーお兄様は一度頷いて、わたしの方へ顔を向ける。
「確かに高等魔法は難しいが、私はクリスの魔法制御力なら問題なく使えると思っているよ」
「本当ですか!? アレキサンダーお兄様!」
「ああ。実際に魔力は十分だし、むーちゃんが使えているのだからクリスもいずれ使えるようになっただろう。その時期が少し早まっただけだよ」
アレキサンダーお兄様はそう言いながらわたしの頭を優しく撫でる。
「それにスピネルもリシアの真似とは言え、応用魔法を使うことができたのだろう? それならこのまま練習を続けていけば、じきに高等魔法も使えるようになるはずだ」
「本当ですか!? アレキサンダー殿下!」
アレキサンダーお兄様からのお墨付きをもらったスピネルも嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「しかし二人とも、大魔法祭まではあまり時間がない。もし分からないことがあったら遠慮なく私に聞きに来ていいからね」
「ありがとうございます! アレキサンダーお兄様!」
「お気持ち嬉しいです! アレキサンダー殿下!」
わたし達が揃ってアレキサンダーお兄様にお礼を伝えると、アレキサンダーお兄様も満足そうに頷いている。
わたしとスピネルがそんなアレキサンダーお兄様を見て笑い合っていると、話を聞いていた他のきょうだいも話に加わってくる。
「兄上ばっかりクリスに頼られてずるいぞ!」
「そんなこと言われても困るよ。ヘリオドールも自分で高等魔法を勉強すればいいじゃないか」
「うっ……勉強は苦手なんだ……」
「それならヘリオドールができることでクリスを助けてあげればいいだろう」
アレキサンダーお兄様に諭されたヘリオドールお兄様に続いて、セレスタお姉様もアレキサンダーお兄様に声をかける。
「お兄様! わたくしも高等魔法の勉強をしますわ! クリスに負けてはいられませんもの!」
「セレスタも高等魔法を使いたいのかい? でもそれなら私よりもリシアに聞いた方がいいんじゃないかな?」
「リシアはあまり講義には顔を出さないので、声を掛けにくいのですわ。寮にいないことも多いですし……」
セレスタお姉様も会長のことは気にしていたようだ。わたしとは違ってセレスタお姉様は同学年なので、余計会長の行動が目に付くのかもしれない。
それを聞いたアレキサンダーお兄様も難しそうな顔をして腕を組む。
「成績が良いなら講義に出ないのは構わないけど、寮に戻って来ないのは何かあった時に困るね。クリス、リシアにできるだけ寮に戻るように伝えてもらえないかな?」
「分かりました! 後で会長に会ったら伝えておきますね!」
「すまないけどよろしく頼む。流石に他の者の手前、示しがつかないからね」
アレキサンダーお兄様はそう言いながら苦笑を浮かべる。アレキサンダーお兄様も研究が大好きなので、リシアの気持ちも良く分かるのだろう。
結局昨日も会長は花火の魔法を研究すると言って研究室に戻ってしまったので、わたしも何とかしたいと思っていたのだ。
アレキサンダーお兄様とセレスタお姉様にそう言われたことを伝えれば、いくら研究大好きな会長でも寮に戻ってくるだろう。
皆で仲良く会話を交わしているうちに朝食は終わったのだが、わたしとスピネルが高等魔法を覚えることについては特に反対されることもなかった。
「良かったですね、スピネル!」
「ああ。高等魔法は難しいのもあるが、それ以前に危険なことも多いから許可してもらえてよかったよ」
「それだけ皆に信頼されている、ということですね!」
それならばわたし達も皆の信頼に答えなくてはならない。わたしとスピネルはもう一度顔を見合わせて笑うと気合を入れなおす。
「それでは行きましょうか!」
「ああ!」
わたしがスピネルに声をかけると、スピネルも頷いてわたしの後をついてくる。そうして寮を出て講義棟に向かうと、その途中で華やいだ明るい声が背後から聞こえてくる。
「おはようございます、クリスティア殿下!」
「おはようございます、マリン! プレナも!」
「おはようございます、クリスティア殿下」
そこにいたのは同じ一年生で双子の兄妹のプレナとマリンだった。声を掛けてきたのはマリンの方で、楽しそうにニコニコと笑顔を浮かべている。
「クリスティア殿下は大魔法祭で何か出し物はするのでしょうか?」
「はい! 高等魔法研究会で出し物をすることになりました! きっと皆にも喜んでもらえると思うので、マリンとプレナも楽しみにしてくださいね!」
「はい! 楽しみにしています!」
マリンとプレナの二人と合流したわたし達はそのまま一年生の教室へと向かい、テクテクと歩みを進める。
「マリン達は研究会で出し物をするのでしょうか?」
「いえ! 私もプレナもまだ出し物ができるほど研究会のことを知らないので、二人とも準備期間に仕事をすることになっています!」
「来年からは研究会の出し物に参加できそうなので、今年はしっかりと大魔法祭を楽しもうと思っています」
二人は笑ってそう言っているがその表情は少し寂しそうにも見える。この二人に限らず、もしかしたら他の学生も同じ状況なのかもしれない。
「そうなんですね……他の皆も似たような感じなのでしょうか?」
「うーん……大体一年生は研究会では準備期間に仕事をして、当日は暇な子が多いみたいですよ!」
考えるように人差し指を顎に当てながらマリンはそう言った。
「それなら当日は皆で大魔法祭を回りませんか? そうすればきっと楽しいと思うのです!」
「それは素敵ですね! もしお時間があれば私達にもお声がけください!」
「もちろんです! 皆で一緒に楽しみましょう!」
そんな風に話しながら歩いていると、わたし達はいつの間にか一年生の教室へと到着していた。教室に入るとマリンとプレナはわたし達に挨拶をして自分の席へと向かい始める。
「それではクリスティア殿下、また後ほど!」
「ええ、また後ほど!」
教室に入ったわたしは二人と別れた後で、近くの席に座っていたドロッセルに元気良く朝の挨拶をかける。
「おはようございます、ドロッセル!」
「ごきげんよう、クリス!」
ドロッセルはファルベブルクの王女に相応しい笑顔でニコリと微笑む。そんなドロッセルにもわたしは大魔法祭の予定を聞いてみることにした。
「ドロッセルは大魔法祭の予定はあるのですか?」
「ええ! わたくしは音楽研究会の出し物で演奏会と歌を歌いますの!」
「歌……ですか?」
確か以前に演奏会をするようなことは聞いていたが、歌うことは初耳だ。
わたしがきょとんとしているのが面白かったのか、ドロッセルは口元を隠してクスクスと笑う。
「ええ。演奏以外の出し物も何かしてみようということになりましたの。きっとクリスも楽しんでもらえると思いますので、是非お越しくださいませ!」
「分かりました! 楽しみにしていますね!」
ドロッセルは芸術の国ファルベブルクの王女様だ。きっと演奏も歌も素晴らしい出来栄えに違いない。
わたしが大魔法祭でドロッセルの演奏会を聞きに行くことを頭の片隅にメモしていると、教室の扉を開けてローレンツ先生が入ってきた。
「皆、おはようございます!」
ローレンツ先生の挨拶を受けて学生達は皆が自分の席へと戻っていく。わたしもドロッセルに別れを告げてスピネルと一緒に自分の席へと戻った。
皆が席についたことを確認したローレンツ先生は、一度大きく頷いてから口を開く。
「今日は講義を始める前に皆にお知らせがあります!」
「お知らせ? 何でしょうか?」
「さあ……とにかく聞いてみよう」
スピネルとひそひそ話しているとローレンツ先生が再び口を開く。
「そろそろ大魔法祭が近づいてきて、どの研究会も準備を始める頃だと思います! しかし、学園に通い始めたばかりの皆は出し物を手伝うことができない人も多いでしょう」
ローレンツ先生の言葉に思い当たる部分が多い学生は多かったのか、それまで話半分に聞いていた学生の目の色が変わる。
「そこで! 一年生の皆には国ごとに分かれて、出し物をしてもらおうと思います!」
「本当ですか!?」
「楽しみですわ!」
ローレンツ先生の言葉を聞いて楽しそうにしている者は多いが、わたしやスピネル、ドロッセルのように研究会での出し物が決まっている者はどうすれば良いのだろうか。
そう思ったわたしは手を挙げてローレンツ先生に質問してみることにした。
「ローレンツ先生! わたしは研究会で出し物をするのですが、その場合はどうすれば良いでしょうか!?」
「いい質問ですね、クリスティア殿下!」
わたしの質問を受けたローレンツ先生はニコニコと笑いながら、その続きを説明する。
「クリスティア殿下の言う通り、出し物が決まっている学生もいるでしょう! なので、しばらくの間は講義の時間を出し物の準備時間に充てることになっています!」
「講義の時間に一年生の出し物の準備をするのですか?」
講義の時間にそんなことをしても良いのだろうかと思い、恐る恐るローレンツ先生に質問すると頷きながら答えてくれた。
「はい、毎年一年生は講義の時間に出し物の準備をしているんですよ!」
「そうだったんですね! ありがとうございます!」
一年生が講義の時間に出し物の準備をすることは毎年恒例のことらしく、わたしが心配することもなかったようでほっと息を吐く。
他の皆も特に質問はなかったようでローレンツ先生が話を進める。
「それでは早速今日から大魔法祭の準備を進めていきます! 出し物を決めるのは一週間後、それまでは皆で仲良く話し合いをしていきましょう!」
「はい、ローレンツ先生!」
ローレンツ先生の一声を聞いた学生達は、それぞれの国の一年生代表の元へと集まり始める。もちろんエデルシュタインの一年生代表であるわたしの元にも、エデルシュタインの一年生が集まってくる。
「皆、集まりましたね!」
「はい! クリスティア殿下!」
「ここだと少し狭いので教室の後ろへ移動しましょう!」
全員が集合したことを確認したわたしは皆を連れて教室の後ろへと移動する。
そのままわたしは皆の顔が見える場所に立って、早速出し物について相談してみることにした。




