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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
金緑の章 アレキサンダーは魔道具を作りたい
89/121

番外編 クリスはクリスマスを過ごしたい

クリスマス記念。

本編とはつながっていないので、読んでも読まなくても大丈夫です。

 その日、わたしは早起きをしてむーちゃんと一緒に部屋の飾り付けをしていた。


「ふんふんふふーん」

「むーむーむむー」


 もうそろそろ今年も終わる十二月の休日。わたしが鼻歌を歌いながら機嫌良く部屋を彩っていると、目覚めたばかりのセレスタお姉様があくび混じりに話しかけてくる。


「ふわ……ごきげんよう、クリス……」

「おはようございます、お姉様!」


 わたしが元気良く返事をすると、セレスタお姉様は眠そうに目をこすり部屋をきょろきょろと見回す。


「朝早くから一体何をしていますの……?」

「良く聞いてくれました! 今日はクリスマスというお祭りがあるそうなので、飾り付けをしていたところです!」

「聞いたことがないお祭りですわね……」


 セレスタお姉様は眠そうにしながらも首を傾げている。しっかりと話を聞いてくれていることを嬉しく思いながらわたしは本棚に駆け寄る。


「これです! この本に書かれていたのです!」

「どれですの……?」


 わたしはセレスタお姉様に向けて手に取った本を広げて見せると、そこにはクリスマスというお祭りの絵が描かれていた。


 明るく彩られた町で楽しそうに過ごす男女と白いひげを生やして赤い服を着た謎のおじいさんが何かをしているようでとても楽しそうだ。


「見てください! とても楽しそうだと思いませんか!?」


 その絵を見たセレスタお姉様はさらに首を傾げて、怪訝そうな表情を浮かべる。


「クリス、この本は一体どこにありましたの……?」

「スピネルが町に行った時にお土産で買ってきてくれました! 何やら珍しい本で世界に一冊しかないそうです!」

「またスピネル様が変な物を買ってきましたのね……」


 セレスタお姉様はわたしの宝物が置かれている棚を横目で見ると小さく溜息を吐く。


 棚にはむーちゃんに似ている形の石やどうやって開けるのか分からない謎の箱、以前わたしが作成した『灯りの魔道具』など様々な物が並べて置かれている。


「失礼ですよ、お姉様! 変な物ではありません!」


 わたしが頬を膨らませて抗議すると、セレスタお姉様は仕方なさそうに微笑みを浮かべてわたしの頭を軽く撫でてくれる。


「それで? そのお祭りではどのようなことをするんですの?」

「それが良く分からないんですよね……飾り付けをするのは間違ってないと思うのですが、この赤いおじいさんが何をしているのかが良く分からないのです!」


 スピネルが持って来てくれた本には様々なお祭りの様子が描かれていたのだが、なんのためのお祭りなのかは書かれていなかったのだ。


 わたしがびしりと赤い服のおじいさんを指差すと、セレスタお姉様も不思議そうな表情を浮かべる。


「確かに……このご老人は一体何者ですの?」

「それが分からないから困っているのです……」


 むーちゃんと一緒に起きてから部屋の飾りつけをしていたが、おじいさんの正体が分からないことにはクリスマスを十分に楽しむことができない。


「わたしの予想では、このおじいさんはきっと町の人から何かを集めているのだと思います! ほら、ここに大きな袋を背負っていますよね!」

「ええ、随分と大きな袋ですこと……こんなに大きかったらさぞ重いでしょうね」


 おじいさんが背負っている袋はわたしくらいの大きさの子供ならすっぽりと入ってしまいそうだ。そこまで考えたわたしはとんでもない事実に気が付く。


「まさか……クリスマスというお祭りは子供を捕まえるおじいさんから逃げ回るお祭りなのではないでしょうか!?」


 そうなれば楽しいと思っていたお祭りが一気に怖いお祭りになってしまう。もしかしたらわたしはいけないことに気付いてしまったのかもしれない。


 そう思ったわたしが震えていると、そんなわたしを見たセレスタお姉様がクスクスと笑い始める。


「そんなわけありませんわ、クリス。ほら、こちらをご覧なさい」


 セレスタお姉様が指し示した先には二人の男女が手をつないで楽しそうに笑っている絵が描かれている。


「こちらの男女は楽しそうに過ごしていますもの。もしクリスの言うようなお祭りだったとしたら、こんな風に笑ったりできませんわ」

「それもそうですね……怖いお祭りでなくて良かったです!」


 どうやらわたしの推理は間違っていたようだ。推理が外れて残念なような、怖いお祭りでなくてほっとしたような気持ちで、わたしはもう一度クリスマスの絵をしっかりと確認していく。


「でも、それならこのおじいさんは一体何をしているのでしょうか?」

「さあ……もしかしたら魔石を配り歩いているのかもしれませんわね」

「なるほど! そちらが正解かもしれませんね!」


 確かにセレスタお姉様の言う通り、この大きな袋なら皆に配り歩けるくらいの魔石が入っているかもしれない。


 以前洞窟に行ったスピネル達も大きな袋を抱えていたので、それならこの大きな袋の理由も納得できる。


「そうと分かればアレキサンダーお兄様にお願いして、魔石と大きな袋を用意してもらいましょう!」

「とりあえず外に出る準備をしませんこと? 今日は寒いですわよ」

「それもそうですね! クリスマスのことはあとで考えましょう!」


 できれば後できょうだい揃ってクリスマスをしたいものだと思いながら服を着替えると、セレスタお姉様と一緒に食堂へと向かうことにした。


「それでは朝食に参りますわよ、クリス」

「はい! あ、この本も持っていきましょう!」


 わたしが本を手に取ると、セレスタお姉様は眉を潜めて嫌そうな声を上げる。


「ええ……? それも持っていくんですの?」

「皆にも見せてあげるのです!」


 セレスタお姉様は嫌そうな顔をしているが、これは譲れない。赤い服を着たおじいさんの絵を皆にも見せて、このおじいさんの正体を必ず突き止めるのだ。


 そんな決意を胸に秘めたわたしが本を抱えて食堂に到着すると、きょうだいは既に全員テーブルに集合していた。


「おはようございます!」

「おはよう、クリス。今日も元気そうだね」


 元気良く挨拶をすると、アレキサンダーお兄様が優しく頭を撫でてくれた。


「その本は一体なんだ?」


 アレキサンダーお兄様に頭を撫でてもらっていると、続いてカーネリアお姉様も声をかけてくる。わたしの持っている本に興味があるのか、カーネリアお姉様は覗き込むようにじっと本を見つめている。


 わたしはカーネリアお姉様に見せつけるように本を前に出すと、元気良く答える。


「これはスピネルがお土産にくれた本で、少し気になることがあったのです!」


 わたしが食堂に本を持ってきた経緯を皆に説明すると、面白そうな表情を浮かべてエメラルお兄様が目を輝かせる。


「へえ、そんなお祭りがあるんだね」

「はい! 皆の意見も聞いてみたいと思って、持ってきました!」


 テーブルの上に本を置くと、皆も興味深そうに本を見つめる。


「とりあえず朝食を受け取りに行きませんこと? クリス」

「そうですね、セレスタお姉様! 行きましょう!」


 セレスタお姉様と一緒に朝食を受け取りに行こうと席を立つと、後ろからエメラルお兄様の声が聞こえた。


「クリス、読んでみてもいいかな?」

「もちろんです! 詳しい話は食後にしましょう!」


 食事を受け取って席に戻ると、本を囲んで既に皆で盛り上がっているようだった。


「どうですか? 何か分かりましたか?」


 着席したわたしが声をかけると、食事を終えたアレキサンダーお兄様がクリスマスの絵を見つめながら口を開く。


「そうだな……まず、このお祭りは親しい者と一緒に過ごすお祭りなのだろうね。年の終わりにある神を送る祭りに似たものかもしれない」

「なるほど!」


 確かにもう少しすると今年も終わりとなる。その際には神を送る祭りが行われ、家族全員が揃って今年一年の感謝を神に捧げるのだ。


 アレキサンダーお兄様はクリスマスをそのように解釈したようで、新しい意見を聞くことができたわたしも嬉しくなってきた。


「他にはどんなお祭りだと思いますか!?」

「クリス、食事が冷めてしまいますわよ。わたくし達が食事をしている間、お兄様達にクリスマスについて考えてもらいましょう」

「それもそうですね、セレスタお姉様!」


 セレスタお姉様に言われてわたし達が食事を始めると、その横できょうだいがクリスマスについての予想を話し合う。


「この大きな木はどうして光っているんだ?」

「『灯りの魔道具』をたくさん付けているのかもしれないな。しかし、どんな意味があるのだろうか……」

「見て、兄さん。こっちには大きなそりと魔獣が描かれてるよ」

「本当だね。もしかしたらこのそりに乗って、老人は移動しているのかもしれないね」


 皆が色々な意見を交わしているのを聞いていると、わたしも話に参加したくて体がうずうずしてくる。そのためにも早く食事を終わらせなければ。


「クリス、そんなに慌てなくても皆は待ってくれますわ」


 セレスタお姉様の苦笑いを受けながら食事を終えると、わたしも皆の話し合いに参加する。


「わたしも混ぜてください!」

「もう食べ終わったのかい? ゆっくりでも良かったのに」

「皆が楽しそうに話しているのを聞いて、わたしも早く加わりたかったのです!」


 わたしが鼻息荒くそう答えると、皆はクスクスと笑いをこぼす。


「それで? 何か分かりましたか?」

「そうだなあ……俺はこの大きな木が重要なんじゃないかと思ったな」

「ああ、『灯りの魔道具』も大量に付けられているからな。この木が大地の魔力を吸って周りに放出しているようにも見える」


 カーネリアお姉様とヘリオドールお兄様は町の中央に生えている大きな木に注目したようだ。確かに色々な飾りや『灯りの魔道具』らしきものが描かれているので、二人の意見には納得できる。


「それではクリスマスとは大地の魔力に感謝するお祭りということなのでしょうか?」

「かもしれないな」


 二人の意見を聞いたわたしはそのままエメラルお兄様に顔を向ける。


「エメラルお兄様はどう思いましたか?」

「僕はそりと魔獣が気になったかな。今兄さんと話してたところだよ」

「きっとこの魔獣がそりを引いて移動していると思うんだ。だからこの魔獣は老人の使い魔ではないのかな?」


 アレキサンダーお兄様がとんとんと指した先には、おじいさんと大きな袋を載せてもまだ余裕がありそうな大きなそりとそれを引いているらしき魔獣が描かれている。魔獣は大きくて強そうな角と赤い鼻が特徴的で確かにこれならそりを引くのも楽にできそうだ。


「それならこのおじいさんが魔獣を使って、移動しながら魔石を配っているのでしょうか?」

「かもしれないね」


 アレキサンダーお兄様と協力しておじいさんの正体を導き出したエメラルお兄様は、嬉しそうにそう答えた。


 皆の話を聞いていると、クリスマスというものがどういうお祭りなのかが段々と分かって来た気がする。


「クリスマスについて皆の意見をまとめると……大地の魔力に感謝を捧げ、家族で楽しく過ごし、このおじいさんがそりで移動しながら魔石を配るお祭り、ということでしょうか?」

「そうなりますわね……でも、やはりおじいさんの行動が良く分かりませんわ。何故魔石を配り歩く必要があるのでしょうか?」


 皆の意見をまとめてみてもおじいさんの存在はやはり謎のままだ。


 おじいさんの正体について皆で頭を抱えていると、寝坊したのかスピネルが遅れて食堂にやってきた。


「おはよう、クリス。少し遅れた」

「あ、おはようございます! スピネル!」


 スピネルが席に着くと、わたしはスピネルの意見も聞いてみることにした。


「スピネルはクリスマスについてどう思いますか!?」

「えーっと……話が見えないんだが、どういうことだ?」


 スピネルが首を傾げながら朝食をもぐもぐと食べ始めたので、わたしは今朝の話し合いの様子をスピネルに伝える。


「スピネルが前にお土産でくれた本に載っていたお祭りの話です! 皆でこのお祭りはどういうものなのかを話し合っていたのです!」

「……」


 それを聞いたスピネルはぴたりと朝食を食べる手を止め、わたしの手元にある本に目を向ける。


「あー……クリス? その本は最後までしっかり読んだか?」

「いえ、まだ読んでいませんけど……もしかして最後のページに細かい解説が載っていたのですか!?」


 わたしが慌てて本をめくって最後のページに辿り着くと、そこにはこう書かれていた。


「この本に描かれているお祭りは全て架空のものです。実在するお祭りとは一切関係ありません……えええ!?」


 わたしはもう一度書かれている文章に目を通すが、何度見ても書かれていることが変わるわけではない。


「それではクリスマスは本当にあるお祭りではないんですか……?」

「そういうことだ。クリスはこういう本が好きだろうと思って買って来たんだが、余計な期待を持たせたみたいだな……すまん」


 スピネルはこちらを向いて頭を下げると謝罪の言葉を述べた。


「そんな……」


 わたしはがっくりと肩を落としクリスマスの絵を見つめる。


 様々な明かりに包まれて楽しそうに輝く町と人。その全てが実在しないものだと思うと、なんだか少し寂しい気持ちになってきた。


 しょんぼりと肩を落としていると、それを見たアレキサンダーお兄様が優しく声をかけてくれる。


「そんなに落ち込むことはないさ、クリス」

「アレキサンダーお兄様?」

「本当に存在していないお祭りなら、私達が本当にしてしまえばいいんだよ」


 アレキサンダーお兄様はそう言うとクリスマスの絵を指差す。


「さっきまでの話で大体どんなお祭りなのかは分かっただろう? あとはそれをどうやって実現するかだよ」


 アレキサンダーお兄様が皆を見回すと、他のきょうだいも嬉しそうに頷く。


「それじゃあ……」

「ああ、皆で私達のクリスマスをやろうじゃないか!」


 ◇


 それからわたし達は食堂の飾り付けを学生も含めて皆で楽しく行い、美味しい料理やケーキを食べて過ごしている。


 本当にクリスマスがあるのだとしたらきっとこんな風に楽しいお祭りだったのだろう。


「どうかな? 楽しんでくれているかい」

「じゃ~ん! 見て見てクリス! かっこいいでしょ!」


 そんなことを考えていると、わたしの目の前に赤い服を着た人物と大きな角と赤い鼻を付けた小さくてふわふわな魔獣がやってくる。


「アレキサンダーお兄様! むーちゃん!」


 赤い服を着た謎のおじいさんの正体はアレキサンダーお兄様だった。その横にいる小さな魔獣はもちろんむーちゃんだ。


 二人(一人と一匹)とも食堂を回って学生達に魔石を配る役目を楽しんでいるようだ。


 アレキサンダーお兄様は背負った大きな袋を開けると、わたしの手の上にそっと小さな魔石を置いてくれる。


「クリス、私からの贈り物だよ。受け取ってくれるかな」

「ありがとうございます、アレキサンダーお兄様!」


 わたしが笑顔でお礼を言うと、アレキサンダーお兄様も嬉しそうだ。食堂を見回すと皆も笑顔で楽しそうに過ごしている。


 本当に存在しないお祭りでもこんなに楽しいのなら来年もまたやりたいな。そう思いながら、わたしは手のひらの上にある小さな魔石をぎゅっと握りしめた。

クリスマスはありませんでしたが、クリスの心には楽しい気持ちが残りました。

来年もよろしくお願いします。

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