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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
金緑の章 アレキサンダーは魔道具を作りたい
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6日目3 クリスは笑顔で過ごしたい

クリス視点に戻ります。

 この一週間はセレスタお姉様がずっと一緒に遊んでくれたので、少しも寂しくなかった。他のきょうだいもわたしに優しくしてくれたので、とても楽しかった。


 スピネルが洞窟に向かってしまったのは少し寂しかったけれど、無事に帰って来てくれて安心した。出かける前よりも一回り大きく成長したスピネルの姿を見て、わたしも頑張ろうと思えた。


 アレキサンダーお兄様もわたしのために魔道具を頑張って作ってくれた。実験の時は自らがむーちゃんの魔法を受けて大変だったはずなのに、いつも笑顔でわたしの頭を撫でてくれた。


『人形の魔道具』を使って他の一年生とも交流を持てた。一緒に遊ぶことで少しずつ仲良くなっていけたらいいなと思っている。


 一生懸命作った魔道具をヘリオドールお兄様に笑われたのは少し悲しかったけれど、今はもう気にしていない。部屋に飾ってある『灯りの魔道具』はわたしの新しい宝物だ。


 色々なことがあった連休だったが、わたしにとってはとても楽しい一週間だった。それも今日で終わり、明日からはまた普通の日常に戻っていく。寂しい気持ちもあるが、これから先も皆で楽しく過ごしていきたい。


 棚に飾られたあまり可愛くない『灯りの魔道具』を見ながら連休中のことを思い出していると、セレスタお姉様が部屋の入り口で振り向く。


「クリス。そろそろ行きますわよ」

「待ってください、お姉様! 今準備しますから!」


 セレスタお姉様に慌てて返事をすると、バスケットの中にクッキーの袋を詰め込んで、セレスタお姉様の元へ駆け寄る。


「もう大丈夫です! 行きましょう、お姉様!」


 部屋を出たわたし達はお茶会の会場である水の庭へと向かう。今日のお茶会はアレキサンダーお兄様の提案で、きょうだい全員が揃ったお茶会なのだ。


 この一週間で成長したところを見せるため、セレスタお姉様と一緒にクッキーも作った。先ほどアレキサンダーお兄様に渡したらとても喜んでくれたので、皆もきっと喜んでくれるだろう。


 階段を降りてホールへ到着するとエメラルお兄様がこちらに手を振るのが見えた。どうやらわたし達が来るのを待ってくれていたようだ。


「セレスタ姉さん、クリス。待ってたよ」

「お待たせしました、エメラルお兄様!」

「エメラルは何を用意しましたの?」

「それは会場についてからのお楽しみだよ。それじゃあ行こうか」

「はい!」


 エメラルお兄様と合流したわたし達は寮の外へと足を踏み出す。今日も空が青い、いい天気だ。わたしが空を見上げて大きく深呼吸をしていると、それを見たセレスタお姉様も微笑みを浮かべる。


「さあ、行きますわよ。皆が待ちくたびれてしまいますわ」


 三人で庭園に続く道を歩いて行くと、お茶会の会場である水の庭に到着した。ここはエデルシュタインの寮に近い庭園で、わたしも何回かお茶会の時に利用したことがある。


「お待ちしておりました、セレスタ殿下、エメラル殿下、クリスティア殿下」


 会場の入り口ではスピネルが笑顔でわたし達を出迎えてくれる。実を言うと会場の準備はわたしとスピネルとセレスタお姉様の三人で行ったので、会場の様子は既に知っている。


 しかし、お茶会は会場に入るところから始まるので、経験の少ないわたしのためにスピネルを案内役に残して、わたし達は一度寮へ戻っていたのだ。


「ええ、スピネル様。今日はよろしくお願いしますわね」

「はい。それではこちらへどうぞ」


 スピネルに案内されてお茶会の会場へ入ると、既に他の皆は集合していたようだ。会場に到着したわたし達を見てアレキサンダーお兄様がニコリと微笑む。


「本日はお招きいただきありがとうございます!」

「今日は来てくれてありがとう。三人に会えるのを楽しみにしていたよ」


 お茶会の決まり文句を口にするアレキサンダーお兄様に礼をしてわたし達三人も席に座る。これもわたしの練習を兼ねており、アレキサンダーお兄様が招待してくれたという形をとっているのだ。


 わたし達三人が席に座ったのを見届けると、案内役を務めていたスピネルも席へと座る。これでお茶会の練習はひとまず終了だ。


 わたしはホッと一息吐いて持ってきたお菓子を取り出す。


「アレキサンダーお兄様、こちらを」

「ありがとう、クリス」


 本来であれば給仕を誰かにお願いするのだが、今日はここにいる七人全員がお茶会の参加者である。気軽な身内だけのお茶会なので準備は皆で行っていくことにした。


 カーネリアお姉様が既にテーブルに置かれているお皿の上に、わたしが持ってきたクッキーを丁寧に並べていく。それと並行してエメラルお兄様が魔法でお湯を沸かしながら、お茶を用意してくれた。


 その間アレキサンダーお兄様は『空間収納』から何やら手のひらほどの大きさの包みを取り出してテーブルの上に優しく置いた。


 きっとあれはわたしのためにお兄様が用意してくれた魔道具だろう。どんなものを用意してくれたのだろうかと心が躍るがここは我慢だ。


「クリス? どうした、急に笑顔を浮かべて」

「え!?」


 どうやら我慢できていなかったようで、ヘリオドールお兄様に指摘されてしまった。それを見たアレキサンダーお兄様もニコニコと笑っているので、お兄様にもバレていたのかも知れない。


 何だか恥ずかしくなったわたしが俯いていると、お菓子とお茶の準備ができたようだ。それを確認したアレキサンダーお兄様は皆に向けて口を開く。


「皆、今日は集まってくれてありがとう。この連休中、皆には色々と力を尽くしてもらった。皆の頑張りにはとても感謝している。ありがとう」


 アレキサンダーお兄様が皆への感謝を伝えて一度皆の顔を見回す。


「そのおかげで約束通り、私もクリスの身を守る魔道具を作ることができた」


 そう言ってアレキサンダーお兄様は先ほどテーブルの上に置いた包みを優しく開いていく。すると、わたしがセレスタお姉様から貰った指輪によく似た意匠の腕輪が姿を見せる。


「わあ……!」

「さあ、クリス。これを嵌めてみてくれ」

「ありがとうございます、アレキサンダーお兄様!」


 アレキサンダーお兄様に言われた通り今装着していた二つの腕輪を外すと、早速もらった腕輪を腕に通す。腕輪は魔銀で作られているとのことで、指輪を着けた時と同じように魔力を流すとピタリと腕の大きさに縮まる。


 腕輪には宝飾として水色の宝石が嵌められており、今日の空のような色を映し出している。わたしの指に着けられている指輪も似た色で輝いていて、まるで元々二つで一つだったようにも思えてくる。


 しばらくの間、指輪と似た意匠が施された腕輪を見つめていると、アレキサンダーお兄様が声をかけてくる。


「どうかな、クリス。気にいってもらえたかい?」

「とても綺麗です……こんなに綺麗な物を貰えて、嬉しいです……」


 連休中の皆の頑張りが詰まったような腕輪を嬉しい気持ちで眺めていると、腕輪の上に一滴の雫が落ちる。


「え?」


 先ほどまでいい天気だったのに雨でも降って来たのかと思い慌てて腕輪の雫を拭うが、拭いても拭いてもどんどん雫の数は増えていく。そんなわたしの姿を見たセレスタお姉様が慌ててハンカチを取り出す。


「クリス! 涙を拭いてくださいませ!」

「セレスタお姉様?」


 どうやら腕輪に落ちていた雫は雨ではなく、わたしの涙だったようだ。わたしはセレスタお姉様からハンカチを受け取ると慌てて目の辺りを拭う。


「ごめんなさい……わたし、とても嬉しくて……」

「それは十分伝わりましたわ。ほら、お茶を飲みなさい」

「はい……」


 セレスタお姉様に貰ったカップを受け取ると、程良い温かさのお茶で口を潤す。そんなわたしに向けてエメラルお兄様の優しい声が響く。


「今日のお茶は僕が用意したんだよ、美味しい?」

「はい、とても美味しいです……」


 そんなエメラルお兄様の優しさも心に響く。皆の優しさが腕輪からも伝わってくるようで、どんどんと涙があふれ出していく。わたしはもう一度涙を拭うと笑顔で皆を見回す。


「ありがとうございます! この腕輪、一生大事にしますね!」


 その言葉を聞いた皆もとても楽しそうに笑う。こんな毎日がずっと続けばいいのに。わたしはその言葉を心のうちに留めて口にはしないことにした。


「さて、クリスも落ち着いて来たところでその腕輪の説明をしてしまおうか」

「はい、アレキサンダーお兄様! よろしくお願いします!」


 わたしが感極まってしまったこともあり、お茶会は一時的に中断していた。今はお茶を飲みながらこの腕輪の説明をアレキサンダーお兄様から聞くところだ。


「その腕輪は『魔封じの腕輪』。使い方はそこにある二つの腕輪と同じだ。二つの腕輪の機能を合体させたものだと思ってくれていい」

「凄いですね! 流石、アレキサンダーお兄様です!」


 この二つの腕輪にしてもアレキサンダーお兄様以外には作り出せないほど高度な物だったはずだ。それを合体して一つの腕輪にしてしまうとは、流石と言うほかない。


 わたしはそんな風に感心していたが、そこでアレキサンダーお兄様は悲しそうな顔をする。


「しかし、その腕輪には問題もあったんだ」

「問題ですか?」

「ああ、昨日クリスが暴走しそうになっただろう? その時私はクリスを止めるために魔法を放ったのだが、その魔法が防がれてしまったのだよ」


 本来であればそれは喜ばしいことなのだが、逆を返せば魔力の高いわたしが悪いことをしようとした時、誰もそれを止めることができなくなってしまうのだ。


「もちろんクリスがそんなことをするとは思っていない。しかし、昨日のように万が一ということもあるだろう」


 そのためにこの腕輪にはわたしの魔力を制御するための安全装置が取り付けてある、とアレキサンダーお兄様は言った。


『魔封じの腕輪』。それはわたしを外敵の魔法から守る鎧であり、名前の通りわたしの魔法を封じる枷でもあると。


「その話を聞いてクリスはまだその腕輪を着けていたいかい? 嫌なら外してくれても構わないんだが……」


 それを聞いてわたしはもう一度腕輪を見つめる。皆がわたしのために力を合わせて作ってくれた腕輪。


 しかし、それは同時に枷でもあるとアレキサンダーお兄様は言う。嫌なら外しても構わないと。


「……」


 わたしの答えは話を聞いた時から決まっていた。腕輪を見つめるのをやめて、顔を上げたわたしはもう一度皆を見回す。


 アレキサンダーお兄様、カーネリアお姉様、ヘリオドールお兄様、セレスタお姉様、エメラルお兄様、そしてスピネル。


 皆の顔を見たわたしは覚悟を決めて『魔封じの腕輪』を起動させる。それにより魔力が腕輪に吸い取られて、一瞬頭がふらつくがすぐ元に戻った。


 わたしはそのまま何事も無かったように笑顔を浮かべると、腕輪を抱きしめるようにして皆に宣言する。


「皆の想いが詰まったこの腕輪、絶対に外すことはありません!」


 それを聞いた皆はホッとした表情を浮かべる。アレキサンダーお兄様も強張った表情を緩めて、優しい緑色の瞳でこちらをじっと見つめてくる。


「ありがとう、クリス」

「わたしこそお礼を言わなくてはなりません。皆、ありがとうございます!」


 わたしがそう口にすると皆も笑顔を浮かべる。皆の想いが詰まったこの腕輪を枷だなんて思うわけがない。わたしが魔法の使い方を間違えなければ良いだけの話だ。


「それじゃあ、お茶会を再開しようか!」


 アレキサンダーお兄様の言葉を皮切りに皆は思い思いに話し始める。


「クリス! さっき町でお前の好きなシュネーバルを買ってきたんだ! 一緒に食べないか?」

「ありがとうございます、ヘリオドールお兄様! いただきましょう!」

「ボクにも一口ちょうだい!」

「はいはい。むーちゃんの分もありますからね」


 ヘリオドールお兄様に差し出されたシュネーバルをむーちゃんと一緒に齧るとスピネルと初めて出会った時のことを思い出す。わたしにとって思い出の味だ。


「エメラル、今日のお茶は何ですの?」

「さっき植物研究会で貰って来た紅茶だよ。美味しいでしょ?」

「ええ、とても良い香りで落ち着きますわ……」


 セレスタお姉様はエメラルお兄様が用意したお茶をとても美味しそうに飲んでいる。セレスタお姉様の頬が緩んでおり、本当に美味しいと思っていることがよく分かる。


「スピネル、今度はいつ洞窟に行こうか?」

「そうですね……クリスの護衛がない時ならいつでも大丈夫です。私もクリスが腕輪を着けなくて良いようにもっと強くなりたいですから」

「その意気だ、スピネル。私とお前の戦い方は良く似ているからな。しっかりと学べ」

「はい! カーネリア殿下!」


 スピネルはカーネリアお姉様と次の遠征の相談をしている。できればスピネルには傍にいて欲しいと思うのはわたしの我儘だろうか。


 そんなわたし達の姿を見てアレキサンダーお兄様も楽しそうに笑っている。


「アレキサンダーお兄様も一緒にお菓子を食べましょう! わたしの作ったクッキーもありますよ!」

「ああ、そうだね。いただくよ、クリス」


 こんな風に楽しい時間を過ごせるのも神様が授けてくれた魔法の力だ。お母様がいつか言っていた優しい魔法の使い方を思い出してわたしは一人笑う。


「どうした、クリス。随分楽しそうじゃないか」

「はい! わたし、今が一番幸せです!」


 これから先どんな辛いことがあっても皆と一緒なら乗り越えていける。根拠はないが、目の前に広がる光景を見ていると不思議とそう思えた。


「もっとたくさんの人を笑顔に出来るように、これからも頑張りますね!」

今回で金緑の章は完結となります。

本作品を読んだ皆様が少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


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