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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
金緑の章 アレキサンダーは魔道具を作りたい
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5日目1 愛の魔法

 昨夜は私から離れようとしないメディを無理やり部屋に押し込んでその後はすぐに就寝した。しかし、それでもまだ眠い。彼女に自信を持ってもらうことは出来たので目的は達成したのだが、これから先のことを考えると少し気が重くなる。


 私は心の中で溜息を吐きながら食堂へと向かって動き出した。


「おはよう、皆」

「ごきげんよう、お兄様」


 朝食のため食堂に到着すると既に三人は食事の準備を整えていた。どうやら私のことを待ってくれていたようだ。私があくびを噛み殺しながら席に着くと、セレスタは目を吊り上げて怒り始める。


「お兄様! あれほど言いましたのに、また夜更かしをしていたんですの!?」

「いやあ、済まない。昨日は色々とやることがあったからね」


 セレスタを宥めながら朝食を食べ終えて、食後の飲み物を口にする。冷たい果実水が喉を潤していくのを感じていると、食堂の入口でざわめきが起こった。


「何かあったのかな?」

「一応様子を見に行った方が良いでしょうか?」


 クリスとエメラルがお互いの顔を見合わせて席を立とうとすると、ざわめきの原因である一人の女学生がこちらに向かって歩いて来る。


「おはようございます、アレキサンダー殿下」

「……おはよう、メディ」


 私の前に再び現れた彼女は誰もが振り返るような美しさを湛えていた。元々彼女は可愛かったのだが、前髪で顔を隠していたり引っ込み思案な性格のせいで、今まではそれが目立たなかったのだ。


 メディの自信に溢れた姿を見て、以前の彼女を知っているエメラルは半信半疑と言った様子で彼女に問いかける。


「もしかして……メディ?」

「はい、エメラル殿下。これからもよろしくお願いしますね」


 そう言ってメディは昨日までの彼女とはまるで違う明るい笑顔を周りに振りまく。そんな彼女の様子を横目に見ながら、私は乾いた喉を潤すように果実水を口に含む。


「よろしく……随分と印象が変わったみたいだけど……」

「はい。アレキサンダー殿下のおかげで私は生まれ変わることが出来たのです。昨晩は色々と教えていただきましたので……」


 メディが頬を赤らめながらそんなことを言い出したので、私は口に含んでいた果実水を吹き出してしまう。


「むー!!!」


 おかげで私の目の前にいたむーちゃんがびしょ濡れになってしまった。


「げほ、ごほ! 何を言い出すんだ、メディ!」

「殿下と二人きりでの月を見ながらのお茶会、とても楽しかったです……」

「お兄様! 昨晩は一体何をしていましたの!? 返答次第では許しませんわよ!」


 その話を聞いたセレスタも顔を真っ赤にしながら構えた杖を私に向けてくる。セレスタは攻撃魔法を一切使えないが、薬も過ぎれば毒となる。攻撃する手段がないわけではないのだ。


「誤解だ、セレスタ! 私は彼女の相談に乗っていただけで疚しいことは何も――」

「殿下の体温を感じられて私幸せでした……」

「お兄様~! 覚悟はよろしくて!?」

「誤解なんだ、セレスタ! メディも話がややこしくなるから少し黙っていてくれ!」


 怒りを露わにして杖を突きつけてくるセレスタに事情を説明しながら、メディを席に座らせる。これ以上話がややこしくなると、私の良くない噂が流れてしまいそうだ。


 その間クリスとエメラルは話に入らないようにして、びしょ濡れになってしまったむーちゃんの体を拭いてあげていた。


「――ということなんだ。分かってくれたかい?」


 セレスタに睨まれながらも必死で弁解したところ何とか誤解は解けたようだ。セレスタも不承不承と言った様子ではあるが、怒りはなくなったようで飲み物を口に運んでいる。


「ええ、事情は理解しましたわ。でしたらメディ様も最初からそう言ってくだされば、誤解しなくて済みましたのに」

「申し訳ありません、セレスタ殿下。ですが私は事実を告げただけです。そうですよね、殿下?」

「ああ、そうだな……私の行動が良くなかったのも事実だ……」


 昨日のことを思い出して私は頭が痛くなってくる。それにしてもメディは昨日までと比べて格段に綺麗になっている。一晩のうちに何が起こったのだろうか……。


 そんな私の視線を感じたのかメディはニコリと微笑むと胸に手を当てる。


「昨晩私は殿下に救われました。その恩返しのために薬を作っていたのです」

「薬と言いますと、メディ様の固有魔法で?」

「はい。一晩では満足な実験は出来ませんでしたが、唯一完成した物がこちらの薬です」


 メディは懐に手を入れると指で摘まめる程の小さな小瓶を取り出した。それを見たセレスタは首を傾げる。


「一体何に使う薬ですの?」

「これは美容薬。どんな女性でも輝かせることができる魔法の薬です」

「まあ、凄い……!」

「そんな物が作れるようになっていたのか……」


 いくら強力な固有魔法だからと言って、一晩でそこまでの物が作れるとは私も想像していなかった。魔法は本人の思いが強い程強力になるが、そこまで彼女が成長してくれたのは嬉しい限りだ。


「セレスタ殿下も少しお使いになりますか?」

「私でよろしいんですの?」

「ええ、もちろんです。セレスタ殿下にこそ試してもらいたいと思っていました」

「そこまで言われると恥ずかしいですわ……」


 確かに王族の中で美容薬を勧めるのであれば、セレスタが適任だろう。


 カーネリアも影響力はあるが、彼女のそれは将としてのカリスマであり、女性らしい部分での影響力はあまりない。クリスもいるが、彼女は見た目も幼く美容薬など使ったこともないだろう。


 そう言う意味で女性らしく影響力のあるセレスタを選んだ彼女の目に狂いはないと言える。


「どうぞ、セレスタ殿下。塗って良し、飲んで良しです」


 飲んで良しと自信満々な様子を見るに、恐らく彼女はあの薬を飲んだのだろう。一晩で見違えるようになったのはその影響もあるのかもしれない。


「……飲むのは少し怖いので、塗ってみますわね」


 セレスタは満更ではない様子で美容薬を受け取ると、小瓶の蓋を開けた。軽く匂いを嗅いでからほんの少量を手になじませると、一瞬目を丸くしてうっとりとした様子で薬を塗った手を眺めている。


「これは……素晴らしいですわ!」

「ありがとうございます。セレスタ殿下」

「それにしても、よく一晩で美容薬を作ることが出来たね」

「はい。これも殿下に相応しい女性になるためです……」


 彼女はそう言うとうっとりとした様子で私の方を見つめてくる。それを聞いたセレスタは私に冷たい視線を浴びせてくるが、私のせいではない……はずだ。


 私は一度咳払いをするとセレスタの方へ向き直る。


「それはさておき、セレスタ。彼女を医療研究会に入れるのはどうかな? 固有魔法の適性も本人の資質も十分にあると思うんだが……」

「ええ、わたくしもそう思いますわ。毒を分解できて薬も作れるとなれば、わたくしからお願いしたいくらいですもの。問題は毒を作れるという部分ですけれど……」


 そこで話を区切るとセレスタはチラリとメディの方へ目線を向ける。昨日までの彼女であればその話題が出た瞬間に俯いてしまっただろう。しかし、昨晩の出来事で自信を付けた彼女は力のこもった瞳で、セレスタのことをしっかりと見据えている。


「私はアレキサンダー殿下が悲しむようなことはしません。もちろん必要とあれば毒も作りますが、私に人を助ける力があるのであればそれを伸ばしていきたいです」

「あなたの気持ちは分かりましたわ、メディ。あなたの入会を歓迎します。ですが、一年間は研究会の変更が出来ませんので、本格的な活動は来年からになりますわね」

「問題ありません。それまでにもっと固有魔法を使いこなせるようになって見せます」

「分かりましたわ。今後ともよろしくお願いしますわね、メディ」

「はい。よろしくお願いします、セレスタ殿下……それにアレキサンダー殿下も」

「ははは……よろしく頼むよ、メディ」


 こうしてメディは来年からセレスタと同じ医療研究会に所属することが決定した。彼女も今のまま成長していけば更に作れる薬の種類も増えていくだろう。


 話が終わると、メディは名残惜しそうにしながら、私達の前から去っていった。


「とても綺麗な方でしたね、お兄様!」

「ああ、そうだね」

「昨日までと全然違う……まるで別人みたいだったよ」

「恋する女性は強いのですわ、エメラル。あなたもいずれ分かりますわ」


 セレスタがそんなことを言うのは何だか面白かったが、笑うと怒られそうなので微笑みを浮かべるだけに留めていると、近くから凛とした女性の声が響いてきた。


「知ったような口をきくじゃないか、セレスタ」

「いつの間にかお前もそんな歳になっていたんだな、兄として嬉しいぞ!」

「カーネリアお姉様! ヘリオドールお兄様! お戻りになっていたんですね!」

「ああ、クリス。ただいま」

「つい先ほど戻って来たばかりなんだ。皆が見えたからとりあえず挨拶だけでもしようと思ってな」


 カーネリアとヘリオドールは少し汚れた格好だったが、とりあえず無事だったようだ。背中に背負っている袋には、きっと大量の素材が詰め込まれているのだろう。しかし、二人はいるのにスピネルの姿が見えない。クリスもそのことに気が付いたのか辺りをキョロキョロと見回している。


「あれ? スピネルの姿が見えませんね……」

「ああ、スピネルは疲れていたようだから部屋に運んでおいた。昼食には出てくるだろう」

「それなら良かったです! 三人共お怪我はありませんでしたか?」


 クリスが心配そうな目をカーネリアとヘリオドールに向ける。この場にいないスピネルのことも心配なのだろう。


「細かい怪我はしたが大きな怪我はしてない、心配するな。一応後でセレスタに診てもらいたいのだが……」

「もちろん構いませんわ。でしたらメディにも声をかけておきますわね」

「さっきの可愛い子か? あの子も回復魔法が使えるのか?」

「いえ、メディは薬を作れますの。来年から医療研究会に入ってくれるので、勉強のために同席してもらう方が良いと思いまして」


 セレスタがそう言うと、ヘリオドールは俄然やる気を出したようだ。


「あんな可愛い子に看病して貰えるなら喜んで実験台になるぜ!」

「メディはアレキサンダーお兄様に想いを寄せていますので、諦めた方がよろしくてよ。ヘリオドールお兄様」


 セレスタが冷たい目を向けて吐き捨てるようにそう言うと、ヘリオドールは私のことを睨みつけてくる。


「なんでいつも兄上ばかり良い思いをしてるんだ! 不公平だろ!」

「私に当たられても困るんだが……」

「いや、今回のは自業自得でしょ……」


 エメラルにも呆れた目を向けられるが、私はその視線を逸らすようにカーネリアに話しかける。


「それで? 洞窟での素材採取は上手くいったのかい?」

「ああ、兄上。必要な素材もしっかり回収してきた。これでクリスの魔道具を作ることが出来るな」

「わあ! ありがとうございます! カーネリアお姉様、ヘリオドールお兄様! 後でスピネルにもお礼を言わないといけませんね!」

「スピネルもクリスのために頑張ってたからな。しっかりと労ってやれよ!」


 ヘリオドールがクリスの頭をグリグリと撫で回すのを見ていると二人が戻って来たことを実感して肩の力が抜ける。だが、私の仕事はここからだ。まずはカーネリア達から洞窟での成果を聞かなくてはならない。


「二人共疲れているところ悪いが、少し休んだら報告会だ。どんな素材を持ってきたのか楽しみにしているよ」

「はい!」

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