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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
金緑の章 アレキサンダーは魔道具を作りたい
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4日目3 呪われた固有魔法

ここしばらく体調不良が続いてまた執筆が滞ってます

お待たせして申し訳ありませんが、第三章は年明けくらいになりそうです

なるべく早く上げられるように頑張ります

 その日の遅く、私は食堂へと戻って来た。そこには薄暗い中一生懸命に魔道具の人形を動かしながら人形と話をしている学生の姿があった。


 彼女は昨日学生の輪に入ることができず、遠くからこちらを見ていた学生である。


「あなたもそう思うよね?」


 一人楽しそうに『人形の魔道具』と話している彼女にそっと近付くと、私は優しく声をかけた。


「やあ、こんばんは。楽しんでもらえてるかな?」

「ひゃっ!」


 急に話しかけたせいで、彼女は驚きのあまり椅子から飛び上がる。


「済まない、驚かせてしまったかな?」

「い、いえ、大丈夫です、アレキサンダー殿下。こんな夜更けにどうされましたか?」

「夜中に隠れてこっそり魔道具を触る悪い子にお話しに来たんだよ」


 微笑みを浮かべてそう言うと、彼女はこちらが申し訳なく思うほど真っ青になって人形を抱きしめてしまった。


「ご、ごめんなさい! 今すぐ片付けて寝ます!」

「ああ、別にそれを責めるつもりはないんだ。ただ、どうして皆と一緒に遊ばないのかなと思ってね」


 理由を尋ねると、彼女は人形を抱きしめたまま俯いてしまった。下を向いているので聞き取りづらいが、彼女は消え入りそうな声で呟く。


「だって、私は呪われた子だから……」

「どういうことかな?」


 見る限り彼女は普通の女の子に見える。特に変な様子もないように思う。その理由を訊こうとすると、彼女はビクッと体を震わす。


「言いたくないかい?」


 そう尋ねると彼女は再び俯いてしまう。どうやらエメラルが言っていた彼女の特殊な固有魔法が関係していそうだ。そうなると無理に聞き出すのは難しいだろう。私は彼女に向かって優しく話しかける。


「それじゃあ、少し私と散歩でもしようか」

「え?」

「もちろん人形も持ったままで良いよ」


 そう言って彼女に手を差し伸べると、彼女は一瞬驚いたような顔をして胸元で両手をギュッと握りしめている。どうやら人に触れるのが怖いらしい。


「分かった。それならついて来てくれればいい。今日は月も綺麗に見えるから表に出て話そう」

「はい……申し訳ありません、殿下」

「謝ることじゃないよ。さあ、行こうか」


 私は人形を抱きしめたままの彼女を連れて寮の前庭へと出る。夜空を見上げると明るい月が私達のことを照らしてくれていた。お茶会のために置かれているテーブルに到着すると、彼女が座れるように椅子を引いてあげる。


「さあ、こちらへどうぞ。お嬢様」

「ありがとうございます……」


 彼女はまだ少し緊張しているようだったが、外に出て空気に触れたことで少しだけホッとしているようにも見えた。彼女を座らせると私も向かいの席に腰を下ろし、『空間収納』からカップとポットを取り出す。


「えっ!?」

「外は少し冷えるからね。お茶でも飲もうじゃないか」


 続けて『空間収納』からお皿とお菓子も取り出してテーブルの上に並べていく。カップにお茶を注いだら夜のお茶会の始まりだ。


「えっ? えっ!?」

「夜中にお菓子を食べるのは嫌かい?」

「いえ、そうではなくて、そのお菓子はどこから……? それにお茶も温かい……」


 どうやら彼女を驚かせることには成功したようだ。私はニコニコと微笑みながらお茶を一口飲み、お菓子を食べる。


「君も食べていいんだよ?」

「そ、それではいただきます……」


 恐る恐るではあったが、彼女もお茶とお菓子を口にして目を輝かせる。どうやらお菓子は彼女の口に合ったようだ。


「そう言えばまだ君の名前を聞いていなかったね」

「あ……私はメディ・ベンチュリンと申します」

「よろしくね、メディ」


 メディの目は前髪で隠れているが、こちらをしっかりと見ているのが伝わってくる。私もそれに微笑みで答えると彼女はまた顔を伏せてしまう。少しずつ心を開いてくれているようだが、まだ核心を聞き出せる程ではないようだ。私はもう少し色々なことを聞いてみることにした。


「まずはメディの好きな物を聞いてみたいな。君はどんな物が好きなんだい?」

「えっと、ぬいぐるみとか可愛い物が好きです」

「先ほどから抱きしめている人形もかい?」

「あっ! すみません! 殿下が皆のために置いてくれた物なのに勝手に持ってきちゃって!」

「後で戻してくれれば構わないよ。他にはどんな物が好きなんだい?」

「他には……」


 そこで口を噤むとメディはお菓子の方へ視線を向ける。彼女はお菓子も好きなようだ。私は追加で別のお菓子を『空間収納』から取り出してメディの目の前に差し出す。


「これも好きかな?」

「はい……その、先ほどから殿下はどこからお菓子を取り出しているのですか?」

「これは私の固有魔法『空間収納』から取り出しているんだ」


 そう言って私はリボンのついた人形の魔道具を『空間収納』から取り出して、彼女の目の前に置いた。それを見たメディは驚きと同時に悲しそうな顔になる。


「やはり殿下のような方は固有魔法も素晴らしい物をお持ちですね……」

「メディは違うのかい?」

「私の固有魔法は人に見せられる物ではありません。私が固有魔法を使うと皆が傷ついてしまうのです……」


 そう言うとメディは深く俯いてしまった。私はそんなメディを慰めるように優しく声をかける。


「どうしてそう思うんだい?」

「だって! だって……わたしの固有魔法は……『毒薬生成』なんです」


 メディは苦しそうに胸を抑えながら自分の固有魔法を打ち明けてくれた。確かに『毒薬生成』とはあまり良くない響きの固有魔法だ。だがその固有魔法を聞いて私は一つ疑問に思ったことがある。


「その固有魔法は毒を生み出すことが出来るのかい?」

「はい……そのせいで周りからは気味悪がられて、学園に入ってからも怖くて人と話すことが出来ませんでした……」


 彼女が悲しそうに俯く姿からは誰かを害そうとする意志は感じられない。むしろその逆だ。誰かを傷つけたくないから一人でいるように見える。


「メディはその力を使って誰かを傷つけたことはあるのかい?」

「いいえ、ありません。でも一度使ってみて分かったんです。この力は使ってはいけない呪われた力だって」


 メディは辛そうに自分の両手を見つめている。魔法を上手く使えないのも固有魔法を恐れるあまり自信が持てないでいるのだろう。魔法を発動するのに必要なのは強い想像力だ。誤って固有魔法が発動したらと不安を抱えている状態では発動する物も発動しなくなってしまう。


「メディは自分の固有魔法が嫌いかい?」

「はい。どうして神様は私にこんな力を授けたのだろうと思う時もあります。こんな毒だけを作り出す魔法なんて私は欲しくなかったです」

「私はそうは思わないよ、メディ」

「え?」

「だって君の固有魔法は『毒薬生成』だろう? それなら毒だけじゃなくて薬を作ることもできるはずだ」


 魔法の発動に必要なのは想像力だ。固有魔法は授かった瞬間に使い方を直感で理解できるはずだが、彼女は毒薬という印象から毒を作り出すことしかできないと考えてしまったのだろう。そのせいで彼女は初めて魔法を発動した時に毒を生成してしまい、自分の力が怖くなってしまったのだ。


「メディは薬を作ろうとしたことはなかったんだよね?」

「はい……でもそんなこと出来るはずがありません……」

「違うよ。メディ。出来るはずがないと言うのは君の思い込みだ。私は君が薬を作り出せると信じているよ」

「でも……」


 私が何と言っても彼女は自分を信じられないようだ。このままでは彼女が魔法を嫌いになってしまう。


 それならあまりやりたくはないが、私も少し手荒な手段を取らせてもらおう。『空間収納』を開くとその中から私は小さなビンを取り出す。


「メディ、よく聞くんだ。私が今持っているビンの中には毒が入っている」

「え?」

「今からそれを飲むから君の力で私を救ってくれ」

「アレキサンダー殿下! おやめください!」

「頼んだよ」


 私はビンの蓋を開け、一気に傾けると中身を飲み干した。後は彼女次第だが、さてどうなるか。


「うぐっ!」

「殿下!」


 急激に体調が悪くなるのを感じてテーブルに突っ伏すと、目の前にいる彼女は真っ青な顔をして狼狽え始めた。


「だ、誰か! セレスタ殿下! 助けてください! アレキサンダー殿下が!」

「君が助けるんだ……」


 実際のところ、メディが本当に薬を作り出せるのかは分からない。しかし、私は彼女を信じると決めたのだ。今は彼女以外の助けは必要ない。


「で、でも! 私じゃ何もできません!」

「そんなことはない……自分を信じるんだ、メディ……」


 私が息も絶え絶えに彼女の目を見つめると、彼女も覚悟を決めたようで暗かった目に光が灯る。


「……分かりました。失礼します!」


 メディは私の体に触れると体調を調べ始め、毒の入っていたビンから残った液体を手に出すと、それを慎重に舐める。きっと彼女は今自分の体内を巡る毒を固有魔法で解析しているのだろう。


 少しすると彼女はニコリと微笑み、薬を生成し始めた。きっと私が飲んだ毒がどんな物か分かったに違いない。


「殿下は意地悪ですね。こんな悪戯をするなんて」

「これでも結構大変なんだ。出来るだけ早く薬を作ってくれ……」

「もう出来ました。これを飲んでください」


 そう言って彼女はお茶の入っていたカップに液体の薬を入れて、私の口の中に流し込む。少し苦いその薬は私の体の不調を立ちどころに回復させてくれた。


「お加減はどうですか?」

「……ああ、すっきりしてきたよ。もう大丈夫そうだ」


 何事もなかったようにゆっくりテーブルから起き上がると、メディは私に微笑みを向けて来た。そこには先ほどまでの自信を失った彼女の姿はなかった。


「ありがとう。メディ。君がいなかったらどうなっていたことか……」

「大袈裟ですよ、殿下。私がいなくてもお腹を壊しただけで済みました」


 私は大袈裟に騒いで毒と言ったが、先ほど飲んだのはただの下剤だ。たとえメディが失敗してもセレスタがいれば十分に治療は可能だっただろう。


「それにしても殿下は警戒心が無さすぎます。私が本当に毒を作っていたらどうするつもりだったんですか?」

「その時はその時さ。何とか出来る方法は他にもあったからね」


 メディに心配をかけないためそう言ったが、実際に彼女が私に毒を飲ませていたら危なかったかもしれない。そんな気持ちを表情に出さず微笑みを浮かべるとメディも嬉しそうに笑ってくれた。


「殿下は本当に意地悪です。でも……ありがとうございました。おかげで私の固有魔法の本当の使い方が分かりました。私はこれからも皆のために薬を作ります」


 そう言って微笑む彼女の表情に迷いの色はない。自分がやるべきことをきちんと見つけられたようだ。これなら自分の魔法を嫌いになることもないだろう。


 私はそんな彼女の頭を軽く撫でると、テーブルの上に散らばってしまったお菓子を回収する。


「固有魔法も使い方ひとつ、使う人によって善にも悪にもなるんだ。君はその力を正しく使ってくれ」

「はい。私のこの命、殿下のために捧げます」


 彼女は深々と礼をするとそんなことを言い出した。何だか想像していたよりも重い忠誠を受けてしまった気がする。私は慌てて首を横に振るとメディを諭す。


「誰もそこまでの忠誠を望んではいない! セレスタやエメラルの力になってくれればそれでいいんだ」

「あら、殿下は意地悪ですね。私がここまで言っているのに……女性の誘いを断るのは失礼ではありませんか?」


 彼女はからかうようにクスクスと笑いをこぼす。自信を持ってもらうことには成功したが、少しやり過ぎてしまったかも知れない。とりあえず今回の目的は達成したので、これで良しとしよう。


「その人形も一つメディにあげよう。元々魔法が苦手な君のために作った物だからね」

「ありがとうございます、殿下。私のために作ってくださった人形、大切にいたしますね」


 メディは地面に落ちてしまった魔道具の人形を優しく拾い上げると、包み込むように抱きしめる。そんな会話を交わしながらテーブルを片付けていると、彼女がふと質問をしてきた。


「殿下は先ほど固有魔法は使う者によって善にも悪にもなると仰いましたが、殿下自身はご自分の固有魔法を悪用しようと思ったことはないのですか?」

「悪用すると言うよりも危険な力だと思っているよ」

「そうなのですか? どこからでも物を取り出せるというのはとても便利な力に思えますが……」

「それが問題なんだよ、メディ」


 私はそこで言葉を区切ると『空間収納』を広げる。先ほど出したお菓子をしまうためだ。


「この中はどこに繋がっているのか分からない。誰かが誤って入ってしまったとしても、私が気付かなければ一生この中から出ることは出来ないんだ」


 暗く広がる闇の中にお菓子やカップ、ポットを収納していくとそれらは全て闇に呑まれ見えなくなってしまう。


「だから最小限の大きさで必要な物を取り出せるようにたくさん訓練もしたし、しまう時も細心の注意を払っているんだ。便利だけど底が知れない、それがこの力の怖いところだ」


 実際この力を悪用しようと思えば、色々なことが出来るだろう。しかし、私はこの力を悪用しようとは思えない。してはいけないと頭の中で警鐘が鳴り響いているのだ。


「殿下も苦労なさっていたんですね。先ほどは失礼いたしました」

「気にすることはない。便利な力であるのは確かだし、私も気に入ってるんだ。こんなことも出来るからね」


 もう一度『空間収納』を開くとその中から一輪の花を取り出して、メディへと差し出す。


「これは今日付き合ってくれたお礼だ。受け取ってくれるかな?」

「まあ……ありがとうございます。今日はとても楽しかったです」


 そう言って私の手から花を受け取った彼女の顔にはもう不安の色は見えない。きっと彼女はこれから先、自分が授かった魔法の力で多くの人を救えるだろう。


「さて、もう夜も遅い。そろそろ寮に戻ろうか」

「はい、殿下。どこまでもお供いたします」


 メディは誰も見ていないことを確認すると私の腕に抱き着いて来た。やはり彼女に自信を持ってもらうためとは言え、少しやり過ぎたようだ。腕に感じる温もりと共に私とメディは二人で寮へと向かって歩き出した。

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