0日目 役割分担
番外編二章と三章の間、アレキサンダー視点です。
クリスの課外活動が終わった後のある日。私は通信の魔道具でエデルシュタイン王国と連絡を取っていた。
「――ということだ、アレキサンダー。お願いしても良いか?」
「かしこまりました、父上。必ず作成して見せます」
私がそう伝えると父上は満足そうに頷いて通信の魔道具を終了させた。私も久しぶりの父上との話し合いで緊張していたのだろう。大きく息を吐いて固まった体の緊張をほぐす。
「ふう……」
「お疲れさまでした、アレキサンダー殿下」
「ありがとう、フローラ」
通信の魔道具を終了したことに気が付いたフローラがお茶を出してくれたので、それを喜んで受け取る。よく冷えているお茶は少し火照っていた体を程よく冷ましてくれる。
少しの間、お茶を飲みながら先ほど父上に言われたことを反芻してみる。先日、クリスが学園の森の中で襲われたことによって、クリスは学園からの外出を禁止されてしまった。しかし、社会生活を学ぶために親元を離れているのに、いつまでも外出を禁止するのはクリスが不憫だ。
そう思ったのは私だけではなかったようで、他のきょうだい達と一緒に父上に相談したところ、クリスの外出を条件付きで許可してもらうことが出来たのだ。
その条件というのが護衛をクリスから離さないようにすること、クリスの身を守る魔道具を作成することの二つだった。
今日は父上から依頼の形で連絡が来ることになっていたので、魔道具作りを専門としている私がきょうだいを代表して父上と話をすることになったのだ。
そんなことを考えていると目の前に置かれているカップはいつの間にか空になっていた。こうしてはいられない、クリスのために早く魔道具を作ってやらなくては。そう思った私は逸る気持ちを抑えつつ席を立った。
「それでは、私もそろそろお暇するよ。お茶、美味しかったよ」
「少しでもアレキサンダー殿下のお力になれたなら幸いでございます」
こちらに向かって深く頭を下げるフローラの見送りを受けながら、私は寮監室を後にする。
寮監室を出た私は食堂へと向かうことにした。今日父上から連絡が来ることは分かっていたので、きょうだい達にも食堂で待機してもらうことにしていたのだ。
食堂に到着した私がいつも座っている辺りの席を見ると、既にきょうだいは全員揃っていた。クリスはどうやらむーちゃんの毛並みを整えてやっているようだ。
「ほら、むーちゃん。ブラッシングの時間ですよ~」
「む~……」
楽しそうにしている妹の姿を微笑ましく思いながら席に近付くと、他のきょうだい達も私に気が付いたようで、ヘリオドールがこちらに声をかけてくる。
「兄上! どうでしたか?」
「慌てなくても今から話すよ、ヘリオドール」
私が席に座ると皆が顔を上げてこちらを見つめてくる。皆の視線が十分に集まったことを確認した私は先ほど父上から言われたことをもう一度説明する。
「――ということで、父上から正式な以来の形でお願いされた。内容も事前の話し合いで決めた通りだった」
「つまり、スピネルとむーちゃんには今まで通りに護衛を続けてもらって、外に出る時は一緒でないといけない……ということですね!」
「それに加えてクリスの身を守る魔道具を作成しなければならない。魔道具の作成は私が担当するつもりだけど、特に異論はないよね?」
私が皆の顔を見回すと皆も肯定的なようで頷いてくれた。私達きょうだいは得意分野がそれぞれ異なるので、こういう時に意見のぶつかり合いがあまりないのは助かる。
「それでは予定通り、魔道具作りは私が担当しよう」
反対意見もなかったので、私はホッと胸を撫でおろす。そこまで話を終えるとヘリオドールが何か言いたげにしていることに気が付いた。
「どうかしたのかい? ヘリオドール」
「いや、全て兄上に任せてしまったら兄としてクリスにしてやれることがないと思ってな……兄上、もし良ければ魔道具の素材調達は俺と姉上に任せてもらえないか?」
ヘリオドールの提案を聞いて私は少し考える。試作をすることも考えると、確かに素材が心もとない。なので、協力してくれるのは助かるのだが、カーネリアはそれを許可したのだろうか。私はチラリと彼女に視線を向ける。
「……それは嬉しい提案だが、カーネリアはそれでいいのかい?」
「ええ、元々兄上一人に負担が偏るのは良くないと思っていたのです。それに私もできることなら姉としてクリスを可愛がりたいのです。このままでは兄上に全ての手柄を取られてしまいそうだ」
「手柄も何もないと思うんだが……協力してくれるなら助かるよ、二人共」
フフフと悪戯っぽく笑うカーネリアだったが、クリスを大事にしていることが伝わってくる。きっとクリスのために何かしてやりたいという気持ちは彼女の本心なのだろう。
そんな風に二人が魔道具作りに協力することを示すと、クリスの横に座っていたスピネルもおずおずと口を開く。
「アレキサンダー殿下、それなら私にも協力させてください。元はと言えば、クリスの護衛は私の仕事。他の方に任せて私だけのうのうと過ごすわけには参りません」
「そうだな……」
スピネルは春休みの中頃にクリスと出会ってから、彼女の護衛として長い時間を過ごしている。真面目で面倒見がいい彼のような者が、クリスの護衛をしてくれているのはとても助かっている。
また、課外活動で襲撃された際にもスピネルは自分にできる万全のことをした。しかし、彼の中ではクリスを守れなかったという後悔が今でも残っているようだ。
そんな彼の後悔が少しでも和らぐのなら、彼に協力してもらうのも悪くないと考え、私はヘリオドールに視線を送る。
「ヘリオドール。素材調達にスピネルも連れて行ってくれないか?」
「別に構わないぜ。スピネルの訓練に付き合う約束もしてるから丁度いい。姉上もそれでいいよな?」
「ああ。スピネルにはもっと強くなってもらわないといけないからな。私が直々に火魔法の使い方を教えてやることにしよう」
ヘリオドールとカーネリアは顔を見合わせてにやりと笑う。本当にこの二人に任せてしまって大丈夫だろうか。少し不安はあるが、この二人ならやりすぎることもないだろう。私は再びスピネルに視線を戻す。
「ということだが、スピネルはそれで構わないかい?」
「はい! ありがとうございます、アレキサンダー殿下!」
二人にしごかれることが確定しているにも関わらず、スピネルはとても嬉しそうにしている。この調子ならスピネルのことは二人に任せておけば大丈夫だろう。
他の者にも役割を与えた方が良いかと思った私は、続いてエメラルとセレスタにも目を向ける。
「エメラルやセレスタも素材調達に協力してくれるかい?」
私がそう聞くと二人は少し考え込む。先に答えを出したのはセレスタだ。セレスタは緩く首を横に振ると、自分の考えを主張する。
「わたくしは遠慮しておきますわ。もちろん三人が怪我をしたら治療はしますけれど、素材調達について行くのは足手まといになりそうですもの」
そこまで言うとセレスタはクリスの方へ顔を向ける。
「なので、わたくしはその間クリスと一緒に過ごすことにしますわ。そうすればクリスも寂しくないでしょう?」
「わあ! 嬉しいです! ありがとうございます、セレスタお姉様!」
セレスタにお礼を言うと、クリスはむーちゃんに向き直ってニッコリと笑う。
「もちろん、むーちゃんも一緒ですからね~」
「むい!」
クリスとセレスタは顔を見合わせニコニコと笑っており、二人が普段から仲良くしていることがよく分かる。
また、スピネルが外出してしまうため、護衛はむーちゃんに任せることになる。むーちゃんの強さは課外活動の件で良く分かったので、護衛は特に問題ないだろう。
私が仲睦まじい二人の姿を見つめていると、最後に残ったエメラルが口を開く。
「僕はアレキサンダー兄さんの手伝いをするよ。一人で魔道具を作るのは大変でしょう?」
「それじゃあお言葉に甘えてお願いするよ、エメラル」
私がそう言うと、エメラルは少し照れくさそうにはにかむ。エメラルには魔道具作りを度々手伝ってもらっているので、その提案は非常に助かる。私もエメラルが手伝ってくれるのなら大歓迎だ。
エメラルまで一通り話を聞いたことで魔道具作りのための役割分担が完了した。
ヘリオドール、カーネリア、スピネルは素材調達組だ。学園はもう少しすると一週間の休みに入る。その時になったら素材調達組には近くの洞窟へと向かってもらい、魔道具作りに必要な素材を調達して来てもらうことになる。
クリス、セレスタ、むーちゃんはお留守番組だ。万が一素材調達組が怪我をした場合にはセレスタの力を借りることになるが、まあ問題ないだろう。クリスが学園の外に出られないため、むーちゃんに護衛してもらいつつ、普段通りに寮で生活してもらうことになる。
最後に私とエメラルの魔道具作成組だ。私達は素材調達組が持ってきた素材を使って魔道具を作成することになる。しかし、私が持っている分の素材もあるので、待っている間に設計図の作成と魔道具の試作を進めていきたいと思う。
話し合いでの役割分担を終えた私は皆の顔を見回して号令を出す。
「それじゃあ、皆! クリスが学園の外に出られるように協力して頑張ろう!」
「はい!」
皆の揃った声が気持ち良く響いて、クリスのための魔道具作成は始まった。




