お父様への連絡
「今日は色々ありましたけど楽しかったですね、スピネル!」
「色々ありすぎて俺は疲れたぞ……」
わたしを狙ってスファレが襲撃してきたが、課外活動自体は皆と楽しく過ごすことが出来た。今日のことを思い出してスピネルと会話を交わしながら、わたし達は森の入口に向かって草原を歩く。
森の入口に到着すると、ドロッセルやミステル、シリウスとはお別れの時間だ。わたしは今日一日でより仲良くなった三人に挨拶をする。
「三人とも今日はありがとうございました。ドロッセル、また一緒に遊びましょうね!」
「もちろんですわ、クリス! 次は一緒に町にも行きたいですわ!」
「ミステル、花冠とても可愛かったですよ」
「ああ、むーちゃんも喜んでくれて嬉しかった。これからも競い合っていきたいな」
「シリウスもこれからよろしくお願いしますね」
「ええ、よろしくお願いします。今度は私とも一緒に遊びましょう」
こうして三人と別れたわたしとスピネル、むーちゃんはエデルシュタインの寮に向かって歩き出す。
「そう言えば、シュヴァインはどのようにして倒したのですか?」
わたしは歩きながらスピネルの方を見上げる。すると、スピネルは得意気な笑みを浮かべて答えてくれる。
「最初に使った火の爪があっただろう? シュヴァインの突進を避けながらその爪で少しずつ攻撃して相手の体力を奪っていったんだ。弱って来たところで頭に爪を突き刺して倒したんだよ」
「むーむー!」
スピネルは自分がどのように戦っていたのか楽しそうに話しており、わたしがニコニコと話を聞いていると、むーちゃんが少し興奮し始めた。まだ戦闘の余韻が抜けないのかもしれない。
「むーちゃん、もう敵はいないんですよ。よしよし」
「む~」
わたしがむーちゃんを撫でているとスピネルは戦闘の話題を終わらせ、魔法について話し始めた。
「本当は高等魔法を使えるようになっていれば、すぐに倒せたのかもしれないが、まだ使えないからな……」
「やはりカーネリアお姉様に訓練してもらった方が良いのではないですか? カーネリアお姉様は森に行った時、火柱でシュヴァインを倒していましたよ。わたしも使えましたしね」
「クリス達と一緒にしないでくれ……そもそも俺の適性は火と光だから、火柱はもっと練習しないと使えないんだ」
二人でワイワイと話しながら歩いていると寮の入口に到着する。
「まだ夕食まで少し時間があるが、クリスはどうする?」
「そうですね……とりあえず今日のことについてお父様に連絡しておきたいです!」
「それが良いだろうな。それじゃあ寮監室に向かうとするか」
「はい! 行きましょう、スピネル!」
わたしとスピネルはお父様に連絡するために寮監室へと向かう。寮監室にはエデルシュタインの王城に連絡するための通信の魔道具が置いてあるのだ。
「それではスピネルは少し待っていてくださいね!」
「ああ、急がなくて良いからちゃんと報告して来ると良い」
スピネルには寮監室の前で待っていてもらうことにして、わたしは寮監室をノックしながら中に声をかける。
「失礼します! フローラはいますか?」
わたしがそう言った数秒後にガチャリと扉が開いて、中から寮監のフローラが顔を出した。
「あら、クリスティア殿下。どうぞ中へお入りください」
「ありがとうございます、フローラ! 失礼しますね!」
寮監室は寮のわたしの部屋よりも少し大きいくらいの部屋で、奥の方には巨大な通信の魔道具が置かれているのが見える。
フローラが淹れてくれたお茶を飲んで一息吐くと、彼女は用件を尋ねてきた。
「それでクリスティア殿下。今日はどのような御用でしょうか?」
「通信の魔道具を使わせて欲しいのです! 実はお父様に相談したいことがあって……」
わたしは今日の課外活動で起こったことをフローラにも伝える。フローラもわたしが敵に襲われたと聞くと目を丸くし、心配そうな表情でわたしを見つめてくる。
「それは大変でしたね……クリスティア殿下、お怪我はございませんでしたか?」
「ええ、むーちゃんがしっかりと守ってくれたので大丈夫でした!」
「むー!」
わたしがむーちゃんを撫でながら言うと、フローラも安心したようにホッと息を吐く。一連の話を聞き終えたフローラは通信の魔道具の使用許可を出してくれた。
「確かにその話は城に直接伝えた方が良いでしょう。通信の魔道具の使い方は分かりますか?」
わたしが首を横に振ると通信の魔道具の使い方をフローラは教えてくれた。どうやら、通信の魔道具に嵌められている魔石を変えることで、通信先を変えることが出来るようだ。
エデルシュタインの王城に連絡できる魔石に取り換えてもらうと、魔石に魔力を注ぎ込んで準備は万端だ。通信の魔道具についているボタンをポチっと押すと、通信の魔道具から声が聞こえてくる。
「こちらエデルシュタイン王国王城です。どのようなご用件でしょうか?」
「クリスティア・エデルシュタインです。至急お父様に連絡したいことがございます」
「クリスティア殿下!? 少々お待ちください!」
そう言ったあと声が聞こえなくなり、しばらくするとお父様の声が通信の魔道具から響き始めた。
「どうした、クリス。何か問題でも起こったのか?」
「はい、実は――」
そこからわたしは今日起こったことをお父様に報告した。何度も話しているので報告するにも大した手間はかからなかった。全て話し終えるとお父様の低い唸り声が通信の魔道具から聞こえてくる。
「うーむ……王国内だけではなく学園でも魔獣が急に出現したのか……それにクリスを狙う女……怪我はしてないのか?」
「はい、お父様! むーちゃんとスピネルが守ってくれたのでわたしは大丈夫です!」
「そうか、それは良かった。これからもスピネルとむーちゃんには護衛を続けてもらうとしよう」
「むー!」
通信の魔道具の横で浮かんでいたむーちゃんが任せろというように前足を上げた。それを撫でながらわたしは話を続ける。
「スファレのことはともかく、エデルシュタインでの急な魔獣の出現について、何かご存知でしたら教えてもらいたいのですが……」
わたしがそう言うとお父様の困ったような声が響く。
「そのことなんだが……実はまだ何も分かっていないんだ」
お父様は申し訳なさそうな様子で、調査を進めているが中々情報が集まらないといったことを教えてくれた。
「魔獣の急な出現というのが本来はあり得ないので、こちらで分かっていることは殆どないのが現状だ」
「そうですか……分かりました。ありがとうございます、お父様」
「うむ。あまり多くはないが、魔獣の出現について調べたことは後日学園の方に私の方から連絡するので、少し待っていてくれ」
「はい! お忙しい中ありがとうございました!」
そこまで話をするとお父様は一度咳払いをして話題を変える。
「クリスは学園で楽しく過ごせているか? 友達はできたのか?」
「はい、お父様! 今日も色々ありましたが毎日楽しく過ごしています!」
「そうか……それなら良かった」
お父様がこちらを心配してくれていることが通信の魔道具越しでも伝わってきて、わたしも嬉しい。
「しかし、スファレという者の目的が分からない以上、クリスを自由に行動させるわけにはいかなくなってしまった。しばらくは学園内で生活してむーちゃんとスピネルから離れないようにしなさい」
「はい、分かりました!」
自由行動が出来ないのは悲しいが、敵の狙いを考えるとお父様の言うことには従うしかないだろう。
しばらくの間は危ない場所に近付かないこと、学園の外に出ないことをお父様と約束すると、最後にお父様は別れの言葉を口にする。
「こちらの方でも引き続き調査は進めていく。不自由させてしまうが、クリスも体に気を付けて学園生活を楽しんでくれ」
「はい! お父様もお体に気を付けてお過ごしください!」
わたしが元気良くお父様に返事をすると、そのまま通信の魔道具は動作を停止する。わたしは少し離れた場所で待機していたフローラへと声をかけた。
「フローラ、ありがとうございました。おかげでお父様に報告することが出来ました」
「お気になさらず、クリスティア殿下」
「それでは、失礼します!」
わたしはそのままフローラに退出の挨拶をして寮監室を後にすると、外で待っていたスピネルがこちらに向かって歩いて来た。
「大丈夫だったか?」
「はい! お父様もお元気そうでした!」
わたしがそう言うとスピネルも安心したのかホッと胸を撫でおろす。
「報告したなら後のことは陛下が何とかしてくださるだろう。俺達もできる限り調査には協力していこう」
「もちろんです! スピネルもよろしくお願いしますね!」
わたし達は二人で頑張ろうと誓い合うと、食堂で少しのんびりすることにした。食堂に入って飲み物を注文すると、わたしとスピネルはいつもの席へと向かう。
「あれ? エメラルお兄様がいますね?」
「こんな時間にいるなんて珍しいな、何かあったんだろうか」
席に近付くとエメラルお兄様もこちらに気付いたようで、ヒラヒラと手を振ってきた。わたし達が席に着くのを待ってエメラルお兄様が口を開いた。
「クリス、今日はお疲れ様。大変だったって先生から聞いたよ」
「ええ、お兄様。とても大変でした……詳しくは後で皆が揃っている時に報告しますね!」
わたしがそう言いながら飲み物を飲むと、エメラルお兄様はわたしの近くを飛んでいたむーちゃんを呼び寄せ、自分の持っていたお菓子を与え始める。
「むーちゃんもお疲れ様。クリスを守ってくれてありがとうね」
「む~!」
むーちゃんはエメラルお兄様から貰ったお菓子を両手で挟んでもぐもぐと食べて、とても幸せそうだ。そんなむーちゃんを見て、牧場で言われたことを思い出したわたしはエメラルお兄様に顔を向ける。
「そう言えばお兄様。今日の課外活動で立ち寄った牧場でむーちゃんのことを聞いたら、変異種だろうと言われましたよ!」
「普段ムイムイと過ごしてる牧場の人がそう言うなら変異種で間違いなさそうだね」
エメラルお兄様はそう言うとむーちゃんのことを優しく撫でる。わたし達がそうしてのんびりした時間を過ごしていると、いつの間にか夕食の時間になっていたようで段々と食堂が騒がしくなってきた。




