友達とこれから
「クリス、皆も大丈夫か!? 急に霧が晴れたようだが……」
「スピネル!」
そう言って駆けつけてきたのはスピネルだ。どうやらスピネルも無事に魔獣を倒せたようだ。わたしはスピネルを安心させるためヒラヒラと手を振ってそれに答える。
「わたしは無事なのですが、他の三人が敵の魔法を受けて眠ってしまいました……」
「敵だって……? こっちで一体何があったんだ!?」
そこからわたしはスファレという怪しい女が襲い掛かってきたことを説明した。それを聞いたスピネルは悔しそうな顔で唇を噛みしめている。
「そうか……守ってやれなくて済まない。むーちゃんもクリスを守ってくれてありがとうな」
「むい!」
むーちゃんの頭を軽く撫でるとスピネルはわたしの方へ向きなおる。
「とりあえず狼煙の魔道具を使おうかと思っているが……」
「ええ。霧も晴れましたので、先生には連絡した方が良いでしょう」
わたしがそう言うとスピネルは一度頷いて狼煙の魔道具を使った。その直後モクモクと筒から煙が上がり始める。
「これでしばらくすれば先生も向かってきますよね?」
「そうだな。それで、三人は何とかなりそうなのか?」
「わたしはまだ回復魔法を使えないので、むーちゃんにお願いしてみます。むーちゃん、出来ますか?」
「むい!」
わたしがそう聞くとむーちゃんは大きく頷いて、眠っている三人の元へ飛んでいく。そのままむーちゃんが三人の手をペロペロと舐めると、少しして三人が目を覚ます。
「皆、大丈夫ですか!?」
「ん……わたくしは一体? 敵はどこですの!?」
バッと起き上がったドロッセルに続きミステルとシリウスも起き上がる。
「三人ともあのスファレという女に眠らされていたのです」
「そうか……済まないクリス。手間を掛けさせてしまったようだ」
「ありがとうございます、クリス。それで、スファレは一体どうなったんですか?」
「それが……逃げられてしまったようです……」
わたしは皆が眠ってからのことを説明すると、その話を聞いた三人は難しい顔をした。
「結局何者かは分からなかったのか……」
「はい、スファレがわたしを狙っていること以外は全く分かりませんでした……」
わたしがガックリと肩を落とすと、それを慰めるように皆が笑う。
「それにしても、クリスは良く無事でしたわね」
「はい! むーちゃんが頑張ってくれました!」
「むい!」
むーちゃんは腕輪の嵌った自慢の前足をピコピコ動かして、頑張ったことを伝えようとしてくる。そんなむーちゃんの姿に皆が和んでいるとガサガサと背後の草が揺れた。
「!」
その音に気付いたスピネルが慌てて皆をかばえる位置に移動すると、ひょこッと草の間からローレンツ先生が顔を覗かせた。ローレンツ先生はこちらに目を向けるとわたし達五人を順番に見回す。
「皆、怪我はありませんか!?」
「ローレンツ先生!」
見覚えのある顔が出てきてホッとしたわたし達は、ローレンツ先生に事のあらましを説明した。
「なるほど……そのスファレという女のことはこちらでも注意しておきます。それより皆、大丈夫ですか?」
ローレンツ先生の言葉にわたし達は顔を見合わせて頷く。
「スファレも攻撃魔法ではなく睡眠魔法や幻覚魔法を使ってきたので、怪我はないです!」
「そうですか……とりあえず皆無事で良かったです。集合場所まで歩いて行けそうですか?」
「はい! 大丈夫です!」
そうしてわたし達五人は集合場所である高台までローレンツ先生と一緒に向かうことになった。
高台に向かう道中、わたし達はローレンツ先生と話しながら歩いていた。
「君達の到着があまりにも遅いので、何かあったんじゃないかと心配していたところだったんですよ」
「そうだったのですね……ご心配おかけしました」
「無事だったので良かったですけど、今度は気を付けるようにしてくださいね」
ローレンツ先生は心配そうにわたし達のことを見回す。何でもわたし達以外の学生は全員到着しており、牧場にいた学生に詳しい話を聞いたりしていたらしい。
「牧場から高台までは殆ど迷わないで来られるはずなので、流石におかしいという話になりまして。探しに行く準備をしていたら狼煙が上がって来たんです」
それでローレンツ先生が探しに来たということらしい。
「それに魔獣も出たのですか?」
「はい、シュヴァインが出ました。その時はスファレもいなかったので、私が相手をして皆を下がらせました」
シュヴァインと直接戦ったスピネルが話し始めると、ローレンツ先生は眉を寄せる。
「それがそもそもおかしいんです。この森には魔獣なんて出現しないはずなんですよ」
「そうなのですか?」
わたしが首を傾げるとローレンツ先生は首を縦に振る。
「この辺りは大地の魔力が多いのですが、魔除けの魔道具を設置しているので魔獣は発生しないはずなんです」
ローレンツ先生が言うには、魔除けの魔道具があれば黒い魔獣が発生しない状態にもできるようだ。そのため、牧場のムイムイ達も黒い毛皮にならずに大人しい状態で飼育できているらしい。
それを聞いたわたしはスピネルと顔を見合わせ頷き合う。
「そう言うことでしたら……ローレンツ先生。わたし、心当たりがあります」
わたしはローレンツ先生に春休みのお茶会で起こった事件のことを説明する。
「なるほど……その時も急に黒い魔獣が出現したんですね?」
「はい。その時はハーゼだったので何とかなりましたが、今回はシュヴァインでした。スピネルは訓練していましたが、他の訓練していない一年生が襲われた場合が心配です」
わたしがチラリとスピネルを見ると、スピネルも一度頷き口を開いた。
「ええ。今回のシュヴァインも前回のハーゼも急に出現したという共通点があります。もしかしたら偶然かもしれませんが、警戒しておいた方が良いと思います」
「……分かりました。後で学園長にも相談しておきます。それとクリスティア殿下。エデルシュタインの国王陛下にも協力をお願いしたいんだけどいいですか?」
ローレンツ先生は神妙な顔つきでわたしにそう言った。春休みの件で先に調査をしているエデルシュタイン王国が協力するのは当然のことだろう。わたしは大きく頷いた。
「もちろんです! 皆が危険な目に合わないように、後でお父様にお願いしてみます!」
そうして皆で事件について話をしていると、集合場所である高台に到着した。
「それでは皆も自分の国が集合しているところに並んでください。皆も心配していたので、元気な姿を見せてあげてくださいね」
「はい!」
わたし達は元気良くローレンツ先生に返事をすると、それぞれの国で並んでいるところに整列する。わたしが列に向かうと、プレナとマリンがこちらに駆け寄って来た。
「クリスティア殿下! スピネル様! ご無事でしたか!?」
「到着が遅いので何かあったのではないかと皆で話していたのです!」
「ええ、皆には心配をかけてしまいましたね」
「細かいことは後で説明するから、今はとりあえず整列してローレンツ先生の話を聞こう」
わたしが皆に謝罪し、スピネルがまとめたことでわたし達もエデルシュタインの学生と一緒の場所に並んだ。
わたし達が並んだことを確認すると、ローレンツ先生は両手を打ち合わせて学生の注目を集める。
「それでは一年生代表も揃ったところで昼食にします! 向こうの方で準備ができているので皆で向かいましょう!」
そう言ってローレンツ先生が案内してくれた先には広場があり、そこには皆で食事ができるように串に刺さった様々な食材が用意されていた。
「これは……バーベキューですか!?」
「クリスは知っているのか?」
「ええ! 学園に来る途中にきょうだいと一緒に食べたのです!」
わたしが目を輝かせてバーベキューについて説明すると、スピネルも興味深そうに食材を見回す。
「これを皆で焼いて食べるのか……確かに楽しそうだな!」
「そうでしょう!」
わたしが胸を張るとローレンツ先生が皆に聞こえるように声を張る。
「皆、注目! 少し遅くなったけど皆の入学を祝って、今日の昼食は皆で楽しく食べます!」
そこからローレンツ先生は皆にバーベキューの説明をしてニコリと笑うと、皆を見回して口を開いた。
「それじゃあ国の垣根なく、これからも一年生同士皆で協力していきましょう!」
「はい!」
ローレンツ先生の言葉に皆が頷くと、バーベキューの始まりだ。今日はスファレに襲撃されたりしたが、今この時間だけは皆で楽しもう。わたしはそんなことを思いながらスピネルと一緒に串を焼いてエデルシュタインの皆とバーベキューを楽しんだ。
しばらく食事を楽しむと中央のテーブルに一年生代表が集まっていることに気が付いた。
「スピネル、あそこのテーブルに皆集まっているようです!」
「そうみたいだな。とりあえず二人で挨拶に行くとするか」
わたしがスピネルを連れて近づいていくと、ドロッセルがこちらに気付いて笑顔で挨拶をかけてくる。
「あら、クリス。ごきげんよう!」
「ドロッセル! 今日はお疲れさまでした!」
わたしがドロッセルに挨拶をすると、ミステルやシリウスも声をかけてくる。
「クリス。こちらから声をかけに行こうと思っていたところだったんだ」
「ええ、今日はありがとうございました。クリス」
「そんな! むしろ相手の狙いがわたしだったのですから、お礼を言われるようなことではありません!」
シリウスの言葉にわたしは慌てて首を横に振る。それを見た三人はきょとんとした顔をわたしに向ける。
「な、なんでしょうか……」
三人はスファレの襲撃で嫌な思いをしたはずだ。もしかしたら、わたしの友達をやめたいと言い出すのではないか。そう思うと途端に胸が苦しくなってきて、わたしは近くに立っていたスピネルの服の裾をギュッと掴む。
「クリス?」
そんなわたしの様子に気付いたのか、ドロッセルが心配そうな表情で声をかけて来た。
「……わたくし、クリスには感謝していますのよ」
「感謝……ですか?」
「ええ。だって、クリスは自分が危ない状況でも、皆を助けようとしてくれたのでしょう? わたくしだったら怖くて一人で逃げ出してしまうかもしれませんわ」
それを聞いたミステルとシリウスも大きく頷く。
「ああ。クリスのせいで狙われたと言うが、クリスがいなくてもスファレは襲撃してきたかも知れないだろう? 僕もクリスには感謝している」
「ええ。それに今日の課外活動はクリスのおかげでとても楽しかったですよ。一緒に花冠を作ったり牧場でムイムイと触れ合ったり……なので、クリスは何も気にすることはありません」
そんな風に皆が思っていたとは思わなかった。その言葉を聞いたわたしはそれでも自信が持てずにスピネルを見上げる。
「スピネル……」
「今日の事件はクリスのせいじゃない。悪いのはスファレで、守れなかったのは俺の落ち度だからな」
「違います! スピネルはシュヴァインと戦ってくれたではありませんか!」
わたしがブンブンと首を横に振るとスピネルが優しく頭を撫でてくれる。
「そういうことだ。皆も今のクリスと同じことを思っているんだ。クリスが皆を守ったから、今ここに皆がいるんだ」
そう言ったスピネルは俯いたわたしの背中を支えてくれる。
「ほら、クリス。顔を上げろ」
「でも……」
「大丈夫だ、俺がついてる」
そう促されたわたしが恐る恐る顔を上げると、そこには笑顔の皆の姿があった。
「クリス、これからもよろしくお願いしますわね!」
「ああ。これからも一緒に競い合っていこうじゃないか、クリス」
「よろしくお願いします、クリス」
「皆……!」
わたしは皆が受け入れてくれたことが嬉しくて、涙を拭うと皆に満面の笑顔を向ける。
「はい! これからもよろしくお願いします!」




