王女達のお茶会
「おはようございます、クリスティア様」
「おはようございます、ローゼ!」
わたしはいつものやり取りをして起床する。もうローゼに起こしてもらわなくても、毎朝決まった時間に起きることはできるので、習慣となった毎朝の挨拶を微笑みながら交わす。
「お姉様もおはようございます!」
「……にゃあ」
隣のベッドに寝ているセレスタお姉様に一応声をかけるが返事がおかしい。起きてはいるようだが、上体を起こしそのまま毛布に突っ伏したところを見るに、まだ寝ぼけているのかもしれない。
寝ぼけている様子のセレスタお姉様のためにハーブティーを淹れようと思いながら、寝床で丸まっているむーちゃんにも声をかける。
「むーちゃんもおはようございます! 今日も護衛よろしくお願いしますね!」
「む~!」
むーちゃんも張り切っているようで、自慢の短い前足をピコピコ動かしている。
今日は闇の日で講義はお休み。昼頃からドロッセルとセレスタお姉様と一緒にお茶会をする予定になっているのだ。
スピネルも用事があって今日のお茶会には不参加なので、むーちゃんがわたしとセレスタお姉様を護衛してくれることになっているのだ。
張り切っているむーちゃんを撫でた後、着替えをして、ハーブティーを淹れる。学園に来てしばらく経つので朝の支度も段々と慣れて来た。
ハーブティーが入る頃にはセレスタお姉様も眠い目をこすりながら起きて来るので、一緒にハーブティーを飲んでからのんびりと食堂へ向かう。
食堂ではわたし達きょうだいがいつも同じ場所に座るので、今ではそこが指定席のようになっている。わたし達は朝食を受け取ると、その場所に既に座っているきょうだいに声をかける。
「おはようございます!」
「おはよう、クリス」
休養日なので席についている者は少なく、今日はスピネルとエメラルお兄様しかいなかった。
二人に挨拶をしてセレスタお姉様と一緒に朝食をとる。
今日の朝食は外側をカリッと焼いたサンドイッチと温かいトウモロコシのスープだ。わたしはそれにデザートのヨーグルトを付けてもらった。
「スピネルは町に行くのですよね?」
「ああ、休みになったら行こうと思ってたんだ。面白い物があったら教えてやるから、クリスも今度一緒に行こうな」
「是非お願いします! わたしも町に行ってみたいです!」
わたしは行きの魔動車の中で見た町を思い出し、期待に胸を膨らませる。スピネルはエデルシュタインにいた時から一人で町に出歩いていたので、探索するのは得意だろう。どんな土産話を持ってきてくれるのかを楽しみにしながら、わたしはサンドイッチにかじりつく。
そんな話をしていると食事も終わり、二人とは別行動を始める。
「それじゃあ、クリス。また夕食でね」
「はい、お兄様! むーちゃんの調査よろしくお願いします!」
わたしはエメラルお兄様にペコリと礼をすると、自分の部屋へと戻ることにした。エメラルお兄様は今日一日、講義棟の図書室や魔獣研究会でむーちゃんのことを調べてくれるそうだ。
エメラルお兄様に任せきりになってしまうのは心苦しいが、わたしもお茶会の準備をしなくてはならないので、今日はあまり時間の余裕がない。また今度お礼をすることにしてとりあえずはドロッセルとのお茶会を成功させることを目標に動き始めた。
「そろそろでしょうか、お姉様……」
お茶会の準備が終わって昼頃、わたしとセレスタお姉様は水の庭の入り口でドロッセルの到着を待っている。
「学園でのお茶会で誰かを招くのは初めてなので、少し緊張します……」
「わたくしがついていますし、きちんと準備もしましたもの。きっと大丈夫ですわ、クリス」
そんな会話を交わしていると約束の時間になり、少し離れたところに人影が見えた。
こちらに近付いて来た人影はやはりドロッセルだったようで、本日の主催者であるわたしとセレスタお姉様の二人で出迎えの挨拶をする。
「ごきげんよう、本日はよろしくお願いしますわ。ドロッセル殿下」
「まあ! セレスタ殿下におかれましては、本日も美しくていらっしゃいますのね! お招きいただきありがとうございます!」
「ドロッセル、今日はよろしくお願いしますね!」
「ええ、クリスも招いてくれて嬉しいですわ! よろしくお願いしますわね!」
ドロッセルは憧れのセレスタお姉様に会えたことで、随分と機嫌が良いようだ。普段の数割増しでニコニコと笑っている。わたしも挨拶を終えると、セレスタお姉様と二人でドロッセルをお茶会の席へと案内する。
今日のお茶会は円形のテーブルに三人で向かい合う形で準備をしたので、わたしの右隣にセレスタお姉様、左隣にドロッセルが座る形になっている。
「それではお茶会を始めましょう!」
三人で席に座ると、お茶を一口飲んでお茶会が始まる。まず、わたしは本日のお客様でセレスタお姉様の方を向いてニコニコと笑っているドロッセルに話しかけることにした。
「それにしてもドロッセルは随分と嬉しそうですね?」
「嬉しいに決まっていますわ! あのセレスタ殿下とお茶できるなんて……わたくし、今日をとても楽しみにしていましたもの!」
ドロッセルに話を振ると、熱のこもった瞳でセレスタお姉様がどのように自分を助けてくれたのか、どれだけ勇気付けられたのかという話を始めてくれた。
しばらくドロッセルが話し続けていたが、それを聞いたセレスタお姉様はお茶を一口飲むとニコリと微笑んだ。
「ファルベブルクの姫君にそう言ってもらえて、わたくしも嬉しいですわ。これからはクリスのお友達としてよろしくお願いしますわね、ドロッセル殿下」
「そんな、殿下だなんて他人行儀な呼び方はやめてくださいませ! クリスと同じように呼び捨てで構いませんわ!」
キラキラと輝いた瞳をセレスタお姉様に向けるドロッセルは、顔を赤くしながら「もし良ければ」と言い始める。
「わたくしもセレスタ様と呼んでもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんわよ。これからもよろしくお願いしますわね、ドロッセル」
「はい、セレスタ様!」
そう言ったドロッセルは今日一番の笑顔を浮かべて大きく頷く。そんな二人のやり取りを見ているとわたしもつられて楽しくなってしまう。
三人でニコニコと笑っていると、話題はわたし達一年生の話へと変わっていく。
「ドロッセル、クリスは皆と仲良くできているかしら?」
「もちろんですわ、セレスタ様! 初めはムイムイを連れた小さな王女と噂になっていたので、皆興味深くても話しかけることができませんでしたの」
ドロッセルはそこで言葉を一旦区切ると、「でも」と続ける。
「最初の講義の時間にボタニガルテンのミステル様がチェスの大会をしようと言い出して、皆で勝負をして親睦を深めたのです! あの時のクリスはとても強かったですわ!」
ドロッセルが興奮してそのチェス大会の様子を話し始める。
「む~」
わたしが目立つ原因となったむーちゃんの顎を指でコチョコチョと撫でてあげると、むーちゃんは楽しそうに目を細めている。
「それで優勝したのがクリスでしたの! わたくしは負けてしまいましたが、一年生皆の親睦を深めることができて楽しかったですわ!」
「わたしもドロッセルや皆と仲良くなれて良かったです! これからも一緒に頑張りましょうね!」
ドロッセルがわたしを見てそう言ったので、わたしもそれに答えてこれからの健闘を称え合う。それを見たセレスタお姉様もわたしが上手くやっていけそうだと思ったのか、ニコニコと笑顔を浮かべている。
それからは三人で仲良くお茶の時間を過ごした。
半分はドロッセルがセレスタお姉様に助けてもらったことから始まり、セレスタお姉様に憧れて話し方を変えたこと、学園で再開できることを楽しみにしていた話をして、もう半分はわたしとドロッセルが一年生でどのように過ごしているのかをセレスタお姉様に向けて話しているうちにお茶会は終了の時間となっていた。
「そろそろ日が傾いてきたようです。ドロッセル、お姉様」
わたしがお茶会の終了を伝えると、ドロッセルは少し残念そうに眉を寄せる。
「あら、もうそんな時間ですのね……セレスタ様やクリスと過ごす時間が楽しくてあっという間に終わってしまった気がしますわ……」
「わたくしも楽しかったですわ、ドロッセル。また今度一緒にお茶会をしましょうね」
「ドロッセル! また講義を一緒に受けられるのを楽しみにしていますね!」
最後に三人で挨拶を交わし合って楽しかった三人のお茶会は幕を閉じた。




