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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第二章 学園で楽しく過ごしたい!
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魔法研究

 研究室の掃除をしている間、会長には一度寮に戻ってもらった。食事と入浴、着替えのためだ。わたしとスピネルが片付けを終える頃には、会長が手にバスケットを持って戻って来た。


「お、大分片付いたみたいだね」


 研究室が片付いて目を丸くしている会長に、スピネルは呆れたように声をかける。


「他人事じゃないですよ、会長。今日は俺達が片付けますが、次からはきちんと片付けておいてください」

「ああ。ありがとう、二人共」


 会長は片付いていく部屋を見ながら研究室のテーブルで昼食を食べ始めた。モグモグと口を動かしながら、会長は片付けを終えたわたし達の方を向く。


「それで? 今日は研究をしに来たんだっけ?」

「はい! わたしも高等魔法を使ったり、魔法の研究をしたいのです!」


 わたしが元気良く手を挙げると、会長は考えながらも困ったように眉を寄せる


「とは言ってもまずは魔法の勉強からかな……魔法学の講義はもう受けた?」


 そう言いながら会長がこちらを見て来たので、わたしはスピネルと顔を見合わせ二人で頷く。


「今日の午前中に受けました! そこで初級の属性魔法を使えるようになったのです!」

「ああ、初級魔法ね。魔法をどうやって起こすかは教わったのかな?」

「確か……空気中の魔力を使って呪文を唱えるんですよね?」

「そうだね。それと同じように固有魔法では自分の魔力を多く使うんだ。だから、同じ固有魔法を持っている者でも、魔力の量によって効果が違ったりするんだ」

「そうだったのですね……勉強になります!」


 会長が言っているのは、もし『生命活性』をスピネルが持っていても、わたし程の効果は出ないということだ。それだけ個人の魔力量が固有魔法には関係するらしい。


「そこで問題です。高等魔法は空気中の魔力と自分の魔力、どちらの魔力を使うでしょうか?」


 会長が意地の悪い顔をして質問してくる。わたしは少し考えて会長に答える。


「自分の魔力……でしょうか」

「どうしてクリスはそう思うんだい?」

「高等魔法を使うことに自分の適性が必要なので、空気中の魔力ではなく自分の魔力を使うと思いました!」

「ちなみにスピネルはどう思う?」


 会長はわたしの回答を聞くと、嬉しそうにスピネルの方を向いて問いかける。問われたスピネルも顎に手を当てて、少し考えた後に答えを口にする。


「俺はクリスと逆で空気中の魔力を使うと思います。属性魔法を使うためには空気中の魔力が必須ですから……」

「二人が違う答えを出してくれてわたしは嬉しいよ!」


 会長はわたし達の答えを聞いて楽しそうにしている。わたし達が首を傾げると会長が答えを教えてくれた。


「正解は……両方だよ!」


 わたしはその答えを聞いて一瞬ポカンと口を開けて正気に戻る。


「ずるいですよ、会長! どちらかって言ったじゃないですか!」

「どちらかは聞いたけど両方じゃないとは言ってないからね」


 肩をすくめた会長は立ち上がり、片付いた研究室を横断して壁の方へ向かって歩いていく。わたし達がそれを見送ると、ペンを取り出して壁の紙に大きく「魔法とは」と書いた。


「いいかい? 二人とも。まず魔法って言うのは何だと思う?」

「自分の魔力、空気中の魔力を変換してある現象を起こすこと……でしょうか?」

「そうだね。魔力を変換するためにわたし達は呪文を使うんだ。属性魔法がこれだね」


 今言ったことを次々と紙に書いていく。書き終えると会長はまた話を始める。


「では固有魔法はどうやって発動しているのかな?」

「頭の中に浮かび上がる固有魔法に意識を集中して魔力を注ぎ込みます!」

「その通りだ。属性魔法は空気中の魔力を変換。固有魔法は自分の魔力を変換。それぞれ魔力を変換することで魔法は発動しているよね?」


 わたしとスピネルはコクリと頷く。会長も頷いて話をそのまま進める。


「なら、空気中の魔力で固有魔法を使いたい場合はどうなるかな?」


 わたしはそれを聞いて少し考える。今までの会話からなんとなく会長が何を言いたいのか分かり始めて来た。だが、それには一つ足りないものがある。


「それは……呪文が分からないですが、呪文を唱えて魔法を使えばいいのではありませんか?」

「そうだね。でもクリスもスピネルも固有魔法を発動するときは口に出して呪文なんて唱えていないよね」

「もしかして……頭の中に浮かんでくる言葉が呪文なんですか?」


 スピネルも段々と会長が何を言いたいのか分かってきたようだ。顎に手を当てて考えながら、スピネルは会長を見つめる。


「その通り! だから固有魔法でも属性魔法でも、魔法を使う際には必ず呪文を唱えているということになるよね!」


 会長は気分が乗って来たのか徐々に興奮してきたように見える。わたし達は早口で話し始める会長を見ていることしかできない。


「そこで出てくるのが高等魔法というわけさ! 複数の魔法の効果を併せ持つ魔法を自分達で作り出してしまえばいいという発想だね! 呪文は属性魔法よりも複雑だけど、普通の属性魔法でどのようなことが起こっているのか分かれば、実際の効果を持った呪文を作り出すことは難しいことではないからね! そうしてできたのが自分だけの新しい魔法と言うわけさ! どうだい二人とも! 高等魔法の素晴らしさを分かってくれたかな!?」


 立て板に水の如く一息で話し終えた会長はふうと一息吐いて口を閉じた。わたし達はまだ会長の言っていたことを処理しきれていないので、口を開けたまま動きが止まっている状態だ。


 とりあえず何か言わなければまた会長が長々と話し始めてしまうと思ったわたしは、会長に向かって口を開く。


「そうですね、自分で魔法を作ることが出来るのは素晴らしいと思います……」

「クリスも分かってくれたみたいで嬉しいよ! いや、本当だったら高等魔法の素晴らしさを伝えるため皆にもっと興味を持ってもらいたいんだけど、複数の属性に適性がないと高等魔法は使えないからね! この学園に通っている者でも高等魔法を使えるのは数えるほどしかいないんだ! その点クリスとスピネルはいい人材だよ! 何せ複数の属性に適性があって、その上好奇心旺盛で物怖じしないからね! 二人がいればもっと高等魔法の有用性を皆に教えることが出来るだろう!」


 わたしの言葉では会長を止めることが出来なかった。会長はペラペラとまくし立てると、スッキリしたような顔でわたしとスピネルの方を見てくる。


「私はクリスとスピネルが入会してくれて本当に嬉しかったんだ!」

「もう十分伝わりましたから、少し休んでください会長」


 スピネルが宥めるようにそう言うと会長も落ち着きを取り戻す。昼食と一緒に食堂で貰って来た水筒を手に取り、喉を潤した会長は口を開いた


「えーっと……どこまで話したっけ?」

「新しい魔法を自分で作り出せるというところまでです」

「そうそう。講義で習う魔法は生活や魔獣討伐を楽にするために編み出されたもので、最低限のことしかできないようになっているんだ。それなら組み合わせて使うことが出来ればもっと便利になると二人も思うよね?」


 会長からの問いかけにわたしとスピネルはコクリと頷く。


「例えば火と水の魔法を使える人がいたら高等魔法でそのままお湯を出すこともできる。水と風なら氷の嵐で魔獣を一網打尽にすることもできる。生活から魔獣退治まで高等魔法は無限の組み合わせがあるんだ!」


 その例を聞いてわたしとスピネルは以前の草原のお茶会で使ってしまった火柱の魔法を思い出す。あれも高等魔法ではなかったが、結果として似たような事象を起こしていたことになる。


 わたしはそのことについて会長に訊いてみる。


「会長、もしも火と風の適性を持つ人が火魔法で魔獣に火をつけて、風魔法で増幅させた場合は高等魔法にはならないのでしょうか?」

「それは属性魔法の組み合わせで高等魔法とは少し違うかな……属性魔法の組み合わせが足し算だとしたら、高等魔法は掛け算なんだよ」


 こればかりは実演しないと難しいと言いながら会長は頭をひねる。


「よし! それじゃあ一度外で実演して見せようか! 今から森に行くよ!」


 そう言って手に持っていたペンを放り出すと、スタスタと研究室の外に向かって会長は歩き出してしまった。それを見たわたしとスピネルは目を丸くし、慌ててスピネルが会長を止めに入る。


「今から行くんですか、会長!?」

「ああ、早く教えた方が研究にも身が入るだろう?」

「それはそうかもしれないですが、今の時間から森に行くのは反対です! クリスの護衛として、危険な場所に連れていくわけには行きません!」


 スピネルが必死で止めると、会長も分かってくれたようで足を止める。そのまま少し考え込むと別の場所を提案してきた。


「それなら訓練場に行こうか。あそこなら多少強力な魔法を使っても問題ないだろう?」

「問題はないかもしれませんが、誰かが使っていたらどうするんですか?」

「そうしたらまた別の日に森へ向かうことにしよう。それでどうだい?」

「それなら……分かりました」


 会長の言葉にスピネルが渋々と頷いたことで、わたし達は訓練場に行くことが決定した。

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