神学の講義
「それじゃあ、神学の講義を始めますよ!」
ローレンツ先生がそう言って講義が始まる。わたし達も昨日教えてもらった時間割通り、神学の講義だと分かっているので、教科書を開いて見ているところだ。
隣に座っているスピネルと一緒にわたしは神学の講義を聞きながら必要なことは自分で教科書に書き込んでおく。
神学の講義では神様がどのようにしてわたし達に恩恵を与えてくれたのか、それによってどう変わって来たのかという今までの歴史の勉強が主にしていくようだ。
「皆は神授式で聞いたことがあるかもしれないけど、始まりの昔話も一応話しておこうか」
それはわたしが『精神活性』を授かる前、神授式で聞いた神話だった。その時は体調不良と魔法を授かる興奮でほとんど耳に入っていなかったので、改めて教えてもらえるのであれば聞いておこう。
わたし達が目を向けると、ローレンツ先生は始まりの昔話と言われている神話を話し始めた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
始まりは大陸の中央にあった一つの祭壇だった。
当時魔法を使えなかった人々は神に祈りを捧げて毎日を過ごしていた。
神を崇める人々は祭壇を囲むように神殿を作り、その周りには人が集まり国が作られていった。
人々の信仰心が高まったことに喜んだ神は人々に魔法を授けた。
そうして神殿を中心に作られた国は“神聖王国”ハイリヒクロイツと呼ばれるようになった。
ハイリヒクロイツの国王、初代エレスチャル陛下は周囲の国を治めるよう信徒に命令した。
強い者、賢い者、美しい者。
三人の敬虔な信徒はそれぞれ別の場所へと向かった。
強い者は鉱山が豊富な土地へ行き、腕力を活かして魔石を見つけた。
その者が治める国は“魔石王国”エデルシュタインと呼ばれるようになった。
賢い者は自然が豊富な土地へ行き、知識を活かして植物の研究をした。
その者が治める国は“植物王国”ボタニガルテンと呼ばれるようになった。
美しい者は人が豊富な土地へ行き、美貌を活かして芸術を発展させた。
その者が治める国は“芸術王国”ファルベブルクと呼ばれるようになった。
それから数百年、ハイリヒクロイツ王国と三人の信徒が作り出した国は神に授かった魔法と共に現在まで続いているのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
話を終えると、一度咳払いをしてローレンツ先生は教室の皆を見回す。
「なので、皆も神様に感謝して日々を過ごさないといけないということですね」
わたしはその言葉を聞いて大きく頷く。魔法がなければわたしのように魔力が多い子供は魔力を制御できずに苦しい思いをするのだ。他の者より魔法の恩恵を強く受けているわたしは、より一層神様に感謝しなければならないだろう。
そう考えたわたしが神様に感謝を捧げていると、ローレンツ先生は講義を進める。
「それじゃあ次は魔法を得たことによって、生活がどう変わったかという話をしますね」
そう言いながらローレンツ先生はコトリと魔石を目の前の机に置いた。皆はその魔石を興味津々に見ている。
「これがエデルシュタインでとれる魔石、魔力をため込むことができる石です。魔法を得たことによって人は魔力を扱えるようになりました。そのため、魔力をため込むことが出来る魔石は、現在の生活に欠かせない物となっています」
他の学生で魔石を食い入るように見ているのはエデルシュタイン以外の学生だ。それを見たわたしはエデルシュタインと他国の違いを感じて、目を丸くする。
わたしは隣にいるスピネルにこっそりと話しかけた。
「スピネル、他の国では魔石は珍しいのですか?」
「エデルシュタインほど魔道具や魔石は出回っていないと聞いたことがあるな……詳しくはドロッセル殿下やミステル殿下に訊いてみたらどうだ?」
「後で聞いてみましょう! それにしても、わたしの身の回りには魔道具がたくさんあったので、皆が珍しそうに見ているのが新鮮な気持ちです!」
皆が魔石に興味津々で楽しそうに見ているのだ。やはり他国ではあまり魔石や魔道具は出回っていないのだろう。
それを見たスピネルも同じように感じたのか、頷きながらローレンツ先生の話を聞いている。
「皆さんの身近にも魔石はあります。それは杖に嵌っている宝石です」
ローレンツ先生が指示棒代わりに使っていた杖を傾けると、そこに嵌った黄色の宝石がキラキラと輝く。
「宝石は純度の高い魔石を研磨、加工した物で、これがなければ魔導器が作れず、魔法が使えなくなるとまで言われていますね」
わたしは首を傾げる。確かむーちゃんは魔導器なしでも魔法は使えたはずだ。考えを整理するため、わたしはスピネルに話しかける。
「確かむーちゃんは魔導器なしでも回復魔法を使っていましたよね?」
「あれは特殊な場合だな。固有魔法は魔導器なしでも使えるが、呪文を唱える属性魔法は魔導器がないと使いにくいそうだ。クリスだって固有魔法は魔導器なしで使えただろう?」
「それもそうですね。よく考えたらわたしも使っていました」
そこまで言ってわたしは、はたと気付く。
「ということはむーちゃんは回復の固有魔法を持っているのでしょうか?」
「かもしれないな。調べてみないことには分からんが……」
「むー!」
わたしとスピネルがむーちゃんを見ると楽しそうに前足を上げているところだった。それでは何を伝えたいのか分からないが、可愛かったのでわたしは苦笑しながらむーちゃんを優しく撫でる。
それに他のムイムイも土魔法は使えるそうなので、むーちゃんが回復魔法を使えることもあるだろうと納得する。
考えを終えると、わたしは再びローレンツ先生の言葉に耳を傾ける。今は杖を振りながら宝石の説明をしているところだった。
「――ということで、エデルシュタインは宝石や魔石を他の国に渡す代わりに、ボタニガルテンから植物、ファルベブルクから娯楽や芸術を取り入れて三国で協力関係を結んでいるのです」
そこまで言うと話が一段落したようで、ローレンツ先生も一息つく。すると丁度講義の終了時間になったのか、どこからともなく鐘の音が聞こえてくる。
「おっと、もう講義終了の時間ですね……それじゃあ、神学の講義はここまで! 次は魔法学の講義だから準備してきますね!」
ローレンツ先生はいつも通り微笑むと、神学の講義で使った教科書や魔石を持って、教室から退出していった。
講義の合間には休み時間が設けられており、その間に次の講義の準備をするのだ。わたしとスピネルは早速ドロッセルのところに魔石のことを聞きに行く。
「ドロッセル、少しお時間大丈夫ですか?」
「ええ、構いませんわよ。どうしました?」
「セレスタお姉様にお茶会の話をして許可を貰えました!」
まずはセレスタお姉様と一緒に今度お茶会をすることを伝えると、ドロッセルは分かりやすく機嫌が良くなる。満面の笑みを浮かべたドロッセルはとても嬉しそうだ。
「まあ! 本当ですの!? ありがとうございます、クリス!」
「また後日お茶会の日程はお知らせしますね」
「楽しみにしていますわね!」
わたしの言葉にドロッセルも笑顔のまま頷く。話も一段落したところで先ほど気になったことをドロッセルに質問してみる。
「ローレンツ先生の説明で気になったのですけど、ファルベブルクでは魔石や魔道具はあまりないのですか?」
「そうですわね……」
ドロッセルは少し考えるように扇子で口元を隠すと、扇子を閉じて話し始める。
「魔石を直接見ることはあまりありませんが、魔道具はいくつか知ってますわよ」
そう言ってドロッセルは指折り魔道具を数え始める。そこで聞いたのは魔除けの魔道具や感知の魔道具などわたしでも知っている物ばかりだった。
ドロッセルは手に持った扇子を広げながらそう言えばと付け加える。
「最近は魔動車がファルベブルクの貴族の間で広がり始めましたわね」
「そうなのですか?」
ローレンツ先生が言う通りエデルシュタイン以外だとあまり魔道具は広がっていないようだ。エデルシュタインでは魔動車もかなり見かけるので意外だった。
「エデルシュタイン以外でも、もっと魔道具を普及していけると良いのですけど……」
わたしがそう言うとドロッセルも少し考えて笑顔を見せる。
「クリスもわたくしも国を背負う王族ですもの! これから一緒に広げていけばよろしいと思いませんこと?」
「そうですね! 一緒に頑張りましょう、ドロッセル!」
ドロッセルとわたしがこれからのことで決意を新たにしていると、講義の準備をしていたローレンツ先生が箱を抱えて戻って来た。
「皆、席についてください! 次は魔法学の講義を始めますよ!」
ローレンツ先生の号令を受けたわたし達は自分の席へと座る。次は待ちに待った魔法学の講義の時間だ。どんな魔法を見せてもらえるのか、わたしは期待に胸を膨らませた。




