勝負と友情
表彰を受けたわたしがスピネルの元に戻ると、エデルシュタインの皆も笑顔でわたしを迎えてくれた。
「おめでとうございます、クリスティア殿下!」
「やったな、クリス!」
「ありがとうございます、スピネル! 皆さんも応援ありがとうございました!」
勝利を受けて皆でワイワイと話していると、代表三人がこちらに向かって歩いて来るのが見えた。わたしはスピネル達に下がってもらうと三人に礼をする。
「シリウス様、ミステル様、ドロッセル様。この度は勝負いただき、ありがとうございました」
「楽しい勝負でしたね、クリスティア殿下」
「いや、こちらこそ。まさか負けるとは思わなかった、クリスティア様」
「次こそはわたくしが勝ちますわ!」
三者三様に健闘をたたえ合うと、シリウス様が試合前に交わした会話について褒めてくる。
「それにしても、クリスティア殿下はチェスをしたことがないと勝負の前に言っていましたよね? まさか、油断を誘う作戦だったとは思いませんでした」
「違います! あの時点では本当にチェスをしたことがなかったのです!」
しかし、別に騙そうと思って言ったことではないので、慌ててわたしが首を横に振るとシリウス様が目を丸くしてわたしを見つめる。
「それでは本当に初めてチェスをしたのですか? 信じられません……」
「初めてチェスをした者に僕は負けたのか……これでも結構練習していたのだが……」
シリウス様だけではなく、完全な初心者に負けたと言われたミステル様も衝撃を受けているようで俯いている。
そんな中、ドロッセル様がわたしの手を取って話しかけてくる。
「それよりクリスティア様! 勝負したので、わたくし達はもうお友達ですわよね?」
「お友達……ですか?」
「ええ! これからはクリスと呼び捨てにしてもよろしいでしょうか?」
ドロッセル様はちらりとスピネルを見てそう言ってくる。どうやらわたしとスピネルの会話を聞いて、わたしのことを名前で呼び捨てにしたくなったようだ。
わたしは新しい友達の言葉に胸をときめかせると、ドロッセル様に笑顔を向ける。
「もちろんです! よろしくお願いしますね、ドロッセル様!」
「わたくしのことも呼び捨てで良いですわ、クリス」
「分かりました、ドロッセル!」
「お友達になったことですし、早速午後からお茶会をしませんこと?」
「本当ですか!? 嬉しいです、ドロッセル!」
わたし達が二人でキャアキャアと喜んでいると、後の二人も話に加わって来る。
「僕もクリスと呼ばせてもらってもいいかな? 君とはライバルでいたいと思っているからね」
「分かりました! ミステル様も呼び捨ての方が良いでしょうか?」
「ああ、呼び捨てで構わないよ」
「それなら私もシリウスと呼んでもらえると嬉しいです、クリス」
「はい、よろしくお願いします。ミステル、シリウス!」
四人でワイワイと盛り上がっているとローレンツ先生の声がかかる。
「はいはい。四人とも仲良くなったのは嬉しいですけど、そろそろ寮に戻らないと昼食がパンとスープになってしまいますよ!」
そう言ってローレンツ先生は時計を指差す。確かにもう直ぐ昼食が終わってしまう時間だ。わたし達は慌てて片づけを済ませると寮の食堂に向かうことにした。
「それでは後ほどお茶会でお会いしましょうね、クリス!」
「ええ、楽しみにしていますね! ドロッセル! それでは急ぎましょう、スピネル!」
ドロッセルと午後のお茶会の約束をして、わたしはスピネルと一緒に寮まで戻ることにした。その途中で楽しそうにスピネルがわたしに話しかけてくる。
「心配することなかっただろう? クリス」
「そうですね! わたしが緊張していただけで皆良い人ばかりでした!」
スピネルの言う通りドロッセルやミステル、シリウスとチェス大会を通して仲良くなることができたし、他の学生達も楽しそうに盛り上がっていた。これからの学生生活も楽しくなりそうだと思いつつ、わたしが笑顔で答えるとスピネルも満足そうに頷いてくれた。
「さあ急ぎましょう、スピネル!」
わたし達は食堂に到着すると急いで食事を受け取りに行く。今日の昼食は揚げた魚の切り身が挟まれたパンとサラダ、スープや飲み物がついており、とても美味しそうだ。
わたしとスピネルがいつもの席に向かうと、遅めの昼食のせいかきょうだいは誰も座っていないため二人で席に着く。わたしがキョロキョロと辺りを見回すと、先ほどまで教室で一緒だった一年生しか食堂には見当たらない。
「一年生以外の学生はあまりいないのですね」
「時間も遅いし、上級生は午後の講義もあるからな」
わたしはパンをモグモグと咀嚼しながら隣に座ったスピネルの方を向くと、午後の予定について話すことにした。
「スピネルも午後はドロッセルとのお茶会に参加するのですよね?」
「ああ、クリスを一人にはできないからな。護衛として参加するつもりだ」
スピネルは苦笑しながらわたしの方を見る。わたしはそんなに心配されるようなことをしているだろうか。スピネルを軽く睨みつけると、スピネルは心配そうな表情で話し始める。
「初めてのチェスで経験者に勝つだけならいいが、他にも何かしそうで心配なんだ」
強力な魔法を魔獣相手に使った時のように何かするのではないか、そんな響きがスピネルの言葉に含まれていることを察したわたしはシュンと頭を下げる。
「そんな顔をするな、クリス。もうクリスが無茶しなくても良いように俺とむーちゃんがいるんだ」
「むー!」
そんなわたしを見たスピネルは慰めるように頭を撫でてくる。むーちゃんも真似するように小さな前足をわたしの頭に乗せて動かしてくる。二人の優しさを感じて心が温かくなったわたしは、頭を上げて微笑みかける。
「二人ともありがとうございます!」
むーちゃんもスピネルもわたしのための護衛なのだ。何も心配することはない。そう思ったわたしは前向きな気持ちになる。
「もっと俺達を頼ってくれればそれでいいんだ」
照れくさくなったのか、スピネルはわたしの頭を一度グリグリと強く撫でて手を離す。
「ありがとうございます、スピネル! むーちゃんも!」
わたしはこんなにも自分のことを心配してくれる友達を持って幸せ者だ。そんなやり取りをしながら昼食を終えると、わたし達はドロッセルと約束していた場所へと向かう。




