一年生代表
入学式の翌日、のんびりとした朝の時間を過ごした後、わたし達は食堂に向かう。
「それでは行きますわよ、クリス」
「はい! お姉様!」
食堂には既にスピネルが到着しており、壁に寄りかかってわたしのことを待ってくれていたようだ。こちらに気付いたスピネルが手を挙げて、わたしに挨拶してくる。
「おはよう、クリス」
「おはようございます、スピネル!」
朝食を受け取って皆で会話しながら食事を済ませると、わたし達は講義棟の一年生教室に向かった。
今日からは外国の学生と一緒に講義を受けると思うと、わたしは急に緊張してきた。
「何だか緊張しますね。他の方と仲良くできるでしょうか……」
「大丈夫だ。クリスは何も心配することない」
「そうでしょうか……」
スピネルが笑ってそう言ってくれるが、本当にそうだろうか。わたしは傍らを飛んでいたむーちゃんを抱きしめると、撫でながら教室へと向かう。
学園では低学年のうちは皆で揃って講義を受けて、高学年になると自分の興味がある講義を自由に選択できるようになるらしい。
しばらく講義棟の中を歩くと、わたし達は一年生の教室に到着した。わたしは胸に手を当てて一度深呼吸をする。
「ふ~~~」
「おい、クリス。開けるぞ」
スピネルはわたしが深呼吸していることも意に介さず、ガラリと教室の扉を開く。わたしは慌ててスピネルに目を向ける。
「ちょ、ちょっと待ってください、スピネル! まだ心の準備ができていません!」
「いいから、ほら入るぞ。ここで立ち止まっている方が目立つだろう?」
「それはそうかもしれませんが……」
わたしは学園に来るまできょうだいくらいしか遊んだことがないので、まだたくさんの子供がいる環境に慣れていないのだ。入学式の挨拶で皆の前で挨拶はしたが、それとは別に身近で過ごす同級生相手だと少し緊張してしまう。
スピネルが悠々と歩いて教室の中に入っていくので、わたしも慌てて後を追いかける。
「スピネル! 一人にしないでください!」
スピネルが教室の青色に色分けされたテーブルに向かうと、わたしの座る椅子を引いてくれた。
「さあどうぞ、クリスティア殿下。こちらにお座りください」
スピネルは腹が立つほど綺麗な笑顔をわたしに向ける。
「…………」
わたしが軽くスピネルを睨みながら椅子に座ると、スピネルも肩をすくめながら隣の席に腰を下ろす。
「そんなに怯えなくても大丈夫だ、クリス」
「そうは言っても……」
青色のテーブルに座っているのはエデルシュタインの学生だ。寮で見覚えのある学生もいれば、プレナやマリンなども後ろの方に座っている。
ビクビクしながら辺りを見回すと、わたし達のいる青のテーブル以外にも赤と緑と黄のテーブルがある。それぞれにファルベブルク、ボタニガルテン、ハイリヒクロイツの学生が座っているようだ。
学生達がゾロゾロとテーブルに座り、全ての席が埋まる頃には始業の時間になっていた。
すると、始業の鐘の音を合図にしたかのようなタイミングで一人の男性が入室してきた。
「はい、皆さん。まずは学園への入学おめでとうございます! 私が皆さんを担当する教師のローレンツです! これからよろしくお願いしますね!」
前に立ったローレンツ先生は元気良く挨拶をすると、教室に座っているわたし達学生をぐるりと見回す。
「よろしくお願いします、ローレンツ先生」
皆がローレンツ先生に礼をすると、ローレンツ先生も頷いてニコニコとした笑顔で口を開く。
「うん。皆、元気がいいですね! まずは自己紹介にしましょう! それぞれの国で一年生代表を一人決めて挨拶してください!」
そんなローレンツ先生の言葉を聞いてわたしは周りを見回す。今年の一年生で一番身分が高いのは間違いなくわたしである。隣に座っているスピネルに小声で囁く。
「これはわたしが挨拶しなければなりませんよね……」
「もちろんそうだ。クリスの挨拶で今年の一年生の過ごしやすさが変わって来るかもな。頑張れよ」
「そんなあ……」
意地悪そうに口元を歪めているスピネルの言葉にわたしが嘆いていると、他のテーブルでは代表者が決まったようで周りからは立ち上がる音が聞こえてくる。
あまり目立ちたくはないのだが仕方がない。わたしも観念して立ち上がると、周りからジッと観察されている気がしてくる。
「代表が決まったみたいですね! それじゃあハイリヒクロイツから順番に挨拶して貰いましょうか!」
まず初めに挨拶するのは黄色のテーブルに座っているハイリヒクロイツだ。代表の少年は線が細くて穏やかそうな佇まいが印象的だ。彼は座っている学生を見回すと丁寧に礼をして、挨拶を始める。
「皆、初めまして。私はハイリヒクロイツの一年生代表、シリウス・キアストライトです。ハイリヒクロイツの学生共々、これから一年間よろしくお願いします」
それでシリウス様の自己紹介は終わりとなった。ローレンツ先生が拍手をしながら、シリウス様に声をかける。
「シリウス様、ありがとうございました! 皆、仲良く一年間を過ごしていきましょうね! 次はボタニガルテン、挨拶をよろしくお願いします!」
次の自己紹介は緑色のテーブルに座っているボタニガルテンで、眼鏡をかけた知的な印象の少年が代表のようだ。彼は一度ズレた眼鏡を指で直すと、挨拶を始める。
「僕はボタニガルテン一年生代表、ミステル・ボタニガルテンだ。今年の大魔法祭では負けるつもりはない。よろしく」
そう言ってミステル様がわたし達のいる青色のテーブルをチラリと見ると、ボタニガルテンの自己紹介も終了のようだ。
どうやら彼は去年の大魔法祭で優勝したエデルシュタインを敵視しているようだ。わたしも気合を入れ直さなければならない。
そう思っているとローレンツ先生の楽しそうな声が聞こえてくる。
「ミステル殿下もありがとうございます! 大魔法祭は学園の大きなイベントなので、皆で頑張りましょうね! 次はファルベブルク、よろしくお願いします!」
ファルベブルクの代表は少女のようだ。どことなくセレスタお姉様に雰囲気が似ており、フワフワした縦にくるくると巻かれた髪に目を引かれてしまう。扇子で口元を隠しながら彼女は声を発した。
「わたくしはドロッセル・ファルベブルク、ファルベブルクの王女ですわ! クリスティア様! あなたには負けませんわよ!」
そう言いながらドロッセル様は扇子を閉じて、わたしにビシッと向けてくる。
「よろしくお願いしますね、ドロッセル様」
そんなドロッセル様に対してわたしは微笑みを向けるが、内心ではどうして彼女がわたしの名前を読んだのか分からずに困惑してしまう。きっと『精神活性』がなければ取り乱していただろう。
そんなわたしの内心を知らないローレンツ先生は、手をポンと打つと楽しそうにドロッセル様へ声をかける。
「ドロッセル殿下のように教室内で競い合うことも大事ですよね! それじゃあ最後はエデルシュタイン、挨拶をお願いします!」
ローレンツ先生の言葉にハッとして我に返ったわたしは教室を見回すと、一度深呼吸をして挨拶を始める。
「わたしはエデルシュタイン一年生代表のクリスティア・エデルシュタインです。折角一緒の教室で学ぶのですから皆と仲良くしたいですし、大魔法祭も頑張りたいと思います。皆様、よろしくお願いしますね」
わたしが笑顔で礼をすると他の者がこれで終わりかという視線を向けてくる。他に何か言わなければならないことがあるのだろうか。
わたしが首を傾げながらローレンツ先生に目を向けると、ローレンツ先生は何度か頷いて口を開く。
「クリスティア殿下も素晴らしい目標です! 皆で頑張りましょう!」
ローレンツ先生はそこまで言うと一度言葉を区切り、わたしの方を見つめて来た。
「ところでクリスティア殿下。肩のところに浮かんでいる魔獣はなんでしょうか?」
どうやら皆の視線はわたしではなくむーちゃんに注がれていたようだ。むーちゃんを一度撫でてわたしは教室を見回した。
「この子はわたしの使い魔のむーちゃんです。むーちゃんとも仲良くしてあげてくださいね」
「む!」
わたしがニコリと微笑みながらそう言うと、ローレンツ先生が皆を見回してまとめに入る。
「今年は王族が多いみたいだね! クリスティア殿下にドロッセル殿下、ミステル殿下も! 皆がこれからどう成長していくのか楽しみです!」
ローレンツ先生がそう言ってわたし達一年生代表の自己紹介の時間は終了となった。
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