夕食と報告会
寮に戻ったわたし達が食堂へ向かうと、研究会の見学が終わった学生達が集まっているようで食堂は賑わいを見せている。
わたしとスピネルが夕食を受け取って、いつもの席になりつつある食堂の一角へ向かうと、既にきょうだいが集まっていたようだ。皆に礼をしてわたしとスピネルも着席する。
わたしが着席したことを確認したアレキサンダーお兄様は優しいまなざしでこちらを見つめてくる。
「今日はお疲れ様、クリス。新入生の挨拶も無事に終わったようで良かったよ」
「ありがとうございます、アレキサンダーお兄様! お兄様やお姉様の姿が壇上から見えて、とても安心して挨拶することが出来ました!」
「それは良かった。それじゃあ皆揃ったことだし食事を始めようか!」
わたしがそう言うとアレキサンダーお兄様も満足気に頷いて夕食の始まりだ。
「研究会の見学はどうだった?」
そう聞いて来たのはエメラルお兄様だ。わたしは満面の笑みを浮かべてエメラルお兄様に返答する。
「色々な研究会があって、とても楽しかったです! カーネリアお姉様の演武も見ることができましたよ!」
わたしが興奮気味にカーネリアお姉様の方を見ると、カーネリアお姉様も満更ではないような表情だ。
「それは良かった。クリスが喜んでくれたなら頑張って演武をした甲斐があったな」
「はい! カーネリアお姉様の演武は踊っているようでとても綺麗でした!」
「そうかそうか! そんなクリスにはおかずを少し分けてやろう!」
わたしがそう言うと、満足そうなカーネリアお姉様は自分のおかずをわたしに分けてくれた。今日の夕食はフーンのから揚げである。柔らかいフーンの肉に味付けをして揚げたもので、サクサクの衣に包まれた肉がとても美味しい料理だ。
「ありがとうございます、カーネリアお姉様!」
そんなやり取りをしながらわたし達は楽しく食事を進めていき、話題はわたしの研究会のことになった。
「それじゃあ、クリスは高等魔法研究会にしたんだね」
「はい、アレキサンダーお兄様! 内容はまだ難しくて分からなかったですけど、高等魔法を使えるのが今から楽しみです!」
「ご安心ください、アレキサンダー殿下。クリスのことは私が守ります」
「よろしく頼むよ、スピネル」
わたしがスピネルの方を向いて一緒に頷き合っていると、アレキサンダーお兄様も安心したようで胸を撫でおろす。
「それでそのリシアはどのような学生なんだい? 三年生ならセレスタと同じ学年だろう?」
「はい、アレキサンダーお兄様。リシアはとても成績優秀な学生ですわ。三年生で高等魔法を使えるだけあって、魔法の講義への出席を免除されているほどですわ」
セレスタお姉様が優雅に食事をしながら、アレキサンダーお兄様に会長の評価を告げる。わたしはその言葉を聞いて目を丸くする。
「会長はそこまで優秀だったのですね……」
「ええ。魔法については色々と教えてもらうと良いですわよ、クリス」
「確かに学生全体で見ても高等魔法を使える者は多くないからね。三年生で使えるというのはそれだけ優秀ということだろう。クリスも高等魔法を使えるよう頑張ってくれ」
「はい! わたしも頑張って魔法の研究をします!」
セレスタお姉様とアレキサンダーお兄様に会長が褒められているのを聞いて嬉しくなったわたしは、これからも魔法の研究を頑張ろうと決意した。
そこまで話して高等魔法のことで聞きたいことを思い出したので、カーネリアお姉様の方へ顔を向ける。
「そう言えば、カーネリアお姉様の使っていた火柱を起こす魔法は高等魔法ではないのですよね?」
「ああ、クリス。あれはただ火魔法と風魔法を組み合わせただけだ。もし火と風の高等魔法を使えるようになったら、もっと凄い威力を出せるようになるぞ」
カーネリアお姉様は笑ってそう言うが、笑い事ではない。わたしは火と風の高等魔法を想像して身震いすると慌ててカーネリアお姉様に顔を向ける。
「そんな怖い魔法使うつもりはありませんよ!」
「そうか? 使えればクリスも魔獣退治に行けると思ったのだが……」
「クリスに危ないことをさせようとしないでよ、姉上……」
わたし達の会話を聞いていたヘリオドールお兄様も呆れた様子でカーネリアお姉様を見ている。わたしはそんなヘリオドールお兄様にも質問する。
「ヘリオドールお兄様も高等魔法は使えないのですか?」
「ああ。高等魔法は構築が難しくてうまく使えなかったな。魔力制御の得意なセレスタやアレキサンダー兄上なら使えるんじゃないか?」
「わたくしも試したことはありますけれど、上手く使えませんでしたわ……」
「私は火と光の高等魔法を使えるよ。まあ、あまり使う機会はないけど……」
「アレキサンダーお兄様は高等魔法を使えるのですか!?」
わたしがキラキラとした目で見つめるとアレキサンダーお兄様は困った顔で頷いた。
「ああ。強力すぎるから普段は絶対に使わないと決めているんだ」
「そうなのですか……一度見てみたかったのですけど残念です」
わたしががっくりと肩を落とすと、わたしの隣に座っていたスピネルも同じように肩を落としているのが見えた。火と光の高等魔法であればスピネルも使えるので、一度見てみたかったのかもしれない。
そんな話をしながら食事を終えると、食後のお茶を注文して皆で少しゆっくりすることにした。
「魔獣研究会でむーちゃんについて何か分かったの?」
「はい、エメラルお兄様! 恐らく変異種じゃないかと言われました!」
会話が一段落したのを見計らってエメラルお兄様が質問してきたので、わたしはむーちゃんが変異種らしいということを伝えておくことにした。
「まあそうだろうね」
エメラルお兄様は特に気にすることでもなかったように、肩をすくめる。
「僕の方でもアレキサンダー兄さんと一緒に春休みの間調べてたんだけど、変異種のムイムイの情報がなかったんだよね。もし何か聞きたかったら、魔獣研究会で聞いた方が良いかもね」
「そうなのですか?」
「うん。ムイムイに限らず変異種が少ないみたいで、あまり研究されてないみたいなんだ」
パクパクと食事をしているむーちゃんからはそんな気配は感じないが、どうやら相当珍しいムイムイらしいことがエメラルお兄様の口ぶりから分かった。
「むーちゃんはそんなに珍しかったのですね! 凄いです!」
「むい!」
わたしがむーちゃんを褒めると、むーちゃんは食事の手を止め誇らしそうに前足を上げて鳴いている。
エメラルお兄様はわたし達を見て一度頷くと、スピネルの方を向いて口を開く。
「だから、クリスだけじゃなくてむーちゃんのことも守ってあげてね、スピネル」
「もちろんです、エメラル殿下。私はそのために春休みの間鍛えていたのですから」
スピネルも自信満々といった様子だが、それを見てヘリオドールお兄様が意地悪く笑う。
「それじゃあ、そのうち俺や姉上と一緒に訓練しようか」
「それはいいな! いつもヘリオドール相手だと感覚が鈍ると思っていたところだったんだ!」
「お、お手柔らかにお願いします。ヘリオドール殿下、カーネリア殿下」
そう言って笑うスピネルの顔は少し引きつっている。皆でワイワイと話しながら食後のお茶を終えると、皆で自室へと戻ることにした。
「それじゃあ、クリス。また明日食堂でな」
「はい、スピネル。明日もよろしくお願いしますね」
わたしは二階の階段で男性陣と別れると自室へと戻る。カーネリアお姉様とも別れて自室に入ると、ローゼが出迎えてくれる。
「お帰りなさいませ、クリスティア様」
「ただいま戻りました、ローゼ」
部屋に戻ってくるときちんと学園での一日を過ごすことができた実感が湧いてきた。
わたしはセレスタお姉様とおしゃべりしながら眠るための準備を整え、むーちゃんを寝床に寝かせ自分もベッドに横になる。
「それではおやすみなさい、お姉様!」
「ええ、お休みなさい。クリス」
わたしはセレスタお姉様に就寝の挨拶をすると、明日から始まる講義を楽しみにしながら眠りについた。




