水魔法研究会
わたし達は話をしながら水魔法研究会に向かって歩いていく。
「次は水魔法研究会ですね!」
「はい、行きましょう! クリスティア殿下!」
「マリン、クリスティア殿下に迷惑かけたらダメだよ」
「迷惑なんてかけてないよ!」
プレナも本格的な研究会の活動は後日ということでまだ一緒に行動しており、マリンと言い合いをしつつもついて来ている。
「あ! あそこでしょうか!?」
水魔法研究会の展示場所に向かうと、一人の女子学生が杖を構えているところで目の前には水の塊が浮かんでいる。
「よっ!」
女子学生が杖を動かすと、水の塊はつられるようにして右に左にと自由に動き回る。水の塊は水魔法でできた物のようで女子学生が杖に魔力を込めると徐々に形を変えていく。
「見てください! ムイムイの形になりました!」
「器用なもんだな」
「むーむー!」
むーちゃんも自分と同じ形になった水の塊を見て興奮しているようだ。その後も水の塊は変形を続け、最終的には人の形になって見ている人に向けて手を振ってくれた。
「スピネル、手を振ってますよ! 可愛いですね!」
「そうか……? 何だか夢に出てきそうな感じがして俺は嫌だぞ……」
わたしの感想はスピネルには理解されなかったようだ。わたしは水の人形を指差して抗議する。
「スピネルにはあの魔法の凄さが分からないのですか!?」
「いや、凄いのは分かるんだが、形がな……」
ひきつった笑いを浮かべるスピネルに対してわたしが頬を膨れさせていると、水魔法を操っている女子学生が声を大きくして水魔法研究会の説明を始める。
「水魔法は生活から魔獣退治まで広く使うことが出来ます! 火魔法研究会よりも使いやすい魔法を目指して皆さんで研究をしましょう!」
どうやら水魔法研究会の会長は火魔法研究会を目の敵にしているようだ。火魔法研究会には負けないという強い気持ちを感じる。
水魔法研究会の女性が挨拶を終えると、水魔法でできた人形はペコリと頭を下げて、ただの水へと戻って地面に落ちた。パシャリという音とともに消えた水を少し寂しく思いながらわたしは女子学生に話しかけることにした。
「水魔法凄かったです!」
わたし達が話しかけると女性は片付けの手を止め、ニコリと微笑んでくれる。
「あなた達は一年生? もしかして水魔法に興味があるのかしら?」
「はい! 水魔法研究会に入りたくて来ました!」
マリンが元気良く答えると、女性も嬉しそうに表情を崩す。
「本当!? 嬉しいわ! 私はファルベブルクの五年生で水魔法研究会の会長、ネーベルよ! よろしくね!」
「私はエデルシュタインの一年生でマリンです! よろしくお願いします!」
二人がお互いに自己紹介を終えると、ネーベル様はマリンの後ろに立っていたわたし達に声をかけて来た。
「あなた達は付き添いかしら? エデルシュタインの一年生よね?」
「はい! クリスティア・エデルシュタインと申します!」
「まあ! それじゃああなたがセレスタ殿下の妹なのね!」
ネーベル様はそう言うと嬉しそうに表情を崩した。先ほど風魔法研究会でも似たようなやり取りをしたが、わたしのきょうだいはそんなに有名なのだろうか。それについてネーベル様に訊いてみると目を丸くして教えてくれた。
「クリスティア殿下のきょうだいは全員有名だよ! 大魔法祭はもちろん、研究会でも大活躍してるからね!」
中でもセレスタお姉様は水魔法の扱いが得意なため、ネーベル様はセレスタお姉様の名前を出したようだ。何だかきょうだいが有名で少し恥ずかしい気持ちもある。
「クリスティア殿下もきっと素晴らしい結果を残してくれると信じてるよ!」
「ありがとうございます、ネーベル様! わたしも頑張りますね!」
そんな会話をしながら全員で挨拶を終えると、先ほどの人形を作り出す魔法についてネーベル様に尋ねてみる。
「ネーベル様。先ほどの水の人形はどうすれば出せるのですか!?」
「う~ん……見せることはできるけど、クリスティア殿下にはまだ難しいと思うよ?」
「それでも、もう一度見てみたいです!」
「む~!」
わたしとむーちゃんが目をキラキラと輝かせると、ネーベル様は仕方なさそうな表情で眉を寄せた。そのまま少し考える素振りを見せると、ネーベル様は大きく頷く。
「分かった! 一度だけ見せてあげるね!」
「ありがとうございます!」
「おい、クリス。良いのか? 勝手に魔法を見せてもらったことがバレたらまた怒られるぞ」
「バレなければ良いのです、スピネル。コッソリ見せてもらうだけですからバレませんよ!」
わたしがそう言うと、スピネルは不安そうな目を向けてくる。
「本当にコッソリだぞ。クリスが問題を起こしたら俺も怒られるんだからな……」
「大丈夫ですよ、スピネルは心配性ですね!」
わたしとスピネルが会話を交わしていると、ネーベル様の準備も整ったようだ。水を入れた手持ちの桶を地面に置くと杖を構えて呪文を唱える。
「水よ人形となれ」
ネーベル様が呪文を唱えると、目の前の桶に入っていた水が動き始め人のような形に変形した。
「やっぱり凄いです!」
「むーむー!」
わたしの声が聞こえたのかネーベル様も楽しくなってきたようで、杖を振りながら色々な恰好を水の人形に取らせる。
「よっ! はっ!」
「む~」
むーちゃんもわたしの近くで水の人形と同じように右に左にと動き回る。しばらく楽しそうに水の人形を動かしていたネーベル様だったが、集中力が切れて来たのか水の人形は段々と形を崩していく。
「ほっ! ああ~」
ネーベル様の悲痛な声が聞こえると、バシャという音と共に人形はただの水に戻ってしまった。
「ありがとうございました、ネーベル様! とても面白かったです!」
わたしは水魔法を見せてくれたネーベル様に対して拍手でお礼をすると、息も絶え絶えと言った様子でネーベル様が口を開いた。
「そ、そう……? こちらこそ、ありがとうね。クリスティア殿下……」
「ネーベル様?」
何だかネーベル様の顔色が悪いように見える。わたしが心配してネーベル様を見ていると、マリンが彼女の背中に手を回す。
「大丈夫ですか、会長!」
「ああ、マリン。ありがとう。少し休めば治るから、椅子まで手を貸してもらえると嬉しいな」
ネーベル様はマリンに肩を貸してもらい、椅子までフラフラと歩いていく。私がそれを心配そうに見ていると、椅子に座ったネーベル様が深く息を吐く。
「ふー。ごめん、皆。心配かけちゃったみたいだね……」
「お気になさらず。それより大丈夫ですか?」
「魔力を使いすぎたみたい。少し休めば治るから大丈夫だよ」
どうやら、ネーベル様は張り切って魔法を使ったせいで、体内の魔力が少なくなってしまい体調を崩したそうだ。わたしはそれを聞くと慌てて頭を下げる。
「申し訳ありません! わたしが見たいと言ったばかりに……」
「いや、クリスティア殿下のせいじゃないよ。私が調子に乗って魔力を使いすぎただけだから……」
ネーベル様はそう言いながら首を横に振る。その後少し座っているとネーベル様の体調も良くなってきたようで椅子から立ち上がる。
「うん、大丈夫かな。心配かけてごめんね、皆」
「こちらこそ申し訳ありませんでした……」
お互いに頭を下げながら謝罪をすると、元気になったネーベル様はわたし達を見回して口を開く。
「皆はまだ他の研究会も見て回るんだよね? 私のことは気にしないで良いから、次の研究会に向かうと良いよ」
「それなら私はここに残ります!」
「マリン一人じゃ心配なので僕も残ります」
どうやらマリンとプレナはネーベル様の側にいることにしたようだ。ネーベル様は申し訳なさそうな表情で二人を見つめる。
「二人はそれでいいの?」
「はい! 私はもう水魔法研究会に入ると決めているので、少しでも手伝いたいです!」
「僕も風魔法研究会に入ることにしたので、見学はしなくても大丈夫です」
「二人はここに残るのですか……少し寂しいですが頑張ってくださいね!」
わたしが眉を下げて二人を見つめると、二人はニコリと微笑んでくれた。




