風魔法研究会
「クリスティア殿下! 素晴らしい挨拶でした!」
「ありがとうございます、マリン! 緊張しましたけど、上手くできたようで良かったです!」
入学式を終え講堂から出たわたし達はプレナ、マリンを加えて研究会見学の相談を始める。
「三人はどこか行きたい研究会はありますか?」
「私は水魔法研究会を見に行きたいです!」
「僕は風魔法研究会に興味があります」
「俺は別にどこからでも構わないぞ。クリスは行きたいところはないのか?」
「そうですね……それならまずは水魔法か風魔法の研究会に行きましょうか」
きょうだいの研究会は見たいがそれは後でも行ける。特に順番にこだわりはないので、先に属性魔法の研究会を見に行きたい。
わたしがそう言うとプレナとマリンは少し驚いたような表情をしている。
「クリスティア殿下、良いのですか?」
「ええ、折角なので色々な研究会を見て回りたいのです!」
わたしが元気よく答えるとマリンも元気良く手を挙げる。
「それなら先に風魔法研究会に向かいましょう!」
「風魔法研究会が先で良いのですか?」
「構いません! その代わり後で一緒に水魔法研究会も行きましょうね!」
満面の笑みを浮かべるマリンの言葉に皆で頷くと、まずは風魔法研究会に向かうことにした。
わたし達は講堂から離れると講義棟の運動場へと歩き出す。講義棟はロの字状に建物が立っており、その中心が運動場となっているそうだ。
研究会の展示が行われている運動場に近付くと段々と人が増え賑やかになっていく。
「運動場に近付くほど賑やかになっていきますね!」
「ああ、それだけ研究会の勧誘が活発なんだろう。楽しみだな!」
わたしとスピネルが顔を見合わせて笑っていると、前の方からセレスタお姉様が歩いて来た。
「あら、クリスにスピネル様。これから研究会を見に行くのかしら?」
「はい、そうです! お姉様は勧誘しているところですか?」
「ええ。会長に言われてこれを配って回っているのですわ。クリスもどうぞ」
そう言ってセレスタお姉様が取り出したのは、一枚の紙だった。軽く目を通すと、研究会の活動内容が書かれているようだ。
「これで医療研究会の宣伝をしていますの。もし良ければクリスも医療研究会を見に来てくれると嬉しいですわ」
「はい! ありがとうございます、お姉様!」
わたしがセレスタお姉様に挨拶すると、セレスタお姉様は踵を返して去っていく。それを見送ったわたし達は顔を見合わせる。
「他の研究会の宣伝も見たいです! 早く運動場に向かいましょう!」
「ああ、行こうクリス!」
わたしとスピネルがやる気満々の状態で運動場へと向かうと、それに遅れてマリンとプレナの二人もついて来る。
運動場に到着するとたくさんの学生がおり、とても賑やかだった。わたしは辺りをキョロキョロと見回し、スピネルに話しかける。
「スピネル! 人がたくさんいますよ!」
「見学の一年生だけじゃなく、研究会に所属している上級生もいるみたいだな」
スピネルも物珍しそうに研究会毎に分けられた展示場所を見ている。ワイワイと賑やかな展示場所を皆で見て回ると、研究会の学生がひっきりなしに声をかけてくる。
「一番人数が多いのはうちの火魔法研究会だよ! 火を起こす魔法から魔獣を効率良く倒す魔法まで! 幅広く使える火魔法を研究したい者は是非来てくれ!」
「植物研究会をよろしくお願いします! ボタニガルテンと協力の上、大陸最先端の技術を学びたい者は植物研究会に!」
「光魔法研究会で一緒に研究しないか!? 明かりの魔道具や魔除けの魔道具は光魔法を使っているんだ! 皆、光魔法研究会をよろしく!」
「高等魔法研究会はこちら……」
様々な研究会の学生が通りすぎる紙を押し付けてくるので、わたし達の両手は紙でいっぱいになってしまった。
「こんなにたくさんの研究会があるんですね……!」
「ああ、それに勢いも凄かったな……」
手元にある紙を整理しながらわたし達はキョロキョロと辺りを見回して風魔法研究会を探す。
「一体風魔法研究会はどこにあるのでしょう……?」
「そうだな……お、あれじゃないか?」
そう言ってスピネルが指差した先では、箒にまたがって飛んでいる学生の姿があった。わたしはそれを見て頬を緩める。
「きっとあれです! さあ、プレナもマリンも行きましょう!」
「お待ちください、クリスティア殿下! そんなに急がなくても行きますから!」
わたしは二人の手をグイグイと引っ張りながら、目的地へと向かう。
空飛ぶ箒の元まで辿り着いたわたし達は、展示場所に飾ってあった看板に目を通す。
「ようこそ風魔法研究会へ、一年生大歓迎!」
そう書かれた看板を見ていると、上空から箒に乗った人物が降りてくる。
「あれ、クリスじゃないか。来てくれたんだね」
「エメラルお兄様?」
わたしは箒に乗って来たエメラルお兄様を見て首を傾げる。エメラルお兄様は植物研究会に所属していたのではないのだろうか。わたしの疑問に答えるようにエメラルお兄様は口を開く。
「風魔法の実演をするために手伝ってるだけだよ。僕は植物研究会だからね」
「エメラルお兄様が風魔法の実演をしているのですか?」
「うん。他の会員でも良かったらしいんだけど、僕の方が見栄えが良いからって頼まれたんだ」
「そうだったんですか……流石、エメラルお兄様ですね!」
わたしが褒めると照れくさそうにしたエメラルお兄様だったが、満更でもなさそうだ。エメラルお兄様は頬を掻きながら苦笑し、展示場所に座っている一人の男性の方を向く。
「あの人が風魔法研究会の会長だよ。もし興味があるなら話しかけてごらん」
「ありがとうございます、お兄様!」
わたし達がエメラルお兄様に礼を言いそちらに一歩近づくと、風魔法研究会の会長もわたし達に気付いたようで顔を上げる。
「おお、君達は一年生かい?」
「はい! エデルシュタインの一年生です!」
「君は元気が良いね……」
苦笑しながら立ち上がった風魔法研究会の会長は礼をすると、自己紹介を始めた。
「私はレーゲン。風魔法研究会の会長でボタニガルテンの六年生だ」
「初めまして、エデルシュタイン王国のクリスティア・エデルシュタインと申します。よろしくお願いしますね」
わたしがニコリと微笑むとレーゲン様は口元を緩める。
「エデルシュタインということは君がエメラル殿下の妹かい?」
「はい! エメラルお兄様はわたしのお兄様です!」
わたしが胸を張ってそう言うと、向こうの方でエメラルお兄様が苦笑しているのが見えた。
「そうか、よろしくお願いするよ。クリスティア殿下」
わたしの自己紹介が終わるとスピネル達もお互いに自己紹介を済ませる。
「……」
「レーゲン様? どうかしましたか?」
全員の自己紹介が終わると、レーゲン様がわたしの肩の近くを見つめていることに気付いた。わたしが首を傾げていると、レーゲン様は一度咳払いをしてから口を開いた。
「先ほどから気になっていたのだが、それはクリスティア殿下の使い魔なのかい?」
「はい! 名前はむーちゃんと言います! むーちゃん、レーゲン様に挨拶してください!」
「む~!」
むーちゃんはクルリと宙返りをしてから前足を上げて挨拶をする。どうやらこの仕草はむーちゃんのお気に入りになっているようで、挨拶をお願いするとこの仕草をしてくれるのだ。
「おお! これは凄い……!」
可愛いむーちゃんの仕草を見たレーゲン様は、目を丸くしてむーちゃんをじっと凝視している。
「この使い魔はクリスティア殿下の魔法で飛んでいるのかい?」
「いいえ、これはむーちゃんが自分で魔法を使っているのです!」
「む~」
わたしがむーちゃんを見ると、むーちゃんも足に着けた魔導器をレーゲン様に見せるようにして振ってくれた。
「それは凄い……! 参考までにどうやったのか教えてもらってもいいかな」
「はい! むーちゃんに魔導器を着けてあげたら飛べるようになったのです!」
わたしが胸を張ってそう言うとレーゲン様は首を傾げる。
「……それだけかい?」
「はい! わたしのむーちゃんは可愛い上に優秀なのです!」
「む~!!」
わたしはむーちゃんを抱きかかえて顎の下をコチョコチョとくすぐってあげる。むーちゃんはこうしてあげるととても喜ぶのだ。わたしがむーちゃんとじゃれ合っていると、レーゲン様が話しかけてきた。
「あー、クリスティア殿下? もう少し詳しく説明して欲しいんだが……」
「そう言われましても……わたしは特に何もしていないですよ?」
そんな風にして二人で頭を抱えていると、困っていることに気付いたのかエメラルお兄様がこちらに向かって来た。
「クリス、どうかしたの?」
「エメラルお兄様、実は――」
わたしが経緯を伝えると、エメラルお兄様は呆れたような顔で溜息を吐く。
「クリス……その説明じゃレーゲン様も分からないよ」
エメラルお兄様によると、普通の使い魔は魔導器を装着したところでむーちゃんのように自由に魔法を使えないらしい。そのため、むーちゃんはとても希少な存在のようだ。
「そういうことなので、あまり参考にはならないと思います。会長」
「そうか……大きい魔獣を使い魔にして一緒に空を飛べたら面白いかと思ったんだが、仕方ないな……」
レーゲン様は大きく溜息を吐いている。わたしはレーゲン様を少しでも元気づけようと声をかける。
「そんなに落ち込まないでください、レーゲン様。むーちゃんのように意思の疎通ができる使い魔を探せばいいじゃないですか」
「それが難しいんだけどね……頑張ってみるよ」
苦笑しながらレーゲン様は姿勢を正す。どうやら落ち込むのはやめたようだ。そのままわたし達を見回すと、レーゲン様は風魔法研究会の会長として話し始める。
「クリスティア殿下の使い魔が気になって話が逸れてしまったが、君達の中で風魔法研究会に入りたい者はいるのかい?」
レーゲン様の言葉に反応したのは、風魔法研究会に行きたいと言い出したプレナだ。大きく手を挙げて、エメラルお兄様の方をチラチラと見ている。
「風魔法研究会に入会を希望します!」
「お、元気が良いな。君は風属性の適性はあるのかい?」
「あります! 僕はエメラル殿下のように、自由に空を飛べるようになりたいのです!」
そう言ったプレナは目を輝かせて、エメラルお兄様を見つめており、それを聞いたエメラルお兄様も嬉しそうに頬を緩める。
「良いだろう、一緒に風魔法の研究をしてエメラル殿下のようになろうじゃないか」
「はい! よろしくお願いします、会長!」
プレナが入会を決めたところで、風魔法研究会の見学は終わりとなった。
「それでは、わたし達はこれで失礼しますね! ありがとうございました!」
「もし風魔法に興味が出たらいつでも来てくれ」
わたし達がレーゲン様に別れを告げて次の研究会に向かおうとすると、レーゲン様が何かを思い出したようにポンと手を打った。
「そうだ。使い魔について詳しく知りたかったら魔獣研究会に行くと良いよ」
「ありがとうございます、レーゲン様! 後で魔獣研究会にも行ってみますね!」
後で見学する研究会に魔獣研究会を加えながら、わたし達は次の研究会に向かった。




