変形する魔導器
腕輪の変形を試そうと言ったアレキサンダーお兄様は『空間収納』から一つの腕輪を取り出すとわたし達の目の前に突き出してきた。
「これが変形機能を持った腕輪だよ! 私が作った物ではないけど、むーちゃんの腕輪はこれを元にして作ったんだ!」
アレキサンダーお兄様が自慢気に持っているそれをわたしとむーちゃんでまじまじと見つめる。そうして見つめていると腕輪に嵌った宝石がキラリと輝いた。
「これも腕輪型の魔導器なんだけど魔力を流すことで別の形に変形できるんだ。クリスもむーちゃんも良く見ててね……」
そう言いながらアレキサンダーお兄様は腕輪に魔力を流し始めた。すると、魔力のこもった腕輪は淡く光り始め、段々と光が強くなっていく。
わたしが眩しい光に目を細めていると、段々と光は弱まっていき、アレキサンダーお兄様の手には杖が握られていた。わたしは驚いて目を丸くしてしまう。
「凄いです! 変形すると聞いていなければ、またアレキサンダーお兄様に騙されているのではないかと疑うところでした!」
「騙してないよ……クリスもやってみるかい?」
「良いのですか!? やってみたいです!」
わたしはアレキサンダーお兄様から杖を受け取ると、腕輪に変形させるための魔力の込め方を教わる。
「普段杖に魔力を流すのとは少し違うけど、物は試しだ。実際に魔力を流してみよう!」
「はい!」
わたしは元気良く返事をすると自分が持っている杖に魔力を流していく。すると少しずつ杖が光り始め、一度強く光ったかと思うとわたしの手の上にあった杖は腕輪へと変形していた。
無事変形できたことにわたしは安堵し、輝かせた瞳を勢いよくアレキサンダーお兄様の方へと顔を向ける。
「アレキサンダーお兄様! わたしにもできました!」
「うん、大丈夫そうだね。流石クリスだ」
アレキサンダーお兄様はきちんと変形した腕輪を見ると、わたしの頭をグリグリと撫でまわしてくれた。わたしは頭を撫でてもらえるのが嬉しくて、しばらくの間その感触を楽しむ。
「おっと、クリスの頭を撫でている場合じゃなかった。それじゃあ、むーちゃんの腕輪も変形させてみようか」
そう言うとアレキサンダーお兄様はパッとわたしの頭から手を離す。それにはわたしも賛成なので、首を縦に振るとむーちゃんにお願いする。
「むーちゃん、腕輪の変形をしてみてください!」
「む~~!」
いつもより気合を入れながら魔力を腕輪に流すむーちゃんだったが、特に苦労することもなくパッと光ると腕輪は爪に変形した。魔銀の爪はむーちゃんの蹄を覆うような形で先が二つに割れている。
「凄いですよ、むーちゃん! 一度でできるなんて!」
「む~」
わたしは腕輪の変形に成功したむーちゃんに手を伸ばし、頭を思い切り撫でてあげた。
「よ~しよしよし!」
「む~!」
楽しそうにしているむーちゃんとわたしがじゃれ合っていると、アレキサンダーお兄様が咳払いをする。
「クリス、むーちゃんに魔導器を腕輪の形に戻すようお願いして貰えるかな? そこまでできたら魔導器の変形は大丈夫だろう」
「それもそうですね! むーちゃん、爪を腕輪に変形させてください! それが出来たらまた撫でてあげますね!」
「むー!」
わたしがそう言うとむーちゃんもやる気を出したようで、一度宙返りをしてから爪に魔力を流し始める。すると、爪は腕輪に変形したときと同じようにパッと光って、元の腕輪の形に変形しむーちゃんの前足に嵌っていた。
「おお~! 凄いですよ、むーちゃん! よく頑張りました!」
「むい!」
魔導器の変形を完了したむーちゃんは胸を張っているような姿勢をした後、わたしの腕の中に飛び込んできた。むーちゃんの腕輪がひんやりとしているが、爪ではないので痛くはない。
わたしは抱えているむーちゃんを撫で回しながら、アレキサンダーお兄様の方に顔を向ける。
「これで大丈夫でしょうか? アレキサンダーお兄様」
「ああ。ありがとう、クリス。それにしてもむーちゃんが一度で変形できるとは思わなかったよ」
「そうですか? わたしはむーちゃんのことを信じていましたよ!」
わたしはむーちゃんに顔を向けるとニコリと微笑む。アレキサンダーお兄様はそれを見て苦笑すると口を開いた。
「私も初めて変形機能がついた魔導器を作ったから心配だったんだけど、これなら大丈夫そうだね。クリスも変形できる魔導器にしてみるかい?」
「確かにずっと装着できる腕輪型だと使いやすそうですね……考えてみます!」
そうしてわたし達が話し合っていると時刻は夕方になっていた。アレキサンダーお兄様は茜色と黒が混ざり合った空を見上げる。
「そろそろ片づけをして寮に戻ろうか、クリス、エメラル。あまり遅くなると今日の夕食もパンとスープだけになってしまうよ」
「それは困ります! 急ぎましょう、エメラルお兄様!」
「ちょっと待って、クリス! 僕は箒を部屋に置いてくるから先に食堂で待ってて!」
わたしがそれに頷くと、エメラルお兄様は部屋に箒を置きに戻る。エメラルお兄様とホールで分かれたわたしはアレキサンダーお兄様と一緒に食堂へ向かうことにした。
「あちらにカーネリアお姉様がいますね!」
わたし達が食堂に到着すると、こちらに向かってカーネリアお姉様が手を振っている。どうやら、他のきょうだいは席に座ってわたし達のことを待っていたようだ。
「クリス、アレキサンダーお兄様、ごきげんよう。あとはエメラルだけですわね……!」
セレスタお姉様はむーちゃんが空を飛んでいることに驚いたようで、一瞬言葉に詰まる。
「むー!」
「セレスタお姉様、食事を受け取って来るのでむーちゃんを預かってもらっても良いですか?」
「え、ええ。別にそれは構いませんけれど……」
「それではよろしくお願いしますね!」
とりあえず飯だと言わんばかりにむーちゃんの目が輝いているので、わたし達はむーちゃんをセレスタお姉様に預けて夕食を受け取りに行く。
今日の夕食はハンバーグだ。細かく切ったリント肉を丸めて焼いたハンバーグはわたしも大好きな料理で、厨房の方から漂ってくる香ばしい匂いにお腹が空いて来た。エデルシュタインにいた時はたまに食べていたが、学園に来てからは初めてなので楽しみだ。
「いい匂いですね……! 楽しみです!」
「そうだね、私も楽しみだよ」
アレキサンダーお兄様と話しながら列に並んでいると、わたし達の分のハンバーグがトレイに乗って渡された。
「こちらがクリスティア殿下の分になります」
わたしが使い魔を従えていることは料理人にも知られているので、トレイの上にはわたしの分とは別にむーちゃん用の小皿が置かれていた。
「美味しい料理をいつもありがとうございます!」
わたしが笑顔で礼を言うと、料理人は少し照れたように頷く。
席に戻ると、他の学生達がむーちゃんを囲むように遠巻きに見ていた。座れないので何とかしなくてはと思っていると、アレキサンダーお兄様が周りの者に声をかける。
「済まないがそこを開けてくれないか、これから私達も食事なんだ」
「申し訳ありません、アレキサンダー殿下!」
ハッとした様子で学生達が道を開けてくれたので、その中心をわたし達が通っていく。そんな中むーちゃんは早く来いというように前足を振っている。
「ごめん、遅くなっちゃった」
「とりあえず食事を貰いに行った方がよろしくてよ、エメラル」
エメラルお兄様も遅れて到着し、六人で座ると食事開始だ。今日の話題の中心はもちろんむーちゃんだ。
「一体何がどうなったのか、説明してくださいませ!」
「むーちゃんの魔導器を作って、魔法を使わせたら飛べるようになったんだよ……」
「む~!」
セレスタお姉様の言葉にエメラルお兄様が溜息を吐きながら今日のことを説明する。それを聞いたむーちゃんは前足に装着した魔導器を誇らしそうに見せびらかしている。
「訳が分かりませんわ……エメラルでも飛ぶのに半年もかかりましたのに……」
「む~……」
セレスタお姉様があり得ないものを見るようにむーちゃんを見つめる。むーちゃんは照れているようでモジモジとしている。
わたしもむーちゃんのことで何か発言したほうが良いだろうか。わたしは手を挙げて思いついたことを発表する。
「わたしもむーちゃんの主として誇らしいです! これからもむーちゃんと一緒に頑張りますからね!」
「むふー」
鼻息も荒く発言したわたしとむーちゃんに、皆が胡乱な目を向けてくる。
「……クリスは何と張り合ってるんだ?」
ヘリオドールお兄様が冷めた目でわたしとむーちゃんを見つめてくる。アレキサンダーお兄様はそんなわたし達を見て、呆れたようにむーちゃんについてまとめ始めた。
「とにかく、むーちゃんは魔法が得意なようだから、私の方でも調べてみよう」
「僕も手伝うよ、アレキサンダー兄さん」
「よろしく頼む、エメラル。他の使い魔との違いも知りたいし、ムイムイの生態も調べないといけないからね」
むーちゃんの調査が必要ということで、アレキサンダーお兄様とエメラルお兄様は残りの春休みで色々と調べてくれるそうだ。わたしはそれを聞いて手を挙げた。
「わたしも一緒にむーちゃんの調査をしたいです!」
わたしがそう言うとアレキサンダーお兄様は少し困った顔で、セレスタお姉様をちらりと見る。
「クリスはセレスタと一緒にお茶会へ参加してほしいんだ。セレスタ、お願いできるかい?」
「もちろんですわ。むしろ、こちらからお願いしようと思っていたくらいですわ」
アレキサンダーお兄様はわたしが寮生活に慣れるために、セレスタお姉様と行動するようにお願いしてくる。わたしもそう言われては断れないので首を縦に振る。
「むーちゃんのことで何か分かったらクリスにも教えるからそれでいいかい?」
「分かりました……よろしくお願いします、アレキサンダーお兄様!」
そこまで話をすると、むーちゃんはアレキサンダーお兄様に預けた方が良いだろうかという疑問が浮かんでくる。
「むーちゃんはアレキサンダーお兄様に預けた方がいいですか? 一応わたしの護衛なんですが……」
「とりあえず他の事を調べてみるからまだ大丈夫だよ。できればクリスから護衛を離したくないし、預かるとしてもスピネルが来てからだね」
スピネルが来るまでは預けなくても良いそうだ。わたしはホッと胸を撫でおろすと、美味しそうにハンバーグを食べているむーちゃんを見つめて、口元を緩めた。




