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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第二章 学園で楽しく過ごしたい!
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小さな腕輪

 わたし達が工作室へと到着すると、アレキサンダーお兄様が机の上に紙を広げてなにやら書いているところだった。


 わたしが少し高めのテーブルをのぞき込むようにして見ていると、それに気付いたエメラルお兄様が近くにあった椅子を勧めてくれた。


「クリス、そのままじゃ見にくいでしょ?」

「ありがとうございます、エメラルお兄様!」


 しばらくカリカリとペンを動かす音が響いていたが、一段落したのかアレキサンダーお兄様がペンをテーブルに置く。コトリという音と共にアレキサンダーお兄様が大きく息を吐いた。


「ふう~」

「お疲れ様です、アレキサンダーお兄様! これは設計図ですか?」

「ああ、そうだよ。むーちゃんなら首輪や首飾り、腕輪型の魔道具が良いと思って、色々と試し書きしていたところなんだ」


 机の上に散らばっていた紙は、どうやら魔道具の設計図らしい。むーちゃんは小さいので、人間用の設計図を書き換えているようだ。


 わたしが抱えていたむーちゃんを机の上に置くと、アレキサンダーお兄様は設計図から顔を上げこちらを向いた。


「クリスはどんな魔道具をむーちゃんに着けてあげたい?」


 そう聞かれてわたしは考える。お守りのような魔道具でも良いが、折角ならむーちゃんの魔法適性を活かした魔導器の方が良いのではないか。


 そう考えたわたしは、アレキサンダーお兄様に尋ねる。


「魔導器を着けてあげることはできますか?」

「使い魔が装着することはあまりないけど、作るだけならできるよ。むーちゃんだったら腕輪か爪の形がいいかな」


 そう言って机の上をガサガサと漁ったアレキサンダーお兄様は、何枚かの設計図を取り出す。


「腕輪は既にある設計図が使えるけど、爪は新しく作らないといけないな……エメラル、手伝ってくれるかい?」

「もちろんだよ、兄さん!」


 エメラルお兄様は自分も魔導器を作れるとあって、満面の笑みを浮かべてアレキサンダーお兄様の隣に座った。わたしは楽しそうなエメラルお兄様を横目で見てから手元の腕輪の設計図に目を戻すと、魔導器に必要なものが足りていないことに気付いた。


「アレキサンダーお兄様……わたし、魔導器用の宝石を持っていませんでした……」

「宝石? 一応いくつかは実験用で持っている物があるから、とりあえずはそれを使えば大丈夫だよ。必要なら休みの日に町に出て、クリスが選んであげれば良いさ」


 アレキサンダーお兄様が言うには、一度魔導器に嵌めた宝石でも魔導器から外しておくことで、他の人も使えるようになるらしい。使い切りではないので、アレキサンダーお兄様は実験用の宝石を常にいくつか持っているそうだ。


「それなら何とかなりそうですね! ありがとうございます!」

「気にしなくていいよ。私も好きで魔道具を作ってるからね」


 魔導器を作るたびに、新品の宝石を用意しなければならないと思っていたわたしは、ホッと胸を撫でおろし腕輪の設計図を見比べる作業に戻る。


「どれがいいですか? むーちゃん」

「む~……」


 しばらくむーちゃんと一緒に設計図を見比べていると、アレキサンダーお兄様が爪型の魔導器の設計図を差し出してくる。


「できたぞ、クリス!」


 そう言ったアレキサンダーお兄様は嬉しそうで、設計図を見たむーちゃんも青い瞳をキラキラと輝かせている。


「むーむー!」

「むーちゃんはこれが良いのですか?」


 わたしが尋ねると、むーちゃんはキラキラした瞳をわたしに向けて、設計図を前足でペシペシと叩き始める。どうやら爪型の魔導器が随分と気に入ったようだ。


 わたしもむーちゃんが気に入ったなら特に文句もないので、アレキサンダーお兄様に爪型の魔導器を作って貰うことにした。


「それでは、アレキサンダーお兄様! この魔導器を作ってください!」

「これがいいのかい? そうだなあ……」


 わたしがお願いするとアレキサンダーお兄様は手を顎に当てて考え始めた。


「何か問題があるのですか?」

「クリスはむーちゃんを抱き上げて移動しているだろう? 爪型の魔導器だと邪魔になるんじゃないかと思ってね……」


 アレキサンダーお兄様がむーちゃんの蹄を見てそう言った。わたしもそう言われて魔導器の設計図を改めて見ると、爪の先が腕に刺さりそうな形状をしていることに気付いた。


「確かにそうですね……むーちゃん、本当にこの魔導器がいいのですか?」

「むーむー!」


 むーちゃんは首を縦にブンブンと振っている。どうやらよほど気に入ったようだ。それを見たアレキサンダーお兄様はポンと手を打って新しい提案をしてきた。


「それなら普段は腕輪型で、魔力を込めると爪型になるようにしようか! そうすればむーちゃんを抱き上げる時に邪魔にならないだろう?」

「え!? そんなことが出来るのですか!?」


 わたしは腕輪型の魔導器が爪に変形するところを想像して目を輝かせる。むーちゃんも同じように目を輝かせており、アレキサンダーお兄様は大きく頷く。


「魔銀を使って変形機能を付けるのはやってみたかったんだ! これは腕が鳴るぞ!」


 とても楽しそうなアレキサンダーお兄様から魔銀と聞いて、わたしは自分の左手に嵌っている指輪を見る。確かに指輪と同じ要領で変形させればできるのかもしれない。


「それじゃあ、魔導器作りを始めようか! 宝石はどれがいい?」


 そう言ってアレキサンダーお兄様は笑顔で『空間収納』を使って、大きなケースのような物を取り出す。そこには色とりどりの宝石が入っており、どの宝石もとても綺麗だ。


「これはアレキサンダーお兄様のコレクションですか? 随分とありますね……」

「カーネリアから洞窟で手に入れた宝石を譲ってもらっているからね。品質はそこまで高くないけど、実験で使うにはこれで十分なのさ」


 笑顔で答えるアレキサンダーお兄様はとても楽しそうだ。わたしはエメラルお兄様をチラリと見ると、ケースの中にある緑色の宝石を指差す。


「それでは緑の宝石が良いです、アレキサンダーお兄様! エメラルお兄様に教えてもらえば、むーちゃんも飛行魔法を使えるようになるかもしれません!」

「ええ!? ちゃんと飛べるのかなあ……?」

「きっと飛べます! むーちゃんを信じましょう!」

「むー!」


 エメラルお兄様は不安そうだが、恐らく魔導器があればむーちゃんは飛べるだろう。使い魔は主の適性の影響を受けると聞いたし、魔導器がなくても回復魔法を使えたのだ。その点についてはあまり心配していない。


「む~む~!」


 むーちゃんも空を飛べると聞いて、机の上で楽しそうにぴょこぴょこと踊り始めた。


「むーちゃんもご機嫌です!」

「それじゃあ早速魔導器作りを始めよう!」


 宝石の色を決めると、アレキサンダーお兄様が素材を次々と取り出して、工作室に備え付けられている錬成器に放り込み始める。


 わたしとエメラルお兄様とむーちゃんはワクワクしながらそれを見ていると、全ての素材を入れ終わったようで、アレキサンダーお兄様はわたしに顔を向けた。


「さあ、クリス。スイッチを押すんだ!」

「アレキサンダーお兄様、今日のスイッチはわたしではありません! むーちゃんが押すのです!」


 わたしがそう言いながら抱えたむーちゃんを前に突き出すと、意味が分かったようでむーちゃんも前足を伸ばす。


「むい!」


 ポチっと軽快な音が響くと、以前魔導器を作って貰った時と同じようにガタゴトと錬成器が動き始める。錬成器の各所が光り始めて進捗を伝えているのも以前と同じだ。


 わたし達は一段落したことを確認すると大きく息を吐く。


「これであとは待つだけですね、アレキサンダーお兄様、エメラルお兄様!」

「ああ、無事完成しそうで良かったよ。クリスもエメラルもお腹が空いただろう? 一度昼食にしないか?」

「そうだね、僕もお腹がペコペコだよ。今日の昼食は何だろう?」


 三人で熱中していたため、皆お腹が減っていたようだ。三人で笑い合うと、錬成器に「現在使用中、アレキサンダー」と張り紙をして、工作室を出る。


 食堂に到着したわたし達だったが、食堂の閑散とした様子から何だか嫌な予感がしてくる。


 わたしがアレキサンダーお兄様を見上げると、アレキサンダーお兄様も時計を確認して首を横に振っている。


「どうやら作業に熱中しすぎて、昼食の時間は終わってしまったみたいだね……今日の昼食はパンとスープかな」

「そんな……!」

「注文すれば別のメニューも頼めるけど、どうする?」


 エメラルお兄様が気を遣ってそう言ってくれるが、わたし達の不注意で遅れてしまったので今日はパンとスープで我慢することを伝える。


「じゃあ僕もそうしようかな」


 そうして三人でパンとスープを受け取って質素な昼食を始める。質素とは言っても貴族の通う学園だ。そこまで変な物は出ないので、パンもスープも普段食べている物とあまり変わらないように感じる。


「パンとスープも美味しいですね!」


 わたし達が楽しく話しながら食事を終え工作室に戻ると、錬成器のガタゴトという音は止まっていた。アレキサンダーお兄様が錬成器に近寄り、錬成が終わっていることを確認する。


「……大丈夫そうだね」


 アレキサンダーお兄様が錬成器の扉を開けると、小さな腕輪型の魔導器が二つ完成しているのが見えた。むーちゃんが小さいので腕輪というよりもわたしの指輪くらいの大きさで、表面がツルリとしており普段つけていても邪魔にならなそうだ。


 むーちゃんをエメラルお兄様に預けたわたしは慎重に小さな腕輪を手に取ると錬成器から出てくる。手に持った腕輪を見たむーちゃんは目をキラキラと輝かせていたので、わたしはむーちゃんに向けて恭しく腕輪を差し出す。


「こちらがむーちゃんの魔導器になります! どうぞお納めください!」

「むー……」


 むーちゃんもわたしの演技に倣って何だか偉そうな様子で腕輪を両方の前足に嵌める。少し大きかった腕輪は素材に魔銀を混ぜたため、むーちゃんが魔力を流すとピッタリと前足に嵌る。


 嵌った腕輪を見たむーちゃんは軽く足を振って、腕輪が外れないことを確認してから両方の前足をパタパタと動かし始めた。


「むいむい!!」

「見て下さい! とても喜んでいるみたいです!」


 エメラルお兄様に抱えられたむーちゃんが喜びを表現しているのを見て、わたしも嬉しくなる。


 むーちゃんの腕輪に緑色の宝石を嵌めて、魔導器は完成だ。完成を嬉しく思いわたしが笑顔で頷いていると、むーちゃんの腕輪に嵌った緑色の宝石がキラリと光る。


「そう言えばアレキサンダーお兄様、腕輪の変形はどうやればいいんですか?」

「そうだなあ……飛行魔法も合わせて確認したいから前庭に移動しようか」

「分かりました! 良かったですね、むーちゃん!」

「むー!」


 喜んでいるむーちゃんをエメラルお兄様から受け取ると、わたし達は寮の前庭に移動することにした。

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