初めてのお茶会
神授式を終えたわたし達は、アロイス司祭に挨拶して城の本館へと戻ることにした。
礼拝堂から外に出ると、わたしはアロイス司祭の方を振り向く。
「アロイス司祭、本日はありがとうございました。きちんと魔法を使えるように、勉強頑張りますね!」
「クリスティア殿下であれば、きっと素晴らしい魔法をお使いになれます」
そう言ってアロイス司祭はわたしに笑いかけると、お母様の方へと向き直る。
「女王陛下。クリスティア殿下の授かった『精神活性』について、教会でも調べてみます。新しく判明したことがあれば、その時にご連絡させていただきます」
「ありがとうございます、アロイス司祭。よろしくお願いします」
二人の話が終わるとわたし達は、アロイス司祭の見送りを受けて本館へと戻る。その途中、わたしは変な感覚がして周りをキョロキョロと見渡す。
礼拝堂でも感じたが、なんだか周りがキラキラ光っているように見えるのだ。
わたしがキョロキョロしているのが気になったのか、お母様が心配そうに話しかけてきた。
「クリス、どうかしましたか? まだ体調が悪いのですか?」
「いえ、お母様。体調は大丈夫なのですが、何だか周りがキラキラと光って見えるのです……礼拝堂に向かう時はこのようなことはなかったのですけど……」
「もしかしたら『精神活性』の影響かもしれないですね」
「そうなのですか?」
わたしが首を傾げると、お母様も一度頷いて言葉を続ける。
「恐らく。『魔力活性』や『生命活性』と同じように、授かった時から効果がある魔法なのでしょう」
そう言われると、魔法を授かった時から見える景色が変わっていたことに気付いた。礼拝堂の時から『精神活性』が発動していたようだ。お母様はわたしを撫でながら話を続ける。
「魔法を使えるようになると、できることは増えます。ですが、むやみに魔法を発動してはなりませんよ。しっかり練習してからです」
「分かりました、お母様……」
わたしも『魔力活性』のせいで倒れるのは嫌なので、お母様の言葉に素直に従う。倒れるかもしれないという恐怖を振り払うように、わたしはお母様にピタリとくっつく。
「あら、クリスは甘えん坊ですね」
「今だけです、お母様……」
「いつも甘えてくるじゃないですか」
クスクスと笑いながら、少し膨れたわたしを優しく撫でるお母様の手はとても温かかった。
「少しクリスの部屋でお茶にしましょう。話したいこともありますからね」
本館に到着すると、わたしはお母様とお茶会をすることになった。場所はわたしの部屋だ。わたしはお茶会ができることが嬉しくて、早く部屋に戻りたいとお母様の手をグイグイと引っ張る。
「そんなに焦らなくても大丈夫ですよ、クリス」
「お母様とお茶会できるのが嬉しいのです! 早く参りましょう、お母様!」
クスクスと笑うお母様の手を引いて、わたし達は部屋へと戻った。
部屋に戻ると、ローゼがお茶会の準備を始める。そんな中、お母様はわたしをじっと見つめ、体調について確認してくる。
「クリス、体調は変わりありませんか?」
「はい、お母様。『生命活性』もちゃんと発動できているみたいで、昨日までと比べるとすごく動きやすいです」
わたしが笑顔でそう言うと、嘘をついていないことが分かったようだ。お母様もわたしに微笑みかけてくれる。
そんなやり取りの後、ローゼからお茶会の準備ができたことを聞いたわたし達は、お茶会用のテーブルへとつく。お母様がお茶を一口飲むと、二人のお茶会が始まった。
「まずはクリスが授かった魔法の話からにしましょうか」
「魔法の話ですか?」
「ええ。先ほどアロイス司祭にも言われましたが、クリスの魔法はとても不安定なのです」
お母様は魔法について話し始める。わたしを含めた王族は強力な魔法を授かることが多く、その中には副作用として制限がかかる魔法もあるらしい。
強力な魔法の中でも『魔力活性』とわたしの相性は悪く、『生命活性』がなければ命が危なかったことを説明される。
「クリス以外が授かったのであれば、わたしも素直に喜べたのですが、クリスは元々魔力が多く体調を崩しやすいでしょう? そのため、『生命活性』をなるべく早く使いこなさなければなりません」
「分かりました、お母様。それでわたしはどのようにすれば良いのでしょうか」
真剣な表情で心配してくれるお母様のために、わたしはどんなことでも耐えて見せると強い気持ちでお母様を見つめる。お母様はそんなわたしの表情を見ると、笑みをこぼす。
「そんなに難しい顔をしなくても大丈夫ですよ、クリス」
お母様の言葉に、わたしがホッと表情を崩すとお母様も話を続ける。
「まずクリスは魔力制御の練習が必要です。そのため、セレスタに協力してもらいます」
「セレスタお姉様ですか?」
セレスタお姉様はわたしの二つ年上のお姉様だ。回復魔法を得意とするセレスタお姉様は、治療師として活動しており、たまにわたしの様子も見に来てくれていた。
そのままお母様は一度頷くと、セレスタお姉様に手伝ってもらう理由を説明する。
「ええ。セレスタに手伝ってもらう一番の理由は回復魔法を使えることです」
「回復魔法……」
「回復魔法は相手に自分の魔力を流し込んで、回復力を向上させる魔法です。使ってもらえば魔力制御の感覚が掴みやすくなるでしょう」
「それでセレスタお姉様に手伝ってもらうのですね……」
不安そうにしているわたしを見て、お母様は不思議そうに声をかけてくる。
「何か心配していることがあるのですか? クリス」
「いえ……セレスタお姉様と仲良くできるか不安だったのです、お母様」
わたしはほとんど部屋で過ごしていたので、きょうだいとの接点があまりなかった。そのため、年が近くたまに来てくれていたセレスタお姉様でも、わたしと仲良くしてくれるのか不安だったのだ。
それを聞いたお母様は優しい微笑みをわたしに向けてくる。
「心配ありません、クリス。セレスタも他のきょうだいもクリスが元気になったら一緒に遊びたいと言っていましたよ」
「本当ですか!? それなら嬉しいのですが……」
そう言うとお母様は椅子から立ち上がり、こちらへ近づいて来た。わたしが首を傾げているとお母様がぎゅっと抱きしめてきた。
わたしが目を丸くして驚いていると、お母様は優しく頭を撫でてくれる。
「大丈夫ですよ、クリス。私達家族は皆クリスのことが大好きですから」
「お母様……」
少しするとわたしが安心していることに気付いたのか、お母様が抱きしめるのをやめて自分の椅子へと戻っていく。
わたしが少し寂しく感じていると、お母様はお菓子を一口食べて話を戻す
「それではセレスタに魔力制御の練習を手伝ってもらいましょう。よろしいですね?」
「はい、大丈夫です! よろしくお願いします!」
わたしが元気よく返事をするとお母様も頷いて笑顔になった。それからしばらくはお茶会をしていたが、わたしが眠くなってしまったのでお茶会は終了となった。
礼拝堂まで歩いたり、魔法を授かったり、『魔力活性』で倒れかけたりと、わたしは自分で思っているよりも疲れていたようだ。まだ夕方だが今日はもう寝ることになった。
ローゼに着替えさせてもらうと、お母様がベッドに寝かせてくれる。
「今日は疲れたでしょう。ゆっくりお休みなさい、クリス」
「お休みなさい、お母様……」
お母様の声と優しい手のひらがわたしに触れる。しっかりと『生命活性』を練習して、次のお茶会は最後まで参加しようと、わたしは眠りにつく意識の中で考えていた。