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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第二章 学園で楽しく過ごしたい!
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寮生活の始まり

 フローラが礼をして去っていったので、わたし達も行動を開始する。それぞれの荷物は、寮の説明を聞いている間にローゼが部屋へ運び込んでくれたらしいので安心だ。


「それでは、クリス。まずは部屋を見に行きませんこと?」


 そう言って提案してきたのはセレスタお姉様だ。わたしは目を輝かせながらそれに頷く。


「もちろんです、セレスタお姉様! 早く行きましょう!」

「もうクリスったら……ええ、行きますわよ」


 わたしが鼻息荒くセレスタお姉様の手を引っ張ると、セレスタお姉様は苦笑しながらも部屋へと案内してくれる。


「これから向かう部屋は去年わたくしが使っていた部屋ですの」

「そうなのですか? どんな部屋なのか楽しみです!」

「ええ、クリスにもきっと喜んでもらえますわ」


 その部屋は王族や上位貴族が使うことを想定しているため、他の部屋よりも広めに作られているらしく、十分に広いのでわたしも一緒に使えるのだと、セレスタお姉様が部屋に行く途中で色々と説明してくれた。


 セレスタお姉様の案内について行くと、寮の三階にある部屋へと到着した。


「さあ到着しましたわよ、クリス」

「ここがわたしの部屋ですか!?」

「ええ、今日から一年間はここがわたくしとクリスの部屋ですわ」


 わたしが扉の前に立つとセレスタお姉様が腕輪のようなものを扉にかざした。


「お姉様、それは?」

「部屋の鍵ですわ、クリス……さあ、開きましたわよ」


 部屋の鍵は魔道具になっていて、その部屋に対応した物でないと開けることができないそうだ。わたしが鍵の作りに感心していると、セレスタお姉様が部屋の扉をガチャリと開ける。


 どのような部屋なのか期待に胸を膨らませたわたしが足を踏み入れると、城にあるわたしの部屋より少し大きいくらいの部屋がそこにはあった。


「わあ!」

「むー!」


 新しい部屋に興奮しているむーちゃんを床に置くと、トコトコと部屋の中を走り始めた。わたしも物珍しさに辺りを見回しながら、セレスタお姉様に話しかける。


「わたしも今日からここで生活するんですよね!?」

「ええ、そうですわ。それとこの部屋の鍵をクリスにも渡しておきますわね」


 そう言うとセレスタお姉様は、鍵をわたしの手にポンと置いてくれた。先ほど見た通り、鍵は腕輪のような形をしていて、かざすことで部屋の開け閉めができるらしい。


「まずは鍵に魔力を登録しますわ」

「魔力の登録ですか?」

「ええ、指輪に魔力を流した時と同じように、腕に嵌めてから魔力を流してみてくださいませ」

「やってみます!」


 わたしが少し大きめな腕輪を嵌めて魔力を流すと、腕輪がわたしの腕にピッタリの大きさに変形した。


「これで大丈夫でしょうか……?」

「ええ、なくさないように気を付けてくださいませ。使い方は部屋を出る時に教えますわね」

「はい! ありがとうございます、お姉様!」


 わたしが鍵を見て満足気な表情を浮かべていると、それを見たセレスタお姉様もニコニコと微笑んでくれた。


「それにしても色々とありますね!」


 キョロキョロとわたしが部屋を物色していると、むーちゃんがこちらに駆け寄って来る。


「むー!」

「むーちゃん、どうかしましたか?」


 わたしは仕方なさそうな顔をしたセレスタお姉様に見守られながら、興奮しているむーちゃんを抱き上げる。


「むーちゃんもこれからよろしくお願いしますね!」

「むい!」


 任せておけというように前足を前に突き出すむーちゃんにわたしが心強さを感じているとセレスタお姉様から声がかかる。


「クリスはこれからどうしますの? 時間に余裕はあるので寮の案内もできますわよ」

「それでは案内してもらいたいです! 何があるのか楽しみですもの!」


 わたしが笑いながらそう言うと、セレスタお姉様も快く頷いてくれた。わたしはむーちゃんを抱えてセレスタお姉様と部屋を出ると、自分の鍵を使って扉を閉めることにした。


 わたしは部屋の扉に腕輪型の鍵をかざす。


「これで大丈夫でしょうか?」

「ええ、ちゃんと閉まっていますわ」


 そう言ってセレスタお姉様が部屋を開けようとするが、ビクともしない。しっかりと鍵がかかったようで、わたしは満足してセレスタお姉様と一緒に歩き出す。


 寮の二階は男性用の部屋があるだけなので特に案内はなく、そのまま一階へと降りていくと階段を降りた先でエメラルお兄様と出会った。


「クリスは姉さんに案内してもらってるの?」

「はい! お兄様も一緒に行きますか?」

「僕はいいかな。図書室にいるから何かあったら声をかけてよ」


 そう言ってエメラルお兄様はスタスタと歩いて行ってしまった。わたしは首を傾げてセレスタお姉様の方を見る。


「お姉様、図書室も寮の中にあるのですか?」

「ええ、学生が自習するための図書室がありますわ。他には音楽室もありますし、工作室には錬成器も置かれていますわ」

「凄いですね……! もう寮の中で何でもできるではありませんか!」


 わたしが感動していると、セレスタお姉様はクスクスと笑う。


「それでも講義棟や研究棟の方が設備も整っているので、ほとんどの学生はそちらで活動しますわ」

「講義棟というのは講義を行う建物のことですよね?」

「ええ。春休みが終わって講義が始まれば、クリスも講義棟に入れるようになりますわ」


 わたしが皆と一緒に勉強できることを楽しみにしながら、セレスタお姉様に案内してもらっていると、最初にフローラから寮の説明を受けたホールへと到着した。


「先ほども来ましたけれど、こちらがホールになりますわ。全員で集合するときに使いますわね」

「全員……どのくらいの人数が寮にはいるのですか?」


 ここに来るまでにも何人かの学生に挨拶されたので、どのくらいの人数が寮で暮らしているのか気になっていたのだ。


 わたしがそう聞くとセレスタお姉様はスラスラと答えてくれる。


「エデルシュタインの学生は学年ごとに二十名。全学年合わせて百二十名ですわね」

「そんなにいるのですね……わたし上手くやっていけるでしょうか……」


 今まで五人のきょうだいと一緒に過ごしてきたが、学年だけでもそれだけの数がいると聞いてわたしは少し不安になって来た。


 そんなわたしを見たセレスタお姉様は、頭を優しく撫でてくれる。


「大丈夫ですわ、クリス。クリスのことを邪険に扱う者はおりませんわ。それにスピネルが来れば護衛してもらえるのですから、心配することはありませんわ」

「分かりました! ありがとうございます、お姉様!」


 草原でのお茶会の後、スピネルには護衛の打診をして了承の返事をもらっている。学園では名実ともに、スピネルがわたしの護衛になることが決まっているのだ。


 次にセレスタお姉様が連れて来てくれたのは食堂だ。こちらもホールと同じく全員が来ても座れるようにかなり広めとなっている。


「ここは食堂ですわ。寮では皆が一緒に食事をしますの」

「わあ! わたし、皆の話を聞いてずっと楽しみにしていたのです!」


 わたしは城で他のきょうだいの話を聞いてから、寮の食堂で皆と一緒に食事をすることを楽しみにしていたのだ。


「お姉様、今日は一緒に食べましょうね!」

「もちろんですわ。あとで他のきょうだいにも声をかけますわね」


 セレスタお姉様はそう言うとニコニコと楽しそうに笑う。そのままセレスタお姉様に連れられて料理を注文するカウンターに向かったわたしは、色々な料理の絵が描かれたメニューとにらめっこをする。


 食堂のメニューは日によって違うが、基本的に好きな物を選んで良いそうだ。デザートなどメニュー以外の物を頼む場合にはお金が必要だが、メニューにあるものを注文する場合にはお金はかからないらしい。


 わたしは今日の夕食をどれにしようか考えながら、セレスタお姉様と話をする。


「どれにするか悩みますね、お姉様!」

「ええ。たくさん悩むと良いですわ、クリス。わたくしのおすすめは今日のメニューならこれですわ」


 そう言ってセレスタお姉様が指差した絵は、フワフワした黄色い卵がご飯の上に乗っているオムライスだった。


「それではわたしはそれにします! 今日の夕食が楽しみですね、お姉様!」


 そうしてしばらくセレスタお姉様に寮の中を案内してもらうと、夕食の時間が近づいてきた。


「そろそろ食堂に向かいますわよ、クリス」

「はい、お姉様! 初めての寮での食事なのでとても楽しみです!」


 そんな会話を交わしながらセレスタお姉様と食堂に戻ってくると、他のきょうだいは既に食堂に集まっていたようで、入口の近くに立っていたアレキサンダーお兄様に声をかけられる。


「やあ、セレスタ、クリス。今日は皆で食事しようと思ってたから、丁度二人を探しに行くところだったんだ」

「ありがとうございます、アレキサンダーお兄様。わたしも皆と食事したいと思っていたので会えて良かったです!」


 わたしとセレスタお姉様を加えて六人になったわたし達は、周りからの注目を集めているようだった。周りからヒソヒソと声が聞こえてくる。


「あれが王族の六人か……!」

「先ほどセレスタ殿下と一緒に歩いていたのがクリスティア殿下ですって! 可愛らしいお方ですわね!」

「今年は全学年に王族がいるってことか……! 大魔法祭が楽しみだぜ!」

「あの白くてフワフワした魔獣はムイムイでしょうか? とても可愛いですわ……!」


 やはり六人で固まると目立っているようで居心地が悪く、わたしは小さい体をさらに縮こませて、腕に抱えたむーちゃんをさらに強く抱きしめる。そんなわたしの背中をアレキサンダーお兄様は優しく押してくれた。


「堂々としていればいいんだよ、クリス」

「はい、アレキサンダーお兄様。ありがとうございます!」


 そう言われたわたしは胸を張るとむーちゃんに座席で待っていてもらい、皆と一緒にカウンターへ食事を受け取りに行く。今日の夕食は先ほどセレスタお姉様にお勧めされたオムライスにした。


 美味しそうな匂いと見た目に食欲をそそられて、早く食べたいとお腹が叫ぶ。わたし達は受け取った食事をトレイに置くと、むーちゃんを座らせている席まで持っていく。


「さて、それじゃあ学園に無事到着したことを祝って食事を始めよう!」

「はい!」


 皆が席に着いたところでアレキサンダーお兄様が号令をかけると食事が始まる。


 食事中の主な話題はわたしの寮生活についてだ。フワフワした卵と味付けされたご飯に舌鼓を打つわたしに向けて、エメラルお兄様が心配そうに目を向ける。


「それでクリス。ちゃんと寮生活はできそう?」

「はい、エメラルお兄様! 今日はセレスタお姉様に案内してもらいましたし、こうして皆で食事もできるのですから明日からもとても楽しみです!」

「それなら良かった。まだスピネルは学園に来てないのかな?」


 エメラルお兄様がキョロキョロと辺りを見回すが、スピネルの姿はないように見える。他の学生達の姿を見ながら、カーネリアお姉様がスピネルの来ていない理由を説明する。


「まだ来ていないようだな。聞いた話だとクリスの護衛に決まったのでギリギリまで訓練をしているらしいぞ」

「またこの間みたいなことがあっても困るからな。もうしばらくは来ないってことか」


 あまり詳しいことは言わないヘリオドールお兄様だったが、草原で急に出現した魔獣のことだ。結局あの時の原因は未だに掴めていないので、お兄様も積極的に話すつもりはないようだ。


「そうなんですね、会えるのを楽しみにしていたのですけど残念です」


 肩を落とすわたしを見て、アレキサンダーお兄様が慰めるように言葉をかけてくれる。


「すぐに会えるさ。それに春休みの間は私とエメラルが一緒に遊ぶから、クリスも寂しくはないだろう?」

「はい! お兄様達と遊べるので寂しくありません!」


 わたしがそう言うと皆も笑ってくれる。そうして楽しい食事が終わると各々部屋へと戻っていく。カーネリアお姉様の部屋はわたしの部屋の隣なので最後まで一緒だった。


「それではクリス、セレスタもお休み」

「おやすみなさい、カーネリアお姉様!」


 わたしとセレスタお姉様は挨拶を済ませると、そのまま自分の部屋に入る。部屋に入ったわたしは抱いていたむーちゃんを床に置き、一度伸びをする。


「ん~! 今日も楽しかったです!」

「おかえりなさいませ、セレスタ様、クリスティア様」


 そう言って迎えてくれたのはローゼだ。本来なら従者を寮に連れてくることはできないのだが、わたしの体調がまだ不安なこともあって今年はローゼを置くことが許可されているのだ。


「ただいま戻りました、ローゼ!」


 わたしの無事を確認したことで、ローゼも安心してくれたようだ。表情を緩めると着替えの支度をしてくれる。


 セレスタお姉様と順番で湯浴みを終えると、もう眠る時間だ。温風の魔道具で髪を乾かすと、わたしとセレスタお姉様はそれぞれに用意されているベッドで横になった。


「お休みなさい、セレスタお姉様」

「クリスもお休みなさい。良い夢を」


 二人で就寝の挨拶をかけあい、明かりを消すとすぐに眠くなってくる。わたしは新しい生活の始まりを感じ、期待に胸を膨らませながら夢の中へと旅立っていった。

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