魔法学園
ハイリヒクロイツ王国にかかる橋がかなりの長さであることは、先ほど魔動車の窓から確認済みだ。走る魔動車の中、わたしはむーちゃんと一緒に窓から湖を眺めていた。
「綺麗ですね、むーちゃん!」
「むい!」
わたしが感動していると、むーちゃんも楽しそうに足をパタパタと動かす。
わたしとむーちゃんとで楽しく湖を見ているうちに橋が終わり、わたし達の乗った魔動車は島へと入っていく。島の湖寄りの部分には町があるのだが、魔動車で学園に向かう者のために大きな道が通っているので、道の右と左で町が大きく分かれている。
「町にも行ってみたいですね、むーちゃん!」
「むー!」
わたしが左側の窓から町を見ていると、嬉しそうな顔をしたエメラルお兄様に声をかけられる。
「クリス、こっち側も見てごらん」
「? 分かりました!」
エメラルお兄様はそう言って右側の窓を指差す。右と左で何か違うのだろうか。移動したわたしが窓の外を見ると、先ほどまで見ていた町とは、雰囲気が異なる町が広がっていた。
不思議に思ったわたしは首を傾げてエメラルお兄様に尋ねることにした。
「どうして右と左でこんなに雰囲気が違うのですか?」
「町の住人が違うからだよ、クリス。左の町はエデルシュタイン王国、右の町はファルベブルク王国の者が多く住んでいるから雰囲気が違うんだ」
そう言ったのはエメラルお兄様ではなく、近くにいたアレキサンダーお兄様だった。確かに左に見える町は、わたしが宝石を買いに行った町と雰囲気が似ているように見える。
町に寄ることができたら楽しそうだと思ったわたしは、期待を込めた目でエメラルお兄様を見つめる。
「少しだけでも町に寄ることはできないのですか?」
「今はまだダメかな。一度学園で手続きしないと町には行けないんだ」
エメラルお兄様によると、学園で申請すれば休養日である闇の日に町に行くことはできるらしい。しかし、まだ学園に到着していない状態では、寄ることはできないとのことだ。
わたしは少し残念に思いながら、窓から街並みを見てどのような物があるのかと、期待に胸を膨らませる。
そのあとはしばらく街並みを見ながらきょうだいと話したり遊んだりしている間に、魔動車は町を抜け、森を抜け、学園へと到着したようで動きを止める。
「お、着いたか?」
自分のベッドで腕を枕にして横になっていたヘリオドールお兄様が、起き上がりながら口にする。
そう言われてわたしが窓の外に目を向けるよりも早く、魔動車の扉がガチャリと音を立てて開く。
「皆様、学園に到着しました」
「本当ですか!?」
そう言ってローゼが扉を開けたことで学園に到着したことが分かったわたしは、興奮のあまり飛び出るようにして魔動車から降りる。むーちゃんもわたしの興奮を感じたのか腕の中でモゾモゾと動いている。
地面に降り立ったわたしの目の前には、見上げるほど大きな建物がそびえ立っている。大きな口を開けているように見えるその建物は、わたし達の到着を歓迎しているようにも感じられた。
わたしは目を輝かせて両手を合わせると、建物を見上げて感動を口にする。
「わあ! ここが学園ですか!?」
「クリス、そんなに慌てなくても学園は逃げないから落ち着きなさい」
わたしがキラキラした目で建物を見上げていると、アレキサンダーお兄様が話しかけてくる。
「目の前の建物は学生寮だよ、クリス。今日からはここで生活するんだ」
「これが寮なのですね……! わたしはセレスタお姉様と同じ部屋で生活するのですよね?」
わたしが勢いよく後ろを振り向くと、セレスタお姉様が魔動車から降りてくるところだった。セレスタお姉様はそのまま地面に足を付けると、わたしの方を向いてニコリと笑う。
「ええ、そうですわ。よろしくお願いしますわね、クリス」
「こちらこそよろしくお願いします、セレスタお姉様!」
二人で笑い合っていると、他のきょうだいも魔動車から降りてきて、全員が寮の前に集合した。
ローゼが荷物を降ろし終わるのを六人で待っていると、寮の方から誰かが出てくる。わたし以外のきょうだいはその人物と面識があるようだ。
わたしがそれにきょとんとしていると、寮の方から来た女性がわたし達の前で足を止める。そして、姿勢を正すとわたしに向けて自己紹介を始めた。
「クリスティア王女殿下におかれましては、ようこそ王立魔法学園へお越しくださいました。私はフローラ、このエデルシュタイン寮の寮監をしております」
フローラを名乗る女性は、わたしに向けて微笑むと一度礼をする。それを受けたわたしも彼女に自己紹介する。
「初めまして、フローラ。わたしはエデルシュタイン王国第六王女、クリスティア・エデルシュタインと申します。これから六年間よろしくお願いしますね」
「こちらこそよろしくお願いしますね、クリスティア殿下」
わたしが自己紹介を終えてフローラにニコリと微笑むと、初対面の挨拶は完了だ。フローラは一度こちらを見回すと口を開く。
「それにしても、殿下達六人が並んでいる姿は壮観ですね。クリスティア殿下が元気になったとお聞きした時から、お会いできることを楽しみにしておりました」
フローラはニコニコと笑いながら、わたしのことを見つめる。わたしも早く寮の中が見たくてニコニコしている。
そんなわたしの様子に気付いたのか、フローラが寮の方に手を向けると、口を開く。
「クリスティア殿下も待ちきれないようですし、早速寮の中に入りましょう。ついて来てくださいませ、皆様」
そう言うと、フローラが寮の中に向かって歩き出したので、それに続いてわたし達も寮の中に入ることにした。
玄関で靴を履き替えると順番に寮の中に入っていく。わたしが物珍しさからキョロキョロと見回していると、セレスタお姉様にそっと手を引かれる。
「あとで案内しますからとりあえず今はフローラについて行きますわよ、クリス」
「分かりました、セレスタお姉様! 後で案内してくださいね!」
そんなやり取りの後、わたし達が連れて来られた先は寮のホールだった。フローラはクルリと振り向くと寮の説明を始める。
「学園で生活していく以上、この寮にいる時間はどうしても長くなります。そのため、皆で協力して暮らしていくために、いくつかの決まりごとがあります。皆様はそれを守って過ごすようにお願いいたします」
フローラはいくつかの決まりごとを説明してくれたが、基本的には他の人に迷惑をかけないで、皆が気持ちよく過ごそうという物だった。
寮の説明を終えたフローラは、わたし達に向けて最後に一言だけ付け加える。
「それでは私はこれで失礼いたします。最後になりますが、ようこそ魔法学園へ。わたし達は学生の皆様を歓迎いたします」
「はい!」
こうして、わたし達六人は学園へと足を踏み入れたのだった。




