学園への出発
皆と一緒に過ごした春休みも終盤となり、学園へと移動する日になった。わたしは城の前庭で春の温かい日差しを受けながら、他のきょうだいを見回す。
エメラルお兄様、セレスタお姉様、ヘリオドールお兄様、カーネリアお姉様、アレキサンダーお兄様。この五人と学園でも一緒に過ごせると思うと、期待に胸が膨らんでいく。
これから向かう学園の正式名称はハイリヒクロイツ王立魔法学園。ハイリヒクロイツ王国にある魔法学園で、学生として六年間を過ごす場所でもある。
わたし達が住んでいる大陸には『神聖王国』ハイリヒクロイツを囲むように三つの国がある。『芸術王国』ファルベブルク、『植物王国』ボタニガルテン、そして『魔石王国』エデルシュタインだ。
それぞれの国が協力し合うことを示すために、優秀な学生はハイリヒクロイツにある王立魔法学園に通うことになっているそうで、少し緊張するがそれと同時に楽しみでもある。
楽しみな気持ちを抑えきれずに、わたしは忙しそうに動いているローゼに声をかける。
「準備はどうでしょう、ローゼ!」
「もう少々お待ちください、クリスティア様」
ローゼは他の従者と一緒になって、魔動車にきょうだいの荷物を積み込んでいるところだ。
今回の移動では新型の大人数が乗れる魔動車を使い、きょうだい揃って学園に向かうことになっているので、荷物も結構な量になってしまう。
わたしは手に抱えているむーちゃんを撫でながら、セレスタお姉様に話しかける。
「早く学園に行きたいですね、セレスタお姉様!」
「ええ、クリスはわたくしと同室ですものね。一緒に過ごせるのがわたくしも楽しみですわ!」
セレスタお姉様も華やいだ声を上げて喜んでくれる。わたしは頷いてむーちゃんの頭を撫で続ける。
他のきょうだいがそれぞれ楽しそうに話しているのを見ながら、セレスタお姉様と荷物の積み込みを待っていると、ローゼから準備完了の声がかかった。
「皆様、準備が完了しましたので魔動車にお乗りください」
そう言ってローゼは魔動車の客室を開ける。
学園に向かう魔動車の運転手は今回もローゼにお願いしてある。ローゼはわたしの側付きでもあるが、本来は王家の使用人でもあるので様々な場面で頼りになるのだ。
「ありがとうございます、ローゼ! それでは皆乗りましょう!」
わたしがローゼに向けて頷くと、きょうだい皆で客室に乗り込む。むーちゃんは車内で動き回ると危ないので、わたしが抱きかかえて乗ることになっているため、今はわたしの腕の中で大人しくしてくれている。
「これは凄いですね!」
車内に乗り込んだわたしは魔動車の車内をキョロキョロと見回す。今回手配された魔動車はまだ市販はされていない最新型で、ベッドやソファ、テーブル、挙句の果てにはキッチンなどもついており、もはや魔動車というよりも動く部屋といった印象を受ける。
わたしの感嘆の声を聞こえたのか、後ろから乗り込んできたアレキサンダーお兄様が、魔動車について楽しそうに語り始める。
「この魔動車は凄いんだよ、クリス! 今までの魔動車だと窮屈な状態で六人が座らなくてはいけなかったのに、こんなに広々と足を伸ばして過ごすことができるんだ! それにベッドもついているから長旅でも快適なんだよ!」
どうやらアレキサンダーお兄様は魔道具研究所でこの魔動車の開発に関わっていたようで、目をキラキラと輝かせながら興奮している。
「騎士団の演習でも大きな魔動車に乗ったことはあるが、こっちの方が断然快適そうだな……」
「それはそうだよ、カーネリア! 何といってもエデルシュタインの最新技術が詰め込まれた魔動車だからね!」
あっけにとられたカーネリアお姉様以外のきょうだいも皆、車内を物珍しそうに眺めている。明らかに今までの魔動車とは快適さが違うので、見ているだけでも楽しいのだ。
そんな中キョロキョロと辺りを見回していたヘリオドールお兄様が声を上げる。
「兄上の言う通り、確かにこれは凄いな……おっ!」
そう言いながらヘリオドールお兄様が目を付けたのは、上下に分かれた二段のベッドだ。
「それじゃあ俺は上の段を使わせてもらうぞ!」
魔動車の後部には一人用の二段ベッドと二人用の二段ベッドの二つがあり、ヘリオドールお兄様は一人用の二段ベッドの上に、自分の荷物を置こうとしている。
「待って、ヘリオドール兄さん! ここは皆で話し合って決めよう!」
「そうだぞ、ヘリオドール! ここは公平に勝負で決めようじゃないか!」
ヘリオドールお兄様の動きを止めようと、エメラルお兄様とカーネリアお姉様が動き出す。カーネリアお姉様は車内に持ち込んだ小さ目の鞄からトランプを取り出し、宣言する。
「『闇精霊の悪戯』で勝負だ!」
「いいだろう姉上! 上のベッドは譲らないからな!」
そう言いながら喜々としてヘリオドールお兄様が勝負を受けたので、きょうだい全員でベッドの場所をかけたトランプ大会が開催されることとなった。
「それでは出発いたします」
準備をしている間に前方のローゼから声がかかり、魔動車が出発したようだが揺れをほとんど感じなかった。不思議に思ったわたしは首を傾げてアレキサンダーお兄様を見つめる。
「アレキサンダーお兄様。今ほとんど揺れを感じなかったのですが、どうなっているのですか?」
「揺れの軽減に風魔法の原理を使っているんだ! この間クリスに見せた飛行の魔道具の仕組みを応用しているのさ!」
「それでは、アレキサンダーお兄様の言っていた空飛ぶ魔動車に一歩近づいたのですね!」
アレキサンダーお兄様は楽しそうに頷く。わたし達がそんな会話をしていると、トランプの準備が整ったらしくカーネリアお姉様から声がかかる。
「さあ、クリス! 兄上も! 準備ができたから勝負を始めるぞ!」
春休み中も何回かきょうだいでトランプはしていたので、ルールはバッチリだ。
闇精霊の悪戯とは、光の精霊のカードを抜いた五三枚のカードで行われるゲームだ。円形に座って左隣の人の手札から一枚を引いて、自分の手札に同じ数字があればテーブルの上に出すことができる。そうして順番にカードを引いていって、最後に闇の精霊のカードを持っていた人が負けというルールである。
「今回は上がった者からベッドの場所を選ぶルールだ!」
「負けないよ、カーネリア姉さん!」
「俺だって負けないからな! 早くクリスも座るんだ!」
ヘリオドールお兄様に急かされたわたしは、むーちゃんを抱えたままソファへ座りテーブルの上に配られたカードを手に取る。この勝負、負けるわけにはいかない。
「それではわたしから引きますね!」
「いいよ、クリス!」
「えい!」
わたしが気合を入れて隣にいるエメラルお兄様の手札を引くと、いきなり数字が揃った。テーブルの上にカードを出すとそれを見たエメラルお兄様が悲鳴を上げる。
「クリス~~!!」
「今回は『精神活性』は使っていませんよ、エメラルお兄様。純粋な実力です!」
以前セレスタお姉様と神経衰弱をした時、何故カードが見えるようになったのかという話になり、春休みの間に色々と試しているとその理由が分かった。わたしの授かった固有魔法『精神活性』だ。
『精神活性』を発動することでカードの傷やインクのかすれ具合、感触などを細かく見分けられるようになり、カードの絵柄が直感的に分かるようになったのだ。
そのため、皆で遊ぶ時は『精神活性』を発動してはならないというルールがわたしだけに追加されてしまった。
「ごめんなさい、エメラルお兄様。これも勝負なので……」
わたしは嘆くエメラルお兄様に軽く謝ると、アレキサンダーお兄様に手札を引いてもらう。
「さあ、どうぞ。アレキサンダーお兄様!」
「それでは引かせてもらうかな……むっ!」
わたしのカードを引こうと手を伸ばしてきたアレキサンダーお兄様が一瞬手を止める。わたしが扇状に並べた手札の中に、一枚だけ飛び出したカードがあるせいだ。
このゲームでは闇の精霊のカードを最後に持っていた人が負けになるので、如何にして相手に闇の精霊のカードを引かせるかという作戦が必要になるのだ。
アレキサンダーお兄様はフッと笑うと、飛び出していない別のカードを引く。
「甘いね、クリス。その飛び出たカードが、闇の精霊だということはお見通しだよ」
そう言って得意気にカードを引いたアレキサンダーお兄様だったが、自分の引いたカードを見ると、悲鳴を上げる。
「クリス~~!!」
「アレキサンダーお兄様が自信満々に引いたカードは闇の精霊ですよ!」
わたしは作戦に引っかかったアレキサンダーお兄様に目を向けるとクスクス笑う。誰も飛び出たカードが闇の精霊とは言っていないので、引っかかったアレキサンダーお兄様が悪いのだ。
そうして皆で順番にカードを引いていくと、ついに手札が全部なくなった者が出た。
「一番乗りですわ!」
そう言いながら、自分のベッドを決めたのはセレスタお姉様だった。二人用のベッドの上の段を取ったセレスタお姉様は嬉しそうだ。
対照的にヘリオドールお兄様は悔しそうに呻いている。
「くそ! 次こそ俺が上がるぞ! まだ一人用の二段ベッドが残っているんだ!」
「残念だったね、ヘリオドール兄さん。僕も上がりだよ」
次に手札を全てテーブルに出したのは、エメラルお兄様だった。エメラルお兄様がベッドの上を取ってしまったので、この時点でヘリオドールお兄様は下の段が決定した……と思った次の瞬間、ヘリオドールお兄様が声を上げた。
「まだだ! まだ次に上がれば、セレスタの隣に寝ることができるからな!」
「わたくしの隣を狙っているのですか!? わたくし、ヘリオドールお兄様と一緒に眠るなんて嫌ですわ! クリス、カーネリアお姉様、何とか勝ってくださいませ!」
セレスタお姉様の祈りが届いたのか、次に上がったのはわたしだった。わたしは勝ち誇るとヘリオドールお兄様に目を向ける。
「わたしの勝ちですね、ヘリオドールお兄様」
「くそ~~!!」
「よくやりましたわ、クリス!」
本気で悔しそうなヘリオドールお兄様を横目で見ると、わたしはセレスタお姉様と笑い合う。
こうして楽しいトランプ大会は過ぎていった。ちなみに最下位はヘリオドールお兄様だった。




