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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第一章 きょうだいと楽しく過ごしたい!
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家族とむーちゃん



 お茶会の片付けを終えてわたしとローゼが魔動車のところまで戻ると、スピネルも帰りの支度を終えていたようだ。荷物を魔動車のところに置き、わたし達は見送りのためスピネルの前に立った。


「今日はお誘いいただき、ありがとうございました。セレスタ殿下、クリスティア殿下。また学園でお会いできることを楽しみにしております」


 そう言ってスピネルはわたし達に深々と礼をする。わたしとセレスタお姉様、わたしに抱きかかえられたむーちゃんはそれを見て、スピネルに礼を返した。


「こちらこそ、学園でお会いできることが楽しみですわ、スピネル様」

「今日は花冠を作ったり、むーちゃんを使い魔にできて、とても楽しかったです。また学園でもお茶会できることを楽しみにしていますね、スピネル様」

「むーむー」


 今日は途中で色々あってお茶会が中断されてしまったが、そのことには触れずに挨拶を締めるとスピネルはニコリと笑う。


 わたし達が見送る中、スピネル達の乗った魔動車が出発する。去り際にスピネルが窓から手を振ってくれたので、わたしも軽く手を振って返事をする。むーちゃんもスピネルとの別れを惜しんでいるようで、小さな前足をフリフリと動かしていた。


 そのままスピネルを乗せた魔動車が走り去るのを見届けると、わたし達も魔動車に乗って城へと帰ることにした。


 わたしはセレスタお姉様とむーちゃんのことについて話さなければならない。わたしがむーちゃんのフワフワした毛の感触を楽しんでいると、セレスタお姉様は重い口を開いた。


「お父様に今日のことをどう報告したものかしら……」

「あったことを報告すれば良いのではありませんか?」

「そのまま報告すると、クリスがムイムイを勝手に使い魔にして、クリスが強力な魔法で魔獣を倒したという報告になりますけれど、本当によろしいかしら?」

「よ、よろしくないです……」


 そのままの報告ではわたしが叱られて終わってしまう。しかも今日の本題であるお茶会も中断しているのだ。褒められる要素が見当たらない。


 わたしとセレスタお姉様が頭を抱えていると、むーちゃんがわたしの腕の中で慰めるように声を出す。


「むーむー!」


 元気出せよと言っているようなむーちゃんの声に和みながら、とりあえずセレスタお姉様と相談することにした。


「とにかく今日あった良いことを並べてみましょう。むーちゃんを使い魔にしたこと、魔獣を倒したこと、花冠を作ったこと、お茶会が楽しかったこと、スピネルが護衛を引き受けてくれたこと……結果だけは楽しい感じになりましたね!」

「でも、花冠を作ったこと以外は怒られそうですわ……」


 わたし達はしばらく考えていたが、どうせローゼも報告をするのだから隠しても仕方ないという結論にたどり着いた。


 わたし達が考えるのをやめてむーちゃんと遊んでいると、いつの間にか魔動車は城に到着していた。


「到着しましたよ、セレスタ様、クリスティア様」


 そう言われて魔動車から降りると、空がどんよりと澱んだ色をしていた。今日は雨が降るかもしれない、そんなことを考えながらわたし達は一度自分の部屋に戻る。


 部屋に戻ったわたしは足をパタパタと動かしているむーちゃんを床に置き、ローゼにムイムイの飼い方を相談する。


「ローゼはムイムイの飼い方を知っていますか?」

「詳しくは存じませんね……飼育方法が載っている本を探して参りましょうか?」

「今は夕食まであまり時間もないので、先に夕食の支度を進めましょうか」


 ローゼもあまり知らないらしいので、むーちゃんの飼育については後で考えることにした。とりあえずむーちゃんが勝手に出歩かないように命令しておく。


「むーちゃん、この部屋から出ないで大人しく過ごしてください!」

「むい!」


 了解というように器用に片方の前足をあげるむーちゃん。どうやらちゃんと命令はできているようだ。わたしは安心して夕食の支度に取り掛かる。


 むーちゃんの汚れを落とし、湯浴みや着替えを終えると、わたしはローゼを伴って食堂へ向かう。


 食堂に到着すると既に全員が揃っており、今日あったことはセレスタお姉様から報告されているようだった。わたしがセレスタお姉様の隣に座ると、お父様が咳払いをして口を開く。


「まずはセレスタもクリスもご苦労だった。色々とあったようだが、結果的には二人が無事で良かった」


 そこからはいくつかの伝達事項が告げられる。黒い魔獣が急に出現したため警戒を強化すること、わたしを一週間の外出禁止とすること、わたしが勝手に呪文を唱えないよう見張りを付けることなどだ。


「最後にクリスが使い魔にしたムイムイについてだが、きちんと世話ができるなら使い魔のままで構わない」

「本当ですか、お父様!」

「ああ、ただし他の者に襲い掛からないように命令をしておいてくれ。クリスと同じだけの魔法が使えるとなると少々危険だからな」


 そう言ってお父様はわたしの目をじっと見つめる。


「クリス、約束できるか?」

「はい。きちんと世話をして、命令もします!」


 わたしが元気良くそう言うと、お父様も満足したように頷き表情を崩す。


「そのムイムイを後で私にも見せなさい、クリス。実は私も子供の頃はハーゼを飼っていたんだ」


 お父様がそう言うと、いつも通りの夕食が始まった。


 お父様が飼っていたハーゼは悪戯好きで持ち物を良く隠されたという話、今日のお茶会で作った花冠の話、むーちゃんが回復魔法でセレスタお姉様を治してくれた話などをワイワイと話しながら、夕食の時間は過ぎていった。


 夕食を終えるとお父様だけでなく、皆がむーちゃんを見たがったので、ぞろぞろと家族全員でわたしの部屋へと移動する。


 自分の部屋に全員が入ったことを確認して、わたしは部屋の床でくつろぐように寝転んでいるむーちゃんを指差す。


「この子がむーちゃんです! 小さくて可愛いでしょう!」


 わたしがそう言うとお父様は、不思議な物を見るような目でむーちゃんを見つめる。


「これがムイムイなのか……? 随分と小さいな。それに青い目?」

「むーちゃんはどこか悪いのですか?」

「いや、あまりに小さいから変異種なのかと思っただけだ。それに私が子供の頃に飼っていたハーゼも白い毛皮に青い目だったので、少し思い出してしまったんだ」

「むい!」


 むーちゃんは前足を上げて、お父様に挨拶するように鳴く。それを見たお父様も、屈んでむーちゃんの頭を軽く撫でる。


「クリスを頼むぞ、むーちゃん」

「むい!」


 任せろと言うように再びむーちゃんは前足を上げる。お父様はそれを見て、少し鼻をすすりながら後ろへ下がる。昔飼っていたハーゼのことを思い出したのかも知れない。


 お父様が後ろに下がると、むーちゃんとのやり取りを見ていたきょうだいが、我先にとむーちゃんへ寄っていく。


「わたくしが一番むーちゃんに慣れていますから、最初に触りますわ!」

「僕も最初がいいよ、セレスタ姉さん!」

「エメラルはクリスと年が近いから、たくさん遊べるだろう! 俺が最初に触るのが一番いいと思うんだ!」

「馬鹿を言うな、ヘリオドール! 私が最初に触るんだ!」

「カーネリアも皆も少し落ち着こう。ここは間を取って年長の私が一番に触れば、角が立たなくていいだろう」

「皆様、ちゃんと並んでください! 最初はエメラルお兄様から年齢順です!」


 このままでは収拾がつかないと思ったわたしは、エメラルお兄様から順番に並ぶように皆に声をかける。主のわたしがそう言ったことで、エメラルお兄様以外の皆は渋々と従う。


「よろしくね、むーちゃん!」

「むい!」


 先ほどと同じようにむーちゃんは前足を上げて、エメラルお兄様も楽しそうに触っている。これで大丈夫だと思って皆とむーちゃんの触れ合いを見ていると、列に並んでいなかったお母様から声をかけられる。


「クリス、今日は色々あったみたいですね」

「はい、お母様……」


 今日は結果的にスピネルやセレスタお姉様を守ることはできたが、言いつけを破って魔法を使ってしまった。わたしはお母様を見上げると、今日の反省を口にする。


「ごめんなさい、お母様。お母様が魔法の使い方には気を付けるよう言った意味が分かりました……」

「分かればいいのです、クリス。今後は危ないことをしてはいけませんよ」


 そう言ってお母様はわたしの頭を撫でてくれる。温かいお母様の手は優しさに溢れており、とても気持ち良い。


 わたしもお母様のように優しい魔法を使えるようこれからも頑張ろう。そう考えたところで、お母様はわたしの頭を撫でるのをやめて口を開いた。


「魔法の使い方も分かったところで、魔法を授けてくださった神様にしっかりと感謝の気持ちを伝えましょう。クリスが元気に動けているのも魔法のおかげですからね」

「はい、お母様!」


 わたしはお母様と一緒に目を閉じると神様へ感謝の祈りを捧げる。


 しばらくすると皆がむーちゃんを撫で終わったようで、満足げな表情を浮かべている。むーちゃんも少し満足気な表情をしているので、撫でられるのは楽しかったのかもしれない。


「それではクリス、また様子を見に来るから今日はゆっくり休みなさい」

「はい、お父様、それから皆様もお休みなさい」


 皆が退出し部屋の扉が閉まると、部屋の中にはわたしとローゼの二人きりになってしまう。少し寂しく感じたわたしはむーちゃんを抱え椅子に座った。


「皆がいなくなって少し寂しいですね、むーちゃん」

「むー!」


 自分がいるだろうと言うように、むーちゃんはわたしの手をペシペシと前足で叩く。


「ええ、そうですね。むーちゃんがいるから寂しくありません」


 わたしがそう言いながらむーちゃんの頭を撫でると、むーちゃんも満更でもない表情で撫でられるのを楽しんでいる。


 少しして寂しさが紛れたわたしは、一度むーちゃんをぎゅっと抱きしめると床に放して、寝るための準備を始める。


 ベッドに横たわりローゼが明かりを消すと、むーちゃんがベッドの中に潜り込んできてしまった。


「あ、むーちゃん! ダメですよ!」

「む~!」


 ベッドから追い出そうかと思ったが、むーちゃんが気持ちよさそうな声で鳴いているので、追い出すのは諦めてむーちゃんの頭を優しく撫でる。


「もう、仕方ないですね……お休みなさい、むーちゃん。明日は一緒に遊びましょうね」

「むーむー!」


 むーちゃんに就寝の挨拶を口にして少し寂しさが紛れたわたしは口元を緩める。少し前までは一人ベッドで寂しく眠るだけだったのに、今は家族やむーちゃんがいてくれる。


 むーちゃんのモフモフした毛の温かさに触れながら、今までよりもっと明日が楽しみな気持ちでわたしは眠りについた。

今回で一章は完結となります。

本作品を読んだ皆様が少しでも楽しんでいただけたら幸いです。


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