お茶会の準備
「クリスティア様、城へ到着しました」
「ん……」
ローゼの声に気が付いて目を覚ます。まだ頭がぼんやりしているが、ここはどこだろう。キョロキョロと辺りを見回すわたしを見て、ヘリオドールお兄様は苦笑している。
「ほら、クリス。眠いかもしれないけど降りるぞ」
「ヘリオドールお兄様……?」
ヘリオドールお兄様に軽く揺すられると、記憶が蘇ってきた。わたしは魔獣退治について行き、午後は魔動車で休んでいたはずだ。どうやら客室でローゼと話しているうちに、そのまま眠ってしまったらしい。
「まだ寝ぼけてるのか? ここは魔動車で今は城に着いたところだ」
「自分で降りるので、大丈夫です。ヘリオドールお兄様」
わたしはフラフラしながらも、ヘリオドールお兄様に手を引かれ、魔動車を降りていく。何とか歩いて自室に戻る頃には、眠気はなくなっていた。
魔動車の中でしっかりと寝たおかげか、体調も良くなっている気がする。『精神活性』を二十に戻して、わたしは夕食の時間までのんびり過ごす。
「クリスティア様、夕食の時間です」
「ええ、ローゼ。今日は昼食が食べられなかったので、お腹がペコペコです」
わたしが食堂に着くときょうだい達がまばらに座っている。隣のセレスタお姉様に話しかけると、心配そうに見つめられる。
「クリス! 大丈夫でしたの!?」
「ええ、セレスタお姉様。無事に帰って来られました!」
わたしが手をぐっと握りしめると、元気であることが伝わったのだろう。セレスタお姉様がホッと胸を撫でおろしている。
そのまま、セレスタお姉様と今日の出来事を話していると、家族全員が食卓に着いたようだ。皆がお父様に注目すると、お父様からの挨拶が始まる。
「今日も家族全員で食事ができて喜ばしい限りだ」
そう言って始まったお父様の言葉は最後に伝達事項を伝えて終了する。
「最後になるが、近いうちにユーディライト公爵家の子息とお茶会をすることが決まった。クリスは参加だが、他のきょうだいも予定がなければ参加しても良い」
なんとスピネルをお茶会に招待したらしい。わたしは驚いてお父様の顔をまじまじと見つめてしまう。わたしの方をちらりと一瞥したお父様は、一度頷くとその話を終えた。
「さあ、食事を始めよう」
食事が終わり、食後のお茶の時間となる。のんびりとした食堂でお茶を飲みながら先ほどの話について、きょうだいで話し合うことになった。
「ユーディライト公爵家ってことはスピネルか。クリスがお世話になったって聞いたけど、お茶会に招待したんだね」
「ええ、流石に助けてもらったお礼をしないのは失礼ですもの。わたくしは参加する予定ですけれど、皆はどうしますの?」
「俺は鍛冶工房に行くから遠慮しておく。セレスタがいれば大丈夫だろう」
「私も騎士団の訓練があるから、その日は無理だ。済まない、セレスタ」
ヘリオドールお兄様とカーネリアお姉様は用事で不参加のようだ。エメラルお兄様はどうするのかと思い、わたしは視線をエメラルお兄様に向ける。
「エメラルお兄様はどうされますか?」
「僕は別に行ってもいいけど、どうする? この間のお礼って言うなら、クリスとセレスタ姉さんだけでもいいと思うけど……」
「そういうことなら私は遠慮しておこう。年の近いエメラルならともかく、年長のわたしが行くと話しにくいこともあるだろう」
「それではわたしとセレスタお姉様が参加で、あとはエメラルお兄様がどうするかというところですか?」
話がある程度まとまったので一度整理する。エメラルお兄様の方を見ると、下を向いて考え込んでいるようだ。考えがまとまったのか、エメラルお兄様は顔を上げる。
「やっぱり僕も今回はやめておこうかな。どうせすぐに学園で会えるし、今回はあくまで助けてもらったお礼のお茶会だからね」
「それではお茶会の参加者は、わたしとセレスタお姉様ですね」
エメラルお兄様の不参加を受けて、参加者が決まった。あとは場所を決めなければならない。セレスタお姉様の方を向くと、同じことを考えていたのかセレスタお姉様も一度頷く。
「参加者が決まりましたので、次は場所ですわね。どこがいいかしら?」
「わたしは庭園と植物園しか知りません……セレスタお姉様、他に良い場所は知りませんか?」
「別に庭園でも構いませんけど、できればクリスにも色々な場所でお茶会の経験を積んでもらいたいですわね……」
「では草原はどうだろうか? この時期だと花も咲いているし、春らしくて良いのではないか?」
そうして二人で頭を抱えていると、お父様から場所の提案があった。確かに草原で敷物を広げてお茶をするのも、春らしくて良いかもしれない。
それにわたしは絵本で見たような草原の光景を見てみたいのもあり、草原でのお茶会が楽しみになってきた。
目の色を変えたわたしに気付いたのか、お父様が苦笑している。わたしはその勢いのままセレスタお姉様の方を振り向き、話しかける。
「セレスタお姉様! 草原にしましょう!!」
「分かりましたから、落ち着いてくださいませ……クリスがそこまで喜ぶのなら、お茶会は草原で決まりですわね!」
そうしてお茶会の話をしている内に食後のお茶も終わり、準備は後日行うこととなった。
それから数日はお茶会の準備をしたり、杖を使って呪文の練習をしたり、きょうだい全員でトランプをしたり、セレスタお姉様、カーネリアお姉様、お母様とお茶会の練習をしながら過ごして、気が付くとスピネルとのお茶会前日になっていた。
「ついに明日がスピネルとのお茶会ですね!」
「ええ、クリスティア様。しっかり準備をしたのですから、きっとスピネル様も喜んでくださいますよ」
ベッドに入ったわたしだったが、明日のことを考えると楽しみで眠れない。明日の意気込みをローゼに語っていると、自然と瞼が重くなってきた。
それに気付いたのか、ローゼはクスリと笑ってわたしに毛布を掛けなおしてくれた。
「随分と眠そうですよ、クリスティア様。今日はもうお休みなさいませ」
ローゼのその言葉を最後に、わたしの意識はゆっくりと沈んでいくように眠りへ落ちた。




