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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第一章 きょうだいと楽しく過ごしたい!
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優しい魔法の使い方

 森の中をザクザクと歩いていくと、先頭を歩いていたカーネリアお姉様がわたし達を手で制する。どうやら先には魔獣がいるらしい。


「ハーゼが一匹だな。ヘリオドールいけるか?」

「余裕だね。クリス、俺が戦うから少しの間姉上に守ってもらってくれ」

「分かりました! お兄様も気を付けてくださいね!」


 わたしを守る役がカーネリアお姉様に引き継がれると、ヘリオドールお兄様が前へと出る。どのように戦うのか、わたしは興味津々でヘリオドールお兄様の後ろ姿を見送る。


 ヘリオドールお兄様が先頭に立って少し歩くと、黒いハーゼがこちらに気付く。


 敵意をむき出しにした目で見つめられると、わたしは少し怯んでしまう。しかし、ヘリオドールお兄様は意に介さずハーゼに向けて盾を構えた。


「いいか、クリス! まずは相手の行動をしっかりと見るんだ!」


 ヘリオドールお兄様はハーゼに目を向けたまま、わたしに向けて戦闘指南を始める。


 そういった次の瞬間、ハーゼがヘリオドールお兄様に向けて突進してくるが、盾を使ってうまく攻撃を逸らす。盾とハーゼがぶつかる音が響いて、ハーゼの攻撃は受け流された。


「四足歩行の魔獣なら突進してくる! タイミングを見て攻撃を避けるか逸らすんだ!」


 もう一度ハーゼが突進すると、ヘリオドールお兄様は盾を使わず突進を避ける。ハーゼは攻撃を避けられた次の瞬間には体勢を立て直している。


 三度ハーゼが突進してくると、ヘリオドールお兄様は盾を構えて受け止め、そのまま呪文を唱え始める。


土の槍よ(エルデ・ランツェ)


 すると、ハーゼの足元から土で作られた槍が何本も斜めに飛び出してくる。土の槍とはいえかなり硬く鋭いようで、槍が突き刺さったハーゼは一度ビクリと体を震わせそのまま動きを止めた。


 ハーゼとの戦闘を危なげない様子で終えたヘリオドールお兄様は、盾を地面に立ててわたし達の方へ振り向く。


「最後に相手の隙を見つけて攻撃する。これが戦闘の基本だ」


 そう言ってヘリオドールお兄様はニコリと笑う。そんなヘリオドールお兄様の姿を見てわたしは、はっとする。


 あまりにもあっさりと終わってしまって、まるで今までの戦闘が夢のように感じられる。


 わたしは視線に尊敬の念を込め、ヘリオドールお兄様へ向ける。


「凄かったです、ヘリオドールお兄様! まるで夢でも見ているようでした!」

「クリスが戦闘について少しでも学べたなら良かった。今のは魔獣が弱かったから簡単そうに見えたかもしれないが、油断したらダメだからな」


 ヘリオドールお兄様は優しい表情でわたしのことを見つめてくる。そこでわたしが目線を下げると、ヘリオドールお兄様の足元に転がっているハーゼの死体に気付いてしまった。


 先ほどまでは遠くで倒され、死体もカーネリアお姉様が燃やしてしまったので、現実感がなかったが、目の前の死体はこれが現実だと突き付けてくるように横たわっている。


 わたしはその気持ち悪さから後ろに下がりたくなるが、目を逸らすことができない。心臓がバクバクと音を立てて苦しい気もしてきた。


 わたしの呼吸が荒くなっていることに気付いたカーネリアお姉様は、わたしとハーゼの間に割り込んで死体を見えないようにしてくれる。


「クリス、体調が悪いんじゃないか? 少し離れた場所に行こう」

「いえ、わたしはしっかりと見ないといけないのです。嫌なことから目を逸らしたくないのです……」


 わたしは少し落ち着くために深呼吸をして、『精神活性』の魔力量を三十に増やす。すると頭のもやが晴れるような感覚になり、ハーゼを直視することができた。


「このハーゼは先ほどのように、また燃やすのでしょうか」

「ああ、黒い魔獣だから食べることもできない。燃やしてやるのがハーゼにとっても供養になるのさ」


 わたしはハーゼにもう一度目を向けると、ヘリオドールお兄様にお願いする。


「……その供養、わたしがしてもいいでしょうか」

「クリスはまだ呪文を知らないからできないだろう? それに学園に通っていない子供が呪文を唱えるのはあまり良くない」


 ヘリオドールお兄様は苦い顔をして、わたしが呪文を唱えることに難色を示している。


 しかし、わたしは燃やすための呪文を知っているし、杖を呼び寄せるために何度か呪文を唱えたこともある。


 杖もここ数日で宝石に魔力が馴染んできたので、普通の呪文も問題なく使えるだろう。


「呪文なら先ほどお姉様が使っていたので、知っています。それに杖を呼び寄せる呪文が教えられたのですから、呪文を唱えることが禁止されているわけではないですよね?」

「それはそうだけど……」

「いいじゃないか、ヘリオドール。クリスは普段から『生命活性』を使っているおかげで、魔力制御は同年代の子供と比べても上手い。呪文を知った以上、わたし達がいない場所で勝手に使われる方が困るだろう?」


 カーネリアお姉様は同意を求めるように、ヘリオドールお兄様に視線を向ける。二人の視線を受けて、根負けしたようにヘリオドールお兄様は溜息を吐く。


「はぁ……わかった。今回だけだからな、クリス」

「ありがとうございます、お兄様」


 ヘリオドールお兄様の許可をもらったわたしは、早速ハーゼに近づいて杖を構える。


 杖の先をハーゼへと向けると、全体を包み込む火を想像して、魔力を杖に込めながら呪文を唱える。


火よ燃やせ(フランメ・ブレンネン)


 呪文を唱えた瞬間、わたしが想像した通りに火が出てハーゼの体が燃えていく。わたしはハーゼの冥福を祈りながら、その亡骸を燃やすため魔力を注ぎ続ける。


「せめて安らかに眠ってください」


 わたし達の都合で殺されてしまったハーゼに哀悼の気持ちを向けて、わたしは神様に祈りながら魔力を注ぎ続けた。


 燃やし続けるとハーゼは黒い塊となり、その形を崩していく。わたしが杖への魔力を止めると段々火は小さくなっていき、最終的には消えてなくなった。


「クリス、よく頑張ったな。これでこいつもゆっくり休めるだろう」

「ありがとうございます、お兄様」


 ヘリオドールお兄様が慰めるように、わたしの頭をぐりぐりと撫でてくれるのでそれに甘える。


 そうしてハーゼの供養を終えたわたし達は先ほどまでと同じように、魔動車へと戻るために歩き始めた。


 しばらく三人で歩いていくと何度か魔獣と出会ったが、無事に魔動車のところまで戻ることができた。魔獣はカーネリアお姉様が燃やしてしまったので、わたしの出番はなかった。


 魔動車に近づくとこちらに気付いたローゼが、姿勢を正して出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、カーネリア様、ヘリオドール様、クリスティア様」

「ただいま戻りました、ローゼ」


 わたしが挨拶を終えてローゼの顔を見ると、ローゼが心配そうにこちらを見ていることに気付いた。


 わたしがきょとんとしていると、ヘリオドールお兄様が仕方なさそうに眉尻を下げ、わたしの背中を押してローゼの前へ進ませる。


「ローゼ。少しクリスティアが疲れているようだから、休ませてやってくれないか?」

「ヘリオドールお兄様、わたしはまだ大丈夫です! 午後からも一緒に行かせてください!」

「何回か戦闘を見たのだからもう十分だ。午後は魔動車で休んでいろ」


 カーネリアお姉様からも午後は休んでいるように言われてしまった。そこまで言われてしまうとわたしもついていくとは言えない。


「……分かりました。今日はもう休みます。でも今度また連れて来てくださいね」


 わたしはできるだけ笑顔を作って二人にそう答えると、二人も仕方なさそうな顔で頷いてくれた。


 二人は昼食を食べると言って準備を始めたが、わたしは先ほど供養したハーゼが脳裏に蘇って、昼食を食べる気分にはなれなかった。


 そのあと休んでいると、ヘリオドールお兄様とカーネリアお姉様は森の中に戻っていったので、わたしはローゼと二人でお留守番となった。


 まだ少し気持ち悪さは残っているが、『精神活性』のおかげである程度は軽減されているようだ。


 わたしとローゼは魔動車の運転席に座って、気晴らしに二人で少し話すことにした。


「ローゼも学園で魔法を学んだのですか?」

「ええ、学びましたよ。わたしの適性は火魔法なので、火魔法の使い方を中心に勉強しました」

「そうですか……わたし、今日の魔物退治で自分が正しく魔法を使えるのか、分からなくなってしまったのです……」


 わたしは目線を下へ向ける。そこには『生命活性』のおかげで、自由に動かせるようになった小さな手が映っている。


 この手でハーゼを燃やしたのだと思うと、魔法という物が酷く恐ろしく感じてしまう。わたしは手に力を込めてキュッと握りしめる。


 先ほどの光景を思い出して、泣きそうな気持ちになったわたしはローゼに顔を向ける。


「ローゼ、わたしはどのように魔法を使えば良いのでしょうか?」

「クリスティア様はご自身が望む通りの魔法を使えば大丈夫ですよ」


 そう言って微笑んだローゼはわたしに聞こえないくらいの小声で呪文を唱え、いつかのお母様のように手を温めてわたしの手を握りしめてくれた。


「クリスティア様にとって、今日の魔物退治は大変だったと思います。ですが、魔法を嫌いにならないで下さい。魔法は魔獣を燃やすだけではなく、こうして手を温めることもできるのです」

「お母様もそう言っていました……」


 わたしを見つめるローゼの目はとても優しい物で、その手からは魔法だけではない温かさを感じられるような気がする。


「クリスティア様はとてもお優しいお方です。わたしは長年仕えて、それを良く存じております」

「ローゼ……」


 ローゼは軽くわたしの手を撫でるとそのまま話を続ける。


「だからこそ、クリスティア様が魔法を悪用するとは思っておりません。クリスティア様ならば優しい魔法で人々を助けられると信じています」

「ありがとうございます、ローゼ……」


 わたしはローゼの言葉を聞いて、何のために魔法を使いたかったのか思い出した。わたしは先ほどまでの暗い気持ちを吹き飛ばして、ローゼに笑顔を向ける。


「わたしは優しい魔法を使うとお母様と約束しました!」

「はい、存じ上げております。クリスティア様」


 先ほどハーゼを供養した時のことを思い出す。確かにわたしはハーゼを燃やしたが、それは死を悼んだ結果だという事に気が付いた。


「相手を傷つけるのではなく、思いやることが大事なのですね」

「それを忘れなければ、クリスティア様は大丈夫です。もっと優しい魔法が使えるようになりますよ」


 そう言ってローゼはわたしを見つめながら微笑んでくれた。それがローゼの思いやりだという事に気付いて心が温かくなる。


 わたしはこれからも優しい気持ちを忘れないで、魔法を使い続けることを神様に誓った。

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