カーネリアお姉様とヘリオドールお兄様
森に入ったわたし達はカーネリアお姉様を先頭に進んでいく。普段は舗装されている道しか歩いていないため、森の地面というのは不思議な感覚だ。
地面が少し沈みこむような感じに戸惑いながら、遅れないように足を動かす。
カーネリアお姉様はたまにこちらを振り返りながら進み続ける。時々方向を変えているので、カーネリアお姉様はどこに魔獣がいるのか分かっているようだ。
わたしはそれが不思議で隣を歩いているヘリオドールお兄様を見上げ、訊いてみる。
「お姉様はどんどん進んでいますが、魔獣の居場所が分かるのでしょうか?」
「ああ、この魔道具を使って魔獣の場所を感知しているんだよ」
そう言ってヘリオドールお兄様はポケットから、懐中時計のような形をした魔道具を取り出した。感知の魔道具というらしい。
近くの魔獣に反応して居場所を示してくれる魔道具で、カーネリアお姉様も同じ物を持っているようだ。
「城には設置型の感知の魔道具があるんだけど、そこで魔獣の反応が多かったから今回の魔獣退治の話になったんだ」
「それで魔獣退治することになったのですね」
わたしは理由に納得して一度頷く。設置型と違って、携帯型は機能が制限されているようだが、森の魔獣退治くらいならそれで充分らしい。
そんな話をしながら三人で歩いていると、カーネリアお姉様が手で合図を出してくる。
「この先にハーゼが三匹いるようだ。小さい魔獣だが油断するなよ」
「了解、姉上も気を付けて」
そう言うとヘリオドールお兄様は大きな盾を構えて防御の姿勢をとる。カーネリアお姉様も剣を抜き攻撃の構えになると、呪文を唱える。
「火を与えよ」
それはお母様が自分の手を温めるために使った魔法だった。呪文を唱えるとカーネリアお姉様の持っている剣が熱されたように赤くなる。
「行くぞ!」
そう言って前進するカーネリアお姉様についていくと、前方に三匹の大きくて黒いハーゼと呼ばれる魔獣が見えてくる。
ハーゼは耳が長くて四足歩行する魔獣だ。街中で見ることができるハーゼは白い毛皮と赤い目が特徴的で、フワフワして丸っこい見た目がとても可愛らしい。実際にわたしが抱えられるくらい小さなハーゼは、ペットとして飼われることもあるようだ。
しかし、目の前にいるハーゼのように大きくて黒い魔獣は飼うことができない。ハーゼに限らず魔力の多い土地にいる魔獣は毛皮が黒っぽくなり、魔力と凶暴さが増していくらしい。
目の前にいるハーゼはわたしの胸に届きそうな大きさで、わたしが襲い掛かられたらひとたまりもないだろう。
わたしはヘリオドールお兄様に一歩近づいて離れないようにする。
「はあっ!」
そんなことをわたしが考えていると、カーネリアお姉様はハーゼに斬りかかっていった。
赤く輝く剣を振るうたび、斬られたハーゼが燃え上がる。一度ついた火はすぐには消えず、それに驚いたハーゼ達がもがいている間にカーネリアお姉様は手早く三匹にとどめを刺していた。
「こんなものか」
カーネリアお姉様が一度剣を振ると魔法を解除し、それを鞘へと戻す。すかさず感知の魔道具を見ると、近くに魔獣がいないことも確認している。
確認が完了して、こちらを振り向いたカーネリアお姉様は得意満面といった様子で笑う。
「どうだった、クリス。初めての魔獣退治は?」
「まるで踊っているように剣を振るうお姉様の姿はとても美しかったです! でも、早すぎて何が起こっているのか良く分かりませんでした……」
わたしはちらりとハーゼの死体に目を向けるが、ところどころに焼けた跡があり、肉の焦げた匂いが辺りに漂っている。
ヘリオドールお兄様は呆れた様子でカーネリアお姉様を見つめている。
「姉上はやりすぎなんだよ。ハーゼなら対して強くないんだから、魔法を使わなくても倒せただろう?」
「済まんな、いつもの癖でつい魔法を使ってしまった。クリスの戦闘訓練も兼ねているのだから、次はやりすぎないよう気を付ける」
「そんなに気にしないでください、お姉様! 格好良かったです!」
わたしがそう言うとカーネリアお姉様も少し気を取り直したようだ。黒い魔獣は食用には向かないため、魔法で燃やして処分する必要があるらしい。
「火よ燃やせ」
カーネリアお姉様が剣を向けて呪文を唱えると、ハーゼの死体は燃え上がってその場には黒い塊だけが残っていた。
魔獣の処分を完了すると、わたし達は魔獣を探し再び森の中を歩き始めた。
森の中をガサガサと歩いていると少し開けた川辺に出る。きれいな水が流れている岩場だが、そこには黒い魔獣が群れで固まっていた。どうやらハーゼではないようだ。
「あれはシュヴァインだな」
わたしがカーネリアお姉様に目を向けると、そう言って警戒態勢を取る。
シュヴァインは本来ならば茶色い毛皮に鋭い牙を持つ四足歩行の魔獣だが、魔力の多いこの森では黒い毛皮になってしまうようだ。
群れの中にはまだ小さなシュヴァインもおり、そちらは茶色い毛皮のように見える。
「クリス! ヘリオドール! 数が多いから少し燃やすぞ!」
「クリス、構えて! 姉上の魔法をしっかりと見ておくんだ」
「はい、お兄様!」
わたしはヘリオドールお兄様の近くから離れないようにしながら、集中して短剣を構える。カーネリアお姉様は群れの方を一瞥すると、剣を構えて呪文を唱え始める。
「火よ爆ぜろ」
カーネリアお姉様が剣でシュヴァインの群れを指し示すと、剣の先から火の玉が飛んでいき、群れの中心で爆発した。燃え上がる群れに向けて、カーネリアお姉様は次の呪文を唱え始める。
「風よ渦巻け」
次の瞬間、シュヴァインの群れの方からゴウと音がして、火が巻き上げられるようにどんどん大きくなっていくのが見える。最終的には大きな火柱となって燃え盛っている。
わたしがその様子をポカンと口を開けて見ていると、ヘリオドールお兄様も頭を抱えている。
カーネリアお姉様は楽しそうに燃え上がる火柱と感知の魔道具を見ている。きっと感知の魔道具からは、次々と魔獣の反応が減っているのだろう。
魔獣の反応が全て消えたのか火柱を消すと、カーネリアお姉様は満足げな笑顔でこちらを振り返る。
「どうだ、クリス。わたしの魔法は?」
カーネリアお姉様の言葉にハッとしてわたしは正気に戻る。
「凄かったです、お姉様! 今のは火魔法と風魔法を使ったのですか?」
「ああ、そうだ。火を起こして、それを風魔法で増幅させたのだ」
「そんなことができるのですか!?」
「風魔法の制御が難しいが、そのうちクリスもできるようになるだろう」
そう言ってカーネリアお姉様はわたしの頭を撫でてくれる。わたし達が二人で楽しく魔法について話していると、ヘリオドールお兄様が口を開いた。
「姉上……少しって言ったのに、全部燃えてるじゃないか!」
ヘリオドールお兄様が白い目をカーネリアお姉様に向けると、火柱のあった場所を指差す。そこには黒焦げになったシュヴァインらしきものしか残っていない。
「いつもの癖で燃やしすぎてしまったな……次は気を付けるとしよう」
「さっきもそう言ってたのに、また同じことしてるじゃないか! クリスの訓練にならないから姉上は少し見ててくれ!」
ヘリオドールお兄様がカーネリアお姉様にひとしきり怒ると、森の探索を再開する。
昼も近づいて来たので、わたし達は行きと違う道を通って森の魔物を探しつつ、魔動車の停めてある場所に戻ることにした。
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