六人のお茶会
ローゼに協力してもらってお茶会の準備もできたので、あとはお茶会の時間になったら庭園に向かうだけだ。わたしはそわそわしながら、杖を触って退屈を紛らわす。角度を変えると宝石の光り方が変わるので、いつまでも見ていられる。
わたしがうっとりと杖を眺めていると、何者かに軽く体を揺すられた。はっとしたわたしが辺りを見回すと、ローゼが困った顔でこちらを見つめていた。
「クリスティア様、そろそろお時間になりますよ」
「あら、失礼しました、ローゼ。つい杖に夢中になっていました……」
わたしは軽く笑って誤魔化すと杖を腰に装着したベルトに差す。
呼び寄せの呪文を使えば落としてしまってもすぐに回収できるため、城の中では練習の意味で常に杖を装備することになったのだ。
わたしが庭園に向かうと、既にセレスタお姉様とカーネリアお姉様が到着していたようだった。二人に笑顔で挨拶をすると、セレスタお姉様が席へと案内してくれる。
今日のお茶会は庭園の中でも綺麗な花に囲まれたガゼボで行われるようだ。庭園の道を通ってガゼボへと向かう。
案内されながらキョロキョロと辺りを見回していると、セレスタお姉様に前を見ないと危ないですわと注意されてしまった。
わたしとセレスタお姉様がガゼボへと到着すると、そのまま二人で席に着く。カーネリアお姉様は他のきょうだいを案内するため、庭園の入り口で待機しているらしい。
「セレスタお姉様は他のきょうだいを案内しなくても良いのですか?」
「ええ、お客様を放置するわけにもまいりませんもの。クリスも学園に入ったらお茶会をする機会があるかもしれませんから、基本的なマナーは覚えておいた方がよろしくてよ」
わたしがセレスタお姉様からお茶会に関する話を聞きながら、楽しく話している間に他のきょうだいも集まってくる。最後にヘリオドールお兄様とカーネリアお姉様が着席してお茶会の始まりとなる。
「既に皆も分かっているとは思いますが、改めてクリスの快復祝いのお茶会を始めますわ!」
そんなセレスタお姉様の声につられて皆が声を上げ始める。
エメラルお兄様が持ってきてくれたハーブティーを飲んでいると、ワイワイと賑やかになっていき、話はわたしの学園生活に移っていく。
「クリスはセレスタ姉さんと同室になるんだよね?」
「はい、そうお聞きしましたが、違うのでしょうか?」
「いや、セレスタ姉さん以上にクリスを任せられる人はいないから、安心してたくらいだよ」
「安心してくださいませ、クリス。わたくしがしっかりとクリスの寮生活を守りますわ」
安心して任せられるというエメラルお兄様の言葉を聞いて、セレスタお姉様は嬉しそうに微笑んでいる。
「でもあまりクリスに構ってばかりではだめだよ、セレスタ。寮生活は他の者と交流する意味合いもあるのだから、クリスにも機会を与えるように」
「そうだ、セレスタ。クリスが入学することは他の者にあまり知られていない。積極的にとは言わないが、ある程度の機会は作らなければならないぞ」
「承知していますわ、アレキサンダーお兄様、カーネリアお姉様。クリスとはお茶会に一緒に参加して、わたくしの妹として紹介することにしていますの!」
「ありがとうございます、セレスタお姉様。とても心強いです!」
それなら大丈夫かと二人はほっと胸を撫でおろしている。セレスタお姉様が支えてくれるそうなので、わたしは学園生活も楽しく過ごせそうだ。
わたしは長期に渡り臥せっていたため、周りとの交流がほとんどない。本来なら神授式で顔合わせをするのだが、それすらも体調不良で参加できていないのだ。
同学年のスピネルでさえわたしの顔を知らなかったのだから、他の学生は尚更知らないだろう。
「同級生とは講義中に仲良くなる機会もあるから、セレスタは上級生との顔つなぎをしてやればいいだろう。もちろん俺も手伝うけど、お茶会の経験が一番多いのはセレスタだからな」
「なんと言ってもセレスタは『天清』だからな。私と比べても人気なのは間違いない」
「もう! ヘリオドールお兄様もカーネリアお姉様もやめてくださいませ!」
「『天清』ですか?」
わたしが聞きなれない言葉に反応すると、笑いを堪えたヘリオドールお兄様が面白がって教えてくれる。
「ああ、『天清』っていうのはセレスタのあだ名みたいなものだ。天に届くほど清らかな魔法を使う、と学生が言い出してからそう呼ばれてるんだ」
「去年はセレスタも大活躍だったからね。五年生のわたしのところまで、名前が聞こえてきたくらいだよ」
「一体セレスタお姉様は何をしたんですか?」
どのような噂なのか気になったわたしがセレスタお姉様の方を向くと、顔を真っ赤にしたセレスタお姉様が答えてくれた。
「わたくしはただ怪我をした者を助けるために回復魔法を使っただけですわ。それを皆が面白がって広げただけですの……」
「謙遜しなくてもいいよ、セレスタ姉さん。実際セレスタ姉さん以外じゃあの怪我は治せないって言われてたじゃないか」
「それはそうですけれど、恥ずかしい物は恥ずかしいのですわ」
「そんなにセレスタお姉様は凄いのですか?」
「ぶっちぎりだ。学生の中だと間違いなく一番だな」
皆の話を聞いているとセレスタお姉様は他の追随を許さないほど、高い回復能力を持っていたらしい。セレスタお姉様は皆を見回しながら話を続ける。
「わたくしは攻撃魔法が一切使えませんから、その代わりに回復魔法が得意なだけですわ」
「そんなことがあるのですか!?」
「ええ、わたくしの授かった『浄化』の固有魔法は、回復魔法の効果を高める代わりに、攻撃魔法が一切使えなくなるものでしたの」
セレスタお姉様は少し寂しそうにそう言った。そういえばお母様も前にそんなことを言っていた気がする。あれはセレスタお姉様のことを言っていたのだろうとわたしは納得した。
わたしはセレスタお姉様の方を見ると手を握り、元気付けるために声をかける。
「それでもセレスタお姉様にしかその方は助けられなかったのですから、とても素晴らしい魔法だと思います! 攻撃魔法が使えなくてもわたしのお姉様には変わりありませんもの!」
わたしがそう言うと他のきょうだいも頷いてくれる。それを見たセレスタお姉様も寂しさは消えたようで嬉しそうにはにかんでいる。
「そうですわね……皆、ありがとうございます!」
それから話題は変わり、わたしの魔導器について話は盛り上がっている。わたしはお菓子を食べながら、皆と話すことができてとても楽しい。
ちなみに今日のお菓子はアレキサンダーお兄様が持ってきてくれたパウンドケーキだ。ほんのりとお酒の風味がして美味しいので、ついつい手が伸びてしまう。
「それじゃあクリスは属性の宝石にしなかったんだ」
「はい、エメラルお兄様。こちらの透明な宝石の方がわたしには合っていたので……でも指輪には水色の宝石が嵌められていてとても綺麗ですよ」
「わたくしとクリスでお互いに贈り合ったのですわ!」
「もう何回も聞いたよ、セレスタ姉さん……」
わたしとセレスタお姉様がお互いに贈り合った指輪とブレスレットを皆に見せつけると、何回も同じ話を聞かされているエメラルお兄様は呆れたように溜息を吐いている。
テーブルの上に置かれているわたしの杖を見たヘリオドールお兄様も、感嘆の息を吐いて宝石に見入っている。
「それにしてもこの透明な宝石は綺麗だな……だが、属性の宝石以外を魔導器に嵌めている奴なんて俺は見たことないぞ」
「まあ全属性でもないと、自分に合った属性の宝石を選ぶからね。クリスみたいに魔力が多くないと選べないし、使ってる人はほとんどいないんじゃないかな……」
エメラルお兄様も一緒になってわたしの杖を眺めながら話をしている。
全属性の話をしていて思い出したが、お父様も全属性だったはずだ。それについてアレキサンダーお兄様に訊いてみる。
「父上かい? 確か黄色だった気がするよ。全属性は使えるけど、光魔法以外は見たことがないね」
「皆が透明にするわけでもないのですね……」
「それでも、その透明な宝石はクリスにはピッタリだと思うよ。学園では思う存分魔法の研究をするといいさ」
「ありがとうございます、アレキサンダーお兄様! わたし頑張りますね!」
アレキサンダーお兄様が優しく笑いかけてくれたので、わたしも安心して笑顔で頷いた。
そうして楽しく話していると、お茶会は終わりの時間を迎える。わたしは楽しかった時間が終わってしまうことに寂しさを感じて呟く。
「もう終わりの時間なのですね……」
わたしの呟きを聞いたセレスタお姉様は慰めるように手を取ってくれる。
「また皆でお茶会すればいいだけですわ、クリス」
「そうだよ、クリス。僕で良ければまたハーブティーを御馳走するからね」
「まだ春休みで私達もしばらく城にいるのだから、そんなに悲しい顔をしないでくれ」
「それに学園に行っても今年は全員揃ってるから、いつでも集まれるだろう?」
「そうだぞ、クリス。終わりじゃなくて楽しい時間はこれから始まるんだ」
「皆……ありがとうございます!」
皆が思い思いにこれからのことを話してお茶会は解散になった。
わたしもこれから楽しいことが今よりもっと増えることに心を躍らせ、いつもより綺麗に見える城への帰り道を皆で並んで帰って行った。




