アレキサンダーお兄様と飛行の魔道具
実験棟は一通り回ったので次に行くのかと思い、アレキサンダーお兄様を見上げると一度外に出ようと提案される。
「クリス、少し外に行こうか」
「分かりました、お兄様。行きましょう」
アレキサンダーお兄様に連れられて外に出ると、柔らかい風が頬を撫でる。実験棟の中では感じられない気持ちの良い空気に触れて、わたしは深呼吸をする。
わたしを外に連れ出したアレキサンダーお兄様は、ディアナから板のような物を受け取っている。不思議に思ったわたしは、アレキサンダーお兄様を見て首を傾げる。
「お兄様、それは?」
「見ていれば分かるよ、クリス」
そう言ったアレキサンダーお兄様は板の上に乗ると、自分の足を板に固定し始めた。一体何をするのだろうと思っていると、アレキサンダーお兄様は板についた宝石に魔力を注ぎ込み始める。
十分な魔力を注いだのか、アレキサンダーお兄様が板から手を離すと、板が宙に浮かび始めた。
わたしがぽかんと口を開けてそれを見ていると、アレキサンダーお兄様が全身でバランスを取りながらゆっくりと動き始める。
板に乗ったアレキサンダーお兄様は体を傾けて、前に加速しながら宙返りをしたり、急上昇からの急降下をしたり、色々な飛び方をしていてとても楽しそうだ。
そうして少しの間飛び回っていたアレキサンダーお兄様は最後に一度宙返りをすると、ゆっくりと空から降りてきて、わたしの目の前に着陸した。
「お兄様、凄いです! お兄様も風魔法を使えたのですね!」
わたしは目を輝かせてアレキサンダーお兄様に声をかける。そうするとアレキサンダーお兄様は悪戯っぽい笑みをわたしに向ける。
「風魔法じゃないよ、クリス」
「でも、いま空を飛んでいたではありませんか……」
風魔法を使えないと空は飛べないはずだ。わたしは前のようにからかわれているのではないかと思い、疑惑の目をアレキサンダーお兄様に向ける。
すると、アレキサンダーお兄様は慌てて手を横に振った。
「違うんだクリス! これは風魔法が使えない人も、空を飛べるようにするために作った飛行の魔道具なんだよ」
「飛行の魔道具ですか?」
「ああ。私は風属性の適性がないから、風魔法は上手く使えないんだ。それでも何とか空を飛べるように、この飛行の魔道具を開発したのさ」
そう言うとアレキサンダーお兄様が自慢するように、飛行の魔道具を見せてくれる。
誰でも空を飛べるようにしたいと言うアレキサンダーお兄様は、目を輝かせてとても楽しそうだ。
とても楽しそうに空を飛んでいたアレキサンダーお兄様を見て、わたしも飛行の魔道具を使ってみたいと思った。
「お兄様、わたしも飛行の魔道具を使うことはできるでしょうか!?」
「クリス一人じゃまだ乗せられないかな。それにクリスは風属性の適性があるから、そのうち飛べるようになるだろう?」
「それはそうですけど……」
飛行の魔道具に乗れないことが分かってわたしがしょんぼりしていると、アレキサンダーお兄様は頭に手を置いて言葉を続ける。
「一人では乗せられないけど、二人なら大丈夫だよ」
「お兄様、それって……」
アレキサンダーお兄様が合図をすると、ディアナが小さな船のような物を台車に乗せて持ってくる。
「アレキサンダー殿下、二人乗りの飛行の魔道具をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。クリス、これなら一緒に乗れるだろう?」
アレキサンダーお兄様は、わたしの方を向いて悪戯っぽく笑う。わたしは飛行の魔道具に乗れることが嬉しくて目を輝かせる。
「いいのですか、お兄様!? ありがとうございます!」
「ただし、クリスがきちんと言うことを聞くことが条件だよ」
「ちゃんと言うことを聞きますから乗せてください! お兄様!」
わたしが見つめてお願いすると、アレキサンダーお兄様は笑いながら頭を撫でてくれる。そうして二人で船型の飛行の魔道具に乗る準備を始めた。
わたしとアレキサンダーお兄様が向かい合うように座り、座席についている固定具で体を固定したら準備は完了だ。
二人できちんと座れていることを確認すると、アレキサンダーお兄様が船の中央にある円盤に魔力を注ぎ始めた。
「それじゃあ飛ぶよ、クリス。暴れたらダメだよ」
「はい、お兄様!」
アレキサンダーお兄様がそう言うと、次の瞬間飛行の魔道具が空に浮かび上がる。わたしは興奮が抑えきれず周りをキョロキョロと見ると、青い空に自分が浮かんでいることが分かり気持ちが昂ってくる。
船の中央に設置された円盤をアレキサンダーお兄様が操作すると、飛行の魔道具は空中をゆっくりと動き回る。
先ほどの板状の飛行の魔道具とは違って激しい動きはできないが、空を飛ぶ楽しさと開放感を味わうことができてとても楽しい。
わたしは空の旅を楽しみながら、アレキサンダーお兄様に笑顔で話しかける。
「お兄様! わたし、飛んでいます! こんなに高くから地面を見たのは初めてです!」
「凄いだろう、クリス。この景色を色々な人に見てもらうのが私の夢なんだ!」
そう言ったアレキサンダーお兄様の声は弾んでいて、自分の夢を楽しそうに語り始めた。
「夢ですか?」
「ああ、私は飛行の魔道具を研究して、どんな人でも空を飛べるようにしたいんだ。今はまだできないけど、研究が進めば空を飛ぶ魔動車も作れるかもしれない」
「魔動車が空を飛ぶのですか!? 想像するだけでわくわくします!」
わたしが両手を握りしめて目を輝かせると、アレキサンダーお兄様も嬉しそうに頷いている。
「その夢を実現するため、私は魔道具研究所で手伝いをしているのさ。クリスも一緒に研究するかい?」
「それも楽しそうですね! でももう少し考えてもいいですか? わたしは色々な魔法を研究したいのです!」
アレキサンダーお兄様のお誘いは嬉しいが、今はまだ答えを出せない。わたしがそう答えると、アレキサンダーお兄様は少し残念そうな顔をする。
「そうか……まあ考えておいてくれ、クリス。私はいつでも歓迎だからな」
「はい、お兄様!」
そうしてわたし達はしばらく空の旅を楽しむと、少しずつ高度を落として着陸した。
固定具を外して飛行の魔道具から降りても、まだ少しふわふわしている気がする。わたしが夢心地で飛行の魔道具を見つめていると、アレキサンダーお兄様に声をかけられた。
「クリス、初めて空を飛んだ気持ちはどうだい?」
「とても気持ち良かったです! ありがとうございました、お兄様!」
わたしは降りてからもまだ興奮が治まらず、アレキサンダーお兄様をキラキラした目で見上げる。それに気づいたアレキサンダーお兄様は、わたしの頭を優しく撫でてくれる。
「私は必ず飛行の魔道具を誰でも使えるようにして見せる。その時にはクリスを一番に乗せてあげるから楽しみにしていてくれ」
そう言ったアレキサンダーお兄様は、決意のこもった力強い目でわたしを見つめてくる。
「はい、お兄様! 出来上がったら一番に乗せてくださいね!」
アレキサンダーお兄様は一度頷くと、わたしの頭をぐりぐりと撫でまわしてくれた。




