アレキサンダーお兄様と魔道具研究所
「おはようございます、クリスティア様」
「おはようございます、ローゼ」
いつものようにローゼが声をかけてくれて、わたしは目を覚ます。当たり前のことに嬉しさを感じながら、ムクリと体を起こす。
わたしはベッドから降りると、ローゼに手伝ってもらい朝の支度を始める。
昨日の夕食でアレキサンダーお兄様に誘われたので、今日は魔道具研究所に行く予定なのだ。
「今日はアレキサンダーお兄様と魔道具研究所ですね。魔道具がどのように作られているのか知らないので、とても楽しみです!」
「ええ、クリスティア様。そのためにも早く着替えを済ませてしまいましょう」
わたしはわくわくした気持ちで手早く着替えを済ませると、朝食のため食堂に向かう。皆に挨拶をすると、わたしに向けて口々に挨拶を返してくれる。
「皆様、おはようございます」
「おはよう、クリス。今日は楽しんでくれるといいな」
「はい、アレキサンダーお兄様!」
わたしは皆の挨拶を受けながら、自分の席に座る。セレスタお姉様やエメラルお兄様、アレキサンダーお兄様と会話しながら、楽しい朝食の時間は過ぎていった。
朝食の後は出発の準備をすると、表で待っているアレキサンダーお兄様の元へと向かう。
「お待たせしました、アレキサンダーお兄様」
「待ってないよ、クリス。さあ行こうか、魔道具研究所へ!」
アレキサンダーお兄様に手を引かれながら、わたしも一緒に魔動車へと乗り込む。今日の運転もローゼがすることになっているので、ローゼも一緒にお出かけだ。
しばらく魔動車で走ると大きな建物が見えてきた。もしかして、あれが魔道具研究所だろうか。
窓から外を見ていたわたしは建物を指差し、隣に座っていたアレキサンダーお兄様に訊いてみる。
「お兄様、あれが魔道具研究所ですか?」
「ああ、そうだよ。もう少しで到着するから楽しみにしておいてくれ」
アレキサンダーお兄様は楽しそうな顔でそう答えた。エメラルお兄様と同じように、アレキサンダーお兄様も魔道具研究所で手伝いをしているのかもしれない。
そう思ったわたしはアレキサンダーお兄様を見上げる。
「お兄様も魔道具研究所で手伝いをしているんですか?」
「ああ、そうだよ。エメラルやセレスタと同じようにわたしも魔道具研究所で手伝いをしているんだ」
「やはりそうなのですね! それを聞いて、魔道具研究所がもっと楽しみになりました、お兄様!」
わたしは城にある魔道具以外はほとんど見たことがない。そのため、魔道具を見られる魔道具研究所の見学は楽しみにしていたのだ。
加えてアレキサンダーお兄様が手伝っていると聞いて、魔道具研究所がより楽しみになってきた。
わくわくした気持ちで窓の外を見ていると、遠くに見えた建物が次第に大きくなっていき、わたし達を乗せた魔動車は魔道具研究所に到着した。
「到着しました。アレキサンダー様、クリスティア様」
「ありがとう、ローゼ」
「ありがとうございます、ローゼ!」
わたしがアレキサンダーお兄様に手を引かれながら降りると、目の前には魔道具研究所があった。
ガラス張りの入口を通り抜けると、受付の者がアレキサンダーお兄様に話しかける。
「お待ちしておりました、アレキサンダー殿下」
「出迎えありがとう、今日は妹に研究所を案内したいんだ」
「かしこまりました。案内の者を呼びますので少々お待ちください」
「ああ、よろしく頼む」
やり取りが終わり少しすると、奥の方から白衣を着た一人の女性が現れた。その女性はアレキサンダーお兄様を見て、深々と礼をする。
「アレキサンダー殿下、ようこそお越しくださいました」
「今日はよろしく、ディアナ」
「はい、よろしくお願いいたします」
白衣の女性はアレキサンダーお兄様の顔見知りのようだ。わたしも一歩前に出て自己紹介をする。
「エデルシュタイン王国第六王女、クリスティア・エデルシュタインと申します。今日はよろしくお願いします」
「お初にお目にかかります、クリスティア殿下。本日の案内を務めさせていただきます、研究員のディアナと申します。よろしくお願いいたします」
「ええ、よろしくお願いします。ディアナ」
ディアナから丁重に礼を受けると、早速案内をしてもらうことになった。
「案内するのは実験棟でよろしいでしょうか、アレキサンダー殿下」
「ああ、問題ないよ」
「実験棟とはどのようなところなのですか?」
わたしは首を傾げてディアナの方を見る。ディアナはニコリと笑い、わたしの質問に答えてくれる。
「新しい魔道具を作成したり、その魔道具を試しに動かしたりする場所です。クリスティア殿下がご存知の物だと、魔動車などがございますね」
「本当ですか!? 楽しみです!」
ディアナはニコニコと微笑みながら、わたし達を実験棟まで案内してくれる。受付のあった建物を出て、しばらく歩くと大きな扉のある建物が見えてきた。
「あれが実験棟ですか? とても大きな扉ですね……」
「ええ。魔動車などの大型の魔道具も扱っているので、大きな扉が必要なのです」
そんな話をしながら建物に近づいていく。入口に到着する頃には、大きな扉はわたしが真上を見上げなければ、一番上が見えないような大きさだった。
わたしは何とか上を見上げるが、反り返りすぎて後ろに転びそうになる。
「わっ!」
「クリス、危ないからあまり上を見上げないように」
転びそうなわたしを後ろで支えてくれたようで、見上げた先にはアレキサンダーお兄様の顔が見えた。アレキサンダーお兄様は苦笑しながら、わたしの顔を覗き込んでいる。
「ごめんなさい、お兄様……大きな扉だったのでつい見上げてしまいました」
「気にしなくて良いよ。それよりクリスが楽しみにしていた実験棟だ。早く中を案内してもらおう」
「はい、お兄様!」
わたし達はディアナに案内されて、横にあった入口から実験棟の中へと入っていった。
実験棟の中はとても大きな倉庫のようになっていた。魔動車もあるが、その多くはわたしが知らない魔道具で、辺り一面が埋め尽くされている。
わたしは宝箱をのぞき込んだような高揚感から、アレキサンダーお兄様を見上げると感嘆の声を上げた。
「わあ! いっぱい魔道具がありますね、お兄様!」
「クリスには分からないものばかりのはずだけど、そんなに楽しいかい?」
「はい! 何が起こるのかとても楽しみです!」
「それなら良かったよ。早速ディアナに案内してもらおうか」
アレキサンダーお兄様は苦笑しながらそう答えた。ディアナは一度頷くとわたし達に向けて、実験棟の案内を始めてくれる。
最初にディアナが案内してくれた先には、大きな箱のような魔動車が置かれていた。客室を覗き込むと座席が付いていないようで、わたしは首を傾げる。
それを見たディアナはニコニコと微笑みながら、わたしに解説をしてくれる。
「こちらは物資運搬用の大型魔動車になります。客室の部分を貨物車とすることでより多くの物資を運搬することが可能となります」
「これも魔動車なのですか?」
「はい、クリスティア殿下。人を運ぶのではなく、貨物を運ぶための魔動車なのです」
ディアナによると、エデルシュタイン王国は魔石の産出量が多く、外国との取引も盛んなようだ。しかし、今までの魔動車では運べる量に限界がある。そのため、少しでも多く貨物を運べる魔動車へと改良した結果が目の前の魔動車らしい。
「もっとも、この魔動車を動かすためにはかなり高品質の魔石……というより宝石が必要になるので、あまり普及はしていません。今後は品質の低い魔石で動かせるように改良していく予定です」
魔動車一台ごとに宝石が必要になるため、なかなか価格が抑えられないようだ。
「そうだったのですね……早く皆が使えるようになると良いですね!」
「はい。そのために我々研究員一同、努力していきます」
わたしの言葉を聞いたディアナは、希望の色に目を輝かせながらニコリと笑う。
そのあともディアナの案内は続く。わたしがキョロキョロと辺りを見回していると、大きな箱の上に魔石が置かれている魔道具が目に入る。
「あちらの魔道具は何でしょうか?」
「魔除けの魔道具になります。街道や町に設置することで強い魔獣は寄り付かなくなり、人が襲われないようにするのです」
「まあ! そんな魔道具があったのですね!」
わたしの周りにもいくつかの魔道具はあるが、そのような魔道具で守られていることは知らなかったので、驚いてしまった。
それを聞いて、魔動車を動かすために魔力を注いでいたローゼの姿を思い出す。街道に設置されている魔道具に魔力を注ぐのは大変そうだと呟くと、ディアナは追加で説明してくれた。
「クリスティア殿下、設置型の魔道具は大地の魔力で動くため、自分で魔力を注ぐ必要はないのです」
「そうなのですか? わたし達は魔道具だけではなく、大地の魔力にも守られているのですね!」
「その通りです。だからこそ神様への感謝を忘れてはならないのですよ」
「分かりました! わたしも神様に感謝します!」
ディアナはそう言うと優しく微笑む。わたしは魔法を授けるだけではなく、大地の魔力でも守ってくれている神様に感謝を捧げる。
祈りを捧げた後も実験棟の見学は続き、わたし達は一回りすると入り口に戻って来た。ディアナはわたしを見つめて、見学の感想を聞いて来た。
「……以上で実験棟の見学は終了となります。いかがでしたか? クリスティア殿下」
「たくさんの魔道具を見ることができて楽しかったです! でも魔道具を作っているところが見られなかったのは少し残念でした……」
実験棟にあった魔道具は既に作られた物が多く、わたし達の見学の間は作っているところを見ることはできなかった。
わたしが肩を落とすと、アレキサンダーお兄様が軽く頭に手を乗せる。
「そんなに落ち込まないでくれ、クリス。あとで私の研究室に行ったときに、見せてあげるからそれまで待っていてくれ」
「お兄様、本当ですか?」
「ああ、本当だとも。クリスの魔導器も作らないといけないから丁度いい」
わたしはアレキサンダーお兄様の言葉に気を取り直すと、ディアナに案内の礼をする。
「今日は案内してくれてありがとうございました、ディアナ!」
「こちらこそクリスティア殿下を案内できて嬉しかったです。ありがとうございました」
そう言ったディアナは、頬を緩めるとわたしに笑顔を向けてくれた。




