エメラルお兄様とお茶会
その後はエメラルお兄様の案内で、わたし達はお茶会の会場に連れてきてもらった。お茶会は花に囲まれたガゼボで行うようで、お茶を飲めるように準備がされている。
わたしとセレスタお姉様は案内された席へと座ると、一度辺りを見回す。
「綺麗で落ち着く場所ですね……」
「そう言ってくれると嬉しいよ、クリス。植物園では季節ごとに花を入れ替えて、その時々で違う雰囲気になるようにしてるんだ」
その口ぶりからエメラルお兄様も植物園に関わっていると思ったわたしは、質問してみることにした。
「お兄様はこの植物園と関わりがあるのでしょうか?」
「うん。僕は学園に通っていない時は、この植物園で手伝ってるんだ」
「そうだったんですね……もしかしてお姉様もこのことをご存知だったのでしょうか?」
「もちろん知っていましたわ。でもエメラルが秘密にして頑張っていたので、余計なことは言わないようにしていましたの」
「姉さん……!」
セレスタお姉様が頷きながらそう答えると、エメラルお兄様は少し恥ずかしそうにしている。
わたしがそんな二人を見てクスクスと笑っていると、ローゼがお茶の準備をしてくれる。
ローゼはお茶の準備の合間に、各々が持ち寄ったお菓子をテーブルに並べてくれる。
「まずは、クリスティア様が用意されたお菓子になります」
そう言って差し出されたのはわたしが用意したシュネーバルだ。それを見て昨日のことを思い出したのか、セレスタお姉様がニコニコと笑っている。
「そして、セレスタ様が用意されたお菓子がこちらになります」
次に出てきたお菓子は、セレスタお姉様が用意した切り株のようなお菓子で、バウムクーヘンと言うらしい。わたしは食べたことがないので、どんな物なのかとても楽しみだ。
目を輝かせてバウムクーヘンを見ていると次のお菓子が用意される。
「最後にエメラル様が用意されたお菓子がこちらになります」
エメラルお兄様が用意したお菓子はクッキーのようだ。わたしがエメラルお兄様に目を向けるとクッキーの説明をしてくれる。
「これは植物園で栽培しているハーブを使ったハーブクッキーだよ。美味しいから皆で食べようと思ったんだ」
「ありがとうございます、お兄様! わたしも食べるのが楽しみです!」
そんな話をしているとお茶が入ったようで、テーブルの上にカップが並んでいく。ローゼが一度下がると三人でお茶を飲み始める。
わたしがハーブクッキーを口に入れると、ハーブの香りが口の中で広がり、爽やかな気持ちになる。目を丸くして驚いていると、エメラルお兄様がクスクスと笑っているのが見えた。
「どうかな、クリス。気に入って貰えた?」
「ええ。ハーブ入りのクッキーは初めて食べましたが、とても美味しいです!」
「わたくしは初めてではありませんが、いつも違う種類のハーブなので楽しみにしていましたわ」
「ありがとう、二人とも。嬉しいよ」
わたしとセレスタお姉様が美味しいとクッキーを褒めると、エメラルお兄様ははにかむように笑う。
次に皆が手を伸ばしたのは、わたしが昨日町で購入したシュネーバルだ。セレスタお姉様とは昨日も食べたが、エメラルお兄様の口に合うかは分からない。
わたしはシュネーバルを食べるエメラルお兄様をじっと観察する。
「……そんなに見られると食べにくいんだけど、クリス」
「ごめんなさい、お兄様。口に合うか心配だったのです……」
「わたくしは昨日一緒に食べましたけど、美味しかったですわよ」
セレスタお姉様はそう言いながらシュネーバルに口をつけて、お茶を飲んでいる。エメラルお兄様も口に入れると、美味しそうな顔をしていたのでわたしはホッと胸を撫でおろす。
そこまで食べると一度お菓子を食べるのは休憩して、辺りを見回す。わたしは風景を楽しみながらお茶を飲むと、ホッと一息つく。
「いつも部屋の中にいたので、こうして花に囲まれてお茶会をしているのが、不思議な気分です……」
「これからはたくさん楽しいことがありますわ、クリス。学園にも入学しますもの」
「そうだね。学園に通うと他の人とも仲良くしなきゃならないから、そのためにもお茶会には慣れておいた方が良いかもね」
「そうなのですか?」
わたしが首を傾げると、セレスタお姉様とエメラルお兄様が学園のことを話してくれる。
「ええ。学園ではお茶会で交流を深めたり、講義で協力することも多くありますわ」
「あとは研究会に入ると上級生とのつながりもできるし、より専門的な魔法の勉強もできるよ」
「研究会ですか?」
わたしは聞きなれない言葉に首を傾げる。
「うん。研究会は新しい魔法の使い道を考えたり、魔法を使って試合をしたりするんだ。僕は植物研究会に参加してるよ」
「わたくしは医療研究会ですわ」
色々な魔法を勉強したいわたしは、興味津々で二人が研究会を選んだ理由を訊いてみる。
「お二人はどのような理由で研究会を選んだのですか?」
「わたくしは『回復』の固有魔法を活かして、治療師として学ぶためですわ」
「僕も『植物操作』を授かったからだね。花を咲かせたり木を育てたりできるんだ」
「お二人とも固有魔法を使う研究会なのですね……」
わたしが授かった固有魔法は『生命活性』『魔力活性』『精神活性』の三つだ。他に作用しない分、研究には向いてないのかもしれない。
そう考えたわたしはしょんぼりと肩を落とすが、二人が優しく声をかけてくれる。
「そんなに難しく考えなくても、クリスは全属性の適性があるんだから心配ないんじゃない? 好きな属性魔法を勉強すればいいだけだよ」
「そうですわ、クリス。選択肢が多いのは良いことですもの」
「それならいいのですが……属性魔法の研究会にはどのような物があるのですか?」
わたしは二人にそう言われたことで気を取り直して、研究会についてもっと訊いてみることにした。
「そうだなあ……人数が多いのは火魔法研究会かな。生活にも戦闘にも使いやすい魔法だからね。研究の幅が広いんだよ」
「そういうことなら闇魔法研究会は少ないですわね。そもそも闇属性の適性を持つ者が少ないですもの」
どうやら属性魔法によっても差があるようだ。闇属性魔法は授かる者が少ないため研究があまり進まないらしい。
色々な魔法を使いたいわたしはどうするべきなのか頭を悩ませる。
「う~ん……難しいですね。どの研究会にしましょう……?」
「入学してから決めればいいよ。他に気になる研究会も見つかるかもしれないし」
「ええ、研究会の見学もありますから、それから決めても遅くありませんわ」
「分かりました……二人とも、ありがとうございます!」
二人にそう言われて学園の話は終了となった。先ほどの話で気になったことがあるので、わたしはエメラルお兄様に訊いてみる。
「植物園の入り口で花を咲かせたのは、お兄様の固有魔法だったのですか?」
「そうだよ。少し見ててね、クリス」
そう言うと、エメラルお兄様は席を立ち上がり、腰のポーチから一粒の種を取り出す。そのまま近くの地面に種をポトリと落として、立てかけてあった箒を手に取ると、魔力を箒に流し始めたのか箒が淡く発光する。
わたしがわくわくしながら地面を見ていると、先ほど種を落とした場所から一瞬のうちに可愛い水色の花が咲いた。エメラルお兄様はその花をそっと摘み取ると、わたしに差し出してくる。
「これが僕の固有魔法『植物操作』だよ」
「わあ! ありがとうございます、お兄様!」
「相変わらず格好つけたことをしますわね、エメラル」
呆れたセレスタお姉様の言葉を受けて、エメラルお兄様は照れ臭そうにしている。エメラルお兄様が席に戻ると口を開く。
「見てもらった通り、僕は花や木を成長させられるんだ。入り口で見せたのも、『植物操作』で一気に花を成長させたんだ」
「凄いです……! わたしも学園で学んだらできるようになりますか!?」
「どうだろう……? 属性魔法の組み合わせで似たことはできるかもしれないね」
「本当ですか!? わたし、もっと魔法の研究をしたくなりました!」
そんな会話を交わしながら三人で楽しくお茶を飲む。しばらく景色を楽しむと、わたしはセレスタお姉様の持ってきたバウムクーヘンに目を向ける。
最初は切り株のようで可愛い形をしていたバウムクーヘンは、ローゼによって薄く切り分けられており、食べやすい大きさとなっている。
わたしは切り分けられた大きさでもまだ大きかったので、さらに小さく切って口へ運ぶ。
一口食べると、しっとりとした生地が口の中で解けていく感触がとても楽しい。味も甘すぎないので、お茶を飲むと口の中がさっぱりとして、いくらでも食べられそうだ。
「お姉様、このお菓子はとても美味しいですね! いくらでも食べられそうです!」
「そうでしょう! わたくしもこの店のバウムクーヘンが大好きですの!」
わたしがそう言うとセレスタお姉様も喜んで笑顔を見せてくれる。セレスタお姉様はたまにお茶会に持って行くそうで、保存の魔道具の中にいくつかしまってあるらしい。
「気に入ってくれたなら、今度クリスにも少し分けてあげますわね。少しだけですよ!」
「ありがとうございます、お姉様!」
「姉さんはバウムクーヘンが好きだからね……」
わたしはエメラルお兄様と顔を見合わせ苦笑すると、頭の片隅にセレスタお姉様はバウムクーヘンが好きと書き加えた。
そうしてしばらく過ごしていると、少し肌寒く感じるようになってきた。
「へくちゅ!」
「クリス、大丈夫ですの?」
「少し寒くなってきたかな……今日はこの辺りで終わりにしておく?」
「そうですわね……クリス、今日はもう城に戻りませんこと?」
「分かりました。またお茶会しましょうね、お兄様、お姉様」
そうして片付けを済ませるとわたし達は城へと帰ることになった。帰りはエメラルお兄様も一緒に魔動車に乗るそうだ。
箒を抱えてエメラルお兄様が魔動車に乗り込むと、セレスタお姉様はそれを見て口を開いた。
「帰りは飛んで帰りませんのね、エメラル」
「まあクリスを驚かせようと思って、飛んできただけだから。帰りは二人と一緒でいいかと思ってね」
「そのために飛んできたんですね……」
どうやらわたしのきょうだいは人を驚かせようとするのが好きらしい。アレキサンダーお兄様の悪戯を思い出してわたしは苦笑する。
「それにしても外でのお茶会が、こんなに楽しいなんて思いませんでした。次はきょうだい皆でお茶会したいですね」
「そうですわね……そう言えばヘリオドールお兄様とカーネリアお姉様はまだ帰っていらっしゃらないのかしら?」
「そう言えばまだ帰ってきてないね。帰り道で何かやってるのかな?」
「皆でのお茶会はもう少し先のことになりそうですね……」
まだ二人のきょうだいが戻ってきていないため、お茶会は少し先のことになりそうだ。きょうだいでのお茶会に思いを馳せると、わたし達を乗せた魔動車は城へと向けて走り続ける。




