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クリスは楽しく過ごしたい!  作者: かるた
第一章 きょうだいと楽しく過ごしたい!
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初めての友達

 わたし達が外に出ると昼時だからだろうか、入った時よりも人通りが多くなっているように感じられた。


 ガヤガヤと騒がしい通りを見ていると、セレスタお姉様の声が聞こえてきた。


「それでは、昼食にしましょう。クリスも行きますよ」

「はい、お姉様!」


 わたしは人通りが多い中、セレスタお姉様と一緒に歩き出した。しばらく歩いていると、どこからともなく美味しそうな匂いがしてくる。


 わたしはキョロキョロと辺りを見回して、美味しそうな匂いの元を探して歩く。


 フラフラと匂いの元を探していると、雪玉のようなお菓子が積みあがったお店が見えてきた。そのお店に近づくと、わたしは積みあがったお菓子を見上げる。


「わあ! 可愛いお菓子ですね!」

「お、嬢ちゃん。このお菓子が気になるのかい?」


 わたしがキラキラした目で見上げていると、カウンターに立っていた店員の男性が声をかけてきた。


「はい! これは何というお菓子でしょうか?」

「これはシュネーバルって言うんだ。甘くてサクサクで美味しいぞ~」


 店員がおどけた様子で歯を見せて笑うと、わたしも嬉しくなって笑顔で店員を見つめる。


「わたしも食べたいです!」

「あ~、嬢ちゃんお金は持ってるのか?」


 店員が困った顔でわたしを見てくる。どうやらわたしが見ているだけだと思ったらしい。わたしはお金を持っていないが、ローゼが持っているので安心だ。


 わたしは胸を張ってローゼの名前を呼ぶ。


「わたし、これが食べたいです! ローゼ!」


 わたしがそう言って後ろを振り向くと、そこにはローゼもセレスタお姉様もいなかった。わたしは首を傾げて辺りをキョロキョロと見回す。


「ローゼ? お姉様? どこにいるのですか?」


 しばらく辺りをキョロキョロと見回しても、ローゼとセレスタお姉様は見つからない。慌てたわたしは大きな声を出して二人を探す。


「ローゼ! お姉様! どこですか!?」


 わたしが大きな声を出してもお昼時で人が多いため、声は雑踏に紛れて遠くまでは届かない。


 わたしは二人とはぐれて迷子になってしまったことを理解する。段々と心細くなってきて二人を呼ぶ声も小さくなっていく。


「ローゼ……お姉様……どこ……?」


 わたしは二人にもう会えないのではないかと急な不安に襲われる。わたしは口を閉じて服の裾を掴むことで、泣き出しそうな気持ちを必死で抑えるが、自然と頭が下がって俯いてしまう。


 わたしの様子を見た店員が心配そうにこちらを見ているのを感じるが、心細さは増すばかりで、目からは涙がこぼれ始める。


 そんなわたしを放っておけなかったのか、誰かの声が頭の上から聞こえてくる。


「お前、大丈夫か? 親とはぐれたのか?」

「え?」


 わたしが声のした方向を向くと、そこには一人の少年が立っていた。少年はわたしを心配そうに見つめると、自分の手に持ったハンカチを渡してくる。


「涙で顔がぐしゃぐしゃだな……ほら、これで顔拭けよ」


 わたしがぽかんと口を開けていると、少年は少し困ったように眉を下げる。


 少年はわたしの手にあるハンカチを回収すると、わたしの顔を拭き始める。拭いてくれるのは嬉しいが、顔を拭いているハンカチが口を塞いでしまって息苦しい。


「ふがふが……!」

「こら、暴れるな! 顔が拭けないだろ!」


 しばらく少年が顔を拭いてくれて、濡れていた顔がスッキリした。わたしが少年を見つめると、少年は照れくさそうに自己紹介をしてくれる。


「俺の名前はスピネル。お前の名前は?」

「クリス……」


 わたしは混乱している頭で自分の名前を名乗る。スピネルと名乗った少年は一度辺りを見回すと、店員の男性に話しかける。


「おじさん、しばらくそこの椅子借りてもいいか?」

「別に構わないが……その嬢ちゃんは大丈夫なのか?」

「とりあえず親が見つかるまでは俺が面倒見るから大丈夫だ」


 そう言ってスピネルはわたしの方へ笑顔を見せる。わたしはスピネルの笑顔を見て、不安だった気持ちが薄れていくのを感じる。


「クリス、俺が側にいてやるからもう泣くな」

「はい……ありがとうございます、スピネル」


 わたしが鼻をすすりながらスピネルに礼を言うと、スピネルはわたしの頭に手を置いて安心させるように撫でてくれる。わたしとスピネルは店員に借りた椅子に座る。


「少し落ち着いた方が良いかもな……おじさん、それを二つくれ」


 店員はスピネルからお金を受け取ると、シュネーバルを二つ用意してくれた。スピネルはそのうちの一つをわたしの手に置いてくれる。


「わあ! いいのですか!?」

「これを食べて少し休もう、クリス」

「ありがとうございます、スピネル!」


 わたしが満面の笑みでスピネルに礼をすると、スピネルは照れくさかったのか視線を逸らしてしまった。


 わたしは受け取ったシュネーバルにかぶりつくと味を楽しむ。雪玉のように砂糖がかかったシュネーバルは、店員の言っていた通りサクサクした食感でとても甘かった。


「スピネル! シュネーバルは美味しいですね!」

「クリスが笑顔になってくれて俺も嬉しいよ」


 わたしがシュネーバルを食べながらそう言うと、スピネルも笑顔を見せてくれる。それからシュネーバルを食べ終わって一段落すると、スピネルが口を開く。


「さて、クリスはどうして迷子になったんだ?」

「お腹が空いていい匂いがする方へ歩いてきたら、お店の前で誰もついて来ていないことに気付いたのです……」


 わたしが俯いてそう言うとスピネルは苦笑していた。スピネルはローゼ達を探すのに協力してくれるようで、色々と質問をしてくる。


「今日は何のために町に来たんだ? どこに行くかが分かれば親も見つかるかもしれないだろ?」

「今日は魔導器に嵌める宝石を買いに来ました。午前中は仕立て屋を見て、昼食をとろうと歩いていたら迷ってしまったのです……」


 スピネルはその話を聞いて少し驚いていたが、納得したようで表情を元に戻す。


「それなら仕立て屋の場所が分かれば、そこでクリスの親も待ってるかもしれないな……」


 スピネルは一度考えると続けてわたしに質問をしてくる。


「クリスは仕立て屋の場所は分かるか?」

「わたし、町に来るのが初めてなので、仕立て屋の場所も今どこにいるのかも分かりません……」

「そうか……仕立て屋の店の名前とかは分からないか? 特徴は何かあったか?」


 スピネルは仕立て屋を探すため、矢継ぎ早に質問してくる。わたしは必死で仕立て屋のことを思い出す。


「店の名前は分かりません……道路に面した部分が大きなガラス張りになっていて、店長の名前がビアンカで、店に入るとカランコロンと可愛い音がするのです」

「それだと俺には分からないな……他に何かなかったか?」

「う~ん……」


 苦い顔をしたスピネルと一緒に仕立て屋の場所を思い出そうとしていると、店員が話に加わってきた。


「それなら分かるかもしれないぞ」

「本当か!?」

「ああ。少し待ってな、地図を出してやる」


 店員は店の棚をごそごそと探ると、一枚の地図を取り出してくれる。店員は地図の中から一つの店を指差した。


「多分ここの店だな。大きなガラス張りで、扉が開くたびに可愛い音がするから、前を通ると目に入るんだ」


 店員はペンで目的地に印をつけると、そのまま地図をスピネルに渡す。


「その地図は持って行って構わないから、嬢ちゃんの親を見つけてやりな」

「ありがとう、おじさん! クリス、この店に一度行ってみないか?」


 スピネルは力強い瞳でわたしを見つめてくる。わたしはスピネルと一緒に地図の場所に行くことに決めると頷いた。


「行きます!」

「よし! それじゃあ行くぞ、クリス!」


 スピネルがわたしの目の前に立つと手を差し出してきたので、わたしはその手を取り椅子から立ち上がる。店員はわたし達二人を見て、見送りの挨拶をかけてくれる。


「嬢ちゃんも坊主も気を付けな。もし見つからなかったら戻ってきていいからな」

「ありがとう、おじさん! 頑張ってクリスの親を探してくるな!」

「ありがとうございます! 無事に見つかったら、また買いに来ます!」


 店員に見送られながらわたし達は歩き出すと、人通りの多い道を進んでいく。


「クリス、手を離すなよ。手を離したらまた迷子になるからな」

「もう離しません!」


 わたしはぎゅっとスピネルの手を強く握る。わたしはそんなスピネルを見て質問をする。


「スピネルはどうしてわたしを助けてくれるのですか?」

「俺にはクリスと同じくらいの妹がいるんだ。だから困ってるクリスを見て放っておけなかったんだよ」


 スピネルは顔を赤くしながらそう言ってくれた。スピネルの妹は見たことがないが、一度会ってみたいと思った。


 そうして二人でしばらく歩いていると、目的の仕立て屋が近づいて来る。わたしは見覚えのある道に出ると嬉しくなって、スピネルの手を離して走りだす。


「クリス! 急に走りだすな!」


 仕立て屋が見えるところまで来ると、セレスタお姉様が心配そうな顔をして、辺りをキョロキョロと見回しているのが見えた。わたしはセレスタお姉様に向かって駆け寄る。


「セレスタお姉様!」

「クリス!」


 わたしに気付いたセレスタお姉様はこちらに駆け寄って来ると、わたしのことをぎゅっと強く抱きしめる。セレスタお姉様の目には涙が浮かんでいる。


「もう! 心配しましたのよ!」

「ごめんなさい、お姉様……」


 わたしがセレスタお姉様と抱き合っていると、スピネルが息を切らせてこちらへ駆け寄って来る。


「クリス、手を離したらダメだって言っただろ!」

「ごめんなさい、スピネル……つい嬉しくて走ってしまいました……」


 わたしがセレスタお姉様から離れるとスピネルに謝る。セレスタお姉様も涙を拭くと顔を上げると、何かに気付いたように一瞬動きを止め、スピネルに礼を言う。


「クリスをここまで連れてきて下さってありがとう存じます。わたくしがクリスの姉のセレスタ・エデルシュタインです」


 セレスタお姉様の顔を見たスピネルは固まってしまった。そう言えばスピネルにきちんと自己紹介をしていなかったかもしれない。


「スピネル、自己紹介が遅れました。わたしはクリスティア・エデルシュタイン、エデルシュタイン王国の第六王女です」

「エデルシュタインって……それにセレスタ殿下……」


 スピネルはセレスタお姉様を見て混乱しているようだ。不思議に思いセレスタお姉様を見ると、セレスタお姉様もスピネルを鋭い目で見ている。


「ユーディライト公爵家の子息、スピネル様ですわね。何故このような場所に一人でいるのかは存じませんが、クリスを助けてくれたことには礼を言いますわ」

「え! スピネルは貴族だったのですか!?」


 わたしがきちんと自己紹介していなかったのと同じように、スピネルも名前しか名乗っていなかったようだ。わたしは驚いてスピネルを見つめる。


「クリスがクリスティア殿下……? ということはつまり、俺と同い年……?」

「え! スピネルも同じ年齢だったのですか?」


 先ほどから驚くことばかりで、スピネルの方を向くと彼もまだ混乱しているようだ。少し落ち着くのを待って三人で会話を再開する。


「それで、スピネル様は何故このようなところに一人でいるのでしょうか?」

「それは……たまには一人で外に出てもいいでしょう、セレスタ殿下」

「どういうことですか? スピネルは一人で外に出てはいけないのですか?」

「そういうわけではないのですけれど、誰も付けずに公爵家子息が町に出ることはあまりないのです……貴方まさか、連れてきた者を撒いてきたのではないでしょうね……」


 セレスタお姉様の言葉にスピネルが苦い顔をする。どうやら図星だったらしい。セレスタお姉様は溜息をつくと、スピネルの方を見る。


「今日はクリスを助けてくれたこともあるので、深く追求はしませんわ。ですが、あまり勝手な行動を取らないようお気を付けくださいませ」

「お姉様! スピネルを叱らないでください! わたしを助けてくれたのです!」

「ええ。それには感謝していますわ、クリス。だから今日は何も言いません」


 そう言うとセレスタお姉様は目線を逸らす。今のうちに目の届かない場所まで行けという意味だろう。わたしはスピネルを見上げると話しかけた。


「スピネル、今日は助けてくれてありがとうございました。同じ年齢ということはスピネルも春から学園に通うのですよね?」

「はい。わたしもクリスティア殿下と同じで春から学園に通います。知らなかったとは言えクリスティア殿下には無礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」


 そう言葉にするスピネルはわたしのことを王族として扱っており、何だか寂しい気持ちになった。


 今日一日で仲良くなったと思っていたのに、距離ができてしまったようだ。わたしがしょんぼりと肩を落とすと、スピネルは苦笑してわたしの頭を撫でてくれた。


 スピネルはわたしに顔を近づけると囁くように言う。


「クリス、一緒に学園へ通えることが分かって俺も嬉しい。これからも友達としてよろしくな」

「スピネル! これからも友達としてよろしくお願いします!」


 スピネルはわたしの頭の上に置いた手を退けると、一歩下がってわたし達に礼をする。


「それではセレスタ殿下、私はこれで失礼いたします。クリスティア殿下も学園でお会いできることを楽しみにしております」


 そう言ってスピネルは踵を返すと、人混みに紛れて見えなくなってしまった。セレスタお姉様を見ると複雑な顔をして人混みを見つめていた。


「セレスタお姉様はスピネルが苦手なのですか?」

「苦手ではないのですけれど……いえ、なんでもありませんわ」


 セレスタお姉様は少し眉をひそめると、また溜息をついた。


「とにかくクリスが無事で良かったですわ。クリスを探しに行ったローゼが戻ってくるまで少し待ちましょう」

「ごめんなさい、お姉様……」

「次は気を付けてくださいませ、クリス。お腹も空いているでしょうし、昼食をとって宝石店へ向かいますわよ」

「はい!」


 しばらくセレスタお姉様とはぐれてからの話をしていると、ローゼが戻ってきて昼食へ向かうことになった。

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