セレスタお姉様と仕立て屋
「そろそろ到着します、セレスタ様、クリスティア様」
そんなローゼの声が運転席から聞こえて、窓の外に目を向けると町が見えてきた。わたしは目を輝かせてセレスタお姉様を見る。
「わあ! お姉様、町です! もうすぐ着きますよ!」
「ええ! 楽しみですわね、クリス!」
二人でワイワイと話していると、魔動車は町はずれの広場に到着した。
「さあ、到着しました。セレスタ様、クリスティア様」
ローゼは先に降りると客室の扉を開けてくれる。わたしはローゼに手を引かれて魔動車から降りて、地面を踏みしめる。
遠くから町の喧騒が聞こえてきて、町への期待は否応なしに上がっていく。わたしはワクワクした気持ちで前に一歩踏み出す。
「早く行きましょう! お姉様、ローゼ!」
「お待ちください、クリスティア様。一人で行動するのは危険です」
「そうですわ。それにクリスはどこに向かうのか知らないでしょう?」
「う……ごめんなさい……」
わたしは勝手に行動しないように、二人から釘を差されてしまう。気を取り直して、わたしはセレスタお姉様に今日の目的地を訊くことにした。
「お姉様、今日はどちらに向かわれるのですか?」
「今日は仕立て屋と宝石店に伺おうと思っていますわ」
魔導器に嵌める宝石を買いに来たので、宝石店は行く予定だった。しかし、どうして仕立て屋にも行くのだろうか。わたしは首を傾げながら、セレスタお姉様を見つめる。
「宝石店は分かるのですが、仕立て屋ですか?」
「ええ、わたくしの良く行くお店で、クリスに紹介したいと思っていましたの。町も案内したいので、今日はのんびり回りましょう」
セレスタお姉様は町をゆっくり見て回ろうと提案してくれる。それを聞いたわたしが満面の笑みで頷くと、セレスタお姉様も笑顔を向けてくれる。
セレスタお姉様と手を繋いで町に入ると、そこはわたしが今までに見たことないほど賑やかな場所だった。
どこからともなくいい匂いもするし、色とりどりなお店がたくさん並んでいる。辺りをキョロキョロと見回しながら、わたしはセレスタお姉様と話す。
「わあ! 人がたくさんいます! あっちには可愛い店があります!」
「クリス、気を付けてくださいませ。手を離したら、もう二度と会えなくなってしまいますわよ」
セレスタお姉様がクスリと笑いながらそう言うと、わたしは急に怖くなってきて、繋いだセレスタお姉様の手に強く力をこめる。
「そんなに怖がらなくても大丈夫ですわ、クリス。しっかり手を繋いでいれば、はぐれたりしませんもの」
「はい、お姉様! 離さないで下さいね!」
繋いだ手を軽く振って、セレスタお姉様はわたしに笑いかけてくれる。わたしもセレスタお姉様の手の温かさを感じながら一緒に歩いていく。
「到着しましたわ、クリス!」
「わあ……! 色々な服が飾ってありますね、お姉様!」
セレスタお姉様が示した場所には仕立て屋があった。道に面した部分は大きなガラス張りになっていて、綺麗な服がたくさん飾られているのが外からでも見える。
「さあ、入りますわよ!」
セレスタお姉様がそう言うと、ローゼがお店の扉を開けてくれる。カランコロンと可愛い音と同時に扉が開くと、お店の中が見え始める。
そこにはお母様と同じくらいの年齢の女性がいて、音に気が付いてこちらへ振り向いた。
「いらっしゃいませ、セレスタ殿下。本日はどのような御用でしょうか?」
「ごきげんよう、ビアンカ。今日はわたしの妹に町を案内しているところですわ」
わたしはセレスタお姉様に背中を軽く押されて、前に一歩出る。
「エデルシュタイン王国第六王女、クリスティア・エデルシュタインと申します。よろしくお願いします」
「ビアンカと申します。こちらこそよろしくお願いいたします、クリスティア殿下」
わたしの礼に合わせてビアンカも深々と礼を返してくれた。挨拶が終わるとセレスタお姉様がわたしの服を選んでくれる。
「クリス、こちらに素敵な服がありますわよ」
「どれですか、お姉様!」
わたしはキョロキョロと辺りを見回しながら、セレスタお姉様に近づいていく。セレスタお姉様の目線の先には、わたしに似合いそうな可愛い服が飾られていた。
「わ~! 可愛い服ですね!」
「でも少しクリスには大きいかしら?」
わたしと服を見比べてセレスタお姉様は悩んでいるようだ。そうしているとビアンカがセレスタお姉様に声をかけた。
「どうかなさいましたか? セレスタ殿下」
「こちらの服がクリスに似合うと思うのですけれど、少し大きいのですわ」
「お時間をいただければ直すことは可能ですが、いかがいたしましょう?」
「それでは直してもらえるかしら? 次来た時に受け取ることにしますわ」
「かしこまりました、セレスタ殿下」
そう言うとビアンカはくるりと振り向き、ローゼと話し始める。わたしの服はローゼが注文しているので、細かい寸法をビアンカに教えているのだろう。
そんな二人のやり取りしているのを見ていると、ふと疑問が湧いてきた。
わたしは部屋で寝込んでいたため、服をあまり持っていない。そのため、学園で着る服もまだ用意していないことに気付いてしまった。
わたしは慌てて、店の中で服を物色しているセレスタお姉様に声をかける。
「お姉様。わたし、学園で着る服が用意できていないのです。どうしましょう……」
「それなら、既に用意してありますわ。学園では制服を着ますの」
わたしはきょとんとセレスタお姉様を見つめる。セレスタお姉様も少し首を傾げている。
「そう言えばクリスに制服を見せたことはありませんわね……こちらについて来てくださいませ」
そう言うとセレスタお姉様は、店の一角へとわたしを連れて行ってくれる。わたしが連れていかれた先には、ローブやシャツ、ズボン、スカートなど統一感のある服が一式まとめて飾られていた。
「これが制服ですわ、クリス。学園では皆、この服を着て過ごすのです」
わたしは制服に視線を移して、皆が同じ服を着て過ごす学園を想像すると楽しみな気持ちになってくる。
わくわくした気持ちでセレスタお姉様に目を向けると、学園のことを訊く。
「学園ではできるだけ平等に過ごせるように、皆が同じ服を着ますの。でも、外国との交流の意味もあるので、人によって細かい部分の装飾は違いますわ」
そう言ってセレスタお姉様はローブの首元についた青色の線を指差す。身分によって線の本数が変わり、国によって線の色が変わるようだ。
外国と交流する上では身分が関わってくる部分も多いので、こうして一目で分かりやすくするのだそうだ。
制服の意味が分かったわたしは納得の表情で頷き、セレスタお姉様の話に耳を傾ける。
「それに、この制服は成長しても着られるように、魔布で作られていますの」
「魔布ですか?」
「ええ。魔力を流すことで大きさが変わる布ですわ」
制服は細かい装飾以外は同じなので、魔布で作ると都合が良いらしい。その話を聞いて、学園に通うのがより楽しみになったわたしは、学園生活に思いを馳せる。
「学園……! 早くわたしも通いたいです!」
「そんなに慌てなくても、春になれば通えますわよ、クリス」
セレスタお姉様はクスクスと笑いながらそう言った。しばらくお店を見て気に入った服を何着か注文していると時刻はお昼時になっていた。
「そろそろ次の店に向かいませんこと?」
「そうですね、お姉様。それに――」
言い終わる前にどこかからく~と可愛い音が聞こえてきた。わたしは顔を真っ赤にして、慌ててお腹を押さえた。
「ち、違います! わたしじゃないです!」
「分かりましたわ。お昼にしましょうか、クリス」
セレスタお姉様は笑いを堪えるように口元に手を当てている。そうしてわたしとセレスタお姉様はビアンカに別れの挨拶をした。
「またのお越しをお待ちしております。セレスタ殿下、クリスティア殿下」
ローゼが扉を開けると、入店の時と同じくカランコロンと可愛い音がする。ビアンカの見送りを受けたわたし達は、昼食をとるために店を後にする。




