アレキサンダーお兄様と夕食
食堂に到着すると既に準備が整っており、わたしとエメラルお兄様が来るのを待っていたようだ。朝食の場にはいなかったアレキサンダーお兄様が着席しているのが見える。
二人で慌てて席につくと、安心したような表情のアレキサンダーお兄様に声をかけられた。
「クリス。食堂に来られるくらい元気になったのかい?」
「はい、アレキサンダーお兄様。皆と一緒に過ごしながら、体調を整えているところです!」
わたしはそう言うとちらりとエメラルお兄様の方を見る。エメラルお兄様は少し照れくさそうにしながらアレキサンダーお兄様との会話を始めた。
アレキサンダーお兄様はわたしの五歳年上の兄だ。わたし達きょうだいの中で一番年上なのもあって皆に頼りにされている。
わたしのお見舞いに来た時も優しくしてくれたので、元気になった報告ができて良かった。
「クリス、エメラルとは楽しく過ごせましたの?」
「ええ、お姉様。今日は一緒に算数の勉強をしました」
食事が始まると、わたしは隣にいるセレスタお姉様と話を始める。セレスタお姉様は安心したようにホッと息を吐く。
「それは何よりですわ。今日はわたくしも外出していたので、クリスが体調を崩していないか心配していましたの」
「ご心配ありがとうございます、お姉様! 今日は算数の勉強もしたのですけど、魔力制御の練習もしていたのですよ!」
わたしは今日あったことをセレスタお姉様に話していく。セレスタお姉様は途中まで楽しそうに聞いていたが、魔力を大量に流した話をすると、段々と笑顔が引きつっていく。
「お姉様、どうかなさいましたか?」
「クリス、本当にそんなことをしましたの?」
「え、ええ。今はもう魔力制御もしっかりできていますよ!」
わたしは慌てて魔力制御ができるようになったと胸を張る。それを見たセレスタお姉様は一度溜息を吐くと、エメラルお兄様の方を睨みつける。
「エメラル。クリスに危ないことをさせてはなりませんわ」
「お姉様?」
エメラルお兄様が怒られている理由がよく分からず、わたしは首を傾げてセレスタお姉様に尋ねる。すると、セレスタお姉様はわたしに向かって静かに口を開く。
「クリスもです。自分で扱えるか分からないほど、魔力を使ってはなりませんわ」
そこからセレスタお姉様はわたしとエメラルお兄様に注意を始めた。
「自分で扱えないほどの魔力を流すと、魔力制御ができずに暴走する可能性がありますの」
「魔力の暴走ですか?」
「ええ。クリスはまだ本調子ではないのですから、普通の者より注意して魔力を扱わなければなりませんわ」
「ごめんなさい、姉さん……僕、そんなつもりじゃなくて……」
わたしに危険なことをさせてしまったと、エメラルお兄様は顔を真っ青にしている。そんなエメラルお兄様を見ると、セレスタお姉様は諭すように声をかける。
「エメラルもクリスの体調を何とかしようとして提案したのは分かりますわ。でも、学園に通っておらず、魔法も習っていないクリスに無茶をさせてはなりませんわよ」
わたしとエメラルお兄様が二人でしゅんとしていると、アレキサンダーお兄様が仲裁に入ってくれる。
「セレスタ、もう二人とも反省しているようだからいいだろう?」
「そうですわね……二人とも、もう無茶はダメですわよ」
「はい、お姉様」
「うん、姉さん」
二人で謝ると注意も終わり、皆で楽しい食事の時間を過ごした。
食後のお茶の時間、セレスタお姉様が明日の予定について聞いてきた。
「そう言えばクリス。明日の予定はありますの?」
「明日は特に決めてないですね。魔力制御の練習をしながら過ごすつもりでした」
「クリスの体調次第ですけど、明日は町に買い物へ行きませんこと?」
「いいんですか、お姉様!?」
「ええ、今日は倒れないで一日過ごせたようですから、町に行っても大丈夫でしょう」
わたしは町に行けると聞くと、期待を込めてセレスタお姉様を見つめる。セレスタお姉様は一度頷くと、明日町に行くことを決定する。
「それでは、明日は魔導器に嵌める宝石を一緒に選びますわよ!」
「はい、お姉様!」
そんな話を二人でしていると、アレキサンダーお兄様も話に加わってきた。
「クリスは明日、魔導器に嵌める宝石を買いに行くのかい?」
「はい、お姉様と約束していたのです! アレキサンダーお兄様も一緒に行きますか?」
「私は行けないんだ。ごめん、クリス」
「そうなのですか、残念です……」
「クリス。アレキサンダーお兄様は魔道具を作るのが得意ですの。わたくしやエメラルの魔導器もお兄様が作った物ですわ」
そう言ってセレスタお姉様は、自分の魔導器である杖をわたしに見せてくれる。わたしはアレキサンダーお兄様を尊敬の眼差しで見つめる。
「この綺麗な杖はアレキサンダーお兄様が作ったんですか!? 凄いです!」
「そんなに褒めてくれるとわたしも嬉しいよ。ありがとう、クリス」
アレキサンダーお兄様は照れくさそうにはにかんでいる。
「実はクリスの魔導器もわたしが作る予定なんだ」
「まあ、本当ですか!?」
「クリスはどんな魔導器が欲しいんだい?」
「わたし、魔導器はセレスタお姉様の杖しか見たことがないのです……普通はどのような形なのでしょうか?」
「皆が必ず持っているのは杖型の魔導器だよ。神授式の時に教会からもらえるんだ。騎士団だと剣型の魔導器を使う者もいるよ」
本来なら神授式の際に杖型の魔導器が貰えるのだが、わたしはアレキサンダーお兄様が作る予定だったので、神授式で渡されなかったらしい。
わたしはどの形にするか、眉間にしわを寄せながら悩む。セレスタお姉様の杖をじっくりと見て、自分の魔導器を想像してみるが難しい。
「う~ん……」
「そんなに悩まなくてもいいよ、クリス。使ってみて満足できなければ、また作り直してあげるから」
アレキサンダーお兄様はそう言ってくれるが、できれば自分の納得できる物にしたい。わたしが悩んでいると、エメラルお兄様がこちらを見ていることに気付いた。
「エメラルお兄様の魔導器はどのような形なのでしょう?」
「僕は箒型と杖型だよ。飛ぶときに乗れるように、アレキサンダー兄さんに作って貰ったんだ」
箒型の方は持ってきてないけどねとエメラルお兄様は言う。わたしは空を飛べる魔導器を想像して余計に悩みが深まった。わたしは腕を組んで、唸りを上げる。
「う~~~ん……」
「クリスが納得できるまで悩めばいいよ、魔導器はいつでも作れるからね」
悩むわたしを見て、アレキサンダーお兄様は苦笑している。わたしはちらりとアレキサンダーお兄様に目を向ける。
「ちなみにアレキサンダーお兄様の魔導器はどのような形なのでしょう?」
「わたしの魔導器はこれだよ」
アレキサンダーお兄様は服のポケットに手を入れると、ポケットよりも大きな黒色の魔導器を取り出した。
「え!?」
「これは銃型の魔導器で、込めた魔法を発射できるんだ」
アレキサンダーお兄様は笑いながらそう言ったが、わたしはアレキサンダーお兄様のポケットが不思議で仕方がない。一体どこに入っていたのだろうか。
わたしがポケットを凝視していると、アレキサンダーお兄様はお菓子を別のポケットから取り出して、笑いながら答えてくれる。
「これが私の固有魔法『不思議なポケット』だよ。ポケットにたくさん物を入れて自由自在に取り出せるんだ」
「そうなんですか!?」
「こっちに来て触ってみるかい?」
そう言うとアレキサンダーお兄様はポケットに一度魔導器とお菓子をしまう。わたしはテクテクとアレキサンダーお兄様の席に近づきポケットに触らせてもらう。
「え!? 何も入っていないです!」
しかし、ポケットに入っているはずの物が何もなく、わたしは目を丸くした。そんな私を見て表情を緩めたアレキサンダーお兄様は、わたしが触ったポケットからお菓子を取り出す。
「ほら、クリス! お菓子が出てくるよ!」
先ほど触っても何も入ってなかったポケットからお菓子がいくつも出てくる。
「凄いです、お兄様! でも随分と限定された固有魔法なんですね。ポケットのない服では使えないではありませんか……」
わたしは不思議に思いながら、アレキサンダーお兄様が出したお菓子を見つめていると、呆れたセレスタお姉様の声が聞こえる。
「アレキサンダーお兄様、クリスで遊ぶのはおやめくださいませ……」
「え!?」
わたしがアレキサンダーお兄様を見ると、口元を抑えて笑いを堪えていた。わたしはからかわれていたのだと気付き、顔が真っ赤になる。
「もう! アレキサンダーお兄様!」
「くくく……ごめん、ごめん。クリスの反応が面白くてつい……」
わたしが膨れながらアレキサンダーお兄様を睨みつけても、アレキサンダーお兄様はまだ笑っていた。わたしはプイっと顔をそむける。
「もうアレキサンダーお兄様なんて知りません!」
「ごめん、クリス。わたしの固有魔法は『空間収納』。ポケットだけじゃなくて、色々な物をしまっておける固有魔法だよ」
そう言ってアレキサンダーお兄様が手を伸ばすと、何もないところに黒い穴のような物ができて、その中からお菓子が出てくる。
それを見たわたしが目を丸くしていると、アレキサンダーお兄様はわたしの手にお菓子を置いてくれる。
「これで許してくれるかな、クリス」
「……今回だけですからね!」
わたしが自分の席に戻ってセレスタお姉様と一緒にお菓子を食べていると、アレキサンダーお兄様が声をかけてくる。
「今度魔道具研究所に連れて行くから、その時にクリスの魔導器を作ってあげるよ」
「分かりました! ありがとうございます! アレキサンダーお兄様!」
アレキサンダーお兄様がそう言って部屋に戻ると、それを合図にわたし達も解散して自分の部屋に戻ることにする。
明日はセレスタお姉様と町へ出かけるので、楽しみな気持ちでわたしは眠りについた。




