これ異世界転移ってやつだ
続きが思いつき次第投稿予定です。
拙作ですが、それでもいいよという方はよろしくお願いします。
もし、自分の人生について感想を言うとすれば、「疲れた」の一言で大体片付く。
両親の喧嘩を眺めるのも、バイトで生活費を稼ぐのも、クラスメイトからの面倒な嫌がらせも、全てどうでもいい。
世界には自分よりも辛い人間が沢山いるって人々は言って、それはそれはその通りだと思うが、目の前の現実はなにも変わらないし、俺が人生に疲れたのは事実でしかない。
ビュオッと突風が吹き、俺こと月森太一は、反射的に身を屈める。
夏真っ只中の空は鬱屈とした灰色を広げていて、普段ならとても気分がいいものではなかったが、今の自分にはどこか心地よかった。
「そういえば、台風が来てるってニュースで言ってたな」
俺は少し錆びた手すりの上に立ち、周囲に視線を滑らせる。
校舎の屋上から見下ろす景色は何とも寂しいものだった。
授業の無い校舎は静かさに包まれ、普段なら部活動に励む生徒達も台風のせいか一人もいないようだ。世界に自分しかいないような、そんな気分にさせられる。
ビュオッとまた突風が吹いた。
ぐらりと身体が傾き、宙へと踊る。
反射的に手すりへと手を伸ばしかけたが、自分がここに来た理由を思い出し、すぐに手は勢いを無くした。
ふと、台風がどうたらと言ったのが最後の言葉になるのは少し癪だと感じたので、
「さらば、我が人生」
グシャリと何かが潰れるような音が、どこか遠くで聞こえた気がした。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「………きなさい……」
「……起きなさいってばッ!!」
「ん、んぅ」
心地よい微睡から叩き起こされた俺は、あくびを噛み殺しながらゆっくりと身を起こす。
そのまま辺りを見回すと、そこは四方を白く塗り潰された異質な空間だった。
「で、あんたは誰だ?天使?」
俺を起こした声の主にそう問いかける。
腰あたりまでストレートに伸ばした艶のある金色の髪をたなびかせ、一人の女の子が俺の顔を覗き込んでいた。
「は?何言ってんのよ?」
どうやら天使ではなかったようだ。
でも俺は覚えている。
俺が何をしてどうなったのか。
自分の身体が潰れる感覚すらも。
「でもここって所謂天国ってやつじゃ無いのか?目覚めるとしたら病院かあの世だと思ってたんだが、見たところ身体に傷はないし、地獄にしてはやたらと白いし」
「え、倒れた拍子に頭おかしくなっちゃったのかしら……。ここは召剣の間に決まってるでしょ?」
「召剣の間って何だ?」
「はぁ……どうやら記憶が飛んじゃったみたいね。いい?ここは召剣の間と言って、貴方達人間が適合する剣精を召喚し、契約する場所なの。貴方はここに私と契約しに来たの。分かった?」
「オーケーオーケー。……うん、さっぱりわからん」
「何でよ!?」
「まあ待て、そう鼻息を荒くする「してないわよ!」な。ちょっと一個だけひじょーに気になることがあるんだが聞いてもいいか?」
「何よ?」
「この世界?星?って何て名前だっけ?」
「そんなことまで忘れちゃったの!?」
眼前の少女は態とらしくため息をついた後、呆れたような目でこちらを見た。
「この星の名前はイリスよ。その辺の子供でも知ってるわ」
「ふむふむ、大体理解した」
これ異世界転移ってやつだ。