魔獣討伐
ゲームで何度も倒してきた魔獣。
指でポチポチするよりは簡単?
~魔獣討伐~
我がクリスティン家領内に魔獣が出現したとの報告があった。
魔獣と言っても、まだFランクの一角兎が数匹程度であり、すぐさま危険と言うことではないらしい。
お父様になんと切り出そうか・・・魔獣討伐に行きたいと。
無理よね~。
そうだ!領地見学と称し、魔獣が出て怖いからとアレンや護衛を付けてもらおう!
そう、アレンは舞踏会後も我が家に頻繁に出入りしており、ともに鍛錬に勤しんでいる。
特に王太子とのお茶会後は気合が入っており、目覚ましい向上を見せている。
やはり、才能に裏打ちされた者は違う。
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5日後、クリスティン家領内辺境の地
領地に着いた私達は、さっさと魔獣退治の手配を行い。(お父様ごめんなさい)
今、魔獣の目撃証言のあった森に到達しようとしている。
メンバーは、アレン、クリスティン家護衛の武闘家ケリー、魔術師ロン、モンク(修道士)ミラー。(彼らには特別ボーナスを出すことで魔獣討伐に参加して貰っている。)
そして、オクティビア・グレイス。
どうしてこうなった!
辺境の地の当家邸宅で待ち構えていた彼は、護衛5名を引き連れて当然の様に合流して来た。私が領地に赴くことは駄々洩れであった様だ。
ぐぬぬ、さては父め、公爵あるいは王太子にリークしたな。
だから、あっさり許可を出したのだ。
政略的には正解なのだろうが、娘にその気はないぞ。
まぁ、私の目的が魔獣退治とは思うまい。
そして、公爵家一同も令嬢の気まぐれな物見遊山と思っている様だ。
なぜなら、私が軽装だからだ。
所謂ハンティングの服装に近く、(それでも充分令嬢らしくないが)、ところどころ皮当てで補強している程度である。
アレンは盾まで持っているが・・・使わないと思うけど、まぁ良いわ。
「お嬢様、目撃情報はこの辺りです。」
護衛のケリーが緊張気味に言う。
私は、周りを見渡し気配を伺う。
「・・・・・。」
やはり、五感では掴めないか。
仕方ない、探知魔法を唱える。
「古の聖霊よ、我に従い魔力を供与せしめ魔力を探知せよ。~ディテクト・マジック~」
驚いたオクティビアが叫ぶ。
「何! 魔力探知だと! カサンドラ嬢! 」
「・・・・・・」(今、集中してるから黙ってて)
オクティビアは、アレンの方を凝視し、説明するように促す。
アレンは両手を上げて呆れた様に、
「まぁ、そう言うことです。魔獣が出たと言う情報があったので、
言っときますが・・・・・止めても無駄ですよ。」
オクティビアは、クリスティン家の護衛3名にも睨め付けながら怒鳴る。
「これは、お前たちも知っていたのか!」
「「「当然です。」」」
「ですが、我々の雇い主はクリスティン家なのでね。そこはお間違えの無いように」
とケリーが言い返す。
「クソ!」
オクティビアは、公爵家らしからね悪態をつき、自分の護衛に指示を出す。
「良いか!何があってもカサンドラ嬢を守れ!場合によっては私の命より優先しろ!」
あ~煩い、集中、集中・・・。
近くに強い魔力が2つ・・・アレンとオクティビアか。
そして、少し劣るが3つ・・・これは護衛のロンとミラーと・・・公爵家護衛の誰かか。
・・・・前方に弱悪属性の魔力が5つ。それと・・・。
「行くわよ。」
私は、男の様に低い声を発していた。
そして、振り返り公爵家一同に伝える。
「オクティビア様はここでお待ちになって下さいまし。」
「ば、馬鹿な! 止まらないなら、もちろん行くさ。
我が命にかえても貴方を守って見せる。」
ふふっ、いくら王太子の依頼?とは言え、オクティビアはゲームどおり紳士なのね。
アレンは、オクティビアのこの発言を小馬鹿にしたように聞き流している。
~~~~~~
森深く進行し、少し開けた場所に出る。
「そろそろ来るわ。備えて。」
前方木陰から真っ黒な一角兎が飛び出して来る。
身構える一同。
詠唱を唱え始めるオクティビア
「古の火の聖霊よ。我に・・・」
しかし、カサンドラは既に剣を抜き一人飛び出していた。
「ファイア(火炎魔法)」
掲げた左手から炎を打ち出す。
そして、炎のダメージを受けた一角兎へ、剣を打ち下ろす。
カサンドラは、一瞬で仕留めてしまった。
唖然とする一同に、カサンドラは叱咤する。
「次、右前方から2匹!」
~~~~~~~~~~
ほんの数分で一角兎を全滅させてしまった。
カサンドラが4匹
アレンと護衛3人で1匹
オクティビア一同は、茫然と見ているしか出来なかった。
ケリー
「こりゃ、スゲーや。俺たちも要らないんじゃないか?」
オクティビア
「なん・・・だと!」
まさか、我が公爵家の精鋭が手も足も出ない。。。
アレンは、何故か得意げにオクティビアに向かって言う。
「だから無駄だって。」
実際、魔獣を見るのは全員初めてのはずだ。近年、目撃情報はなかったのだから。
オクティビアにしても、まさか侯爵家令嬢が先陣を切るなど思いも寄らないことであっただろう。
オクティビア
「カサンドラ嬢、先ほどの魔法、”ファイア”と言うのは何かな?」
「ああ、あれですか? 本当は詠唱は要らないの。
でも、何か言った方がカッコいいでしょ? ふふっ。
何でも良かったのだけれど、炎だから”ファイア”かなと思って・・・特に意味はないのよ。」
可愛くおどけて言うカサンドラに、茫然とするオクティビア
「カッコ良いから・・・それだけ?」
少し場が和んでいたが、カサンドラが急に振り向き一点を凝視する。
「先へ行くわ。」
一同は、有無を言はせぬ勢いのカサンドラに付いて行く。
しばらく進むと、森の最深部、切り立った崖の下部に洞窟が見えた。
「ここね。ここに居るわ。」
この中に大物が一匹。そして、周りの林にも数匹いる。
「気を付けて、さっきよりも強い魔力よ。」
グルルル~・・・・
出た。Eランク魔獣ヘルハウンド。野犬タイプで、こいつらは群れで動く。
そして、この中で一番弱そうな私を狙ってくるはず。
「 散開! 各自、個別撃破! 」
カサンドラは、言い終わるやいなや素早く走り出す。
すると、数匹のヘルハウンドがカサンドラを追う。
オクティビア
「しまった。急げ!彼女を守れ!」
しかし、カサンドラの動きは早く、炎弾を連射する。
ファイヤーガン・・・人差し指から弾丸の様に炎を打ち出す。一発に大した威力は無いが、連射が出来、素早い敵には効果的である。
カサンドラにより、次々と倒れていくヘルハウンド。
アレン
「くそ、ちょこまかとこの野郎!」
アレンは、ヘルハウンドの動きに翻弄されている様だ。
「アレン! 当たらなくても良いから火炎呪文を放って!」
アレンは、カサンドラのアドバイスに従う。
「火炎魔法~ファイア~!」
アレンは、炎に怯んだ一匹に剣を突き立てる。
「やったー!1匹倒したぞ!」
まるで一角兎を倒した時のカサンドラの様な連続技だ。
「そうか!この感じなんだな。・・・詠唱も簡略化できた。」
アレンは、感動し自分の手の感触を確かめている。
「アレン!気を抜かないで!次よ!」
「良し。任せろ!」
ふふっ、元気になっちゃて! 流石天才!
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なんとか、ヘルハウンドの群れを倒すことができた。
カサンドラ・・・12匹
アレン・・・・・・4匹
ケリー・・・・・・3匹(ロン、ミラーの補助あり)
オクティビア一行・1匹、数人の怪我人あり。
公爵家護衛
「オクティビア様、やりましたね。倒しましたよ。」
「うむ。この装備と人数で魔獣ヘルハウンドを倒した。良くやった。」
アレンは、そんな様子のオクティビア一同を見て
「・・・・居ないよりはましか?」
「まぁ、そう言いなさんな。多分本物の戦闘なんてしたことないんだろう。」
とケリーが言いつくろう。
「それより、アレン様は大したもんだよ。初めての戦闘なんだろう?」
「うん。そうだけど・・・お嬢と比べるとな。
・・・俺はこれでもお嬢と同じ鍛錬をしてきたんだ。」
「へぇ~、どうりで」
とケリーは感心する。
オクティビア
「何!それはどういうことだ! アレン! 詳しく教えろ!」
カサンドラ
「待って! 気を抜かないで! まだよ! まだ居るわ。」
そう、今度こそはっきり五感で分かる。
ただ物ではない気配・・・が、のっそりのっそりと洞窟から進んで来る。
そして、その全貌が現れる・・・・ブラック・グリズリーだ。
もはや、幻の魔獣だ。
ここ数十年目撃されたことなどないDランク?の大型魔獣だ。
オクティビア
「こ、これは、本でしか見た事が無い。ブラック・グリズリー!」
オクティビアでなくてもこれはビビるだろう。
貴族は、座学において一通り魔獣の知識は身に着けている。
そして、オクティビアはこの魔獣が町や村を襲ったらどれほどの被害が出るのであろうかと思案する。
アレンはケリーに同意を求める。
「一先ず逃げた方が良くないか?」
なぜなら、一緒にカサンドラに撤退を説得してもらいたかったからだ。
「お嬢様次第さ、なあみんな?」
頷くロンとミラー。
「ちぇ、分かってたよ。腹を括るさ。」
アレンの顔が引き締まる。
一方、カサンドラは、前方のブラック・グリズリーに集中していた。
Dランクでこの威圧感。
でも、勝たなきゃね。ゲームではまだまだ序の口のモンスターだし。
私達を馬鹿にしているのね。
熊の魔獣ブラック・グリズリーは、ヘルハウンドの死体を貪っている。
人間など気にも留めていないようだ。いつでも殺せると。
なら、こちらからやらせてもらうわよ。
「フル・ポテンシャル(身体強化魔法)、プロテクション・スカラ(防御魔法)」
カサンドラが一瞬光に包まれる。
「よし、行くか!」
カサンドラは、振り返りもせず一同に指示する。
「皆さま方、火の魔法で援護して下さいませ。」
カサンドラの号令で魔術師達は詠唱を始める。
「「「「古の火の聖霊よ、我に従いここに来りて火炎を放て!」」」」
これに合わせてカサンドラも放つ。
「ファイガ!(上位火炎魔法)」
”グオー!” ブラック・グリズリーが巨大な炎に包まれ燃え上がる。
それと同時にカサンドラは突っ込んで行く。
振り降ろされた剣は魔獣の肩口から振り抜き・・・・いや肩口で止まってしまった。
・・・・力が足りない。
強化魔法を使っても、カサンドラの力ではブラック・グリズリーの筋骨を切り裂くことは出来なかった。
グリズリーは狂ったように両腕を振り回す。半狂乱だ。
しかし、こんな攻撃を避けるのは簡単だ。カサンドラにはかすりもしない。
「アレン、剣を貸して! 多分返せないけど。」
とアレンの剣を受け取る。
「魔法剣~ファイガ~」
カサンドラの右手から炎が湧き出て剣を覆っていく。
ブラック・グリズリーを黙って見据えるカサンドラ。
「お、おい、お嬢! 服、服も焼けてるぞ!」
アレンが悲鳴の様な素っ頓狂な声でカサンドラに言う。
「・・・・・。」
アレン(聞こえていないのか?)
アレンがさらに声をかけようとしたその瞬間、再びカサンドラは魔獣に突っ込んで行く。
「ファイヤーブレイド!」
カサンドラの怒号とともに魔獣は脳天からっ二つに引き裂かれた。
人間を雑魚と思い侮ったのがこいつの敗因だ。
「「「「「「「「 やったぞ!」」」」」」」
”ズシーン”
真っ二つになった魔獣が倒れると、カサンドラは全身炎に包まれる。
「おいおい大丈夫か? お嬢様よ!」
心配そうなケリーにアレンが返答する。
「そうか、このための防御魔法か、魔獣の攻撃回避の為ではなかったんだな。」
消炎の煙の中からカサンドラの姿態が浮かび上がる。
「「「「「「「 おおー!無事だ! 」」」」」」」」
カサンドラが姿を現した瞬間、さらに全員が感嘆の声を上げる。
「「「「「「「「「 これは! 」」」」」」」
アレンがカサンドラに駆け寄る。
「こら!お前らは見るな!」
火炎により衣服が燃え尽き、カサンドラは一糸まとわぬ姿となっていた。
防御魔法は衣服は守らないのだ。
当のカサンドラ本人は、特に気にする様子も無く堂々と立っている。
そして、駆け寄ってきたアレンに優しく微笑む。(良かった倒せて)
アレンは両手を広げて一同の視界を塞ぐ。
「お嬢、あの、言いにくいのですが、は、は、裸ですよ。」
アレンは真っ赤になって下を向き、頭からは湯気が出ている。
「 え! 嘘 !」
”ひゃっ”と思わず、乙女な悲鳴を上げてしまった。
そこへオクティビアがマントを差し出して来た。
「カサンドラ嬢、これをお使いください。」
”う、美しい”と言いながら見惚れているオクティビアをアレンは睨み付ける。
「オクティビア様、おほん、見ないでいただきたい。」
「あ、ああ、勿論だとも、今、瞼に焼き付けた。もう大丈夫だ、もう見ない。」
「あ、あの、御見苦しいものをお見せして申し訳ありませんでした。
その、お話し中ですが、そろそろ帰りませんか?
それで、このことはどうか御内密に・・・・。」
カサンドラの願いとは裏腹にこの事件は”紅炎の戦乙女”として広まるのであった。
キャシーは、小ぶりですが出ているところは出ています。
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