舞踏会 ~悪役令嬢は虐めをかわす~
王太子妃選びの予選の様なもので、参加者の中から3~5名が選抜されるものと設定しています。
聖騎士候補2および3の者が登場します。
アレン頑張れ!
~王城、舞踏会場~
いよいよ社交界デビューの日が来た。
ゲームでは、この舞踏会で王太子の婚約者が決まった設定だった。
王太子に惚れたカサンドラが強引に婚約者になるのだが、もちろん私はそんなことしない。
そもそも、私は10歳から自宅に引き籠っており、王太子どころか誰とも交流が無い。
だから、ゲームの強制力があったとしても無理筋だと思うのよ。
私は、この舞踏会では社交界デビューと言う義務を果たすだけだ。
さすがの父も、筆頭侯爵家としてこれだけは許してくれなかった。
まぁ、まだ乙女ゲーム『5人の聖騎士と悲愛の魔王』は始まってもおらず、アレンとダンスして飯食って帰るだけだ。現時点で平民であるヒロインも居ないし。
それか、アレンの交友を広げる助けになれば良いが・・・。
”クリスティン侯爵令嬢、カサンドラ様並びにグレゴリー伯爵令息アレン様ご入場です”
「カサンドラお嬢様、さあ行きましょう。」
アレンから促され、私はゆっくり手をアレンへと差し出す。
「うふふ、頼もしいわねアレン。」
アレンは、そう言われてまんざらでもなさそうにカサンドラの手を取った。
二人が入場すると場内は一層賑やかとなった。
”あれがクリスティン侯爵秘蔵の令嬢か!”
”にこやかに微笑まれて、噂の冷淡令嬢と違うようだが”
”まるで花が咲いた様ではないか。”
二人に注がれる視線が熱い。
「凄いわねアレン!皆様貴方に注目しているゎ。」
と小声で耳打ちした。
するとアレンは怪訝そうに
「ご冗談を。注目されているのは・・・いえ、その、それでも良いです。はい。」
「 ? 」
アレンたら、意外と恥ずかしがり屋だったのね。
それとも、ゲーム内の様にねじ曲がった心の表現なのかしら。
正面に真っ直ぐ進み、鎮座する王太子に丁寧にお辞儀をする。
ここで、王太子としばし歓談と言うところだろうが、軽い挨拶程度の会話で済ませる。
王太子はにこやかに笑っている。実に爽やか高青年。
王太子ジークフリートは、金髪碧眼、見目麗しく、聖騎士候補、もちろん攻略対象者、王道中の王道の人。
でも、今は可能な限り避けるのが得策だ。
早々に王太子の前から抜け出し、入場セレモニーは終了。
後はしばしの自由行動、料理を食べるのは今しかないわ。
名残惜しそうなアレンを引っ張って、立食テーブルの方へゴー!
~~~~~~~~~
うんうん。どれも美味しい。
さすが王家の料理人。
当家の料理も美味しいとは思うが、普段、私は粗食に徹しているので、ここでの贅沢料理は凄く美味しく感じる。
最後に、ケーキを食べたいな~と、アレンにおねだりしてみる。
「ねえアレン、あれも食べてみない?」
「えっ、まだ食べるのですか? 普段節制しているのに良いのですか?」
「もう、今日くらい良いでしょ。 でね、半分こにしてほしいの!」
「うん、そう言うことなら分かりましたよ。しばしお待ちを。」
アレンが外した隙に誰かが近寄って来る。
「何やら楽しそうですね。私にもいただけますか?その半分こってやつを。」
「え! ジーク・・・フリート・・・様? ど、どうしてこちらへ?」
だって、ついさっき話したじゃん。
「それは深窓の御令嬢が来られたら、もっと話したいでしょう。私も男ですから」
「まぁ、深窓のって、私は単なる引き籠りですから。」
「ん? 引き篭もり…ですか? それはともかく、もう少しお話しませんか?」
アレンに目線で助けを求めるが、2歩も3歩も下がっている。
こんにゃろめ! 早くケーキを渡しやがれ。
ケーキを受け取り、丁寧に真っ二つする。
「・・・・。はい、半分こですよ。」
と言いながら一つをパクリと食べる。
ふふっ、この状況は置いておいて、予想どおり超美味しいー。
・・・と王太子を見るとこちらをうかがい微動だにしていない。
ん? そうか、フォークが無いから食べられないのか?
仕方が無いので、残りのケーキをジークフリートの口に運ぶ。
パクリと食べるジーク。
「どうですか?」
美味しいよね?と同意を求めるように聞いてみる。
王太子は驚いた様な顔をしていたが、
「うん、美味しいね。多分、貴方が食べさせてくれたからかな。」
と爽やかに返答して来る。
しまった。私が使ったフォークで食べさせてしまった。
しかし、あざとい男だな王太子は。前世の私なら絶対言わないわ、こんなセリフ。
何とかこの場から逃げなければ・・・・うふふと苦笑い。
辺りを見回すと楽団が準備をしている。
「ジークフリート様、そろそろダンスの時間ですわ。お相手の方がお待ちになっているのではないですか?」
「う~ん、それは残念。この後ダンスもお願いしますね。」
と言ってあっさり去って行った。
ふう、ダンスなんかするものか、さっさと逃げるに限る。
「アレン、隅っこに行きましょう。壁の花が最善だわ。」
「壁の花…ですか?」
怪訝そうなアレンと2人でそそくさと壁側へ向かう。
数メートル進んだところで事件は起きた。
"バシャ"
どうやら、私は某令嬢に水をかけられた様だ。
「あら、ごめんなさい。うっかりしてましたわ。おほはほほ。」
なんの悪びれも無く、美しい令嬢が冷淡な目つきでポーズだけの謝罪をしてくる。
「いえ、私こそぼんやりしてましたわ。申し訳ありません。」
パッとドレスを払うと水を弾き、綺麗に元通りとなった。
「ほら、ご覧の通り大丈夫ですわ。では、失礼します。」
綺麗な子なのに残念だなーと思いながらも踵を返す。
そこへアレンが慌てて突っ込んでくる。
「いやいやいやいや、今、思い切り水かけられてましたよね。」
「まぁ、良いじゃない。これくらい可愛いものよ。」
「でもですね、侯爵令嬢に向かって…。」
「ううん?、今の誰?」
驚いて立ち尽くしている某令嬢をチラ見しながら聞いてみる。
彼女は何やら真っ赤な顔で地団駄を踏み出したが・・・
「いや、知りませんけど。」
「じゃ、なおさらね。おそらく最上位貴族、四大公爵家のどこかね。
多分、彼女の心の中で、色々許せない事があったのよ。
それに、ドレスは元に戻ったし被害は無いわ。」
「…魔法、使いましたね。」
「そうそう、王城の中では禁止よね~。だから内緒よ。」
「まさか、詠唱なしで出来るとは…、貴女はいったい。。。。」
「だから、こんな小娘が魔法を使ったなんて誰も思わない。
この舞踏会で初めて楽しいと思ったわ。やれば出来るのね。」
「・・・!」
「さあ、ダンスが始まるわ。私たちも行きましょう。」
「・・・、なんだか納得出来無いけど、お嬢様が楽しいなら俺はそれで良いです。」
カサンドラが屈託無く笑うところを見るのは、初めてかもしれない。
王太子カップルは、やはり1番の注目の的。
邪魔にならない様に少し端の方で踊ることにした。
しかし、しばらくすると潮が引く様に周りから人が居なくなった。
悪役令嬢はやはり避けられるものなのか。
まあ良い、どうせ今回限り。気にしない。
しばらく踊っているとアレンから
「お嬢様、皆様お嬢様に注目していますよ。」
と耳元で囁かれる。入場時の意趣返し?
「あらやだ、なんの冗談かしら。
ふふっ、でも悪い気はしないわね。」
ちょっと王太子ペアと張り合ってみようかしら。
「アレン、やるわよ。」
と耳打ちし、中央へ移動する。
”おおー”と、歓声が上がり一際場内が盛り上がる。
見事な二組によるコントラスト。あちらが”静”ならこちらは”動”だ。
練習の成果とアレンの魅力が全開だ。
~曲の終了に合わせ締めのポーズ~
見事決まったところで端へはける。
「上手く行ったわねアレン。」
「ええ、良い感じでした。」
「ちょっとバルコニーで休んで来るわ。」
「では、私は何かお飲み物をお持ちします。」
「ありがとう。お願いね。」
~バルコニー~
「ふう。」
夜風が気持ちいい。
そしてこの星空。
うん、この世界の夜空は悪くない。
さて、いつまでこの世界に居られるのかな。
「レディ、失礼、お名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
振り返ると、にっこりと薄ら笑いを浮かべた貴族然とした若者がいた。
う、まさかの攻略対象者。
現宰相の息子で、公爵家令息、オクティビア・グレイス。
ジークフリートの右腕だ。次期宰相が何しに来たんだ?
「はい、私はクリスティン家のカサンドラと申します。お初にお目にかかります。」
と淑女の礼を丁寧に取る。
「素晴らしいダンスでしたね。パートナーの方も素晴らしくて、将来を決められた方なのですか?
・・・おっと失礼。まだ名乗っていませんでしたね。
私は、グレイス家のオクティビアと申します。」
と言うことは、そっち方面の偵察と言ったところか。
「まぁ、公爵家の・・・オクティビア様。
本日のパートナーは一族の者ですゎ。特にそう言った関係ではございません。」
と、愛想笑いとともに返しておく。
「そうですか。それは良かった。
ところで、先ほどの見事な切り返しは・・・、魔法ですね?」
ギクっ、見ていたのか。こちらの話が本命のようだな。
「さあ、何のことでしょうか?」
とそこへアレンがグラスを持ってやって来る。
「アレン、丁度良かった。貴方の事を褒めていたところですわ。」
アレン(そういう風には見えなかったが)
「・・・・・・。」
「こちらは、グレイス公爵家のオクティビア様です。
そして、こちらがグレゴリー伯爵家のアレン様です。」
バチVSバチVSバチVSバチ
「よろしく。」
「お目にかかれて光栄です。以後お見知りおきを。」
アレン(ムカついてつい睨んでしまったが、俺の目的は顔を得ることだ。
俺としたことが、公爵家令息に張り合ってどうしようって言うんだ。)
「では、私達はこれで失礼しますわ。オホホホホ。」
さっさとこの場を去るに限る。
義務は果たしたし、後は帰るだけだ。
「ちっ、」
逃げられたか、まあ良い。知りたいことは知り得た。
オクティビアは、やや不満ながら主君であり友でもあるジークの元へ向かった。
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