聖騎士候補者1 ~笑顔の先にあるもの~
他者視点。
女性の笑顔は、いつも男性を虜にしてしまいます(よね?)。
~1カ月後~アレン目線~
俺は、あの日、つまりお嬢様に会う日まで鬱積した日々を送っていた。
と言うのも、グレゴリー家は伯爵家ではあるが、それほど裕福では無く、妾腹の次男など厄介者でしかないからだ。
兄は正妻の子であり、その母に似てお世辞にも美男とは言えないが、能力・人望はすこぶる良く、後継ぎとしては申し分ない。
俺の母は美しい人であったが、俺を産んですぐに死んでしまった。
正妻一派に酷い仕打ちを受けたのかもしれないが、今となっては証拠は無い。
だから、俺の居場所など何処にも無かった。
「仕方が無い」
それが、俺の口癖になってしまっていた。
そんな俺に、突然チャンスが訪れた。
本家であるクリスティン家令嬢のエスコート役に抜擢されたのだ。
本家に近しい伯爵家であり、同じ歳で、美女であった母似の容姿が功を奏したのだ。
もちろん不安もあった。
我儘・傲慢と悪評の高い侯爵家令嬢の相手など誰もしたくはない。
だが、俺にはのし上がって奴らを見返してやりたい気持ちの方が強かった。
クリスティン侯爵家の子はカサンドラ嬢ただ一人、あわよくば後を継げるかもしれない。
この時はじめて亡き母に感謝した。
しかし、そんな目論見は見当違いであることを俺は思い知る。
カサンドラ嬢は、悪評には全く当てはまらない令嬢であった。
むしろ、さっぱりした性格で気さくであり、何より努力家だ。
そして、美しい容姿や所作からは想像もつかないほど強い。・・・強すぎる。
いくら侯爵家の英才教育を受けているとは言え、13歳の少女の能力とは思えない。
そんな彼女を誑し込もうなど、なんと愚かな考えを持っていたのだろうか。
彼女は、ダンスが苦手と言うけれど、それは魔術・剣技等と比べてのことで、充分に社交界で通用するレベルだ。
・・・、まさか俺を引っ張り上げるために? 己惚れ過ぎか?
しかし、仮にそうだとすれば俺はとんでもない恩を受けていることになる。
彼女は、俺にもの凄い魔力があると言うが、俺には彼女に勝てる点は一つもない。
どの講義でも俺が足を引っ張っているのは明白だ。
彼女は笑って「そんな事は無い。すぐに追いつき追い越すわ。」と言ってくれるが、本当にそんな日が来るのだろうか?
とにかく、俺は舞踏会の日には彼女をエスコートし、無事、社交界デビューを成功させなければならない。
もし、王太子の目にでも止まれば、大金星となり俺の将来も・・・何とか上手く立ち回るのだ。
俺にはそれしかない。
しかし、・・・それで良いのか?
初めて俺を認めてくれた人。
俺の手を取って、「大丈夫」と言った時の笑顔が忘れられない。
・・・考えるまでも無い、俺は思考を停止した。
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