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魔法使いの夏  作者: mizuki.r
罪人
16/19

罪人 2


 ティータは気を失っていたとも眠っていたともつかない状態から覚める。

 そこは、ロクリスの入れられていた牢がうらやましく思えるほどに暗く不潔な場所だ。空気は湿気を帯び、黴臭い臭いが充満している。明かり取りも遙かに高く小さい。

 寝返りを打とうとすると、背中が攣れるように痛む。見ることはできないが、おそらく一面に鞭の痕がのこされているのだろう。記憶も混乱している。雨に打たれ、肩を裂かれた服のまま牢に入れられたせいだろう。もうずっと熱が下がらない。

 ぼんやりした意識の中で何度も尋問された。

 拷問。とまでは言えないだろう。その以前にティータが罪を認めてしまっていたから。

 ただ隠し通したこともある。

 二人にまとわりつく魔法の香り。ティータ自身の力。本当に口にしてはいけないことを言わずにおくためなら、してもいないことを認めもした。だが、それを言わずにいられたのも、誰もそんな答えを期待してはいなかったからなのかもしれない。

 期待される答えを口にしていれば、尋問は手早く終わったから、最後にはどうでもよくなってしまって、なんだかとんでもないことまで認めたような気がする。

 してもいない牢破りの手伝いをしたといったし。ローウェンと情を通じていたとも認めた。もちろん彼はグラナクの間者だし、ティータはグラナクで彼と所帯を持とうと騙されて牢破りを手伝ったのだ。

 たしかに、十七の娘が、異国から来た二人の男達に不思議な親しみを感じたのだというよりは、目の前の病人の命を助けたいと思っただけというよりも、色情が絡んでいるのだという方がよほど真実らしく聞こえる。

 ただ、身近な人たちがそれを信じるのかもしれないと思うと、少しだけ悲しかった。

 だが、それもどうでもいいことなのかもしれない。どうせもう死ぬのだ。

 少し離れたところで、だれかが声を顰めているのが聞こえた。

「意外と落ち着いててくれてて助かるよ。泣き叫んでられたらたまらねぇぜ」

 あれは、レグスの部下の声だ。

 落ち着いているわけではない。避けられない死の恐怖に耐えられるほどに彼女の心は強靱ではない。喉が詰まり、体が強ばり、叫ぶことも暴れることもできない。ただそれだけのことだ。叫び暴れるほどの体力も気力も今の彼女には無い。

 ふと、初めてあった日のロクリスの姿が浮かんだ。

 あの時、彼の中に巣くっていた絶望がどんなものであったのか、今、まざまざと分かるような気がする。

 よかった。せめて彼だけでもそこから逃げ出すことができて。

 そう思ったときに気づいた。そうか。自分はなったのだ。囚われの魔法使いを助け出す女戦士に。

 地上の絆を捨て、ただ友との約束のために命をかけて。

 そのことに気づいたときティータは薄く微笑んだ。

 それはとても切ない笑みだった。



 また一つ、ため息がラグから漏れる。

「けっ」

 彼はそんな自分に腹を立てるように、小石を蹴飛ばそうとした。蹴飛ばそうとしたが代わりに地面を蹴りつけてしまい、口汚く悪態をつく。

「荒れてんじゃない。惚れてた娘が、ばかなまねしたんだって」

 普段の調子でからかった村娘は、睨みつけられて後ずさった。

 だがすぐに彼は、娘の存在など忘れたかのように壁に寄りかかって空を見上げる。しばらくぼんやりしたあとで、また一度ため息をついて視線を下げた。

 そこにはさっきの娘が、さっきのままの場所に、まだ何か言いたげにして突っ立っている。話しかける勇気が出なかったのだろう。ラグは口の中でまた悪態をつく。

「何だよ。用でもあんのか」

「え。ええと。その。伝言を頼まれたのよ。旅の商人に」

 いつもなら、自分から近寄ってきて軽口の二つ三つも叩く男の、あまりの不機嫌さに、娘はすっかり怯えてしまっている。

「な、なんだっけ。あ、そうそう。前にあんたにちょっと世話になったんだってさ。で、耳寄りな話があるから、他の連中には知られずに話をしたいんだって。あんまり大勢に知られるとせっかくの話がフイになるかもしれないから、必ず一人で来てくれって言ってたよ」

 思い当たることがない。不審そうな表情を隠さないラグに、娘はあわただしく場所の説明をすると、手に持っていたものを押しつけた。

「とくかく、これ見りゃ自分のことを思い出すだろうって。じゃあ伝言はちゃんとしたから。礼金返せとか言わないでよ」

 逃げるように去っていく後ろ姿をぼんやりと見送った後、彼はようやく渡されたものに視線を落とす。表情が変わった。

 布袋の中には、淡い紫と金をあわせた大振りな耳飾りが入っていたのだ。

「あの野郎」

 出かかった罵声を誰かに聞かれなかったかとあわてて辺りを見回す。

 幸い彼に注目している者はいない。次の当番までにはまだ時間もある。思い詰めたような表情で彼は城を飛び出した。

 城門を出るなり走り続け、娘に言われた場所まで走り通しでたどり着く。

 だが、話で聞いたあたりに、彼が思っていた相手はいなかった。

 かわりにマントを着た商人風の男が木立の間から現れる。最初は気にもとめないでいたのだが、その男は彼の方へ歩いてきた。

 不審に思って眺めるうちに、風体が娘の言っていたものと一致することに気づく。

「おいあんた。さっき村の娘になにか言づてをしなかったか」

「はい。で、あなたは」

「あなたは、じゃねえだろう。てめえが言づてした相手は俺じゃねえのか」

「ではやはりあなたがラグさんですね。でしたら、ここではなんですから。ちょっと人目につかない場所で」

 低い声で言うと彼は森の中へ身を返した。

「おい待て」 

 男は後を確かめもせずにさっさと歩いていった。周囲を警戒しながら後を追う。いい加減不審を覚えるほど森の中に入り込んだ辺りで彼はようやく立ち止まった。

「ちゃんと一人で来てくれたみたいですね。後も付けられてないようだ」

 聞き覚えのある声が、後ろから聞こえてきた。ラグは、気付かなかった自分の間抜けさに舌打ちしつつ、振り返るなり殴りかかった。

 ラグもそれほど本気ではなかったが、ローウェンは思いがけない軽い身のこなしで拳をよける。

「怒ってるのは分かりますけど、急ぐんです。冷静に話しませんか」

「冷静にだと! ふざけるんじゃねえ」

「ふざけてなどいません。俺たちは何とかティータを助けたいと思っている。でも二人だけではなかなかうまくいかないんですよ。特に俺自身は風体を知られすぎて身動きできない有様だ。だから協力してくれる人がほしい。あなたもそんな用件だとうすうす気づいていたからこそ、こうして一人で来てくれたんじゃないんですか」 

 思いもよらなかった楽士の真剣な表情に、ラグは虚をつかれた。

 実のところ、彼はそこまで考えていたわけではない。怒りにまかせて飛んできただけのはずなのだが、言われてれみるとそうだったような気もしてくる。

 それまで黙ってみていた商人ふうの男が、マントを取りいきなり膝をついた。

「頼む。私はティータに二度も命を救われている。なんとか助けたいのだ」

 茶色い髪と目。やつれてはいるが品のいい穏やかな顔をしていた。想像していたよりも若い。たぶんこれが逃げたという捕虜なのだろう。

 グラナクの騎士の子息。それが、普通ならば相手にもしないような一介の戦士を前にして、膝を折り頭を下げてる。しかし。

 ラグはめまいを押さえるように。額に手をやった。

「気取るんじゃねえ。なんだかんだ言って、結局てめえらが利用するだけして捨てたんじゃねえか。あいつが。どんな思いで」

 言葉が途切れ、彼は大きく息を吐いた。そして。

「いいか、あいつはなぁ。裏切られたって。おまえらを殺してくれって泣いてたんだよ」

 ロクリスは弾かれたように視線を上げた。

「ティータがそんな」

 ずいぶんと戸惑っているように聞こえた。

「どういうことなんだろう」

 後ろから、こちらはあまり動揺してはいそうにない声が聞こえる。

「どういうじゃねぇ!」

 どなりつけても堪える様子もなく、ローウェンは歩み寄ってきて淡々と話し始める。

「もともと、城に残るのは彼女の選択ですよ。母御や教父様に類を及ぼしたくないからと。でもあの日、ティータは雨の中ロクリス様を心配して様子を見に来てくれたんです。そして、体調を崩しているのを見て、城の外まで送り出してくれた。もちろん、その時もロクリス様は一緒に行こうと誘っています。でも、彼女は来てくれなかった」

「うるせぇ。ンなこと言ったって、俺がこの耳でちゃんと聞いたんだよ!」

 ローウェンはため息をついた。

「そうか。あなたが聞いたのなら、確かに言ったのでしょうね。彼女がそんなことを口にするのは想像はつかないけど」

 何かを考えるかのように空を見上げる。やがて。

「でも、そうだとしたら。もし、彼女をそこまで俺たちが追い詰めてしまったのなら、やはり償いのためにも助け出さなきゃいけない。そうですよね」

 そういって再びラグを見据えた。

「たしかにそのとおりだ」

 ロクリスの瞳にも強い意志の光が戻っている。そして確認するように視線を交わすと、ラグのほうに真っ直ぐに向いた。

「そう、思いませんか」

 ローウェンがたたみ掛ける。

「もちろん。あなたが、ウォードの戦士の一人として、罪人を助けることなどできないと考えているなら別です。でも、だとしても、見逃してもらえるくらいは期待してもいいですよね」

「俺は……」

 ためらいが無い訳はない。だが、ティータ一人を救ったからといって、この後彼女がウォードに仇なすことをするはずはない。

 ならば。

 しかし、ラグは楽士を睨みつける。

「けど、まさか、ほんとうに助け出せる気でいるのか。おまえら二人と、俺だけで。それともどこかに仲間を隠してるのか」

 ローウェンは首を振った。

「人数が多くても意味はない。できるはずなんです、ロクリス様さえいれば。うまくいけば、何が起こったかも知られないまま彼女を無罪放免にできる。実をいえば、あなたがいなくてもなんとかはなる。でも、チャンスは一度しかない。だからそれをより確実にするためにはあなたの協力が欲しいんだ。城の中を自由に動けて、かつ、優秀な弓兵であるあなたの力が」

 ラグは不信感を隠さないまま楽士を伺う。

「何をたくらんでるんだ」 

 二人はもう一度目を見交わす。

 それまで黙っていたロクリスが口を開いた。

「それは協力してもらえなければ話せない。ただ、一応言っておいたほうがいいだろう。それは、たしかに成功すれば、誰にも何の疑いもかからない方法だ。だが、万が一明るみに出れば、君自身の命も危うくなるようなことだ」

「そりゃあまあ、当然そうだろうな」

 ラグは面倒そうに頭をかく。

「死罪にされる人間を助け助け出すのに危険がねえわきゃねえだろう。それより、ほんとうに成功する可能性はあるのか」

「うまくいえば。としかいえませんね」

 怒りが納まった訳ではない。だが、この男たちがティータを救い出すための具体的な手だてをもっていると言うのなら、利用されてやってもいいと思った。たとえ失敗して、すべてが明るみに出ても、幸いラグには累を及ぼす家族はいない。

「賭になる程度には、勝ちの目があるんならやってみるさ」

 ローウェンを気にしながら、ロクリスがひどく深刻な表情で付け加える。

「ありがとう。ただ、もう一つだけ。つまり……。君にしてもらうことは、ちょっとした魔法を使う手助けなんだが、それでもいいだろうか」

「魔法だと。またくだらねぇことを。……おい」

 笑い飛ばそうとして、二人の真顔に出会ったラグはこわばって固まってしまった。

「いまさら……止めるわけにもいかねえか」


 微かに花の香りがする。悪くない香りだった。嗅いでいると頭の中がしゃんとしてくる。ラグは震えを押さえ込んで弩を構えた。

 人目につかないことを第一に選んだ場所なので、広場にしつられられた絞首台からはかなりの距離がある。普通なら、彼の腕前でも、あんな小さな的に正確に当てるのは無理だろう。しかも、つがえられているのは矢ではない。一本の赤みを帯びた髪の毛だ。

 ユーニスが居ない隙に、親子の寝台を探し回って手に入れた。それでことが確実になるのならと、冷や汗をかきながら忍び込んだのだ。

 機会はただ一度。失敗に終わる危険はできるだけ排除しなければならない。

 そう。その一度にティータの命は掛かっている。

 不安が顔に出ていたのだろうか。ロクリスが肩に手を置いた。

「大丈夫。何度も確かめたじゃありませんか。あなたならできます。それに多少のずれなら呼び合ってくれますから」

 痩せて骨張った手を一瞬気味悪げに見たあと、弓手は気を取り直したように姿勢を直す。

「来ます」

 まだ何も見えないのにロクリスか呟いた。やがて見物に集まった者たちがざわめきだす。そのざわめきのなかにティータが居るのだろう。

「かわいそうに。ひどく怯えているようだ」

 そんな言葉に驚くのも、もういい加減面倒くさい。

「……せめて伝わればいいのだが」

 そう言って、彼はつがえられた髪に触れた。もちろん。ここからティータの様子が見えているはずはない。

「ああ。気づいたようだ」

 ほっとしたようにラグに笑いかける。だが笑みを受け取る方の眉間には、滅多によることのない皺が寄っていた。

「ああ。そうかい」

 投げやりな相づちに、魔法使いは少し悲しそうに微笑んだ。だが、すぐにその笑みが引きしまる。

「そろそろですね」

 ラグも頷くと、表情を引き締めて絞首台を睨み付ける。




 これがあの瞳が問いかけていた謎の答えなのだろうか。

 ティータの脳裏に、力の場所で出会った女戦士の幻が浮かぶ。あの瞳に急きたてられるように、走り始めた。あの瞳に励まされて、ここまでたどり着いた。その目指した先が絞首台なのだろうか。

 あの先ゲールと過ごすことになったのであろう長い歳月よりも、いまの状況の方がましだというのか。

 いや。そうではない。それを比べるのは違うのだ。

 今、自分がここに立っているのは、あの一瞬の不運のせい。もし、あの豚が小屋に入っていたら。もし、違う場所に身を隠していたら。多少の疑いは受けたかもしれないが、今頃は普段の生活に戻り、密かに迎えを待ちわびる日々を送っていただろう。

 だから、今ここにいることを嘆くのはあの瞳を裏切ることにはならないはずだ。

 同じことを何度も何度も考える。他のことを考えることができなかった。

 そんな彼女を、顔見知りの戦士が死へと引き立てていく。広場に集まった人々は、わずかな哀れみと明らかな好奇を宿して彼女の死を待ちかまえている。

 怖くて、おかしくなりそうだった。なのにおかしくなれない。そして、また同じことを考える。

 なぜ、あの時。と。

 そのとき。心に何かが触れた。張りつめきって、過剰なまでに敏感になっていたから感じられるのだろう。

 ロクリスがいる。

 ティータの感覚を暖かく和らげようとしている。

 あわてて見回したが、さすがに目に入るほど近くではない。しかし、彼女の心に触れているものは消えない。穏やかに優しく彼女を労ってくれる。

なぜ、こんなにも鮮やかに感じられるのかは分からない。けれど、確かに彼の気配だ。さほど遠くない場所いる。その柔らかさに、固く凝っていた彼女の意識が解け始めた。

 命がけで逃げたばかりなのに。そう思うと、うれしさと共に心配で胸が痛くなる。

 自分はもう助からない。だからこそ、彼には無事に生き延びて欲しい。そうでなければ、自分の死は全くの無駄になってしまうではないか。

 けれど、ロクリスから伝わってくるもののなかに、不安や悲しみはごくわずかの割合でしか存在していなかった。労りと、激しい緊張感と、まだ押さえ込まれてはいるけれど、希望。

 一歩踏み出した足が震える。

 持っても良いのだろうか。希望を。

 入り交じる期待と不安。とまどいながら彼女は足を運ぶ。目の前にそびえる絞首台。なだめるように触れてくるロクリスの意識。

 だが救いは来ない。来るはずがない。ふるさとへ帰れば、それぞれにいくらかの力を持っているにせよ。ここは、彼らの故郷ではないのだ。

 ティータは奥歯をかみしめる。

 引きずりあげられた壇上から、残酷な見物への期待にふくらんだ人々が見える。首に縄が掛かる。その粗い感触は生々しく死を思わせた。やはり、ぬか喜びだったのか。背中に手が掛かる。体が揺れる。



 ティータが一歩一歩上がっていく姿が見えた。足取りは思ったよりもしっかりしている。ロクリスは目を閉じ片手をラグの背に、もう一方の手を弩にかけた。

 大切なのはむしろ時機だ。狙いが正確でも、時が合わなければ何の意味もない。

 ラグは息を整え、その時を待つ。

 絞首台の上にティータが立つ。

 首に縄がかかる。

 そして、執行吏が後ろに回り。その背を……。

 今だ。

 一筋の髪は、ロクリスの放った光をまとい、かつて自分がその一部であった娘の命を絶とうとしている物に向かって飛んでいく。

 そして、彼女の首に全ての体重がかかるほんの一瞬前。縄を断ち切った。

 吊されるはずの罪人は、台上に転がり落ちる。

 一瞬の沈黙。そしてわき上がるざわめき。



 落ちていこうとしたとき、光が見えた。

 ラグ。どうしてそこに。ロクリスの傍らにラグがいる。そして一筋の光が彼女を目ざして走り来た。

 縄は一瞬首に食い込んだが、そのまま締め付けることはなく、体は支えを失って落下する。そして地面にたたきつけられた。

 一瞬の沈黙と、続く怒濤のようなざわめき。

 彼女は弱った体をなんとか起こして辺りを見回す。この景色はこの世のものだ。間違いない。

 ユーニスとニナが駆け寄ってくる。アライラが何か叫んでいる。

 まだ、生きている。確信できたとき。緊張が切れた。

 押し寄せる安堵の中で意識は遠くなっていく。



 絞首刑が行われてなお罪人が生きていたときは、神の判断によって罪人は罪を許されたものと見なされる。それはアルマのほとんどの国で認められている法であった。

「わたしは見つからないうちに行きます。あとはよろしく」

 ロクリスは青ざめて、息も荒い。よろめきながら去っていくその後ろ姿を見送るのももどかしく。弩を隠すとラグは広場へ駆け込んでいく。

「どけ。どいてくれ」

 台の上には、ティータを抱え上げるユーニスの姿があった。ついで、アライラとニナが駆け上がる。

「連れてくよ。いいだろう。綱が切れたんだから。神様が許してくれたんだから。もう、この子は罪人じゃないんだよね。そうだよね」

 執行吏に向かって叫んでいるのを聞いで、ラグの顔から緊張がほどける。彼がやる約束になっていた役割だが、アライラがずっと自然にこなしてくれていた。

 自然にもできるだろう。何しろ彼女は信じているのだから。それが偶然なのだと。ほんとうに神の恩寵なのだと。

 彼はアライラとニナがユーニスを助けてティータを運ぼうとしている。その場所へと足を進める。

 とりあえずは、無事にことは済んだ。あとのことはティータ次第だった。


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