夢の考察
シャルナス様や秘境についての情報として、魔力から引き出せる日があるだろうとは思っていた。魔法を使った際に祓った魔力を読み取っていたから、近くこうなるというのも何となくわかっていた。
僕の代わりに情報を処理してくれている妖精の祝福が、それらをまとめてくれていたのだと分かったのは、こうして目が覚めて思考を巡らせることが出来てからで。ダイジェストみたいに始まりから終りまでを一気に見たよ。
頭が痛い。多すぎる情報量というのもあるけれど、秘境と呼ばれる自然についての重要性が垣間見えたからね。『誓約』の魔法によって変質したのではなく、初めからそうあるべく“設計”された自然だったんだ。
前世においては、レスター兄様が行っていた魂の循環。たぶんだけど部下というか、担当する存在が多くいたんだろう。ゾーイもその一人で、たまたま僕の担当となっていたようにね。
人海戦術のような手段をもって行うのはかなり大変な規模だとは思うけど、この世界のように魔法が存在しない訳だから、なるようになったという事だろう。とはいえレスター兄様自身が魔法について造詣が深い事には違和感を覚えるけれども。管理者だからなのか、あるいは元々は魔法が存在していたのか。まあ今は置いておこう。
世界線の魂、特に生まれなかった者の純粋な魂に焦点を合わせた、世界線の保持機構。
深い霧が常に揺蕩う峡谷。一見すればそれだけの場所だけれど、その霧に含まれる魔力の量が問題で、体の許容を越えた魔力によって肉体が崩壊するというとんでもない場所となっているようだ。
霧の制圧として僕たち魔法使いが行っている方法は確かに有効なのかもしれない。けれど、今の夢で一つ懸念が生まれてしまったよ。
あの霧が無垢な魂なのだとしたら、制圧するのは間違いなのかもしれない。そう考えると頭が痛くなってくるよ。見出した手段が世界線にとって害悪でした! なんてとてもじゃないけど笑えない。
あ、でもそうするとおかしいよね。どうして魔王様はなんてことないように降りていけたのだろう。許容を超える魔力に触れて無事でいる方法となると、考えられるのは外側を覆うように場を作って避難するか、体内に入らないように魔力操作で内側から固めるか、ってそうか。
身体強化ってやろうと思えば全身くまなく覆えるよね。夢の中でもシャルナス様は魔王様の魔力を感知していたみたいだし、試してみる価値はありそうだ。
他の懸念もある。考えたくは無いんだけど、昔は生贄として落とされた小人族によって、霧の魔力に淀みを与えてしまっていた。それは魔王様のお怒りで無くなったはずだけど、それでも現在霧を操ってヒトを笑うだけの存在に変えているのはどうしてだろうか。
峡谷の上部の淀みはまあ、落ちた魔物によるものだと思うんだけどね。
あー、でも夢ではシャルナス様は感情から魔力の色を見ていたような気がする。魔王様が笑ったときは霧と似た白い色で、他の場合は色がついていたかな。妖精の祝福で魔力視が出来ることが分かったし、一度普段の皆を見てみるといいかもしれないね。
まあ、感情からも魔力が溢れるとして、それがどうしてっていう事だ。秘境に影響するものだろうかね……まさかとは思うけど、その魔力が流れて峡谷の上部の霧と交じり合ったから、とかじゃないだろうか。ありえそう。
そうなると僕達では打つ手は無いように思えるんだよね。魔力を堰き止めるとか無理。それこそ世界線の保持機構並みの大規模な魔法が必要なんじゃないかな。
「あれ、保持機構って魔法なの……?」
なんでか、あれが魔法だと理解してしまっている。シャルナス様の魔力から読み取った影響だろうか?
ともあれ魔法として成立し続けているならば、その魔力はどこから供給されているのだろう。あれほど大規模な魔法なら、それに見合った魔力を必要としているはずで……。そもそも魔力って何だろう。不思議な気体って勝手に思い込んでたけど、生命維持に必要だったり肉体を構成したりと万能が過ぎる気がするんだよね。
うーん、わからない。だけど魔力についても、他の秘境でわかりそうな気がする。
そういえば、夢で魔王様はここの秘境の事、というか世界線の保持機構の事を知っていたね。魔人族の国にはそのことについて、例えば創世記みたいなものがあるのだろうかね?
気になるけど今はここの秘境の事だ。感情による魔力が峡谷上部の霧に影響を与えていたならば、まあシャルナス様のやってることも分からなくはない。やることが極端すぎるけれどね。
どうして笑う以外の一切を奪ったのか、これでようやく理解できたのはいいんだけど、どうにも腑に落ちないんだよね。あまりに性急すぎるというか、やっていることと目的が釣り合っていないというか。
明らかにヒトに対してのみ害意を持っている。それってシャルナス様が嫌ってる、“笑う以外の感情”な訳で……。
そもそも、アルシェーラ様の話ではシャルナス様って優しい存在なはずで……。あれ、そういえばアルシェーラ様他にも何か言っていたような?
ああ、そうだ。魂の欠片が、今は遠いと言っていたはず。ここの秘境で交わされた『誓約』が、いまは薄らいでしまっているかもしれないのか。
本当に急がないといけないかもしれない。ここもそうだけど、かつて魔王様が歩み、『誓約』を行ってきた道を辿らないといけない。そんな想いが先立っているようだ。
……そうか、僕は人生を賭して遂行するべきなんだね。『誓約』を重ねずとも魔王様の使った魔法を補強することはできる。それを各地の秘境で執り行って、この世界線の維持の助力とする。
なんて壮大な目標だろうか。冒険に憧れたきっかけとなった絵本の少年のように、まるで主人公のような立ち回りじゃないか。
「んんぅ……えるなぁ……」
急速に心が冷えていく感覚があった。今僕が寝ている場所は、ゾーイの館で割り当てられている部屋のベッドだろう。そのベッドの端に、アリーチェが椅子に座った状態で自分の腕を枕にして眠っている。
アリーチェが倒れた僕を運んでくれたのだろうか。それを望んでるわけじゃないけれど、きっとそうなんだと思うよ。思えば彼女には随分と情けない姿を見せてきているね。
思い出したんだ。レスター兄様とエリカお姉様が言っていた、管理者になる条件のようなもの。『誓約』を実行できてなおかつ名を遺すような偉業を成した者。僕はすでに『誓約』を行ってしまっているから、残すところはあと偉業を成す事。それをしてしまえば、僕はほぼ強制的に皆とお別れになってしまう。
お二人が僕の事を全力で隠してくださるそうだけど、僕があまりに目立つ行動をしてしまえば無駄になってしまうかもしれない。そうしないように動くと、世界線の保持機構に働きかけている魔王様の『誓約』の補強ができない。
補強ができなければ……この世界線が途切れてしまうかもしれない。自惚れかもしれないけれど、それを阻止できるのは僕だけで……。
どうするのが正解なんだろう。世界線を守るために動けば強制的に管理者とされ、動かなければ暴走した秘境によって世界が荒廃するかもしれない。どっちにしても、皆と共にいられるのは僅かなのかな……。
仲間は皆大切に思っている。いずれは話そうと思っているけれど、今は……アリーチェだけに聞いてもらおうかな。ゾーイはたぶん知っているだろうから、僕の選択を支持してくれると信じてる。
窓の外では空が白み始めている。普段サイドテールでまとめている髪は降ろされてベッドに少しばかり広がっている。変な癖が付かないよう手櫛で梳きながら整えていると、アリーチェが冷えないように翼を広げて覆っているくーちゃんと目が合った。
くーちゃんはどこまで知っているんだろう。僕達の大好きな友達にも伝えておくべきだね。
けれど今は、この愛おしい時間を満喫させてほしいよ……。
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