ゾーイの館
くーちゃんとクゥナリアさんと合流して、直近の問題について話し合う事となった。
そう、ここの拠点をどうするかという問題。この状況で宿はやっていないだろうし、かといって『ラーナスタ王国』の家に転移してしまえば、ここで異常があった時に即座に気づけない。
街中で野宿の検討を真面目にしていたところで、ゾーイが助け舟を出してくれた。
「よろしければ、私の家をお使いください。十年にわたる功績として、王より下賜された館ですので部屋は足りています。住人が私しかおりませんので持て余しているのですよ」
何ともありがたい申し出に、僕も皆もほっとした。
聞けば庭も広いらしく、ラムダと場の制圧訓練ができるねって話をしていたら、クゥナリアさんが食いついてきたよ。
「場って魔法使う時の場の事だよね? ボクにも詳しく教えてくれないかな?」
「もちろんです。というか、是非とも参加してください。今後の事を考えると恐らくは必要となりますから」
「ここの秘境踏破の際の、僕達魔法使いが出来る最高の役目ですよ!」
好奇心によって目に熱量を宿して見やるクゥナリアさんに対し、ラムダがさらに薪をくべるように燃料を投下していたよ。
当然クゥナリアさんの好奇心が勢いを増しているのが分かる。うずうずしているというか、僅かばかり頬が紅潮しているんだよね。くーちゃんとの共同作戦も相まって随分と興奮しているみたい。
ゾーイの館に向かう道中に、ラムダと導き出した可能性をクゥナリアさんに伝えたよ。
聞いているうちに冷静さを取り戻した様子で、深い思考に潜り込んでいた。それでも普通に歩いているように見えるのは、半ば無意識なんだよ。僕も経験あるから分かる。
「着きました。ようこそわが家へ、救国の英雄様方」
ゾーイが冗談めかしてそんなことを言いながら、恭しく一礼して見せた。意外とユーモア溢れる性格をしているみたいだね。
二階建ての大きな館だった。人族の観点からして大きいと感じるのだから、小人族にとってはさぞ巨大な館になるだろうね。扉なんか三メートル近くあるんじゃないかな。
「この館は、かつては巨人族が支配していた頃の名残だそうです。城門の巨大さも、当時のままこれまで存在している為、我々には不釣り合いな格好となっていますね」
「……国境の村の村長さんが言っていたっけ。古い時代に小人族は、ヒトではなく道具として扱われていたって」
「あの方が。ええ、その通りです。かの時代において我々小人族は、巨人族のための存在でした。彼らの大きい体ではやりにくい作業を、小人族に行わせていたそうです。彼ら巨人族は芸術を好み、力によって小人族を支配していたと記録されていますね」
満足のいく物が出来た、あるいは見つかった時は機嫌がよく、そうでないときは小人族に当たっていたという。
それでも、圧倒的に弱者だった小人族は逆らうことが出来ず、奴隷のような人生を半ば享受していたらしい。
そんな折に、魔物が溢れるという事件が起きた。どうにか魔物を全て退けることが出来た巨人族から、疲れと苛立ちから血迷ったものが現れた。小人族を一人深い谷へと投げ落とし、声高に叫んだらしい。
“これで災厄は消え去る! 尊い犠牲が皆を救うのだ!”
そんな在り得ない暴言を、疲弊していた巨人族は皆信じた。魔物が溢れる事も無く、平穏が続いてしまったがために。
その出来事から、事あるごとに小人族は投げ落とされてしまうようになったらしい。『贄の峡谷』と呼ばれるようになったのも、こうした事実があったからなんだとゾーイが教えてくれたよ。
「絶望によって俯いていた小人族に、救いの手が差し伸べられたんです。怒りに怒った魔王様が、巨人族たちを調伏させたんです」
その時に魔王は、言葉でも巨人族たちをぶん殴ったのだという。
“力で劣る者を虐殺するような手で、思想で、よくも芸術がどうと言えたものだ。お前たちはよほど恥というものを知らないらしい”
“見てみろ。小人達はお前たちの暴虐に耐え、お前たちは些細な事に怯えている。小人達が戦う術を手にすれば、心で劣るお前たちは為す術もなく排除されるぞ”
よくもまあ煽ったものだと思うよ。実際の所どうなんですかね、エリカお姉様?
『……やめて、やめて、どうしてそんな記録が残ってるのよおおお……ッ!』
お顔を真っ赤にして転げまわってる様子が幻視できる。というか、当時の様子もなんとなくわかるような気がするよ。
きっと腰に手を当てて、もう片方の手でビシッと指さしながら倒れ伏す巨人族に説教しているんだ。
怒りの感情が溢れて周りに炎が――
『やめてええええええ……』
ともかく、魔王の説教で徐々に自らの認識が間違っていると理解した巨人族は、この地を去って新しい土地を開拓することで、贖罪の意を示すことにしたという。
そうして作り上げたのが巨人族の国『グランオルム』となったそうだ。
小人族の重い歴史を聞いたせいか、誰も口を開かなくなってしまったよ。仕方ないので一瞬転移して、とある人物を拉致してきた。
「お、おお? いきなり景色が変わりましたね。おや、魔王様じゃないですか。それに皆さんもお揃いで。あ、魔王様どうして私の手を掴んでるんです? きゃーえっちー」
酷い棒読みの批難をいただきました。この、一瞬で空気が弛緩する辺りやっぱりタナカさんって凄いよね。
一番狼狽えてるのはゾーイだろうか。いやね、急に人体模型が現れて喋り始めた挙句、親指、人差し指、中指を立てて開いて、それを自身の片目の前に置くポーズを決めたら誰だって困惑するって。
「タナカさん! どうしてここに?」
「黒姫様ぁ! 悪い魔王様に拉致されてしまいました……助けてくださいっ」
「悪い魔王様としては、タナカさんにお願いがあったんだけど……。帰ってもらうか」
「なんでもお申し付けくださいませ魔王様っ」
メローネがお腹を抱えて笑い始めたあたりから、完全にこの場の空気は気さくな人体模型こと、タナカさんが掌握していたよ。朝と昼の半ばごろにここへ着き、今現在は夕日が沈む時間帯。その間ずっと行動していたからね。
誰かが鳴らしたお腹の音をきっかけに、皆が空腹を思い出していたよ。
「そういうわけで、タナカさん。料理の腕を振るってほしいかなって。お願いできるかな?」
「手の込んだものは作れませんよ? それでもいいのならすぐに作ってきます」
「それでも美味しい料理を作ってくれるのが、タナカさんだよね!」
「黒姫様の期待が重……くはない! くぅ、私の手元に武器があれば……」
重い、という単語に過剰反応を示したアリーチェは、意味深な笑みと共に腰に提げた剣に手を添えていたよ。
「タナカさんの武器って……なに?」
「……包丁? お料理行ってきまーす!」
そう言って走り去る後ろ姿を見送っていると、ゾーイが困った様子で訊いてきたよ。
「その、今の方は一体……ッ!?」
急に肩が跳ねあがったゾーイの視線の先には、今しがた走り去っていったタナカさんが、ドアの隙間からこっちを見つめていた。
「……そこの銀髪の方ァ……厨房はァ……どこですかァ……」
「知らずに飛び出して恥ずかしいのは分かったから、そんな演技しなくていいよ」
「ちょっと魔王様! あまりにも無体が過ぎますよ!」
「ゾーイ、このおかしなポーズをキメてる人体模型は、『ラーナスタ王国』の家で働いてくれているタナカさん。可哀そうな子だから優しくしてあげてね」
ゾーイが無言で首を縦に何度も振っている。無事に紹介ができて本当に良かったよ。
「あの、私それだと頭がおかしいとかって思われませんか? 大丈夫です? ねえ魔王様?」
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