霧の対策
本日二話目です!
「あ、そうだ。クゥナリアさんには別件でお願いしたいことがあるんです」
「うん? 何かな?」
ふわふわとした白い髪が傾げた首によって揺れている。僕が知る限り、魔法使いは好奇心が強いように思える。その例に漏れず、クゥナリアさんは猛禽の目を、期待のためか僅かに細めていた。
「夜間の警戒なんですが、定期的に火の適性を持つ魔法使いが四方に炎を放って、視界を確保するらしいんです。それで、くーちゃんが言うにはクゥナリアさんと協力すれば、簡単に照らせるらしいんです」
「やるっ! やるよ!」
おお? 凄い食い気味だね。一体どうして……ああ、くーちゃんか。
使徒様と協力して魔法の行使。獣人族の魔法使いとしては、これ以上の至福は無いんじゃないだろうか。
『それじゃあ、クゥナリアと話を詰めてくるですの。クゥナリア、行くですのー!』
「はいっ! クーデリカ様ー!」
良い笑顔を浮かべてくーちゃんの先導についていくクゥナリアさんを見送り、改めて防衛組に状況の説明と、有効な攻撃についてをゾーイが共有してくれた。
対シャルナスの戦力としてアリーチェとメローネがやる気を漲らせ、そんな二人を温存させるために、霧と共に現れる魔物については他で当たるという事に決まったようだ。
ルルゥさんとシューゲルは昼夜で交代し、霧の外側から溢れた魔物に対応する。
その夜間だけど、ただでさえ暗く視界が悪いうえ、霧によってまさに最悪な状況である。気配だけに頼るのは危険ではあるけれど、それは接近戦をする剣士たちにも言えることではある。
それでも、気配を読み取るという技術は剣士たちの方が優れており、それは命のやり取りを身近で経験しているからなんだと結論付けているよ。確定でないのは、僕自身が気配を読み取れないから憶測しかできないからだ。
ともあれ、そんな視界の悪い夜間でも行動することはあると想定していたルルゥさんとシューゲルは、とある魔技を僕に教えてほしいと頼まれたことがあった。
『夜目』である。目が滅茶苦茶光る宴会芸である。確かに良く見通せるようにはなるけれど、その分目立ってしまうデメリットがあった。それでも有用であることに違いは無いと、弓術士の二人が言うのだから間違いはないね。
二年間もの期間を魔技習得に努めた二人は、今ではスムーズに実行できるレベルになっている。
そんな二人に感化された僕も、『夜目』の改良に勤しんだよ。目が光るというデメリットは、その分光源を拡散させているという事に気づいて、アプローチを変えてみたんだよね。
まず、光のもつ魔力を解析し、疑似的に再現。そうすることで目に入る光を調整し、夜間であっても昼と違いの無い視界の確保に成功したよ。後付けで二人に調整した『夜目』を教えると、嬉しそうに質問や守るべき事なんかを聞いてきた。
そうした経緯を以て、二人は『夜目』を習熟し、シューゲルが魔技の名前について申し訳なさそうに案を出してくれたからそれを採用したよ。
改良された魔技の名前は『夜行の眼』となった。
着々と進む、仲間たちの能力向上が心強く感じるのは、今の状況もあってのことだ。
防衛線に参加できない僕はあまり口を挟むことなく、皆のミーティングに耳を傾けていたよ。
そんな中で、一人悩むラムダが僕の隣に腰を下ろした。
「魔法使いにとって、この戦況は好ましくないね。出来る手立てがまるでないよ」
「ああ……そうだよね。霧の外から魔法を放つにしても、今回は集団防衛だから味方に着弾する危険もあるし。『スチームショット』も、今回ばかりは使い勝手が悪すぎるしね……」
そうなんだよねぇ、と項垂れる様子に何と言っていいか分からない。
そもそも、どうして霧の中で魔法が使えないのだろう。仮定するならばその霧が魔法で出来ているからだろうか?
けれど、そうすると魔物が発生する理由が分からない。なら、可視化するほど濃密な魔力はどうだろうか。それならば魔物が発生するのも頷けるけど……。魔法が使えない理由にはなりにくいなぁ。
「えっと、エルナー?」
「あ、あーごめん。ちょっと考え込んでたよ」
「あはは、よかったら教えてくれないかな。僕も何か考えて、できることを模索したいし」
「ありがとう。秘境の霧ってさ、どうして魔法が使えないんだろうって考えていたんだよね。霧が魔法で出来ているか、あるいは可視化するくらいの濃い魔力なのかって」
そうだねぇ、と相槌を打って考えている。目を閉じて深い思考に入り込んでいるようだね。
「……前者だと魔物の発生が納得できなくて、後者だと魔法の発現に疑問があるんだね。僕の所感だけど、あの霧の中では場が作れなかったというよりも、抵抗されてた感じだったかな。村長が言ってた、エントロピーが増加しないっていうのも理解できたよ」
同じ見解に至ったようだ。魔法使い仲間として信用が置ける結果だよ。
それにしてもエントロピーか。ややこしい理論だったけど、どうしてこうも琴線に触れる単語なんだろうか。
「そういえば、魔力的エントロピーが増加しない理由って何だろう。思いつくのは既に増加している状況……。あれ、そういえばあの状況下の自然環境って……」
「……霧だね。エルナー、もしかしてあの霧って魔法行使するための場、なのかな?」
魔法が発現する一歩手前で、豊富な魔力が漂っている。なんとも中途半端な状況だけど、その霧がヒトに纏わりつき、魔法が発現するのだとしたら。これほど戦略性を持つ運用は無いんじゃないだろうか。
場を移動させるなど考えもしなかった。この予想が事実と仮定すると、脅威度が跳ねあがるよ。
「対策が必要だね。ラムダ、あとでクゥナリアさんにも伝えるけど、場の制圧の訓練に付き合ってくれないかな?」
「場の制圧? あの霧を乗っ取ろうって事?」
言い方。けれど認識としてはその通りだから何も言えない。
秘境踏破を目指すなら、この霧が立ちはだかるのは間違いがない。『約束の峡谷』と呼ばれるくらいなのだから、そこは傾斜の厳しい場所なのだろう。そんなところで霧に視界を奪われて魔物と戦うなど、壮大な自殺行為に思えるよ。
その対抗策でもある。魔物が発生しようとも、視界が確保できるのならば安全性は高まるはずだからね。
「今後のためでもあるよ。やれることをやって行こう。場を作るくらいならたぶん大丈夫だと思うから、ラムダには僕が作った場を制圧してほしい」
「エルナーは剣での戦闘があるからね。わかったよ、この秘境で僕たち魔法使いは無力だ。なら皆の安全のためにも、場の制圧に全力で当たらせてもらうよ」
顔を見合わせて笑いあう。ラムダも気づいているよね、場の制圧をするという事は、相手の魔法を無力化するのと同じことなんだ。
魔法使いの父が唱えた、自然環境下における魔力的エントロピー。これ自体が悪い事ではないけれど、速さという点で僕たちに劣る。仮に敵対する人たちが魔法を行使しようとしても、魔法的な場を制圧する技術さえあれば敵とはならないはず。剣でアリーチェを抜くなら父さんレベルの達人が必要だしね。
いつの間にか、皆がこっちに視線を向けていたよ。
「乗っ取るとか、制圧とか聞こえてきたんだが。お前ら何を企んでるんだ?」
カッシュさんってさ、どうしてこうも人聞きの悪い部分だけ聞こえるんだろう。わざとかな?
「僕たちの今後の事ですよ。魔法使いとしての所感から霧について分析して、行きついた結果の対策をしていました。クゥナリアさんも聞けば僕とラムダに同意してくれると思いますが、カッシュさんは僕たちが悪だくみしているようにしか見えなかったんですね……。悲しいのでクゥナリアさんに相談してきます」
「待てやめろ」
いつも通りの僕たちの姿だね。本気で慌ててるカッシュさんだけど、それが余計に駆り立ててくる。
カッシュさんと普段を知らないゾーイ以外の全員が、明るさを取り戻したこの隔離場所で笑い声をあげていたよ。
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