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憧れた冒険へ【更新停止】  作者: 住屋水都
霧の世界は誰が為に
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悪夢の終わり

「シャルナス様が出てきたときは、これまでどうやって凌いできたの? 霧で出来た体なら、武器はあまり意味がなさそうだし、魔法も使えない。有効な手段が無いように思えるんだけど」

「仰る通り、霧を相手に武器等意味を成しません。ですので、初めは全力で撤退していました。今はこちらを使って対応してます。……至近距離でしか使えないので、その分被害も大きいですが」

「……扇子?」


 ゾーイが取り出して見せてくれたのは、金属製の棒だった。それをずらして広げて見せてくれたけど、そのシルエットは扇子としか思えない。


「ええ、鉄扇です。知識から応用したものですが、上手く当てることが出来れば効果的なんです」

「風で散らすんだね。けど、どうして鉄扇なの? 重いし扱いづらいと思うんだけど」

「紙製ですと、白き巨狼(シャルナス)の爪や牙に耐え切れませんからね。攻防一体を意識すると、鉄に頼らざるを得なかったのです」


 その体が霧とはいえ、場を制しているのはシャルナス様だ。当然シャルナス様自身は魔法を使えるために、見た目相応の質量と硬度があるらしい。

 その質量を持ち合わせた攻撃に耐え、体を抉るように打ち据えることが出来るのは鉄以上でなければいけなかったのだとか。


 幾度もの試行錯誤と、多くの犠牲を乗り越えて辿り着いた答えが鉄扇だった。それでもシャルナス様の猛攻の前に無傷とはいかず、退けるまでに犠牲はつきものだったようだ。


「やられた仲間の装備を鋳つぶし、数を揃えて抵抗してきました。皮肉な話ですが、そうすることでやられた仲間と共に、戦っているようにも思えたのです」

「どうするのが正解かは僕にはわからない。けど、僕ならばそうして力になれるのならば嬉しいかな」


 戦えずとも仲間の力となれる事。それがどれほど心救われる事だろう。無念にも倒れてしまえども、想いを込めた自らの得物が形を変えて仲間の力となる。

 思えば、感情を奪う形で魔法を使うシャルナス様にとって、想いでぶん殴られるのは想定外なんじゃないかな。


「けど、そうか。風で散らせればいいんだね。ならなおさらアリーチェとメローネは出たほうがいいかもしれないね」

「エルナー様、それはどういう事で?」

「『風錬』って言う魔技で、体中に風を(まと)って高速移動を可能にすることが出来るんだ。その応用で、剣に纏わせることで暴風を点、あるいは線で叩き付けることが出来るんだよ」

「それはまた、この世界線で言うところの『魔剣』のようですな」


 『魔剣』だって? その心くすぐる単語について是非とも詳しくお教え願いたい。前世の常識で考えれば僕はまだ子供だからね。まだまだ許される範疇さ。

 ……合わせたら二十を超えるとかは言うだけ野暮というものだよ。今生ではまだ十四歳だ……。


 ともあれ『魔剣』である。魔技の奥義ともいえる、体外へと放たれる攻撃性の技巧の総称らしい。

 どのような武具で行っても『魔剣』なのは、初めに行使した人物が定め、後の人々が多彩な武器で開発するも、概念として制定するのに違和感を禁じえなかった為に、その技巧の総称を『魔剣』とした歴史があるという。


 あれ、ちょっと待って。いくつか心当たりがあるんだけど。


「ねえゾーイ。炎を纏った斬撃を飛ばしたり、放電して相手の行動を阻害したり、同じ要領で相手の内部を焼いて伝染させたり。そういうのも『魔剣』になるの?」

「……なりますね。まさかとは思いますが、お使いになりますか?」

「……うん、炎はアリーチェが、雷系は僕とラーシャーさんが使うね」


 加えて風の『魔剣』持ちが二人。そんなに珍しい技巧ではないのかもしれないね。アルトは『岩杭』を扱えるようになっているけれど、その扱い次第では『魔剣』に昇華できるかもしれない。


「『雷牙』と『金の足跡(そくせき)』には防衛のお願いをするとして、霧の発生はどう確認しているの?」

「城壁の上から目視ですね。一日中欠かさず、交代しながら監視しています」

「一日中? 夜間はどうしてるの? 篝火じゃ資源も足りなそうだし、範囲だって狭いよね」

「火の適性がある者に、定期的に炎を放ってもらってます。完璧ではありませんが、被害は比較的減ったのですよ」


 四方に放つために、火の適性がある者は貴重なのだという。適性があると分かれば国を挙げて手厚いサポートを行い、魔法の習得を目指すのだという。

 しかしながら、現状は限界が近いという。というのも、現在火の適性がある魔法使いが僅か五人しかいないらしい。霧に呑まれたり、魔物に襲われたりと数が減ってしまったのだと、悔しそうにしながら教えてくれたよ。


「……その役目、もしかしたら何とかなるかもしれない」


 イーリアさんと楽しそうに話しているアリーチェの方を見やり、その肩に止まっている赤い小鳥に視線を送る。

 僅かに魔力を滲ませると、くーちゃんがこちらに気づいてくれたよ。アリーチェに声をかけているらしく、笑顔で送り出されていた。


『エルナー、呼んだですの?』

「夜間に王都の四方を監視しているらしいんだけど、そのとき定期的に炎を放っているんだって。だけど、魔法使いの数がもうギリギリって話で、くーちゃんならどうにかできるかな?」

『要は夜間に周囲を照らせばいいんですの? であれば簡単ですの』


 ゾーイが目を見開いていたよ。断言されるとは思わなかったのだろう、気持ちはよくわかる。僕も思っていなかったからね。

 とはいえ、くーちゃんが簡単というのだからそうなのだろう。疑う必要のないくらいに僕はくーちゃんを信用しているよ。


 くーちゃんが言うには、クゥナリアさんと協力すれば昼のように明るくも出来るという。


「でもそれだと、王都の人達が眩しくて眠れなくならない?」

『壁があるから大丈夫ですの!』

「そっか!」


 ならば二日ほどお願いしようかな。これで夜間も安心できるよね。

 僕のお願いにくーちゃんは快く受け入れてくれた。あとはクゥナリアさんに話を持って行って、了承してくれれば解決だね。


 隔離場所の扉が開き、入ってきたのはタイミングがいい事に『雷牙』のみんなだった。

 監視役の兵士もいて、彼は賑やかになったこの場所を見て、呆然としたまま床に座り込んでしまい、ぽろぽろと涙がこぼれていたよ。


 ゾーイは優しい笑みを浮かべていたよ。目が合い、お互い頷いてから彼らのもとに向かうことにした。


「……隊長、これ、夢じゃないですよね……?」

「……ああ、現実だ。長い悪夢は終わったんだよ」


 日々無感情に笑いながら瘦せ衰えていく仲間を見続ける、そんな悪夢の時間。僕がきっかけとなって夢が覚めたのなら、それは喜ばしい事だよ。

 流れ落ちる涙もこの場に限って言えば、感情が溢れた暖かなものに感じることだろうね。


 守らなければならない。こうして希望を提示して再び霧に呑まれるようなことがあったら、僕は何をしに来たんだという事になるからね。


「ラーシャーさん、隔離された人たちを治すのに二日かけるんですけど、その間この王都の防衛をお願いしてもいいですか? 護り手の数がもう限界に近いみたいなので、彼らと協力してほしいんですが」

「ああ、そのことか。それなら俺たちもエルナーが魔法行使する間は、護り手たちに協力すると決めた所だったんだ。アルト達もそうだろう?」

「はい。出来ることを考えたらそれしかないって言うのもありますけどね。ただ、小人族の人たちが疲れ切っているように見えたらもう、力になる以外の選択は取れないよなって話でまとまりました」


 僕とゾーイがここに向かうのに合わせてアルト達も集まってきていた。ありがたい事に、皆が同じような事を考えて、実行に移そうとしてくれていたらしい。

 こうした些細な事でも、僕たちは仲間として繋がっているんだなって実感するんだよね。それが堪らなく嬉しいよ。

お読みいただきありがとうございます!

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